【民事】東京高裁令和2年11月5日判決(判例秘書L07520403)

事業者が「合理的に判断」した場合に自らの免責を認める本件規約は、消費者契約法12条3項の適用上、同法8条1項1号及び3号の各前段所定の消費者契約の条項(不当条項)に該当する旨判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

   以下のとおりであるが、関係法令等の定めについては、原審(さいたま地裁令和2年2月5日判決・コピライト708号61頁・判例時報2458号84頁)の【事案の概要】欄参照。

(1)被控訴人(1審原告)は、消費者契約法(以下「法」という。)13条1項所定の認定を受けた適格消費者団体である。
   控訴人(1審被告)は、インターネットを使ったポータルサイト「M」を運営する株式会社である。控訴人は、M会員との間で、控訴人がMにおいて提供する役務等に関して、「M会員規約」(以下「本件規約」という。)を含む契約(以下「本件契約」という。)を締結している。

(2)被控訴人は、本件訴えを提起して、控訴人が消費者との間で本件契約を締結するに当たり、81の不当条項を含む消費者契約の申込み又は承諾の意思表示を現に行い、又は行うおそれがあると主張して、法12条3項に基づいて、控訴人に対し、消費者との間で本件契約を締結するに際し、原判決別紙契約条項目録1及び2記載の契約条項(注:本件規約73項及び第124)を含む契約の申込み又は承諾の意思表示を行わないことなどを求めた。

(3)原審は、①原判決別紙契約条項目録記載1の契約条項(注:本件規約73)に係る被控訴人の請求を全部認容し、②同目録記載2の契約条項(注:本件規約第124)に係る被控訴人の請求を全部棄却した。
   控訴人は、上記①を不服として本件控訴を提起し、被控訴人は、上記②を不服として本件附帯控訴を提起した。

(4)控訴人は、令和2年3月17日、本件規約の一部の条項を次のとおり改正した(以下、本件規約の「7条1項」、「7条1項c号」、「7条1項e号」などというときは、改正後のものを指す。)。
   7条(M会員規約の違反等について)
   1項 M会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、M会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
      c 他のM会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
      e その他、M会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合


【争点】

(1)本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号該当性(争点1)
(2)本件規約12条4項の法8条1項1号及び3号該当性(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件規約7条3項の法8条1項1号及び3号該当性)について
 ア 控訴人は、本件規約7条3項は控訴人が損害賠償責任を負わない場合にこれを負わないことを確認的に規定したものであって、免責条項ではない旨主張する。
   しかし、原判決において説示したとおり、本件規約7条1項c号及びe号にいう「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明確であり、控訴人が「合理的な」判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても、客観的には当該措置等が控訴人の債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところであり、控訴人は、そのような場合であっても、本件規約7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得る。
   また、控訴人は、控訴人が客観的に損害賠償責任を負う場合は、そもそも本件契約7条1項c号又はe号の要件を満たさず、したがって、本件規約7条3項により免責されることもないと主張する。
   しかし、事業者と消費者との間に、その情報量、交渉力等において格段の差がある中、事業者がした客観的には誤っている判断が、とりわけ契約の履行等の場面においてきちんと是正されるのが通常であるとは考え難い。控訴人の主張は、最終的に訴訟において争われる場面には妥当するとしても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当である。
   以上のとおりであるから、控訴人の上記主張は採用できない。
 イ 控訴人は、
  ①一般に合理的限定解釈は許されること
  ②本件規約7条1項c号及びe号には多数の例示が示されていること
  ③他の企業においても「合理的な判断」との条項の意味内容につきトラブルが示されていないこと
からすると、本件規約7条1項c号及びe号の意味内容は明確である旨主張する。
   しかし、
   上記①については、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(3条1項1)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈するということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。
   上記②については、控訴人が主張する例示(略)によっても、本件規約7条1項c号及びe号該当性が明確になるものとは解し難い。
   上記③についても、控訴人が主張するとおり、他の企業において、「判断」、「合理的な判断」といった条項の意味内容につきトラブルが生じていないとしても、そのことをもって、本件規約7条1項c号及びe号の「合理的な判断」の意味内容が明確であることを意味するものではない。
   以上のとおりであるから、控訴人の上記主張は採用できない。

(2)争点2(本件規約12条4項の法8条1項1号及び3号該当性)について
   原判決のとおりである(詳細については、省略する)。

(3)結論
   本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がない(控訴棄却・附帯控訴棄却)。


【コメント】

   控訴人(1審被告)は、本件控訴後に、本件規約7条1項c号及びe号の「当社が判断した場合」を、「当社が合理的に判断した場合」に改正しました。しかし、本裁判例は、控訴人が「合理的な」判断をした結果会員資格取消措置等を行ったつもりでいても、客観的には当該措置等が控訴人の債務不履行又は不法行為を構成することは十分にあり得るところ、この場合でも、控訴人が、本件規約7条3項により損害賠償義務が全部免除されると主張し得ることを指摘して、同条項が、法8条1項の不当条項に該当するものと判断しました。
   本裁判例は、事業者の免責条項について、消費者契約法8条1項の不当条項該当性が否定されるためには、事業者の債務不履行又は不法行為を構成する場合が含まれるものと解釈されないように、その要件を明確に規定する必要があることを示唆しています。

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