路上に横倒しになった自動二輪車と、その側でしゃがみ込んでいた同車両の運転者である被害者に対して、後方から直進してきた大型貨物自動車が衝突した事故について、被害者の過失割合を4割と認定した事例(本訴につき控訴審係属中)
【事案の概要】
(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
ア 発生日時 令和2年9月13日午後10時43分頃
イ 発生場所 横浜市所在の国道a号線(片側3車線。制限速度は時速50km)の上り車線上
ウ 被害者 甲野太郎(当時23歳。以下「太郎」という。)
エ 加害車 被告会社が使用し、被告乙山(当時58歳。以下、被告会社と併せて「被告ら」という。)が運転する事業用大型貨物車(25tトラック。以下「被告トラック」という。)
オ 事故態様 路上に横倒しになった太郎所有の自家用普通自動二輪車(以下「原告バイク」という。)と、その側でしゃがみ込んでいた太郎に、後方から直進してきた被告トラックが衝突した。
(2)太郎は、本件事故により、外傷性くも膜下出血、頭蓋骨骨折、脳挫傷等の傷害を負い、令和2年9月14日午前0時52分頃(本件事故から約2時間10分後)、上記傷害に基づき死亡した。
原告一郎(太郎の父親)及び原告花子(太郎の母親。以下、原告一郎と併せて「原告ら」という。なお、太郎に配偶者や子はいない。)は、太郎が被告らに対して有する損害賠償請求及び太郎が被告らに対して負う損害賠償債務を各2分の1ずつ相続した。
(3)請求
ア 本訴
原告一郎は、本訴を提起して、被告らに対し、損害賠償金3,619万8,334万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求めた。
原告花子は、本訴を提起して、被告らに対し、連帯して原告一郎の上記請求額と同額の連帯支払を求めた。
イ 反訴(注:反訴被告らの訴訟代理人と本訴の原告ら訴訟代理人とは別人である。)
被告会社は、反訴を提起して、原告(反訴被告)一郎に対し、損害賠償金46万2,341円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
被告会社は、反訴を提起して、原告(反訴被告)花子に対し、原告花子に対する上記請求額と同額の支払を求めた。
【争点】
(1)本件事故に関する太郎と被告乙山の過失割合(争点1)
(2)原告らの損害額(特に、死亡慰謝料及び逸失利益)(争点2)
以下、裁判所の判断の概要を示す。
なお、本件事故に関する各当事者の主張は、以下のとおりである。
ア 本訴についての原告らの主張
⑴本件事故は、停止した二輪車に対して四輪車が追突した事故に類似する。
被告乙山には、時速15km以上の速度違反や著しい前方不注視の過失があるから、太郎の過失を考慮しても、被告乙山の過失割合は80%を下回ることはない。
⑵仮に、本件事故の類型が路上横臥者と四輪車の事故であると捉えても、本件事故発生現場は夜間でも非常に明るく、前照灯がなくとも100m先まで見通せる場所であるから、夜間ではなく昼間に発生したものと同様に考えるべきである。そして、前記の被告乙山の過失があることから、太郎の過失割合は20%を上回らない(注:上記⑴と同じ。)
イ 反訴についての原告らの主張
⑴被告乙山は、時速20kmの速度違反や著しい前方不注視の過失等があり、その結果、本件事故を発生させたから、本件事故は、専ら被告乙山の過失により発生したものである。
⑵仮に太郎に路上横臥者としての過失があるとしても、昼間の路上横臥者と四輪車の事故類型に準じた過失評価をすべきである。そして、本件事故発生現場が幹線道路であることを踏まえても、被告乙山には速度超過、著しい前方不注視等、大型貨物自動車の職業運転者としての基本的注意義務違反という重過失があるから、太郎の過失は20%を上回らない(注:本訴についての原告らの主張と同じ。)
ウ 本訴及び反訴についての被告らの主張
本件事故は、夜間において、第2車線を直進していた被告トラックと、原告バイクで転倒し、そのまま道路上に留まっていた太郎が衝突したものである。
本件事故が発生したのは交通量の多い国道a号線という主要幹線道路の道路中央付近である。
被告トラックに時速15km以上の速度超過があることを考慮しても、太郎に60%の過失相殺がなされるべきである。
【裁判所の判断】
(1)争点1(本件事故に関する太郎と被告乙山の過失割合)について
ア 判断
⑴事故態様
本件事故は、夜間、幹線道路において、路上にしゃがみ込んでいた太郎を時速約70kmで走行してきた被告トラックが轢(れき)過したものである。
⑵被告乙山の過失
被告トラックを運転していた被告乙山は、遠くの信号機に気を取られて、本来97.5m手前からでも発見できたはずの太郎に気が付かず、わずか22.1mの距離に迫ってはじめて何か黒っぽい物体があると気付いたものの、急制動の措置を講じる間もなく太郎及び原告バイクに衝突したものであり、その前方不注視の過失は大きいというほかない。
実際、原告トラックの前方を走行していた目撃者同乗車両の運転者は、太郎及び原告バイクに気付いて回避することができている上、被告トラックの停止可能距離である56mよりもはるか手前の97.5mもある地点から路上に人がいることを確認することができたのであるから、被告乙山が前方注視を怠らなければ、太郎及び原告バイクとの衝突を避けられたはずである。
