【交通事故】東京地裁令和3年7月30日判決(自保ジャーナル2107号144頁)

原告車の運転者が交差点内でハンドルを左に転把したのは、専ら同人において、対向方向から交差道路へ右折しようとしていた被告車のハンドル操作の意味の誤認に起因するとして、被告車の運転者の過失を否認した事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故の発生
 ア 発生日時 平成29年7月13日午後1時4分頃
 イ 発生場所 埼玉県春日部市内の交差点(以下「本件交差点」という。)付近
        本件交差点は、南北方向に直線上に伸びる国道(以下「本件国道」という。)と、東西方向に直線上に伸びる市道(以下「交差市道」という。)が交差する信号機により交通整理の行われている交差点である。本件国道は、本件交差点付近で、南北いずれの方向からも、直進及び左折用の第1車線、直進用のみの第2車線、右折用のみの第3車線に分かれている(別紙図参照)。
 ウ 原告車  A運転、原告X会社所有の中型貨物自動車
 エ 被告車  被告運転の大型貨物自動車(注:車長11.91mの前輪二軸の事業用大型冷蔵冷凍貨物自動車であり、ホイールベースは8m程度に及ぶものである。)
 オ 事故態様 Aが、原告車を運転し、本件国道を北上してきて南側第2車線から本件交差点に進入し、交差点内で原告車のハンドルを左に転把した(以下「本件転把」という。)ところ、第1車線の原告車のやや後方を並走していたB運転の大型貨物自動車(以下「B車」という。)の右前部角に原告車の左側面中央部付近が接触し、B車が左斜め前方に逸走して、本件交差点の北西角付近で、本件国道の歩車道の間に設けられたガードレールに(以下「本件ガードレール」という。)の端部に衝突した(以下「本件事故」という。)。
       Aが原告車を本件交差点に直進進入させて本件転把をした当時、被告は、被告車を運転して、本件国道の対向方向である本件交差点北側の第3車線から、交差市道の西側方面へ右折しようとしていた。

(2)原告車については、51万5,900円の修理費用を要する旨の修理見積書が存在する。
   本件事故当時、原告X会社との間で、自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた原告V保険会社(以下「原告保険会社」という。)は、本件事故によるB車及び本件ガードレールの損害の発生を認めて、本件保険契約に基づき、保険金合計371万1、109円を支払った。

(4)原告らは、本件訴えを提起して、本件事故は、原告車とは接触していない対向右折車両である被告車の挙動に起因するものであったと主張して、被告に対し、①原告Xにおいては、民法709条に基づき、上記支払費用及び弁護士費用並びに遅延損害金の支払を求め、②原告保険会社においては、原告X会社に代位して、共同不法行為者間の求償として、上記支払保険金相当額及び遅延損害金の支払を求めた。


