【経済】東京地裁令和3年9月30日判決(裁判所ウェブサイト)

被告によって行われたプリンタの回路設計の変更は、原告らを被告の製造するプリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場から排除するおそれがあり、正当化理由も認められないから、抱き合わせ販売等(独禁法2条9項6号ハ、一般指定10項)に当たると判示した事例(確定状況不明)


【事案の概要】

(1)原告Aは、インクカートリッジ(以下、単に「カートリッジ」という。)やOAサプライ用品の販売、輸出入等を目的とする株式会社である。原告Bは、OAサプライやOA機器の開発、製造、販売等を目的とする株式会社である。原告らは、いずれも被告が製造するインクジェットプリンタ用のカートリッジの販売等を行っている。
   被告は、プリンタや複合機等の通信・プリンティング機器の製造及び販売を主たる業とする株式会社である。

(2)被告の製造するインクジェットプリンタは、着脱可能なカートリッジを装着して印刷を行うものである。被告の製造する特定の型番のインクジェットプリンタにおいて使用可能なカートリッジは、他社が製造したインクジェットプリンタにおいて使用することはできず、また、被告の製造する他の型番のインクジェットプリンタにおいても、使用できないことがある。

(3)被告の製造するインクジェットプリンタにおいて使用可能なカートリッジ又はこれに充てんするインク(以下「カートリッジ等」という。)には、下記アからエまでがあり、原告らは下記エ記載の互換品カートリッジを販売している。
 ア 純正品カートリッジ 被告が自ら製造販売するカートリッジである。
 イ リサイクル品カートリッジ 略
 ウ 詰替え用インク 略
 エ 互換品カートリッジ 被告以外の業者が、被告の製造するプリンタで使用することができるように設計、製造及び販売をするカートリッジである。)

(4)被告は、遅くとも平成30年9月以降、型番「略」、型番「略」及び型番「略」のインクジェットプリンタ(以下、順に「本件プリンタ1」、「本件プリンタ2」及び「本件プリンタ3」という。)を販売している。
   被告は、平成31年3月以降、型番「略」及び型番「略」のインクジェットプリンタ(以下、順に「本件プリンタ4」、「本件プリンタ5」といい、本件プリンタ1から本件プリンタ5までを併せて「本件各プリンタ」という。)を販売している。

(5)本件各プリンタには、カートリッジ装着時等に、プリンタとカートリッジの間の回路に3.3Vの電圧をかけ(以下、この回路を「3.3V回路」という。)、プリンタがカートリッジの情報を読み取る機能(以下「本件認証機能」という。)が備えられている。
   被告は、平成30年12月頃以降に製造した本件プリンタ1から本件プリンタ3まで並びに本件プリンタ4及び本件プリンタ5(以下、併せて「本件新プリンタ」という。)において、プリンタとカートリッジとの間に新たな回路(以下「1.5V回路」という。)において、プリンタとカートリッジとの間に新たな回路(以下「1.5V回路」という。)を設け、カートリッジ装着時等に、本件認証機能を作動させるより先に、1.5V回路に1.5Vの電圧をかけて電流量を計測し、0.169mAの電流量(以下「本件基準電流量」という。)を超える電流量を検知した場合には、3.3V回路に電流を流すことなく、「インクを探知できません 01」というエラーメッセージを表示するようにした(以下「本件設計変更」という。)。

(6)被告は、本件各プリンタにおいて使用可能な「略」シリーズという名称の純正品カートリッジ(以下「本件純正品カートリッジ」という。)を販売している。
   原告らは、本件設計変更前の本件プリンタ1から本件プリンタ3まで(以下「本件旧プリンタ」という。)において使用可能なカートリッジを販売していたが、本件設計変更の結果、原告らが販売していた本件旧プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを2本以上本件新プリンタに装着した際、エラーメッセージが表示されるようになった。そのため、原告らは、平成31年3月頃以降、本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを開発し、販売している。

(7)原告らは、本件訴えを提起して、被告が、本件各プリンタについて、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)に違反(抱き合わせ販売等独禁法2条9項6号ハ、昭和57年公正取引委員会告示第15号[以下「一般指定」という。]10]又は競争者に対する取引妨害独禁法2条9項6号ヘ前段、一般指定14]に該当し、独禁法19条に違反)して、合理的な理由なく本件設計変更を行い、原告らのカートリッジを認識しないようにすることにより、原告らを本件各プリンタにおいて使用可能なカートリッジの市場から不当に排除したなどと主張して、被告に対し、①独禁法24条に基づき、本件各プリンタに本件設計変更を行うことの差止めを求めるとともに、②原告Bが、被告に対し、上記独禁法違反の不法行為に基づく損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。


