【交通事故】福岡地裁令和7年6月23日判決(自保ジャーナル2202号109頁)

加害車両の運転者が、自車の進路前方の第2車線上にしゃがみ込んでいた被害者と、時速約120kmで衝突した事故において、被害者の過失割合を2割と判示した事例(控訴後和解)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 令和4年1月16日午前4時27分頃
 イ 発生場所 福岡市〇〇先の片側2車線の県道(制限速度は時速50km)の第2車線
 ウ 被害者  亡太郎(当時19歳の大学生) 
 エ 加害車  被告会社が所有し、被告乙山(以下、被告会社と併せて「被告ら」という。)が運転するタクシー(以下「被告車」という。)
 オ 事故態様 第2車線上にしゃがみ込んでいた亡太郎に、同車線を直進進行してきた被告車が衝突した。
          亡太郎は、本件事故で負った出血性ショック等により死亡した。

(2)原告丙川(亡太郎の父親)及び原告花子(亡太郎の母親)は、その間の遺産分割協議により、原告丙川は、死亡逸失利益の2割を、原告花子は、死亡逸失利益の8割とその他の損害賠償金の全てを相続した。
   亡太郎のその他の親族として、原告三郎(亡太郎の弟)、原告四郎(原告花子の父)、原告春子(原告花子の母)及び原告夏子(原告花子の姉)がいる。

(3)請求
   原告らは、本件訴えを提起して、被告らに対し、それぞれ以下の額の損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。
  ・原告花子 1億0440万6522円
  ・原告丙川 1821万0839円
  ・原稿三郎 330万円
  ・原告四郎 220万円
  ・原告春子 220万円
  ・原告夏子 110万円


【争点】

(1)亡太郎の過失、被告乙山の過失、過失割合(争点1)
(2)原告らの各損害(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


         なお、争点1に関する各当事者の主張は、以下のとおりである。
 ア 原告らの主張
   ⑴被告乙山は、制限速度50kmの道路を時速100㎞超(最速で時速130㎞)の高速度で運転し続け、携帯電話を把持した状態で、ルームミラーを通じて左後方を見ていたため、前方の亡太郎に気づかず衝突した。
       ⑵本件事故は、極めて危険な被告乙山による運転行為により生じたもので、亡太郎の過失は認められない。 
   イ 被告らの主張
       ⑴亡太郎は、本件事故直前、飲酒の影響により約20秒にわたり道路上にしゃがみ込んでいた。
  ⑵仮に、被告乙山が時速60km程度で走行していたとしても、進路変更等の結果回避措置を講じて亡太郎との衝突を回避することは困難であったから、被告乙山の速度違反の点は本件事故との相当因果関係を欠く。
  ⑶亡太郎の過失割合は65%とみるべきである。