【争点】

(1)本件事故発生に至る状況(争点1)
(2)本件事故の発生につき被告の不法行為責任があるか(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、上記(1)についての各当事者の主張は、以下のとおりである。
 ア 原告らの主張
   本件事故前、Aは、本件国道を時速約60kmで走行し、本件交差点手前で、対面信号機の青色表示を確認し、原告車を本件交差点内に直進進入させたところ、原告車が停止線を越えた時点で、被告車が、突然、右折を開始した。そのため、Aが、被告車との接触を避けるため、原告車の急ブレーキを踏み本件転把をしたところ、本件事故が発生した。
 イ 被告の主張
  a)被告は、被告車を運転して、本件国道の北側第3車線に進入し、進入前に右ウインカーを点灯した。
   被告車の20m程度前方にはトラックがおり、そのトラックは本件交差点の対面青信号で右折したが、被告車は、対向車両が走行していたことから、一旦、停止線の手前右折待機をした。待機時、交差市道を横断するための被告車右前方の歩行者用信号機の青色信号は点滅していた。
  b)被告は、対面する自動車用信号機が黄色に変わり、間もなく右矢印信号が表示されることが分かっていたことから、前進を開始し、被告車のキャビンが停止線より出た位置対向第2車線の遠方に原告車を確認したが、原告車は本件交差点で停止するのか直進するのか判断が付かなかった。原告車はかなりスピードを出していた。
  c)被告車は、時速5km以下で前進を続け、本件交差点の中央よりやや手前の地点まで進んだところで対面信号が右矢印を表示した。
  d)被告は、更に前進を続け、原告車との距離感を見計らいながら、原告車が通り過ぎた後直ちに右折できるよう、右折した先で進入使用とする交差市道車線の真横まで進み、車体前部を左に振って右折の準備をした。これは、被告車が車長11.91mの大型貨物自動車である上、前二輪車両のため、ホイールベースが長く、小回りが利かず、交差点中央から更に進み大回りすることでスムーズに右折することができることによる。この時、原告車は対向車線の停止線を越え本件交差点に進入し、被告車に接近していた。
  e)被告車は、原告車とすれ違った直後、右折を開始し、被告車を原告車が走行していた車線に進入させたが、右折を開始し、角度を右に少し付けた時に右サイドミラーを確認したところ、原告車は、右に角度を付けて車体が右にロールし傾いていた。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件事故発生に至る状況)について
 ア 本件交差点の信号サイクル
   本件事故時における本件交差点の信号サイクルは、本件国道側の車両用対面信号機の①青色表示が70秒余り点灯した後、②黄色表示が4秒点灯し、更に③右矢印表示5秒の後、④黄色表示が2秒点灯して、その後、⑤2秒間の全赤表示を含む60秒以上の赤色表示が継続するようになっていた。
   また、交差市道を横断歩行者用の信号機は、本件国道側の車両用対面信号機が上記①の青色表示に変わるのと同時に青色表示になるが、車両用信号機が黄色表示に変わる8秒前に点滅を始めて、その6秒後に赤色表示に変わり、2秒間は車両用信号機のみが青色を表示した状態となった後、車両用信号機が上記②の黄色表示に変わるようになっていた。
 イ 本件事故発生に至る状況
  a)被告は、被告車を運転して、本件国道を南下して、本件交差点に差し掛かり、右折の合図をして右折専用の第3車線に入った。被告は、本件交差点北側の停止線手前に被告車を停止させ、マニュアルギアをニュートラルポジションにしてサイドブレーキを引いた。その後、被告車の前走車両は、対向直進車両が途切れた合間に本件交差点の右折を終えたが、被告は、被告車の車長が長く、右折後本件交差点を通過するのにも時間を要することから、サイドブレーキを引いたまま、対向直進車両が長い時間にわたって途切れるのを待つようにした。
  b)被告は、業務経歴上、本件交差点の信号サイクルの概略を知っていたことから、交差市道を横断する歩行者用の信号機の青色表示が点滅を開始して半分余りの時間が過ぎたタイミングで、被告車の発進を準備すべく、クラッチを切ってギアを入れ、サイドブレーキを下ろし、周囲の安全確認しつつ、徐々にクラッチをつないで微速で前進するように動作をしたところ、重量のある被告車が発進を始めた頃には、車両用信号機は黄色表示に変わっていたが、続いて右矢印表示に変わると分かっていたことや、被告車は一旦停止すると再発進するまでに数秒以上を要することになることから、対向直進車両が途切れたタイミングで速やかに被告車の右折を終えられるように、微速徐行での前進を続けた。
  c)一方、Aは、本件交差点のかなり手前から対面信号機の青色表示を認めて、本件国道の第2車線を法定速度(注:時速60km)前後で走行してきたところ、対向右折車線に被告車を認めつつも、減速しないまま、本件交差点に進入した。
  d)被告は、被告車の微速前進を継続しつつ、対面信号機が黄色表示から右矢印表示に変わったことを確認したが、対向第2車線を進行している原告車は進行を止めずに本件交差点に進入して、その際、原告車を運転するAの顔を見て、原告車が被告車を待たせて本件交差点を通過することを詫びる趣旨の会釈をしているように理解した。なお、原告車の後続車両は、対向車線の停止線で停止すべく、減速した。
   上記の間も、被告は、被告車の微速前進を継続したが、被告車の内輪差が大きいことから、進入してきた本件国道の中央分離帯に右後輪を掛けないようにするためと、交差市道に1車線しかない道路に真っ直ぐに進入するために、ハンドルを一旦左に切って大回りで右折する準備をした。そして、被告は、原告車の車体後部が被告車の運転キャビンを通り過ぎたタイミングに合わせて、ハンドルを右に切り返して右折を開始した。被告は、対向車線側に少し進入した所で、被告車の右サイドミラーを通して、原告車が左に本件転把をした遠心力で車体を反対に傾けているのを認めた。
  e)他方、Aは、本件転把をした際、原告車と同じ方向に向けてやや後方の本件国道の第1車線を並走していたB車の右前部に原告車の左側面中央付近を接触させ、逸走したB車に本件交差点角に位置する本件ガードレール端部への衝突を余儀なくさせた(本件事故)。
 ウ 補足
  a)以上の認定事実に沿う被告の供述は、車体が重く車長の長い被告車の動作方法として自然かつ合理的で一貫性も認められる上、対面信号機が黄色表示をしたタイミングで被告車が本件交差点に入ったことなどの自身に不利な事実も認め、原告車とすれ違った際のAの表情についての叙述なども含めて具体的で、信用することができる。
  b)これに対して、Aの供述は、対面信号機の青色表示を確認した地点や、本件交差点通過時の被告車の挙動などについての内容があいまいで一貫しておらず、このこと自体、本件交差点通過時に対面信号機の表示色や被告車の挙動を十分に注視していなかったことを示すか、自らに不利な事情を隠匿するものである蓋然性が高いといわざるを得ず、その供述を全面的に信用することは困難である。
   本件交差点に進入した際に、被告が被告車のハンドルを回す動作に入るのを認めたものの、被告が最初ハンドルを左に切ったという転把の方向までは分からずに、自車側への進入を始めたものと誤認したことによるものと認めるのが相当であるが、このように誤認したこと自体も、原告車が本件交差点に進入した時点で対面信号機が右矢印表示に変わっていたことが関係している蓋然性が高いというべきである。
  c)以上の理由から、本件事故に至った状況は、前記イのとおり認定するのが相当である。

