【交通事故】神戸地裁令和2年8月27日判決(自保ジャーナル2080号134頁)

被保険者の提出する契約確認メールの受信日時が申込みから相当経過後であることなどから、自動車保険契約の始期に係る被保険者の主張を否認した事例(控訴審継続中)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成28年7月23午前8時7分頃
 イ 発生場所 神戸市内路上(以下「本件現場」という。)
 ウ 原告車両 訴外Aの運転する原動機付自転車
 エ 被告車両 訴外B株式会社が所有し、被告Cが使用し、被告D(注:被告Cの子)が運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 走行中の訴外A運転の原告車両に反対方向からセンターラインをオーバーして走行して来た被告車両が衝突した。

(2)訴外Aは、本件事故により胸部大動脈破裂等の傷害を負い、本件事故当日に死亡した。
   訴外Aの相続人は、夫の原告Eと子の原告F、同G、同Hであり、それぞれの相続分は原告Eが2分の1、その他の原告が各6分の1である。

(3)被告車両は、本件事故当時、被告Cの使用であったが、被告Cは近々新しい車に乗り換える予定であったので、被告D に被告車両を譲る予定であった。そのため、被告車両の任意保険は切れた状態であった。
   平成28年7月20日(水曜日)、被告Cは、被告Dから週末(7月24(日曜日))に友人とドライブに行きたいので被告車両を貸してほしいと頼まれた(注:原告の認否は不明である。)。被告Cは、被告Dに対して、被告車両を貸すことは承諾したが、必ず保険に入るように伝えた。

(4)被告Dは、平成28年7月20、仕事が終わって自宅に帰った後(注:時間は不明である。)、スマートフォンによって、被告G保険会社(以下「被告会社」という。)のウェブサイトにアクセスし、自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。なお、被告Dは、本件保険契約を申し込む前に、自動車保険の一括見積サイトにアクセスし、同年7月24を開始日とする保険契約の見積りを取っていた。)の申込みをした(注:被告会社のデータベースに記録されている申込日時は、不明である。)。また、被告Dは、同日中に2ヶ月分の保険料2万0,850円を支払った(注:被告会社のデータベースに記録されている支払日時は、不明である。)。
   本件保険契約の内容は、以下のようなものであった。
 ア 保険期間 平成28年7月240時から平成29年7月21日16時まで(注:保険期間の始期について、被告Cらは同年7月21であると主張している。)
 イ 被保険者 被告D
 ウ 被保険車両 被告車両
 エ 補償内容 対人:無制限、対物:無制限
 オ 直接請求 交通事故によって被保険者に法律上の損害賠償責任が発生した場合、その法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求者との間で、損害賠償請求訴訟の判決が確定し又は裁判上の和解もしくは調停が成立した場合は、損害賠償請求者は被告会社に対し、確定した損害賠償額の支払を請求することができる。

   なお、被告会社のウェブサイトによる保険契約の手続フローは、以下のとおりである。
 ア 申込者が、保険の条件を入力又は選択すると、申込内容の確認画面が現れる。
 イ 申込者が、内容を確認し、「同意して申し込む」のボタンをクリックすると、保険料の払込み手続画面に移行する。
 ウ 申込者が、必要事項を入力し、「払い込み手続を行う」のボタンをクリックすると、自動的にクレジット会社への照会処理が行われ、クレジット会社の承認が得られれば、「クレジットカードによる払込手続が完了しました」と表示され、申込手続は完了する。
 エ 申込手続が完了すると、その内容が被告会社の基幹システム(サーバ)に保存され、申込人に対しては、契約内容を確認する電子メール(以下「契約確認メール」という。)が送信される。

(5)被告Dは、平成28年7月22、被告Cに対して、被告車両を貸してほしいと頼んだ。これに対して、被告Cは、任意保険への加入を確認するため、被告Dのスマートフォンの画面で見せられた契約確認メールによって、本件保険契約の内容を確認した(注:被告Cは、この際に確認した本件保険契約の開始日が7月21日であったと主張している。)。その上で、被告Cは、仕事が終わった後、被告Dを家に連れて帰り、被告車両を貸し渡した。

(6)被告Dは、平成28年7月23日(土曜日)、被告車両を洗車するため、午前5時に起床し、被告車両を運転して午前7時頃に洗車場に到着し、被告車両を洗車した。その後、自宅に帰る途中で、居眠り運転のため、本件事故を起こした(注:発生日時は、平成28年7月23日午前8時7分頃である。)。なお、原告車両を運転していた訴外Aは、ほぼ即死であった。