【争点】

(1)本件設計変更に正当化理由があるか(争点1)
(2)本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か(争点2)
(3)本件設計変更が競争者に対する取引妨害に当たるか否か(争点3)
(4)本件設計変更により原告らに著しい損害を生ずるおそれがあるか否か(争点4)
(5)原告Bに生じた損害の有無及び額(争点5)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件設計変更に正当化理由があるか)について
 ア 本件設計変更の必要性
   本件旧プリンタを含む本件設計変更が施されていない被告製プリンタでは、既に短絡が生じたカートリッジを装着した際にエラーメッセージが表示されるようになっており、過剰な電流量が流れたことによる当該プリンタ本体の損傷事例等の報告がないこと、また、抵抗を入れずにトランジスタに3.3Vの電圧を4時間かけても損傷しなかったことが認められ、これらの事実からすれば、既に販売されており、かつ発売開始から数か月しか経っていなかった本件旧プリンタに本件設計変更を行う具体的な必要性があったとは認められない。
 イ 本件設計変更の内容
   本件設計変更により定められた本件基準電流量は、約0.169mAであるところ、本件旧プリンタの損傷可能性との関係で格別の根拠があるとはいえず(なお、1.5V回路に本件基準電流量を超える電流量が流れた場合に当該カートリッジがプリンタ本体を損傷させるとは認められない。)、本件設計変更後、被告の製造する純正品カートリッジでも本件基準電流量を超える電流量が流れてエラーメッセージが表示された例すら存在したことが認められる。他方、原告らが本件設計変更前に販売していた互換品カートリッジを2本以上装着した状態で1.5V回路に1.5Vの電圧がかかった場合には、同互換品カートリッジに搭載されていたICチップの性質上、同回路に流れる電流量は、確実に本件基準電流量を超え、エラーメッセージが表示される結果となっていた。以上の事実からすれば、本件基準電流量の設定には、導電性の異物が混入するなどして生じる過電流を防止する観点から合理的な理由は認められない。
 ウ 互換品排除目的を推認させるその他の事情
  a)被告のホームページにおいては、本件設計変更によって表示されるエラーメッセージについて、互換品カートリッジを使用していることが原因である可能性を説明しており、互換品カートリッジの使用の排除が強く意識されていることが認められる。
  b)そもそも、プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者と互換品カートリッジの製造業者とは、信頼性及び価格の点において競争関係にあり、プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者は、プリンタの仕様を変更することによって、互換品カートリッジ製造業者に対し、発売された上記プリンタを入手し、その仕様変更の内容を分析し、これに適合した新たな互換性カートリッジを開発し、製造する作業が必要となる状況を作出できるという関係にある。加えて、インクジェットプリンタでは、一定以上の期間使用する場合、一般に、プリンタ本体よりもカートリッジの買替え費用の方が高額となるところ、プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者は、我が国においては、これまで、顧客へのプリンタの販売価格を抑えて販売台数を増やし、比較的利益率の高いカートリッジを継続して販売することで、全体として収益を上げるビジネスモデルを用いることが多かったことからすれば(公知の事実)、純正品カートリッジよりも廉価で販売されることが多い互換品カートリッジの売上げが増加することは、上記製造業者にとって、上記ビジネスモデルを成り立たせにくくするという観点からも経済的打撃が大きく、上記製造業差と互換品カートリッジの製造業者との間には、単なるカートリッジの信頼性及び価格の競争関係という以上の構造的な競争関係が存在している。
  c)本件設計変更は、既に発売済みで、発売開始から数か月しか経っていない本件プリンタ1から本件プリンタ3までをも対象として行われた。
 エ 小括
   このように、①本件設計変更は、原告らと被告との間に構造的な競争関係が存在する中で(前記ウb))、具体的な必要性がないにもかかわらず(前記ア)、既に発売されており、かつ発売開始から数か月しか経っていなかった本件プリンタ1から本件プリンタ3までをも対象として行われたものであること(前記ウc))、②本件設計変更により定められた本件基準電流量の設定には、被告の主張する目的に照らして合理的な理由が認められず、かえって互換品カートリッジを排除するためには有効に機能すること(前記イ)に加え、前記ウa)の事情も考慮すれば、本件設計変更は、原告らを含む互換品カートリッジの製造業者に対し、本件設計変更に適合した新たな互換品カートリッジを開発し、製造する作業が必要となる状況を作出することによって、互換品カートリッジの販売を困難にする目的で行ったものと認められる。
   したがって、本件設計変更に正当化理由は認められない。

