【労働】東京地裁令和元年5月23日判決(判例タイムズ1488号161頁)

人員削減の必要性が高度であったとはいえないこと、解雇回避努力を尽くしていなかったことなどから、所属学部の廃止を理由とする大学教員の解雇を無効と判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)当事者
 ア 被告は、Y大学、Y高等学校等を設置する学校法人である。
   Y大学は、埼玉キャンパス及び東京キャンパス等を有する4年制大学であり、平成29年4月当時、国際コミュニケーション学部人文学部等が置かれていた(以下、同大学の各学部を単に「国際コミュニケーション学部」などという。)。
   国際コミュニケーション学部は、埼玉キャンパス内にあり、同学部には経営コミュニケーション学科、人間環境学科及び文化コミュニケーション学科が置かれていたが、後記のとおり、これらの全学科で平成26年度(以下、「年度」という場合はその年の4月1日を起算日とする1年間を指す。)までに学生募集が停止され、同学部は平成30年4月1日に廃止された(注:留年した学生がいたため、学部廃止が1年延期された。)。
   人文学部は、国際コミュニケーション学部の全学科における学生募集が停止された平成26年度に、東京キャンパス内に新設された。同学部には、表現学科及び歴史学科が置かれている(以下、国際コミュニケーション学部及び人文学部の各学科を単に「文化コミュニケーション学科」などということがある。)。
 イ 原告らは、いずれも、被告との間で期間の定めのない労働契約(以下、原告らが被告と締結した労働契約を総称して「本件格労働契約」という。)を締結した者である。原告らは、平成29年2月21日、被告から、就業規則14条4号(注:同号は、解雇事由として、「やむを得ない理由により事業を縮小または廃止するとき」と定めている。)により同年3月31日をもって解雇する旨の通知(以下、原告らに対する解雇を総称して「本件解雇」という。)を受けた際、国際コミュニケーション学部の教授として勤務し、文化コミュニケーション学科に所属していた。

(2)本件解雇に至る経緯
 ア 国際コミュニケーション学部では、平成20年度以降、入学定員が充足されていなかった。また、文化コミュニケーション学科でも、平成21年度以降、入学定員が充足されておらず、その入学定員充足率は、平成23年度が58パーセントであり、平成24年度は入学定員を175名から100名に減員したものの、87パーセントであった。
 イ Y大学の副学長は、平成23年11月15日、国際コミュニケーション学部の教授会において、同学部は4年生大学定員を確保できない状況が続いており、今後同学部の改組、再編に着手せざるを得ない旨説明した。
 ウ 被告の理事会及び評議員会は、平成24年3月21日、平成26年度から文化コミュニケーション学科の学生募集を停止する旨決定するとともに、同年度に人文学部を新設する旨及び同学部の専任教員は原則として全員新規採用とする旨決定した。
 エ Y大学の学長は、平成24年3月27日、国際コミュニケーション学部の教授会において、平成26年度から文化コミュニケーション学科の学生募集を停止するとともに、同年度に人文学部を新設すること、関係する教員とは今後個別に相談したいことなどを説明した。
 オ 被告は、平成24年7月11日以降、申請計画作業部会において人文学部の教員候補者の資格審査、面接等を行い、同学部の教員予定者を決定した。
 カ Y大学の学長は、平成25年3月12、国際コミュニケーション学部の教授会において、文化コミュニケーション学科に所属している教員の身分について今後個別に相談したい旨説明した。同日の時点で、人文学部の教員予定者は全て決定済みであり、原告らが同学部に配置転換される予定はなかったが、同学長は、そのことを説明しなかった。
 キ 被告は、平成25年4月22日、文部科学省に対し、人文学部の新設に関する基本計画書等を提出した。
 ク 被告は、平成25年6月28日、文部科学大臣に対し、「Y大学国際コミュニケーション学部文化コミュニケーション学科の学生募集停止について(報告)」と題する書面を提出した。同書面には、文化コミュニケーション学科の学生募集を平成26年度から停止すること、募集停止の理由は同学部を改組転換して新たに人文学部を設置するためであり、同学科の所属教員については学園内学校への配置転換等を模索し、できる限り雇用を回避するよう努めていくことなどが記載されていた。
 コ 被告は、平成25年7月17日、国際コミュニケーション学部の教員に対して説明会を行い、同学部の廃止に伴い希望退職の募集を行う旨及び同学部の業務がなくなれば雇用は終了する旨説明した。また、被告は、同日の説明会後及び同月19日、同学部の専任教員と個別に説明及び相談をする機会を設けた。
 サ 被告は、平成25年12月17日、平成28年6月1日及び同年11月1日の3回にわたり希望退職の募集を行ったが、原告らはいずれにも応募しなかった。
 シ 原告らは、平成27年3月23日にはY大学教職員組合(以下「本件組合」という。)を結成して団体交渉を申し入れたが、開催条件について折り合わず団体交渉は開催されなかった。
 ス 被告は、平成28年12月22日、原告らに対し、平成29年4月1日以降、現在と同額の月額給与で被告の専任事務職員として勤務することを提案したが、原告らは、同提案を拒否し、被告に対し、Y大学の教員として雇用を継続するよう求めた。
 セ 被告は、平成29年2月21日、原告らに対し、本件解雇を通知した。
   なお、国際コミュニケーション学部の廃止が決定した当時、文化コミュニケーション学科には12名の専任教員が在籍しており、うち3名は平成25年12月17日の希望退職募集に、1名は平成28年6月1日の希望退職募集にそれぞれ応募し、5名は国際コミュニケーション学部以外の学部(以下、単に「他学部」という。)又は附属機関(注:Y大学には、アジア国際社会福祉研究所その他の附属機関があり、学部に所属せずに附属機関に所属する教員が存在していた。)に配置転換となり、原告ら3名のみが解雇された。

