【交通事故】広島高裁令和5年6月23日判決(自保ジャーナル2196号158頁)

自動車総合補償共済契約における人身傷害補償の見舞金の生活保障的性格が、同契約所定の故意重過失免責の趣旨である公益的要請等に優先する根拠に乏しいとして、被共済者の故意又は重大な過失による事故に人身傷害補償の見舞金は支払われない旨判示した事例(上告棄却にて確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(一審被告)は、被控訴人(一審原告)らの被相続人である亡太郎との間で、後記の交通事故前に、主たる被共催者を亡太郎とし、共済金額を5,000万円(ただし、人身傷害補償に関する限度額)とする自動車総合補償共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結した。

(2)本件共済契約には、被共済者(注:本件では被控訴人)が歩行中に自動車事故で死傷するなどした際に、控訴人が、その損害額を補償する旨の人身傷害補償が付されていた。
   本件共済契約に係る契約規定(以下「本件契約規定」という。)中、本件と関連する条項は、以下のとおりである。

 第1(総則)
  3条 控訴人が行う共済事業は、事故によって発生した損害または傷害に対して共済金を支払うことを契約する自動車総合補償共済事業とします。

 同編第7章(共済金の支払請求等)
  36条(共済金の請求)
   1項3号 人身傷害補償条項に係る共済金の請求権の発生時期
   1項4 人身傷害補償条項に係る自動車事故傷害見舞金の請求権の発生時期
   2項4号 死亡に関して支払われる共済金の請求
   2項5号 後遺障害に関して支払われる共済金の請求
   2項6 傷害に関して支払われる共済金の請求

 第2(基本契約)第2章(傷害補償)第1節(人身傷害補償条項
  60条(定義)
  61条(適用条件)
  62(人身傷害補償で補償対象となる事故の内容)
   1項1 被告は、自動車の運行に起因する急激かつ偶然な外来の事故により、被共済者が身体に傷害を被ることによって被共済者又はその子らが被る損害に対して、「共済金」を支払う
  64条(故意重過失免責を含む免責条項
   2項1号 被告は、被共済者の故意又は重大な過失によって生じた損害に対し ては、「共済金」(注:「第68条に規定する見舞金を含む。」との記載は無い。を支払わない
  65(共済金の計算方法)
   1 控訴人が支払う「共済金」の額は、本件契約規定66条1項から3項の規定により決定される損害額に費用(同67条)を加えた金額である。
   6 控訴人は、同条1項及び2項又は4項に規定する「共済金」のほか、本件契約規定68条に規定する「見舞金」を支払う
  66条(損害額の決定)
  67条(費用)
  68(人身傷害補償の見舞金
   1 控訴人は、被共済者が本件契約規定62条の損害を被り、その直接の結果として、所定の支払事由に該当する場合は、「見舞金」を支払う(注:64条が定める免責条項を準用する旨の定めは無い。)。

(3)以下の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 日時 平成28年11月12日午後10時35分
 イ 場所 千葉県市原市内路上(以下「本件事故現場」という。)
 ウ 同市aから同市b方面に向かう車線を走行していた丁山運転の普通乗用自動車が、車道外側線から約1.8m程度中央線側に横臥していた亡太郎を轢過した。
   亡太郎は、同日午後11時35分頃、B病院に救急搬送されたが、本件事故による外傷に起因する出血性ショックが原因となって、同月21日午後4時4分に死亡した。

(4)被控訴人らは、亡太郎の子であり、その法定相続分は各2分の1である。
   被控訴人らは、控訴人に対し、遅くとも平成29年2月1日までに、本件共済契約に基づき、人身傷害補償条項に係る共済金(以下「人身傷害補償の共済金」という。)並びに人身傷害補償条項に係る自動車事故傷害見舞金のうち死亡見舞金及び入院見舞金(以下、死亡見舞金と入院見舞金を合わせて「人身傷害補償の見舞金」という。)の支払を請求する手続を完了した。
   控訴人は、本件事故に関し、亡太郎に重大な過失が認められるとして、令和元年12月までに、本件共済金及び本件各見舞金の支払をそれぞれ拒絶した

(5)被控訴人らは、本件訴えを提起して、控訴人に対し、①人身傷害補償の共済金各2196万1897(=8,784万7,590円(注:原告らと丁山との間で成立した訴訟上の和解の前提となった金額)*0.5*(注:50%の過失相殺)0.5(注:原告2名))及び②人身傷害補償の見舞金各255万円(=510万円(注:死亡見舞金500万円、傷害見舞金50万円)*0.5(注:原告2名))並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求めた。

