【交通事故】神戸地裁令和4年3月31日判決(自保ジャーナル2128号120頁)

道路工事の下請業者から交通誘導等の警備業務を再下請けした者の従業員である警備員の不法行為について、元請業者及び下請業者の民法715条に基づく損害賠償責任を否認した事例(控訴後和解)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成31年4月15日午後2時4分頃
 イ 発生場所 C市内路上(以下「本件事故現場」という。)
 ウ 原告車 甲野一郎(以下「原告甲野」という。)が所有し、運転する普通乗用自動車
 エ 被告車 乙山次郎(以下「被告乙山」という。)が所有し、運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 路外駐車場(以下「本件駐車場」という。)から左折により道路に進入した原告車と同道路を直進進行中であった被告車とが接触した。

(2)本件事故の関係者(原告甲野及び被告乙山を除く。)
ア Y会社(以下「被告Y会社」という。)は、本件工事の請負業者である。
イ Z会社(以下「被告Z会社」という。)は、本件工事の下請業者である。
ウ B会社(以下「被告B会社」という。)は、Z会社より本件工事にかかる警備業務を受注した者である。
 エ 辛田七郎(以下「本件警備員」という。)は、被告B会社の従業員であり、本件事故当時、交通誘導警備業務を行っていた者である。
 オ W保険会社(以下「被告W保険会社」という。)は、原告甲野と自動車保険(対物賠償責任保険契約)を締結していた者である。
 カ V保険会社(以下「第2事件原告」という。)は、被告乙山と自動車保険(車両保険)を締結しており、同契約に基づき、被告乙山に対して車両保険金33万円を支払った者である。

(3)本件事故現場付近の状況等
 ア 本件事故現場は、東西に伸びる片側2車線の道路(以下「本件道路」という。)の西行第2車線(以下、同車線を「第2車線」、西行第1車線を「第1車線」という。)上である。
  第1車線の南側には、幅約4.8m(植栽部分を含む。)の歩道が設けられており、同歩道の南側に本件駐車場がある。
 イ 本件事故当時、本件事故現場付近の第1車線上において道路工事(以下「本件工事」という。)が行われており、本件事故現場の手前(東側)までの25mないし30mにわたって、本件工事による交通規制が行われていた。
   本件駐車場から本件道路への出入口(以下「本件出入口」という。)の東側には、掘削機械(ユンボ)とダンプトラックが各1台停止しており、その周囲は赤色カラーコーンで囲われていた。
   本件出入口の西側には、被告Z会社が工事車両として使用するトラック(以下「本件トラック」という。)が、歩道側に駐車されていた。

(4)請求の内容等
 ア 第1事件
   原告甲野は、物的損害を被ったとして、被告乙山に対しては民法709条に基づき、被告B会社、被告Z会社及び被告Y会社に対しては、それぞれ民法715に基づき、連帯して、99万8,840円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ 第2事件
   第2事件原告(V保険会社)は、保険法25条1項により被告乙山の原告甲野に対する民法709条に基づく損害賠償請求権を代位取得したとして、原告甲野及び被告W保険会社(以下、原告甲野と併せて「原告ら」という。)に対して、33万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた(ただし、被告W保険会社に対する請求は、原告甲野に対する判決の確定を条件とする。)。
 ウ 訴訟告知
   原告らは、第2事件について、被告Y会社、被告Z会社及び被告B会社に対し、それぞれ訴訟告知した。