(2)争点2(本件設計変更が抱き合わせ販売等に当たるか否か)について
 ア 「商品…の供給に併せて他の商品…を自己…から購入させ…ること」(独禁法2条9項6号ハ、一般指定10項)に当たるには、主たる商品の供給に併せて従たる商品を自己から購入させることが必要であるというべきである。そして、主たる商品を購入した後に必要となる補完的商品(従たる商品)に係る市場において特定の商品を購入させる行為もこれに含まれるというべきである。また、ある商品を購入するに際し、客観的にみて少なからぬ顧客が行為者から従たる商品の購入を余儀なくされるような場合には、当該従たる商品を購入させたと解すべきである。
   これを本件についてみると、本件各プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等は、本件各プリンタを購入した後に必要となる補完的商品であると認められるところ、本件設計変更により、本件純正品カートリッジ以外のカートリッジは本件新カートリッジを購入するに際し、本件純正品カートリッジを購入せざるを得なくなったことが認められる。
   したがって、本件設計変更は、「商品…の供給に併せて他の商品…を自己…から購入させ…ること」に当たるというべきである。
 イ 前記アの行為を「不当に」(独禁法2条9項6号ハ、一般指定10項)行ったとは、当該行為に公正な競争を阻害するおそれがあることをいい、公正競争阻害性の判断に当たっては従たる商品の市場における競争について検討すべきであり、当該行為に正当化理由が認められるか否かも考慮すべきである。
   これを本件についてみると、特定のプリンタにおいて使用可能なカートリッジは一定の範囲のものに限定されるのであるから、需要者からみた商品の代替性の観点から、従たる商品の市場は、被告の製造する本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場であるといえる。
   そこで、上記市場における公正な競争を阻害するおそれがあるか否かについて検討すると、本件設計変更により、互換品カートリッジは本件新プリンタにおいて使用することが出来なくなったのであるから、本件設計変更は、互換品カートリッジ販売業者を上記市場から排除するおそれがある。加えて、本件においては、主たる商品は被告が製造販売する商品であること、原告らを含む互換品カートリッジ販売業者は、上記市場において相当程度高いシェアを有していたといえることが認められる。そして、前記(1)のとおり、本件設計変更には、技術上の必要性等の正当化理由は認められないのであるから、本件設計変更には、上記市場における公正な競争を阻害するおそれがあると認められる。
 ウ 小括
   以上によれば、本件設計変更は、抱き合わせ販売等に当たるというべきであり、このように独禁法に違反して公正な競争を阻害する行為を行い、競業者に損害を与えることは、競業者である原告Bに対する不法行為を構成する。
   なお、本件設計変更が争点2の観点から不法行為を構成することは既に判示したとおりであるから、争点3については判断を要しない。

(3)争点4(本件設計変更により原告らに著しい損害を生ずるおそれがあるか否か)について 
   独禁法24条にいう「著しい損害を生じ、又は生じるおそれがある」とは、同条所定の独禁法違反行為が、損害賠償請求が認められる場合より高度の違法性を有する場合をいい、その判断においては、当該違反行為及び損害の態様及び程度等を総合考慮して判断すべきものと解される。
   これを本件についてみると、被告の独禁法違反行為は、本件新プリンタに1.5V回路を新たに設けることにより原告らを含む互換品カートリッジ販売業者の販売するカートリッジを本件新プリンタにおいて使用不能な状態にするという態様であり、原告Bは本件設計変更により金銭的損害を被ったことが認められるものの、原告らは、本件設計変更の約3か月後(平成31年3月頃)には本件設計変更に対応し、本件新プリンタにおいて使用可能な互換品カートリッジを販売していることが認められるから、原告らは、本件設計変更により本件新プリンタにおいて使用可能なカートリッジを短期間販売できなかったにすぎず、その金銭的損害が事後的な損害賠償請求等による救済により回復しがたい程度であるとまではいえない。
   したがって、本件設計変更によって原告らに「著しい損害を生じ、又は生じるおそれがある」とは認められないから、独禁法24条に基づく設計変更の差止めを求める原告らの請求は理由がない。

(4)争点5(原告Bに生じた損害の有無及び額)について 略

(5)結論
   原告Bの請求は151万3884円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、原告Bのその余の請求及び原告Aの請求は理由がない(一部認容、一部棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、プリンタ及びその純正品カートリッジの製造業者である被告によって行われたプリンタの回路設計の変更は、互換品カートリッジ販売業者である原告らを被告の製造するプリンタにおいて使用可能なカートリッジ等の市場から排除するおそれがあり、正当化理由も認められないから、抱き合わせ販売等(独禁法2条9項6号ハ、一般指定10項)に当たると判示した事例です。
   本件は、被告が需要者に対して純正品カートリッジを販売し、他方で、原告らに対して純正品カートリッジを販売していなかった事例ですが、仮に、被告が原告らに対して純正品カートリッジを販売していた場合には、取引拒絶系の他者排除行為(単独の取引拒絶。一般指定2項)に当たるものと解されます(白石忠志著・独禁法講義第9版188頁参照)。

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