【労働】東京地裁令和2年11月24日判決(労働判例1259号69頁)

本件会社と配送業務を目的とする業務委託契約(基本契約)を締結した控訴人に、個別の配送業務の発注について諾否の自由があることなどを理由として、その労働者性を否定した事例(確定)


【事案の概要】

(1)被控訴人(一審被告)は、平成27年11月1日、株式会社B(以下「本件会社」という。)を吸収合併した株式会社である。
   控訴人(一審原告)は、平成25年9月26日、本件会社から都度依頼を受けて荷物を指定場所に公共交通機関を利用する方法により配送をする業務(以下「配送業務」という。)に従事していた者である。

(2)控訴人(一審原告)は、平成25年9月26日、本件会社との間で、契約期間を契約締結日から3か月間とする以下の内容の記載のある業務委託契約書と題する契約書を交わし、その後、平成26年1月1日、同年3月31日、同内容の業務委託契約書と題する契約書を交わした(以下、控訴人と本件会社との間で交わした各契約を「本件契約」といい、本件契約に係る各契約書を「本件各契約書」という。)。
 ア 9条2項
控訴人は、委託業務を遂行するに当たり、本件会社のエコキャリーバッグならびにエコキャリカート、ユニフォームを借り受け使用する。
 イ 22条
   本件会社又は控訴人は本件契約の期間中といえども、1か月前までに予告することにより本件契約を解除できるものとする。
 ウ 23条1項
   控訴人と本件会社双方で合意したときなど1号ないし10号に該当するときは、本件会社は本件契約または個別契約を契約期間の途中に解除することができる。

(3)控訴人は、平成25年9月26日から、配送業務を遂行していたが、平成26年5月19日を最後に、本件会社ないし被控訴人から依頼を受けた業務を遂行していない。
   控訴人は、平成26年5月22日頃、当時、本件会社において業務委託契約を交わした者に対して業務を依頼する部門の責任者であったAから、本件契約を解除すると言われた。控訴人は、Aと10分程度の押し問答を続けた後、本件契約が解除されることを受け入れた。

(4)控訴人は、本件訴えを提起して(注:提訴日は、平成26年5月から5年程度後のようである。)、控訴人が労働契約法2条1項、労働基準法9条の「労働者」に該当するにもかかわらず、被控訴人が違法な解雇を行ったなどと主張して、不法行為(使用者責任)又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、慰謝料及び逸失利益(給料相当額)50万9000円のうち10万円並びにこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
   原審(注:裁判所及び事件番号ともに不明)は、控訴人の請求を全部棄却する旨の判決を言い渡したところ、控訴人がこれを不服として本件控訴を提起した。