【争点】

(1)事故態様、過失の有無及び割合(争点1)
 ア 原告甲野及び被告乙山の過失の有無及び内容(争点1-1)
 イ 本件警備員による原告車の誘導についての過失の有無及び内容(争点1-2)
 ウ 本件トラックの駐車行為についての過失の有無(争点1-3)
 エ 過失割合(争点1-4)
(2)共同不法行為の成否(争点2)
(3)被告Y会社及び被告Z会社が民法715条に基づく賠償責任を負うか(争点3)
(4)原告甲野の損害額(争点4)
(5)被告乙山の損害額(第2事件原告の代位額)(争点5)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(事故態様、過失の有無及び割合)について
 ア 認定事実(争点1-1、1-2関連)
  a)本件警備員は、本件出入口付近で、原告車に対し、停止するよう誘導灯を用いて指示をしたところ、原告車が歩道の手前で一旦停止したことから、誘導灯を降ろし、本件道路の状況を確認するために、第2車線方向に歩いて行った。
  b)すると、原告車は、ハンドルを左に切りながら、本件警備員の左側を並走する形で低速で本件道路に進入した。
  c)本件警備員は、第1車線上で、原告車の前方方向に向かって右手にもつ誘導灯を地面と平行に伸ばし、停止するよう指示した。
  d)原告甲野は、指示の停止に気がついたものの、第2車線の手前まで低速で進行したところ、本件警備員が、右手を降ろしたことから、進行するよう指示されたと認識して、第1車線に進入する形で左折進行を継続した。
  e)被告車のドライブレコーダーの映像によると、原告車が第2車線に進入する直前に、本件警備員は、右手に持つ誘導灯を、原告車の前方に向かって地面と平行に伸ばした後、体に平行となる位置にまで降ろしているものの、それ以外に、原告車に対して進行を促す指示と認識しうるような行動はとっていない。
イ 争点1-1(原告甲野及び被告乙山の過失の有無及び内容)について
  a)原告甲野は、本件駐車場から本件道路に第1車線にまたがる形で左折により進入するに当たっては、同車線の右方から進行してくる車両等の有無及び安全を十分に確認し、進行してくる車両等と接触するなどその安全な走行を妨げるおそれがある場合には、第1車線の手前で停止するなどの措置をとる義務があるにもかかわらず、これを怠り、本件警備員により進行を指示されたものと軽信して右方の安全の確認を十分に行わなかったことにより、被告車が進行してくることに気が付かないままに原告車を第2車線に進入させた過失により、本件事故を生じさせたと認められる。
  b)他方、被告乙山においても、本件事故当時、第1車線上で本件工事が行われており、同車線を走行することができない状態であったのであるから、路外等から第2車線に進入してくる車両等があることを予測して、前方を注視して走行すべき義務があったのにこれを怠り、原告車が進入してくることに気が付かないままに、被告車を走行させた過失により、本件事故を生じさせたと認められる。
 ウ 争点1-2(本件警備員による原告車の誘導についての過失の有無及び内容)
    本件警備員は、原告車の交通誘導を行うに当たり、本件道路を走行する車両の有無及び安全を確認し、第2車線を走行してくる車両等があり、同車両と接触するなどしてその安全な走行を妨げるおそれがある場合には、原告車を第2車線に進入させないよう停止の指示をするなどすべきであったにもかかわらず、これを怠り、本件警備員において第2車線を走行してくる車両の有無等の確認をすることができていない段階で、原告車が第2車線に進入しようとしているにもかかわらず、これを積極的に制止しようとせず、かえって停止の指示のために原告車の前方に向かって地面と平行に伸ばしていた誘導灯を降ろした過失により、原告甲野が進行の指示をされたと誤信して第2車線に進入し、本件事故が生じたと認められる。
 エ 争点1-3(本件トラックの駐車行為についての過失の有無)
  a)車両の運転者は、道路や交通の状況等に応じて、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で安全に車両を運転させる義務を負っているのであり(道路交通法70条参照)、車両同士の交通事故については、基本的にそれぞれの車両の運転者が、かかる義務に従い、その発生を防止するよう努めるべきである。
  b)本件においては、本件事故にかかる車両の運転者である原告甲野と被告乙山のそれぞれが、道路上の交通の安全の確認という車両の運転者としての基本的な注意義務を遵守していれば、本件トラックが駐車されていた本件事故現場の道路状況を前提としても、十分に事故の発生を防ぐことができたものである。
  c)仮に、(原告らが主張するように)本件トラックの駐車位置に違法な点があったとしても、かかる駐車行為について、本件事故に関する過失があると認めることはできない。
 オ 争点1-4(過失割合)について
  a)本件事故は、原告甲野の過失、本件警備員の過失(不適切な原告車の誘導)、被告乙山の過失が競合して生じたものといえる。
  b)それぞれの過失の内容を踏まえると、右方の見通しが良好でない中で、幹線道路の第2車線に、右方の確認を十分に行わないままに原告車を進入させた原告甲野の過失が最も重いというべきである。
  c)一方で、原告甲野がかかる走行をしたことには、本件現場付近で誘導警備業務を行っていた本件警備員の誘導に不適切な点があったことが影響しており、同人の過失も軽いものではない。
  d)それぞれの過失の内容及び本件事故当時の本件現場付近の道路状況等を踏まえると、原告甲野、本件警備員、被告乙山の過失割合は、5対3対2と認めることが相当である。