(2)争点2(本件事故の発生につき被告の不法行為責任があるか)について
 ア (1)に認定したところに基づき、本件事故の発生について被告に不法行為責任があるかを検討すると、被告は、内輪差の大きな被告車を適切な向きに転回した上で、対面信号機が右矢印を表示している間に速やかに本件交差点を通過するために必要な、大型貨物自動車の運転者として求められる操作を行ったにすぎず、客観的に衝突の危険性があるような、対向直進車両の安全を妨げる進行妨害(道路交通法37条)行為を行ったものとは認め難い。
 イ この点、本件転把は、専らAにおいて、被告車のハンドル操作の意味を誤認したことに起因して行われたものと認められる。
   そして、Aは、本件国道を法定速度程度で直進してきて、前記認定の信号サイクル上、4秒間にわたって対面信号機の黄色表示を視認できたと考えられるところ、これに従わず、前記認定のとおり、対面信号機が赤色表示とともに右矢印を表示した(即ち、直進車両との関係では赤色表示となった)後に原告車を本件交差点に進入させたものと認められ、上記の誤認の一因として、本件交差点に遅れて進入したという意識が影響したものと考えられる。
   さらに、その誤認の原因になったとうかがわれる被告がハンドルを左に切る操作に原告車通過前の早い段階で着手されたこと自体も、対面信号機が赤矢印表示に変わった後に原告車が本件交差点に進入してきたために、原告車をやり過ごした後により速やかに本件交差点を通過しなければならないとの意識が被告において強まったことも関係していると考えられる。そうすると、結局、上記の誤認そのものもA自身の行動によって招来されたものというほかない。
 ウ 以上によれば、被告には、本件事故の発生につき、故意はもちろん、過失による不法行為責任も認めることはできない。

(3)結論
   原告らの請求はすべて理由がない(請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、原告車の運転者が、対面信号機が赤色表示とともに右矢印を表示した(直進車両との関係では赤色表示となった)後に原告車を本件交差点に進入させたことを前提に、本件転把は、専ら原告車の運転者において、被告車のハンドル操作の意味を誤認したことに起因して行われたものであると認定して、被告車の運転者の過失を否認した事例です。両運転者の供述内容の信用性を比較して、被告車の運転者の供述内容に沿った認定をしています。

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