(3)本件訴訟の提起
   原告らは、本件訴訟を提起して、本件解雇が無効であると主張して、被告に対し、労働契約に基づき、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあること等の確認を求めた。


【争点】

(1)本件解雇の効力(争点1)
(2)原告らに対する未払賃金の額(争点2)
   以下、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件解雇の効力)について
 ア 判断枠組み
   本件解雇は、Y大学の国際コミュニケーション学部の廃止に伴い、同学部に所属していた原告らを解雇するものであって、原告らに帰責性のない被告の経営上の理由によるものである。そうすると、本件解雇が解雇権を濫用したものとして無効となるか否かは、人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性及び解雇手続の相当性に加え、本件においては、原告らの再就職の便宜を図るための措置等を含む諸般の事情をも総合考慮して、本件解雇が客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当と認められるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当である。
   これに対し、被告は、本件各労働契約において原告らの所属学部及び職種は国際コミュニケーション学部の大学教員に限定されていたから、同学部の廃止に伴う本件解雇はいわゆる整理解雇ではなく、その効力を判断するに当たって上記諸事情を考慮する必要はない旨主張する。
   しかし、原告らの所属学部及び職種が同学部の大学教員に限定されていたか否かにかかわらず、同学部の廃止及びこれに伴う本件解雇について原告らに帰責性がないことに変わりはなく、被告の主張する原告らの所属学部及び職種の限定の有無は、本件解雇の効力を判断する際の一要素に過ぎないと解されるから、以下、上記限定の有無については、本件解雇の効力を判断するに当たり必要な限度で検討する。
 イ 本件解雇の効力
  a)人員削減の必要性
   国際コミュニケーション学部は、平成20年度以降一貫して定員割れの状態にあり、平成25年度までに3学科中2学科で学生募集を停止し、同年度も募集を継続した文化コミュニケーション学科も、平成24年度に入学定員を前年度の6割弱まで減員したにもかかわらず定員割れが継続していたのであり、このような状況の下で、被告が同学科における平成26年度以降の学生募集の停止及びこれに伴う同学部の廃止を決定したこと自体は、経営判断として不合理ということはできない。
   もっとも、本件解雇の時点において、被告の資産、収支及びキャッシュフローはいずれも相当に良好であったというべきであり(注:詳細については省略する。)、原告らを解雇しなければ被告が経営危機に陥るといった事態は想定し難い状況にあった。
   また、被告は、本件解雇以前、原告らに対し、専門分野との関連性のない又は希薄な授業等を担当させてきた実態があると認められる。原告らは、他学部の授業科目を担当可能である旨主張しているところ、別紙⑦担当可能科目一覧表1から3まで(略)の各授業科目には、人文学部のものだけを見ても、原告らが従前担当してきた授業等と内容共通のものを含む多くの一般教養科目が含まれているほか、原告らの専門分野と一定の関連を有する専門科目も含まれており、被告における上記実態も踏まえれば、別紙⑦担当可能科目一覧表1から3まで(略)の各授業科目には原告らの担当可能なものが多く含まれているものと認められる。
   以上によれば、被告が国際コミュニケーション学部を廃止すること自体を経営判断として不合理ということはできないものの、原告らを解雇しなければ被告が経営危機に陥るといった事態は想定し難く、原告らは人文学部の一般教養科目及び専門科目の相当部分を担当可能であったものであるから、人員削減の必要性が高度であったとはいえないというべきである。
   これに対し、被告は、本件各労働契約において原告らの所属学部は国際コミュニケーション学部に限定されていたから、同学部が廃止される以上、被告の財務状況等と関係なく人員削減の必要性が認められる旨主張する。
   しかし、原告らの所属学部が同学部に限定されていたか否かは別として、Y大学には、アジア国際社会福祉研究所その他の附属機関があり、学部に所属せずに附属機関に所属する教員が存在し、原告らが配置転換を求めていたことから、被告は、原告らを他学部に配置転換することが可能であったかはともかくとしても、附属機関へ配置転換することは可能であったことが認められる。そうすると、仮に原告らの所属学部が同学部に限定されていたとしても、国際コミュニケーション学部の廃止によっても、原告らの配置転換が不可能であった結果、原告らを解雇する以外に方法がなかったということはできず、被告の主張は採用することができない。
  b)解雇回避努力等
