【労働】東京地裁令和3年8月5日判決(労働判例1250号13頁)

使用者との間で期間1年の出講契約(労働契約)を締結した労働者において、次年度も同一の労働条件で出講契約を更新すると期待することに合理的な理由があるとはいえないが、契約期間満了時において、少なくとも講座を複数担当する内容で出講契約を更新できると期待する限度で合理的な理由があると認められ、労契法19条2号に該当する旨判示した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)被告は、主として大学受験予備校(以下「被告予備校」という。)を運営する事業を行い、全国に27個の学校を設置、運営する学校法人である。
   原告は、平成6年4月1日付けで、東日本本部の被告予備校の非常勤講師として採用され、主に現役高校生向けの「Hコース」及び予備校生(浪人生)向けの「I科」のJ科目を担当していた。原告は、Kユニオン(労働組合に該当するか争いがあるが、以下「本件組合」という。)の執行委員長を自称している。

(2)原告は、被告との間で、採用当時から期間1年間の出講契約を締結していたが(以下、原告と被告との間で締結された一連の出講契約を「本件出講契約」といい、単年度の出講契約を単に「出講契約」又は「平成◯◯年度出講契約」などということがある。)、被告が平成22年度以降は講師に労働契約又は業務委託契約のいずれかを選択させた上で出講契約を締結する方針としたため、同年度以降、労働契約として締結することを選択し、毎年度ごとに出講契約を締結していた。

(3)平成28年度出講契約によって定められた原告の業務内容及び給与は以下のとおりである。
 ア 年間依頼業務
   Iについては、1週間当たりの出講講座数は6コマ(以下、講座数の単位を「コマ」、各年度のレギュラー講座の1 週間あたりの講座数のことを単に「コマ数」と表記することがある。)、1コマ当たりの年間授業数は25回、1コマ当たりの単価は1万7,460であり、年間での報酬は合計261万9,000円であった。I科の1コマ当たりの授業時間は90分である。
   Hコースについては、1週間当たりのコマ数は2コマ、1コマ当たりの年間授業数は24回、1コマ当たりの単価は2万9,000であり、年間での報酬は合計139万6,800円であった。I科の1コマ当たりの授業時間は150分である。
 イ その他の給与業務 略
 ウ 給与額
   年間給与合計 536万0,220円
   月額基本給(平均) 33万4,650円

(4)被告は、平成22年度以降、授業評価及び授業以外の担当業務への寄与度を総合的に評価することとし、新たな講師評価制度を導入した。具体的な講師評価の仕組みは、要旨、以下のとおりである。
   授業についての評価を「評価1」(注:生徒による授業アンケートの結果を基準にして評価される。)、生徒指導や業務、運営協力についての評価を「評価Ⅱ」(注:「校舎における生徒指導や校舎業務への協力」、「エリア業務への協力や生徒募集への寄与」及び「教材作成、研究開発への協力」とおいう3つの項目から評価される。)として、両者を総合評価する。
   被告M部は、評価1及び評価Ⅱの各評価項目で特に厳しい評価が出ている場合、当該講師との間で、出講契約の期間中に改善の方向性について話し合うこととしており、基礎シリーズ(注:3学期制高校の1学期に相当期間の被告予備校における呼称。)の期間中の授業アンケート(注:講師が担当する講座に参加した生徒を対象として当該講師及び講座への評価等を回答させるもの。)の結果が悪い場合、次年度の契約内容が変更となる可能性のある講師との間で、完成シリーズ(注:3学期制高校の2学期に相当期間の被告予備校における呼称。)に向けた面談を行い、授業アンケートの結果が悪かった旨を伝え、注意喚起をしている。

(5)原告の被告東日本本部に所属するJ科講師における平成23年度から平成28年度までの年間の授業アンケートにおける「満足度」及び「不満足度」並びにアンケート結果を踏まえた上記(4)の被告の講師評価における「総合評価」の数値の順位は以下のとおりである(注:括弧内は被告東日本本部に所属するJ科講師の総数である。)。
 ア 平成23年度(合計18名)
   満足度18位 不満足度2位 総合評価18位
 イ 平成24年度(合計18名)
   満足度18位 不満足度2位 総合評価18位
 ウ 平成25年度(合計19名)
   満足度19位 不満足度1位 総合評価19位
 エ 平成26年度(合計21名)
   満足度20位 不満足度4位 総合評価19位
 オ 平成27年度(合計21名)
   満足度21位 不満足度3位 総合評価20位
 カ 平成28年度(合計21名)
   満足度21位 不満足度4位 総合評価21