(2)争点2(共同不法行為の成否)について
   本件事故は、本警備員の過失(不適切な原告車の誘導)、原告甲野の過失、被告乙山の過失が競合して生じたものであり、本件警備員と被告乙山は、客観的な関連共同のもとに、原告車の損傷という結果をもたらし、原告甲野に損害を与えたというべきであるから、原告甲野に対する共同不法行為(民法719条1項前段)が成立する。

(3)争点3(被告Y会社及び被告Z会社が民法715条に基づく賠償責任を負うか)について
 ア 被告Z会社について
  a) 被告Z会社は、被告Y会社との下請契約に従って、被告B会社と本件工事の交通誘導等の警備業務に関する請負契約を締結しているが、その契約の内容上、業務運営に当たっては、被告B会社において、管制本部を設置し、警備担当者の指揮監督を行うものとされており、現場における警備業務の具体的な執行については、基本的に、被告B会社が、同社の責任において、被告Z会社から特段指示等を受けることなく遂行することが予定されていることが窺える。
  b)また、業務終了後に「警備報告書」を提出するほか、事故等が発生した場合は、直ちに被告Z会社に報告すべきであるなど、業務の内容等を被告Z会社に報告すべきことは定められているものの、各種報告を踏まえて、被告Z会社が被告B会社ないしその従業員である警備員に対して、指示や指導等をすることを予定している見るべき具体的な定めもない。
  c)さらに、被告B会社の責に期すべき事由により被告Z会社又は第三者に損害を与えたときは、被告B会社が損害を賠償する責任を負うことなどが定められていたことなども踏まえると、被告Z会社と被告B会社の間では、被告B会社の責任と判断において、被告Z会社から独立して、本件工事現場の交通誘導業務を行うことが予定されていたというべきである。
  d)これらの事情によると、被告Z会社が、被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対し、本件工事現場の交通誘導警備業務に関して、指揮監督する権限を有していたと認めることはできない。
   被告Z会社は、本件警備員の不法行為について、民法715条に基づく責任を負わない。
 イ 被告Y会社について
  a)被告Y会社と被告Z会社との間で締結された下請契約においては、
  ・現場に常駐して工事に関する一切の事項の処理を行う「現場代理人」は被告Y会社の従業員が務め、被告Y会社が置く現場管理者(工事現場における工事所長又はこれに準じる者)が工事現場を統括し、被告Z会社を指揮監督することが定められていること
  ・被告Z会社の再下請負を含めた本件工事の関係者が行う工事の施工等について、著しく不適当と認められるときは、被告Y会社が被告Z会社に対して、必要な措置をとるべきことを求めることができることが定められていること
  ・被告Z会社やその再下請負人が工事の施工に関して第三者に損害を及ぼしたときの紛争処理については、被告Y会社も協力するものとされていること
などによると、被告Y会社は、被告Z会社に対しては、再下請負人である被告B会社に発注した交通誘導警備業務も含めた業務の執行について、一定の指揮監督権限を有していたと認められる。
  b)しかしながら、被告Y会社と被告B会社との間には、直接の契約関係があるものではなく、被告B会社は被告Z会社との間で締結した請負契約に基づいて、本件工事現場の交通誘導警備業務を執行していたに過ぎないところ、上記アのとおり、同契約上、被告Z会社が、被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対し、本件工事現場の交通誘導警備業務に関して、指揮監督する権限を有していたものではないことによると、被告Y会社と被告Z会社との間の上記関係を踏まえても、被告Y会社が、被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対して指揮監督する権限があったものと直ちに認めることはできない。
  c)また、被告Y会社は、本件工事の注文者(ママ)として、本件道路の使用許可を得るに当たり、適切な交通誘導を行い、本件工事の工事区間内の交通の安全を図る義務を負担した者と認められるが、かかる義務は、道路の使用許可における条件であって、公法上の義務に過ぎず、かかる義務により被告Y会社の被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対する指揮監督権限が直ちに生じるものでもない。
  d)これらの事情によると、被告Y会社が、被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対し、本件工事現場の交通誘導警備業務に関して、指揮監督する権限を有していたと認めることは相当でない。
   被告Y会社についても、本件警備員の不法行為について、民法715条に基づく損害賠償責任を負わない。

