【交通事故】福岡高裁令和2年12月8日判決(判例時報2497号38頁)

民法719条1項後段の類推適用において、被害者が第2事故によって死亡した可能性があることの立証責任は被害者側にあるところ、被害者が第1事故により死亡したものと十分推認できることから、上記の類推適用を否認した事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成28年2月23日午前0時9分頃(第1事故)
   同日午前0時17分から18分頃の間(第2事故)
 イ 発生場所 佐賀県○◯南方約80m付近県道a線(通称bバイパス)のc市方面行車線(以下「本件道路」という。)
 ウ 関係車両 
   被告Y1運転の中型貨物自動車(以下「被告Y1車」という。)
   被告Y2運転の中型貨物自動車(以下「被告Y2車」という。)
   亡A(本件事故当時44歳)の運転する自転車(以下「A自転車」という。)
 エ 事故態様 
   被告Y1車が、片側2車線である本件道路の左側の車両通行帯(以下「第1車線」といい、その右側の車両通行帯を「第2車線」という。)上において、A自転車に衝突し、Aを第2車線上に転倒させた(以下「第1事故」という。)。
   第1事故のおよそ8分ないし9分後、被告Y2車が、第2車線上に倒れていたAを輪禍した(以下「第2事故」という。)。

(2)第1事故後の被告Y1の消防及び警察との通話
   被告Y1は、0時09分頃に第1事故が発生した後、自身の携帯電話で次のとおり消防及び警察と通話した。
  ・0時10分頃から12分頃まで
   被告Y1は、消防に119番通報をし、消防に対し、以下のとおり、Aの意識はない様子である旨を述べた(以下「1回目の消防との通話」という。)。
   消防本部:その方、どういう状態ですかね、今?
   被告Y1:今、もうぐったりしてあるとですよね。
   消防本部:意識ない?
   被告Y1:ああ。
   消防本部:どうですか、意識あります?
   被告Y1:大丈夫ですか?いや、あんまりないみたいですね。
   消防本部:その方、いくつぐらいか分かりますか?
   被告Y1:まだ若い感じです。
   消防本部:全然意識はない?
   被告Y1:はい。
  ・0時13分頃
   被告Y1は、警察に110番通報をし、Aは意識も反応もなく、道路上に倒れたままである旨を述べた。
  ・0時16分頃から17分ないし18分頃まで
   被告Y1は、消防からの電話に応答し、第2事故が発生した頃まで通話した(以下「2回目の消防との通話」という。)。

(3)Aの死亡が明らかであったことから、Aの遺体は、救急搬送されることなく、鳥栖警察署に搬送された。被告Y1が、本件事故後、警察に対し、第1事故直後のAの様子について、「微かなうめき声が聞こえた。」、「左手を少し挙げたようだ。」と供述したことから、司法解剖が実施された。これに基づく警察作成の司法解剖の鑑定書の内容は、概要、以下のとおりである。
   死因
   本屍の死因は、外傷性ショックと考えられる。体幹右側に作用面の大きな鈍体(例えば車両)が衝突し、路面に転倒したものと考えられ、仰向けになっていたところへ別の車両が到来して、右体側から頭頂方向へ移動する際に頭部右側を輪禍し、同時に体幹と車体の構造物が接触することで肝や心の損傷を惹起したものと考えられる。
   今回は関連する車両が複数あって成傷機転が二つあると考えられるが、二回目の成傷の時点ではほとんど絶命していたものと考えられ、その際にできた損傷の周囲にはほとんど出血が認められなかった。ただし、二回目の受傷直前に完全に絶命していたかについては、生存していた可能性は否定できず、その場合、体を動かしたり声を出したりしていたとしても矛盾はない。

(4)自賠責損害調査センターは、死体検案書によると直接死因は「外傷性ショック」、受傷から死亡までの間は「即死」であること、死体検案書の解剖の主要所見に関する調査や被告Y1車及びY2車の損傷状態、第1事故から第2事故に至るまでの一連の状況等の調査の結果、Aは、第1事故により即死状態であったと捉えられるため、Aの死亡は被告Y2車の運行により生じた損害とは認められないとして、第2事故は、自賠責保険の適用対象外と判断した。
   平成29年9月6日、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から、原告に対し、保険金合計3002万1940円が支払われた。