また、被告トラックが制限速度を時速20kmも超過した高速度で走行していたこともあいまって、太郎の発見が遅れたり衝突を回避することが困難になったりしたものと考えられ、速度超過の点において、より被告乙山の過失は重くなるというべきである。
もっとも、本件事故は夜間に発生したものであり、片側3車線の幅員が広く、夜間でも交通量の多い幹線道路であることからすると、路上に人がいることを予見することは困難であったともいえる。
⑶太郎の過失
何らかの事情があったにせよ、そのような危険な道路上に留まっていた太郎の過失も決して小さくはない。
⑷小括
本件事故における過失割合は、太郎40%、被告乙山60%と認めるのが相当である。
イ 原告らの主張について
⑴本件事故は追突事故に類するものであるとの主張について
原告らが提出する証拠(略)は、ビデオカメラ等で撮影した映像や写真であり、カメラの性能や機能等により、実際よりも明るく見える場合があることは否定できず、警察官が夜間に撮影した本件事故現場の写真と比べても、その明るさは大きく異なっており、原告らが提出する証拠を持って直ちに実際の明るさを表しているとまでは認め難い。
仮に、原告ら提出の証拠のとおりの明るさであったとしても、街灯によって明るい場所であることは認められるものの、やはり周囲に暗がりが広がっており、昼間と同じ視認状況であるとまでは認め難い。
本件事故の約3時間後に行われた実況見分の調書上も本件現場付近の状況として「夜間」のうち「やや明るい」となっており、「明るい」とはされていないことからしても、昼間に発生した事故と同視すべきであったとは言えない。
⑵本件事故は昼間に発生した事故と同視すべきとの主張について
前方を走行しているバイクに追突する場合と、路上に転倒してしゃがんでいる者に対して衝突する場合とでは、その予見可能性において大きな違いがあり、その前方不注視の過失の程度を同様に評価することはできない。
(2)争点2(原告らの損害額(特に、死亡慰謝料及び逸失利益))について
ア 死亡慰謝料について
太郎は社会人になったばかりの23歳という若さでその将来を奪われたものであり、その無念さは察するに余りある。
原告らはかけがえのない息子を失い、母親である原告花子は本件事故のショックから精神科に通院し、服薬を余儀なくされるほどの精神的苦痛を受けているなど、太郎や原告らが受けた精神的苦痛は大きいというほかない。
そして、本件事故態様その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、その精神的苦痛に対する慰謝料として2、500万円を認めるのが相当である。
イ 逸失利益について
⑴基礎収入
太郎は令和2年3月に国立大学を卒業後、株式会社に就職し、プログラマーとして稼働していたこと、基本情報処理技術者試験に合格しており、英語も堪能であったことが認められ、本件事故前の収入に照らしても賃金センサス大学卒男性全年齢平均賃金を得られる高い蓋然性があったと認められる。
したがって、基礎収入は令和2年賃金センセス大学卒男子全年齢平均賃金である637万9、300円と認めるのが相当である。
⑵就労可能年数
太郎は死亡時23歳であるから、67歳までの44年間(ライプニッツ計数24.2543)を就労可能年数と認めるのが相当である。
これに対し、原告らは、平均余命・平均寿命・平均健康寿命が飛躍的に向上していることや、高齢者の就業率も上昇し続けていて社会や法律等もそれを前提とした制度を取り入れていること、太郎は健康体であったことなどを理由に、太郎の就労可能年数は23歳から75歳までの52年間とすべきである旨主張する。
しかしながら、原告ら提出の資料を前提としても、65〜69歳の就労割合は49.6%に過ぎず、男性だけでみても60%に過ぎない。また、太郎が事故前に健康体であったとしても、加齢に伴って病気に罹患する可能性は否定できず、原告らが指摘する統計資料等を踏まえても、67歳を超えて就労する高度の蓋然性までは認められない。
したがって、原告らの上記主張は認められない。
⑶生活費控除率
太郎は、独身男性であるから、生活費控除率は50%と認めるのが相当である。
⑷小括
以上から、太郎の逸失利益は、次の計算式のとおり7,736万2,728円と認められる。
(計算式)637万9,300円×(1−0.5)×24.2543=7,736万2,728円
(3)結論
原告らの請求は、下記ア及びイの限度で理由があり、被告会社の反訴請求は、下記ウ及びエの限度で理由がある(一部認容)。
ア 被告らは、原告一郎に対し、連帯して1,882万6,408円を支払う(注:遅延損害金を除く。以下同じ)。
イ 被告らは、原告花子に対し、連帯して1,882万6,408円を支払う。
ウ 原告一郎は、被告会社に対し、18万4,624円を支払う。
エ 原告花子は、被告会社に対し、18万4,624円を支払う。
【コメント】
本裁判例は、路上に横倒しになった自動二輪車と、その側でしゃがみ込んでいた同車両の運転者である被害者に対して、後方から直進してきた大型貨物自動車が衝突した事故について、被害者の過失割合を4割と認定した事例です。
過失割合に関する原告らの主張内容と、これについての裁判所の判示内容が注目に値します。