 (4)争点4(原告甲野の損害額)について
 ア 修理費用
  a)本件事故により原告車の右前角部分が損傷し、○○(車名略)の正規ディーラー・指定サービス工場である株式会社Eは、その修理費用として90万8,840円と見積もった(令和元年5月25日を有効期限とするもの)。
  b)その後、原告車について修理が行われ、その修理費用として、原告甲野が、令和2年12月15日に、同社に対して57万4,167円を支払った。
  c)同社は、かかる修理については「急を要する部分」についての修理であり、本件事故の修理費用(右キセノン・ヘッドランプ・コントロロール・ユニット交換、右フロントフェンダーの塗装等)としてさらに45万0,362円を要する旨の見積書を作成している。
  d)これらの事情によると、本件事故による原告車の修理費用は、90万8,840円と認めることが相当である。
 イ 過失相殺
   原告甲野の過失の5割を減額すると、その残額は、45万4,420円となる。
 ウ 弁護士費用 4万5,000円

 

(5)争点5(被告乙山の損害額(第2事件原告の代位額))について
 ア 修理費用
  a)本件事故により被告車が損傷し、修理費用として33万円を要する損害が被告乙山に生じた。
 イ 過失相殺
   被告乙山の過失の2割を減額すると、その残額は、26万4,000円となる。
 ウ 保険代位
   第2事件原告は、車両保険金33万円を支払ったことにより、保険法25条1項により、上記過失相殺後の残額(26万4,000円)の限度で、原告甲野に対する被告乙山の損害賠償請求権を代位取得した。

(6)結論
 ア 第1事件
   原告甲野の被告乙山及び被告B会社に対する請求は、49万9,420円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由がある。
 イ 第2事件
   第2事件原告(V保険会社)の原告甲野及び被告W保険会社に対する請求は、26万4,000円及びこれに対する遅延損害金の限度で理由がある(ただし、被告W保険会社に対する請求は、原告甲野に対する判決の確定を条件とする。)。


【コメント】

   本裁判例は、道路工事の下請業者(被告Z会社)から交通誘導等の警備業務を再下請けした者(被告B会社)の従業員である本件警備員の不法行為について、元請業者(被告Y会社)及び下請業者(被告Z会社)の民法715条に基づく損害賠償責任を否認した事例です。
   本裁判例は、被告Z会社と被告B会社との間で締結された本件工事の交通誘導等の警備業務に関する請負契約上、被告Z会社、さらには被告Y会社が、被告B会社ないし同社の警備員である本件警備員に対し、本件工事現場の交通誘導警備業務に関して、指揮監督する権限を有していたと認めることはできないと判示して、上記の結論を導いています。

Verified by MonsterInsights