【裁判所の判断】

(1)争点1(亡太郎の過失、被告乙山の過失、過失割合)について
 ア 判断
  ⑴事故態様
   本件事故の現場を含む道路は、片側2車線の県道で、中央線があり、両脇には歩道が、歩道と車道との境には、縁石・ガードパイプや、等間隔で街灯が、それぞれ設けられている。被告車が走行する側の車道の幅員は、2車線合計で6~6.5m程度である。制限速度は時速50kmである。
   被告車を運転する被告乙山は、客の忘れた携帯電話機に応答して走行しながら通話し始め、通話を終えても、同携帯電話機を右手に持ちながら、時速約75kmから、本件事故約5秒前には一旦時速131kmにまで加速した。
   この間、左斜め後ろの第1車線を走行する別会社のタクシーを気にして、ルームミラーでその様子をうかがい、自車の進路前方の第2車線上にしゃがみ込んでいた亡太郎の存在に気づかないまま、ブレーキをかけることなく、時速約120kmで亡太郎と衝突した。 
     ⑵亡太郎の過失
   亡太郎が、深更というべき時間帯に、幅員の広い道路の第2車線上にしゃがみこんでいたことは、看過できない落ち度というほかない。
  ⑶被告乙山の過失及び双方の過失の程度
   被告乙山は、制限速度が時速50kmである一般道を時速130kmほどにまで加速するという、重大事故を即座に招きかねない常識外れの高速度で走行した。
   それにもかかわらず、衝突時まで、横臥者と比較すれば視認可能性が高いといえる亡太郎の存在に気づかないほど、気にする必要のない他の車線のタクシーの動きに注意を向け、高速度であるために相当の距離にわたり、進路前方の注視・確認を怠ったまま、時速120kmもの高速度で亡太郎と衝突した。
   その注意義務違反の程度が著しく大きいことを踏まえ、双方の過失の程度を考慮すると、相対的な過失割合としては、被告乙山が亡太郎を相当大きく上回るというべきである。
  ⑷過失割合
   過失割合は、亡太郎2割、被告乙山8割とみるのが相当である。
 イ 被告らの主張について
   被告らは、被告乙山の速度違反の点は、本件事故との相当因果関係を欠くから、過失の程度を加重する要素とみるべきでないと主張する。
   しかし、本件事故時の視認状況等をなるべく再現し、被告乙山の乗る車両を低速で走行させて行った見分の結果、しゃがみ込んでいる亡太郎と仮想した者について、80mほど手前の地点で進路前方に何かが存在することが認識できること、また、ハンドル操作による結果回避が可能な距離は、運転者に有利に空走時間が0.5秒あることを仮定しても、時速70kmの場合で約49m、時速80kmの場合で約56mと試算されることが認められる(注:裁判所は、発見から2.5秒で結果回避可能と判断しているようである。)。
   そうすると、被告乙山が、制限速度(時速50km)を遵守し、進路前方を注視していれば、進路前方に人である可能性も否定できない何らかの障害物があると認識した時点で、上記障害物との衝突を回避するための進路変更をすることなどにより、亡太郎との衝突を回避することが可能であったと優に認められる。
          上記の被告らの主張は失当である。