   被告は、①希望退職の募集、②他大学又は他学部からのオファーがあれば速やかに連絡する旨の伝達、③人文学部以外の学部における教員の公募状況の通知、④被告の運営する中学校及び高等学校に対する採用検討の依頼並びに⑤本俸を維持する労働条件での専任事務職員としての雇用の提案を行い、これらにより解雇回避努力を尽くした旨主張する。
   しかし、上記①(希望退職の募集)は、原告らが希望退職に応募しない場合は解雇することを前提に、応募した場合は退職金に退職時の本俸月額12か月分の加算金を支給する旨提案したにすぎず、十分な解雇回避努力とはいえない。
   また、本件においては、再就職の便宜を図るための措置も検討すべき一事情であるものの、上記②及び④(他大学又は他学部からオファーがあれば速やかに連絡する旨の伝達並びに被告の運営する中学校及び高等学校に対する採用検討の依頼)は、他大学、他学部又は被告の運営する中学校及び高等学校に原告らの採用の可否を問い合わせたにすぎず、上記③(人文学部以外の学部における教員の公募状況の通知)は、原告らが自ら閲覧可能な求人ウェブサイトのURLを原告らに通知したにすぎないから、解雇の有効性を基礎付ける事情として十分なものとはいえない。
   また、原告らはいずれも本件各労働契約の締結当時から助教授又は准教授の地位にあり、本件解雇の時点では教授の地位にあったところ、教授、准教授及び助教授はいずれも大学教員に固有の肩書であること(学校教育法92条1項等)、原告らが本件各労働契約の締結後本件解雇に至るまで一貫して大学教員として勤務してきたことなどの事情を総合すれば、本件各労働契約においては、原告らの地位を大学教員に限定する旨の黙示の合意があったと認めるのが相当である。このような本件各労働契約における原告らの地位に加え、前判示のとおり配置転換により大学教員として雇用を継続することが不可能とはいえないことを併せ考慮すると、上記⑤(本俸を維持する労働条件での専任事務職員としての雇用の提案)も本件における解雇回避努力としては不十分というべきである。
   これに対して、被告は、上記①から⑤まで以外の解雇回避措置は採り得なかった旨主張するが、前判示のとおり、他学部にも原告らの担当可能な授業科目が多数あったこと、被告には学部に所属しない教員が多数あったことなどに照らせば、被告は、原告らを学部に所属させることなく他学部の一般教養科目を担当させるなどの解雇回避措置をとることが可能であったというべきであり、被告の上記主張は採用することができない。
  c)解雇手続の相当性
   被告は、平成25年12月17日、原告らに対し、同学部の業務がなくなれば雇用は終了する旨説明し、同日及び同月19日、原告らを含む国際コミュニケーション学部の教員と個別相談の機会を設け、平成26年4月から同年7月まで、代理人を通じ原告らと協議を行ったが、被告がこれらの機会に原告らに対し解雇の必要性や原告らを配置転換できない理由等につき十分な説明をしたことをうかがわせる証拠はなく、また、被告は、原告らの結成した本件組合が本件各労働契約の存続等を議題とする団体交渉を申し入れた際にもこれを拒否したことなどに照らせば、原告らに対する説明や原告らとの協議を真摯に行わなかったものというべきである。
  d)小括
   以上によれば、被告が国際コミュニケーション学部の廃止を決定したこと自体を不合理ということはできないものの、被告の財務状況が相当に良好であったや、同学部の廃止と同時期に人文学部の新設が決定され原告らの担当可能な授業科目が多数新設されたことによれば、国際コミュニケーション学部の廃止に伴う人員削減の必要性が高度であったとはいえないというべきであり、それにもかかわらず、被告は、人文学部への応募の機会を与えず、個別に相談したいなどと述べて、本件各労働契約の存続に期待を持たせる言動に出て、結果的に解雇回避の機会を喪失させたばかりか、原告らを学部に所属させずに他学部の授業科目を担当させるなどの解雇回避努力を尽くすこともなく、原告らに対する説明や原告らとの協議を真摯に行うこともしなかったことなどの前判示に係る諸事情を総合考慮すれば、本件解雇は、解雇権を濫用したものであり、社会的相当性を欠くものとして無効である。

(2)結論
   原告らの請求のうち、被告に対しそれぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める部分は、いずれも理由がある(注:その他の請求については、省略する。)(一部認容)。


【コメント】

  本裁判例は、原告らにおいて新設された人文学部の一般教養科目及び専門科目の相当部分を担当可能であり、配置転換により大学教員として雇用を継続することが可能であったことから、人員削減の必要性が高度であったとはいえないこと及び被告の採った各措置が解雇回避努力としては不十分なことを導いています。被告としては、被解雇者選定の合理性の観点からも、原告らに他学部の一般教養科目又は専門科目を担当させないことの合理性を基礎付ける事情について、主張・立証する必要があったものと思われます。

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