(5)Aの唯一の相続人である原告は、本件訴訟を提起して、A自転車を運転していたAは、まず、被告Y1車に衝突されて道路上に倒れ(第1事故)、次いで、被告Y2車に輪禍され(第2事故)、死亡したものであるところ、本件事故について、被告Y1及び被告Y2には共同不法行為が成立すし、また、被告株式会社Y3(以下「被告会社」という。)は本件事故当時に被告Y3を使用していた会社の権利義務を承継した者であるから、上記被告Y2の共同不法行為について使用者責任を負い、これにより、被告ら全員が、連帯して損害賠償責任を負うと主張した。

(6)原判決(福岡地裁久留米支部令和2年6月12日判決・判例時報2497号43頁)は、Aは、第2事故発生時には既に死亡していたと認められるから、被告Y2について、Aの生命侵害に係る共同不法行為は成立せず、被告Y1と被告Y2の共同不法行為は成立しないから、被告Y2は、Aの死亡について責任を負わず、また、被告Y2の不法行為が成立しない以上、被告会社も使用者責任を負わないと判示した。
   これを不服とする原告は控訴を提起し、被告Y2も附帯控訴を提起した。


【争点】

   以下、原告を「控訴人」、被告Y1を「被控訴人Y1」、被告会社を「被控訴人会社」という。また、被告Y2は、令和2年1月◯日に死亡したため、同人を「亡Y2」という。

(1)被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為が成立するか(争点1)
(2)Aの過失の有無及び過失割合(争点2)
(3)損害額(争点3)
   以下、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為が成立するか)について
 ア 民法719条1項前段について
   第1事故と第2事故との間におよそ8分から9分の空時間があり、その間、被控訴人Y1は警察や消防に順次電話による連絡を行いつつ、発煙等をたいて後続車に注意喚起するなどの行動をしていたこと、Aの身体に対する成傷について第1事故によるものと第2事故によるものとで区別できることに照らせば、1事故と第2事故とは一連一体のものとは評価できず、かつ、第2事故による成傷とAの死亡との間の因果関係を積極的に認めるに足りる証拠がないから、本件に民法719条1項前段は適用できない。
 イ 民法719条1項後段について
  a)類推適用の可否及び立証責任について
   民法719条1項後段の趣旨は、関連共同性を欠く数人の加害行為により損害が生じ、その損害が当該数人中誰かの行為によって生じたことは明らかであるけれど、誰が生じさせたか不明の場合(いわゆる択一的競合の場合)において被害者保護のため、右数人全員に連帯して賠償責任を負わせる規定と解される。
   本件は、第1事故は被控訴人Y1の行為によるものであり、第2事故は亡Y2の行為によるものとそれぞれ区別できる上、第2事故は第1事故がなければ生じていないという条件関係があり、その意味では被控訴人Y1に被害者(控訴人)との関係では損害全部(後述の過失相殺を除く。)につき責任があるのは明らかであるから、加害者不明の場合の被害者保護を目的とする民法719条1項後段の本来的適用場面ではないが、Aが第2事故によって死亡した可能性があると認められる場合は、民法719条1項後段の被害者保護の趣旨を踏まえてこれを類推適用することにより、被控訴人Zら(注:亡Y2の相続人ら)に対し、連帯して賠償責任を負わせることができると解される。
   そして、Aが第2事故によって死亡した可能性があることは、同規定を類推適用するための要件となる事実であるため、その立証責任は控訴人にあるというべきである。
  b)検討
  ・鑑定では、Aは第2事故発生時点でほとんど絶命していたと判断されている。その根拠として、Aが同時点で生存していれば、頭部の損傷状態からして大量の出血があったはずであるが、そのような痕跡は認められておらず、第1事故により絶命して血液の循環が停止していたものと認められること、同様に、その他の臓器も損傷していたのにほとんど出血の跡がなく生活反応は認められないこと、ほぼ全ての肋骨が骨折しており、特に右後背部の損傷が酷いことから右後方からの衝撃が強く、この骨折の状態から呼吸できない状態と認められること等が挙げられ、解剖所見及び医学的な専門知見に基づいた合理的な推論と認められる。すなわち、1事故の態様(後背部からの追突)を考慮すれば、上記右後背部の損傷は、第1事故による衝撃によって呼吸不可能となる致命的な傷害がAに与えられたというべきである。その後の第2事故によって損傷した部分と推認される頭部や臓器において出血や生活反応がないことや、相対的に流血が少ないという事故現場の状況は、第2事故までにAが絶命していたことを裏付けているというべきである。