(6)原審広島地裁呉支部令和3年10月29日判決・自保ジャーナル2196号169頁)は、被控訴人らの②の見舞金請求をいずれも認容し、①の共済金請求をいずれも棄却する原判決をし、控訴人が②の請求認容部分を不服として控訴し、被控訴人らが①の請求棄却部分を不服として附帯控訴した。

(7)原審において、本件事故に関して亡太郎に重大な過失が認められると判断した上で、控訴人は、人身傷害補償の見舞金の支払義務を免れないと判断した理由の骨子は、以下のとおりである。
 ア 本件契約規定65条1項と同条6項は、「共済金」と「見舞金」を明確に書き分けている
   また、本件契約規定68条1項の定める見舞金につき、被告がその支払義務を免責される場合を明示的に定める条項は設けられておらず、見舞金につき本件契約規定64条の免責条項を準用する旨の定めもない
   以上に照らすと、見舞金支払の場面において、本件契約規定64条2項1号が定める免責を及ぼすことは、一般共済契約者の通常の意思に沿うものとはいえない。
 イ 見舞金として支払われる金額は、死亡見舞金であっても500万円であり、他の共済契約者にとっておよそ受け入れられないものとは言い難い。
   したがって、被共済者に重過失が認められる場合に、見舞金につき、本件契約規定64条1項1号の免責を及ぼさないとしても、当該免責条項が設けられた趣旨(注:他の共済契約者の抵抗感への配慮)を没却することにはならない。
 ウ 本件契約規定3条や同36条が置かれている本件契約規定第1編(総則)において、「共済金」という文言が、控訴人が共済契約に基づいて支払う一切の金銭を含むもののように用いられている部分があるとしても、本件契約規定第2編第2章第1節においては、前記アのとおり、「共済金」と「見舞金」とが明らかに区別して規定されている。少なくとも、同節において、「共済金」が本件共済契約に基づいて支払う金銭の全てを包含する表現であると認めることはできない。
 エ 控訴人が、いかなる場合に、いかなる名目の金員の支払を免れることになるかは、共済契約において重要な事項であるから、共済契約の内容を画一的に定める約款において明確に定められているべきであり、一方当事者である控訴人の立場から、免責の範囲を拡大して解釈するのは相当でない。


【争点】

(1)本件事故に関して亡太郎に重大な過失が認められるか(争点1)
(2)本件事故に関して亡太郎に重大な過失が認められる場合、控訴人は、人身傷害補償の見舞金の支払義務を免れるか(争点2)
(3)支払われるべき共済金等の額(争点3)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件事故に関して亡太郎に重大な過失が認められるか)について
   亡太郎は、アルコールの影響で、一定の時間、本件事故現場に横臥した状態になっていたところを、丁山運転の自動車に轢過されたものと認められる。
   夜間における車両からの路上横臥者の発見は、昼間と比較して困難であるところ、そのような時間帯に、車両が通行する可能性がある車道に横臥してとどまるという行為は、それ自体事故発生の危険性が高い行為であり、著しい注意欠如の状態と評価せざるを得ない。
   以上によれば、本件事故に関し、亡太郎には、本件契約規定64条2項1号にいう「重大な過失」が認められるから、被告は、本件契約規定62条1項1号に基づく人身傷害補償の共済金の支払義務を免れる(注:原審の判断のとおりである。)。