【争点】

(1)Aが控訴人を違法に解雇したかどうか(争点1)
(2)Aが控訴人に対して違法な発言をしたかどうか(争点2)
(3)Aは本件契約書22条、23条1項に違反して本件契約を解除したものであるかどうか(争点3)
(4)損害の内容及びその存否(争点4)
   以下、主に上記(1)及び(3)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(Aが控訴人を違法に解雇したかどうか)について
 ア 労働者性について
   控訴人は、本件契約が労働契約に当たる旨主張する。
   しかし、本件契約は、配送業務に関する基本契約であり、個別の配送業務については、本件会社が、業務があれば発注することとなっており、控訴人にその発注についての諾否の自由があるものと認められる。
   この点、控訴人は、週3日働く旨のシフト表を提出し直さなければならなかったと主張するが、これを裏付ける証拠はないし、仮に控訴人が週3日働く旨のシフト表を本件会社の要望に応じて提出し直したことがあったとしても、もともとの募集が週3日以上を前提としていたことに照らせば、これをもって控訴人の諾否の自由がないとは直ちにいえない。
   また、本件契約において、控訴人は、業務の遂行に当たり、本件業務の性質上最低限必要な指示以外は、業務遂行方法等について裁量を有し自ら決定することができることとされている。そして、控訴人は、配送業務の遂行に当たり、本件会社のロゴが入ったエコキャリーバッグ、にエコキャリカート、ユニフォームを使用しているが、これは円滑な業務遂行を目的としたものである可能性がある以上、控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。また、仮に控訴人が身だしなみについて注意されたことがあったとしても、社会通念に照らして、業務の性質上当然に注意される事柄であるから、これをもって控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。
   そして、本件契約の料金は、配送距離に応じた単価に個々の件数を乗じて算出するものであり、労務提供時間との結び付きは弱いものであるといえる。そして、本件会社については「日曜祝日手当」が支給されていたことは争いがないが、日曜祝日に委託を受注する業者が少ないこととの関係で単価を上げざるを得なかった可能性がある以上、これをもって、控訴人の労働者性を基礎付けるものとは言い難い。本件会社の募集広告に「1時間当たり850円の手取り保証」「フリー切符代1日1590円支給」との記載があるが、これらの条件は「勤務開始後1ヶ月間の特典」という一時的なものであったことからすれば、これをもって控訴人の労働者性を基礎付けるものとはいえない。
   したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。
 イ 双方の合意によって本件契約が終了したかどうかについて
   控訴人は、平成26年5月22日頃、Aから、本件契約を解除する旨言われ、押し問答の末、退職合意書に一身上の都合により辞職すると記載の上で署名押印するように言われてその旨記載した旨主張し、証拠(控訴人本人)がこれに沿う。
   しかし、本件契約書の規定する契約期間は3か月と短く、本件契約は飽くまで基本契約であり個別の事務処理委託に当たっては個別契約を締結することを要するから、Aには本件契約自体を期間途中で解除する動機や退職合意書なるものを控訴人に記入させる動機があると認め難いことに加えて、控訴人の供述を裏付ける的確な証拠はないことからすれば、控訴人の上記供述を直ちに信用することはできない。
   仮に、控訴人の供述のとおり、Aによる控訴人に対する退職合意書を記載するようにとの言動があったとしても、控訴人はAとの10分程度の押し問答末、本件契約の解除を受け入れているのであって、受け入れた後は、Aの指示に基づき一身上の都合により辞める旨記載の上で署名しているところ、その際に、Aから退職合意書の記載を強要するような言動があったとまで認めるに足りる証拠はない。
   したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。

(2)争点2(Aが控訴人に対して違法な発言をしたかどうか)について
   控訴人の主張は採用することができない(注:詳細については、省略する。)

(3)争点3(Aは本件契約書22条、23条1項に違反して本件契約を解除したものであるかどうか)
   控訴人は、Aは本件契約を解除する旨発言しているところ、Aのかかる言動は本件契約書22条、23条1項に違反しているといえ、債務不履行に当たると主張する(注:解雇無効とは主張していないようである。)。
   しかし、上記(1)イのとおり、控訴人の供述によっても、本件契約を解除した事実が認められないから(注:裁判所は、双方の合意によって本件契約が終了したことを認めたものと考えられます。)、本件契約書22条、23条1項に違反しているとはいえない。

(4)結論
   控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない(控訴棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、本件会社と配送業務を目的とする業務委託契約(基本契約)を締結した控訴人に、個別の配送業務の発注について諾否の自由があることを認めました。しかし、一般に、「一定の包括的な仕事を受託したという場合、その仕事の一部である個々具体的な仕事の依頼については、拒否する自由が制限される場合」があります(第二東京弁護士会労働問題検討委員会編「フリーランスハンドブック」19頁参照)。この点、大阪高裁平成27年9月11日判決・N H K神戸放送局(地域スタッフ)事件・労働判例1130号22頁は、控訴人から、契約開発スタッフとして、放送受信契約の新規締結や放送受信料の集金等契約上定められた業務を行うことを受託した被控訴人について、「その定められた業務内容に関するものである限り、被控訴人が個々の具体的な業務について個別に実施するか否かの選択ができるわけではない。もっとも、これは、包括的な仕事の依頼を受託した以上、契約上、当然のことと解される。」と判示しています。
   ただし、本裁判例は、控訴人の供述によっても、本件契約を解除した事実が認められないとも判示しています。このように双方の合意によって本件契約が終了した事実が認められる以上、仮に、控訴人の労働者性が認められたとしても、結論に影響を与えることは無かったものと考えられます。

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