  ・また、Aは第1事故により約28.1m先まで、搭乗していた自転車と一緒にはね飛ばされたこと、被控訴人Y1のフロントガラスが割れて、中型貨物車両の前部ボディーが凹損しているという客観的状況からも、Aに対して、相当程度の強い衝撃が加わったことが推察される。
  ・これに加えて、被控訴人Y1が、1回目の消防との通話及び警察への通報の際、Aの意識がなかった旨を述べており、第1事故後、Aの意識はなかったと認められることも考慮すると、Aは、第1事故により死亡したものと推認される。
  c)被控訴人Y1供述等について
   これに対し、被控訴人Y1の陳述書及び本人尋問における供述には、第2事故発生直前に、Aがうめき声を上げ、手を挙げた旨の部分があり、被控訴人Y1は、警察の捜査段階での同旨の供述をしていた。
   しかし、被控訴人Y1供述等は、陳述の時点により、挙げた手が右であったり、左であったりするなど、必ずしも明確な陳述をするものではない。
   かえって、1回目の消防との連絡の際の録音記録及び警察への通報の記録によれば、被控訴人Y1は、明確に、Aの意識はない旨を述べている。特に、1回目の消防との通話では、合計4回、Aの状態を消防から問われたのに対し、被控訴人Y1は、意識がある旨の返事は全くしておらず、3回は、Aの意識がない旨を答えている。しかも、被控訴人Y1の発言の中には「大丈夫ですか?」と述べた部分が存するが、これは、Aに呼びかけたものと認められるから、被控訴人Y1は、呼びかけても反応がないことを確認して、Aに意識がない旨を答えたと認められ、第1事故の直後である1回目の消防との通話の時点で、既にAに意識があることを確認できない状態であったことが認められる。
   そして、上記以降の被控訴人Y1と警察との通話や被控訴人Y1と消防との通話には、録音等の直接的な証拠がないが、消防鳥栖本部の連絡無線の録音記録によれば、被控訴人Y1が消防に対し救急車が対向車線を通り過ぎた旨の連絡をしたことが推認されるのに、Aに意識がある趣旨のことの通報をしたと推認できるような記録がない。上記のとおり消防(本部及び救急車の双方)がAの容態に対して重大な関心を向け続けている状況下で録音された記録であることを考慮すれば、被控訴人Y1が、Aの意識が確認できるような趣旨の報告を、2回目以降の消防との通話においても一切しなかったと推認できるというべきである。
   以上からすれば、被控訴人Y1供述等には客観的な裏付けがない。
  c) 民法719条1項後段の類推適用の可否についての小括
   したがって、主にAの解剖所見に基づく鑑定意見のみならず、その他の各証拠を踏まえて検討すれば、Aは、第1事故により死亡したものと十分推認できるというべきであって、第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない。
   してみると、本件に民法719条1項後段は類推適用できない。
 ウ 争点1についての小括
   以上によれば、被控訴人Y1と亡Y2に共同不法行為は成立しない。よって、その余について判断するまでもなく、控訴人の被控訴人Zらに対する請求には理由がない。
   また、控訴人の被控訴人会社に対する請求も、同様に理由がない。

(2)争点2(Aの過失の有無及び過失割合)及び争点3(損害) 略

(3)結論
   控訴人の本件控訴及び被控訴人Y1の本件附帯控訴にはいずれも理由がない(控訴棄却)


【コメント】

   本控訴審において、控訴人は、民法719条1項後段の(類推)適用において、2事故発生時までにAが死亡していたことの立証責任が被控訴人Zらにある旨主張しました。しかし、裁判所は、Aが第2事故によって死亡した可能性があることの立証責任が控訴人にある旨判示して、この見解を採用しませんでした。そして、裁判所は、Aの解剖所見に基づく鑑定意見その他の各証拠から、Aは、第1事故により死亡したものと十分推認できることから、第2事故によって死亡した可能性があるとは認められない旨判示して、本件における民法719条1項後段の類推適用を否認しました。
   この点、Aが、第1事故により死亡したものと十分推認できると認定されていることから、仮に、立証責任の負担等について控訴人の主張を採用したとしても、本件において民法719条1項後段の類推適用は否認されたものと考えられます。

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