(2)争点2(原告らの各損害)について
 ア 亡太郎の死亡慰謝料 2000万円
   亡太郎は、落ち度があることは否定し難いが、
       ・極めて高速度の被告車に衝突され、その車底部に巻き込まれて60mほど引きずられ、僅か19歳にして生命を奪われた。
       ・原告らのほか、知人・友人等との交流はおろか、前途ある未来の一切を絶たれた。
 イ 近親者固有の慰謝料(注:亡太郎の死亡慰謝料と併せて、合計2600万円)
  ⑴原告花子(注:亡太郎の母)の固有の慰謝料 250万円
   原告花子は、亡太郎が3歳のときに原告丙川と離婚し、自らの父母である原告四郎及び原告春子と同居し、その助力を得ながら、亡太郎を大学入学まで育て上げ、その後の社会生活を見守っていくことが見込まれたが、突如として亡太郎を失った。
  ⑵原告丙川(注:亡太郎の父)の固有の慰謝料 150万円
   原告丙川は、原告花子との離婚後、亡太郎との交流はなかったが、亡太郎が中学2年生の頃から再び交流を持ち始め、交流が続いていくことが見込まれたが、突如として亡太郎を失った。
  ⑶原告三郎(注:亡太郎の弟)の固有の慰謝料 100万円   
   不法行為による生命侵害があった場合、民法711条が掲げる被害者の父母、配偶者及び子以外の者であっても、被害者との間にこれらの者と実質的に同視し得べき身分関係が存し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けた者は、同条の類推適用により、加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求することができる(最高裁昭和49年12月17日判決)。   原告三郎(平成18年2月生)は、自らの出生から、令和3年3月に亡太郎が大学の寮に入り、同年4月に自らが高校の寮に入るまでの間、継続して亡き太郎と同居し、人生のほとんどを亡太郎と共同して生活し、年齢の近い兄弟として密接な交流を重ねてきた。
   したがって、原告三郎は、民法711条所定の者に準じて、加害者に対して固有の慰謝料を請求することができる。
  ⑷原告四郎及び原告春子(注:原告の祖父母)の固有の慰謝料 それぞれ50万円
   原告四郎及び原告春子は、亡太郎の出生から本件事故時まで、亡太郎が大学の寮に一時的に入っていた令和3年3月頃から11月頃までを除き、継続して亡太郎と同居し、その養育・監護をある程度になっていた。
          したがって、原告四郎及び原告春子は、民法711条所定の者に準じて、加害者に対して固有の慰謝料を請求することができる。
  ⑸原告夏子(注:原告の伯母)の固有の慰謝料 0円
   原告夏子は、亡太郎が0歳から4歳まで、6歳から8歳まで、10歳から15歳まで同居し、少なくともその間は、亡太郎の養育・監護の一部を担っていた。
   しかし、その同居期間は、少なくはないものの一部であり、この間、母親や祖父母の同居もあったことを踏まえると、親代わりといえるほどの関りまでがあったとは認められない。
          したがって、原告夏子は、民法711条所定の者に準じて加害者に対して固有の慰謝料を請求することができる者に当たると解することはできない。
 ウ その他の損害(注:大学卒業以降の逸失利益を除いて、被告らの主張を採用したもの) 
  ⑴大学卒業までの逸失利益
   一般に年収が103万円を超えると、所得税の納税義務が生じることや、扶養者である親の特定扶養控除が使えなくなり、その税金負担が増加する等、デメリットが大きい。
   そのため、一般に、学生アルバイトは、その年収が103万円を超えないよう調整して就業している。
   したがって、本件事故当時に学生アルバイトであった亡太郎の基礎収入は、103万円とするべきである。
  (計算式)103万円-(1-0.5)×2.8286=145万6729円
 ⑵大学卒業以降の逸失利益(争いなし)
 ・基礎収入 631万0400円(令和3年賃金センサス・男性・大卒・全年齢計)
 ・労働能力喪失期間 67年-19年=48年
 ・就労開始までの期間(大学卒業までの期間) 22年-19年=3年
 ・生活費控除率 独身男性より、50% 
 ・大学卒業後以降の逸失利益 7079万6693円
  (計算式)631万0400円×(1-0.5)×(25.2667-2.8286)=7079万6693円    
 ⑶着衣損害
  衣類の償却期間を3年、靴の償却期間を2年とし、亡太郎が本件事故の1年前にそれらを購入したとして、定額法による減価償却を行うべきである(以下略)。
  ⑷携行品損害
   償却期間を4年間とし、亡太郎が本件事故の1年前にそれら(注:Air Pods及びiPhone 11)を購入したとして、定額法による減価償却を行うべきである(以下略)。
  ⑸弁護士費用
   被告らは、弁護士費用の算定に当たり、原告らが自賠責保険の被害者請求を行っておらず、そのために認容額が増加することを考慮すべきと主張する。 
   しかし、自賠責保険は、飽くまで被保険者が交通事故の被害者に対して損害賠償責任を負担することにより生じる損害の填補を目的とする責任保険であり、被害者請求はその手段にすぎない上、被害者において被害者請求を先行させる義務はなく、被害者請求をするか否かは被害者の選択に委ねられている。
   したがって、上記の被告らの主張は採用しない。

(3)結論
   原告らの請求は、以下の限度で理由がある(一部認容。なお、原告夏子については、請求棄却)。
 ア 被告らは、原告花子に対し、連帯して7100万1177円を支払う(注:遅延損害金を除く。以下同じ)。
    イ 被告らは、原告丙川に対し、連帯して1403万0547円を支払う。
    ウ 被告らは、原告三郎に対し、連帯して88万円を支払う。
    エ 被告らは、原告四郎に対し、連帯して44万円を支払う。
    オ 被告らは、原告春子に対し、連帯して44万円を支払う。


 

【コメント】

   本裁判例は、加害車両の運転者が、自車の進路前方の第2車線上にしゃがみ込んでいた被害者と、時速約120kmで衝突した事故において、被害者側の落ち度の重大性を指摘しつつ、加害者側の前方不注視及び速度超過が著しいことから、被害者の過失割合を2割と判示した事例です。
   同種事案の裁判例として、横浜地裁令和7年3月10日判決・自保ジャーナル2190号91頁があります。同裁判例は、路上に横倒しになった自動二輪車と、その側でしゃがみ込んでいた同車両の運転者である被害者に対して、後方から直進してきた大型貨物自動車が衝突した事故について、被害者の過失割合を4割と認定しましたが、本裁判例とは、加害者側の注意義務違反の程度が大きく異なる点に留意が必要です。

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