(7)平成28年7月24日午後4時45分頃、本件事故の発生を聞いた被告Dの母親が、被告会社に本件保険事故の発生を連絡した。

(8)平成28年7月25日午前9時16分頃、被告会社から、被告Dに対して、本件保険契約の始期は、同年7月24日になっているので、本件事故には適用できないとの連絡が入った。
   その後、被告Cらは、被告会社と何度かやり取りをした後、被告Cは、被告会社からの要望で、被告DからL I N Eで送られてきた契約確認メールのスクリーンショットを電子メールに添付して、被告会社に送信した。
   すると、被告会社から、被告Cに対して、画像データでは確認できないので、契約確認メールを送ってほしいとの連絡を受けた。
   そこで、被告Dは、被告会社に対して、契約確認メール(以下「原メール」という。なお、これらの受信日時は、7月21日15時37分、同日18時13である。)を転送した。 
   被告Dは、その後、原メールを消去した。

(9)原告らは、本件訴訟を提起して、被告Cらに対して、自動車損害賠償補償法3条等に基づく損害賠償額の支払を求めるほか、被告会社に対して、本件保険契約に基づく請求権に基づき、原告らと被告Dとの判決が確定することを条件に、確定した損害賠償額の支払を求めた。


【争点】

(1)本件保険契約の始期(争点1)
(2)原告らの各損害額(争点2)
   以下、原告らの被告会社に対する請求に関し、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件保険契約の始期)について
 ア 原告ら及び被告Cらは、以下の理由を挙げて、本件保険契約の開始日は7月21であると主張する。
  a)被告会社のウェブサイトからの申込みにおいては、被保険車両が納車済みの場合には、保険期間は自動的に申込翌日と表示され、被告Dがわざわざ開始日を変更するとは考えられない(注:この主張に従うと、本件事故日である平成28年7月23日に本件保険契約を申し込むと、開始日は同年7月24日となる。)。
  b)7月22日に被告Cが被告Dからスマートフォンの画面で見せられた契約確認メールは、開始日が7月21になっている。また、後日に被告DからL I N Eで送られてきたスクリーンショットによる契約確認メールでも7月21になっている。
  c)被告会社が本訴訟で提出した契約確認メール(注:発信日時は不明であるが、認定事実からは、平成28年7月23日であると思われる。なお、被告Dは、原メールを消去済みであるため、本訴訟にて提出されていない。)は、従前被告Cらに開示されたメールとは異なっており(注:詳細は不明である。)、信用できない。
 イ しかしながら、原告ら及び被告Cらの主張は、以下の事情から、必ずしも同人らの主張を裏付けるものとはなりえない。
  a)被告Dは、7月20日に被告Cに被告車両の貸借を申し入れた際には、7月24使用する予定であったこと、
   被告Dは、本件保険契約を申し込む前に、自動車保険の一括見積サイトにアクセスし、7月24を開始日とする保険契約の見積りを取っていること
等に照らしても、開始日を7月24日とすることに理由がある。
  b)現在、被告Cらが保有している契約確認メールは、スクリーンショットだけであるところ、原メールをスクリーンショットにする際には、改ざんが可能であるし(注:メールを改ざんした上で、スクリーンショットにすることが可能との趣旨と思われる。)、被告Cらの提出する契約確認メールは、その受信日時が7月21日15時37分、同日18時13(注:判決文上、不明であるが、前者は、契約申込確認メール、後者は、保険料支払確認メールと思われる。)と、被告Dが本件保険契約を申し込んでから相当時間が経過しており、被告会社のウェブサイトの契約手続上、通常起こりえない(注:申込等確認後、何分以内に各確認メールが発信される設定となっているのかは、不明である。)。
    c)たしかに、被告会社が本訴訟で提出した契約確認メールは、従前被告Cらに開示されたメールとは異なっているが、これらは提出の方法が異なっているために生じたものであり(注:詳細は不明である。)、これをもって、その信用性が低下するとはいえない。
   さらに加えて、以下の事情も総合考慮すれば、原告ら及び被告Cらの主張は採用できない。
    d)日々多数の保険契約を締結し、また多数の事故報告を受けている被告会社について、本件保険契約を受けている被告会社について、本件保険契約に限って契約の開始日を改ざんする理由は認められないし、また、改ざんする時間的余裕もない。
    e)前記認定にかかる被告会社のウェブサイトによる契約手続の流れに照らせば、申込内容と、被告会社が受領した契約内容(注:被告会社のデータベースに記録されている申込等の日時のことであると思われる。)が異なる事態が起きる可能性も考えられない。
    f)被告Cらは、本件事故後、弁護士に、被告会社との間で保険期間が問題となっていることを相談しながら、当然原メールを保存し、場合によってはプリントアウトするなどして証拠保全するようにとのアドバイスを受けたはずなのに、その後、原メールを消去してしまうなど、当事者として理解し難いことを行なっていること

(2)結論
   本件保険契約の始期は、平成28年7月24であり、本件事故はその前日に発生したものであるから、被告会社は、本件事故について保険金の支払義務を負わない(原告らの被告会社に対する請求を、いずれも請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、自動車保険契約の始期に関し、いわゆるアフターロスを認めた事例です。ウェブサイトの申込ボタン等を押下した日時は、通常、サービスを提供する事業者の管理するデータベースに記録されます。したがって、ユーザ側で確認メールの受信日時のみを改ざんした場合、事業者側の反論は容易なものと考えられます。

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