(2)争点2(本件事故に関して亡太郎に重大な過失が認められる場合、控訴人は、人身傷害補償の見舞金の支払義務を免れるか)について
 ア 人身傷害補償の見舞金と人身傷害補償の共済金との関係―従属性
  a)人身傷害補償の見舞金は、本件約款規定68の定めるとおり、62条所定の急激かつ偶然な外来の事故が生じ、その直接の結果から死亡などの一定の事由が生じた場合に、定額が支給されるものである。
  b)本件契約規定では、1(総則)の第7章(共済金の支払請求等)の36において、いわば広義の共済金の中に、人身傷害補償の共済金(同1項3号)及び人身傷害補償の見舞金(同1項4号)を並列して挙げている。
   続いて、2(基本契約)の第2章(傷害補償)の第1節(人身傷害補償条項)の60条以下において、人身傷害補償の見舞金を含む人身傷害補償条項の諸規定があり、具体的には、定義(60条)から費用(67条)までの定めが続いた後で、68条において人身傷害補償の見舞金の定めがある。このように、人身傷害補償の見舞金は、人身傷害補償の共済金と同じ第1節「人身傷害補償条項」の中に位置付けられており、その中に故意重過失免責の条項も設けられている。
   また、人身傷害補償の見舞金の請求に当たっては、人身傷害補償の共済金と同時に請求することが予定されており、人身傷害補償の見舞金の請求に必要な提出書類に関する定めはない。他方で、人身傷害補償の共済金については、「傷害に関して支払われる共済金の請求」(本件共済規定36条6号)などと括られて必要な提出書類が定められている。
   こうした条項の定めからすれば、人身傷害補償の見舞金は、被共済者が急激かつ偶然な外来の事故に遭った場合に人身傷害補償の共済金とともに支払われるものと認められる。
  c)本件共済契約のパンフレットには、人身傷害補償の見舞金が人身傷害補償の共済金とは別枠で支払われるものであることが強調されている。しかし、このパンフレットからも、人身傷害補償の共済金が免責されるか否かを問わず人身傷害補償の見舞金を支払う旨の記載は見当たらない
 イ 故意重過失免責条項(本件契約規定46条)の趣旨
  a)本件契約規定46条において、人身傷害補償の共済金につき、被共済者の故意又は重大な過失によって事故が生じた場合には共済者である控訴人が免責される旨の定めを設けた趣旨は、被共済者の故意又は重大な過失による事故に対して共済金が支払われるのは、共済契約において要請される信義誠実の原則や公益に反するとともに(いわゆるモラルハザード)、被共済者の故意又は重大な過失によって事故が起きた場合に共済金を支払うことに対する他の共済契約者の抵抗感ないし納得感に照らし許されないということにあると解される。
  b)人身傷害補償の見舞金がいかなる法的性格を有するのかにつき、本件契約規定上の名分の定めはないが、人身傷害補償は、一般に、被害を受けた被共済者ないしその遺族の救済にあるところ、人身傷害補償の共済金が損害の店舗(加害者からの損害賠償で賄いききれない損害の填補)としての性格を有するのに対し、人身傷害補償の見舞金は、死亡や傷害等の一定の事由があれば定額支給されるものとなっており、事故により損害を受けた被共済者やその遺族の生活保障的性格を有するものと解される。
   ただし、こうした人身傷害補償の見舞金の生活保障的性格が、上記エで示したような、故意重過失免責が共済契約に要請される信義誠実の原則や公益に基づいている点モラルハザードよりも優先されるべきである根拠は本件契約規定には見当たらないし、この故意重過失免責の公益的要請等が人身傷害補償の見舞金に及ばないとする根拠も乏しい。
   敷衍すると、人身傷害補償の見舞金は、死亡の場合は500万円、入院の場合は10万円が一律支給されるものであるが、これらの金額は決して定額ではない。仮に人身傷害補償の見舞金について故意重過失がされないと解すると、共済契約の前提となる信義誠実の原則に照らしても、公益の観点からも、共済契約者の納得の観点からも不合理である。
   この点、被控訴人らは、本件共済契約の制度設計に不備があるのであり、その不備による不利益を共済契約者に帰すべきでない旨主張するが、本件契約規定において人身傷害補償の見舞金に特化した故意重過失免責条項を設けなかったからといって直ちに制度不備があるとは認められない
  c)小括
   以上によれば、本件契約規定64条の「共済金」には、人身傷害補償の共済金だけでなく、人身傷害補償の見舞金も含んでおり、被共済者の故意又は重大な過失による事故には人身傷害補償の見舞金は支払われないと解されるのであり、本件事故は亡太郎の重大な過失により起きた事故であると認められる以上、控訴人は人身傷害補償の見舞金の支払義務を免れると解される。

(3)結論
   以上によれば、被控訴人らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却すべきところ、これと異なる原判決は一部相当でなく、控訴人の控訴は理由がある(原判決中控訴人敗訴部分取消、請求棄却、附帯控訴棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、本件事故が被控訴人らの故意又は重大な過失によるものであることを前提に、本件共済契約における人身傷害補償の見舞金の生活保障的性格が、同契約所定の故意重過失免責の趣旨である公益的要請等に優先する根拠に乏しいことなどから、本件契約規定64条の「共済金」には、人身傷害補償の共済金だけでなく、人身傷害補償の見舞金も含まれるとして、控訴人は人身傷害補償の見舞金の支払義務を免れる旨判示した事例です。
   本裁判例が、原判決と異なり、人身傷害補償の見舞金の金額(死亡の場合は500万円、入院の場合は10万円)について、他の共済契約者の納得の観点からも不合理であると評価している点も注目されます。

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