(6)被告東日本M部部長のN(以下「N  M部長」という。)は、平成29年1月23日付けで、原告に対し、原告が被告の施設内において無断で、面面に自らの肩書、氏名等が記載され、裏面に「◯◯に労使協議会を作りましょう!」などと記載された名刺サイズの紙片(以下「本件名刺」という。)の配布を行なっていることについて厳重注意するとともに、平成29年度の出講契約について、授業アンケートの結果が芳しくなかったことを理由に、平成28年度に締結した出講契約よりも担当しているI科のコマ数を1コマ減らした契約内容を提示することを予定している旨連絡した。
   被告は、同年3月2日付けで、原告に対し、原告が被告の施設内において無断で、本件名刺の配布を行なったことが、被告の講師職就業規則(以下「本件就業規則」という。)第71条13号の「被告の校内及び施設内で、被告の承認なく(中略)文書配布(中略)等の行為をしたとき」に該当するとして、情状を考慮の上、一部契約解除の懲戒処分(以下「本件懲戒処分」という。)を行い、同月3日、同内容を記載した懲戒処分通知書を原告に送付した。
   被告東日本本部長は、同月2日付けで、原告に対し、「2017年度業務依頼について」と題する書面を送付し、来年度の出講契約につきI科の担当コマ数を1コマ減らすことを予定していたが、本件懲戒処分を踏まえ、平成29年度の出講契約について、平成28年度に締結した出講契約よりもI科のコマ数を2コマ減らし4コマとし、Hコースの2コマと合わせて合計6コマとして、月額の基本給を26万1,900円とする契約内容を提示するので、この提示内容にて契約する場合には、同封する業務依頼予定表に記名、捺印のうえ、同月10日までに被告東日本M部まで返送するよう依頼するとともに、この提示内容に合意できない場合や上記期限までに返信がない場合は、原告が当該契約の申込みに対して承諾の意思がないものと扱い、被告は契約締結の申込みを撤回し、平成28年度の出講契約をもって原告との契約関係を終了させる旨通知した(以下「本件コマ数減提示」という。)。
   原告は、同月7日付けで、被告に対し、「労働契約更新申込書」と題する書面を送付し、本件コマ数減提示には同意できず、労働契約法(以下「労契法」という。)19条に基づき、従前と同じ労働条件による契約の更新を申し込んだ(以下「本件申込み」という。)。
   被告東日本本部長は、同月9日付けで、原告に対し、「労働契約更新申込書への回答」と題する書面を送付し、原告からの本件申込みは、被告が提示した条件による契約申込みに対する不承諾と契約の新たな申込みと判断した上で、原告からの申込みを承諾することはできないことから、平成29年度の出講契約は不成立となる、同月10日までに先日送付した業務依頼予定表に署名、捺印をして返送してもらえれば、原告からの同月7日付けの書面は撤回されたものとみなす、被告との話し合いの機会を希望するのであれば、上記期限を同月13日まで延期する旨回答した(以下「本件回答」という。)。
   被告東日本本部長は、同月14日付けで、原告に対し、「2017年度契約の非公開について(通知)」と題する書面を送付し、原告の署名、捺印のある業務依頼予定表の到着を同月13日まで待ったものの到着しなかったこと、N  M部長に対するメールで本件コマ数減提示に承諾の意思がないことを確認したことから、平成29年度の出講契約は不成立となった旨通知した。


【争点】

(1)本件出講契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか否か(労契法19条2号該当性、争点1)
(2)被告が原告の本件出講契約の更新申込みを拒絶したといえるか否か(労契法19条柱書前段(雇止め)該当性、争点2)
(3)上記(2)において被告が更新を拒絶したといえる場合、同更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否か(労契法19条柱書後段該当性、争点3)
(4)原告の賃金請求権の有無及び金額(争点4)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件出講契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるか否か)について
 ア 判断枠組み
  a)労契法19条は、最高裁判例(最高裁昭和49年7月22日判決・東芝柳町工場事件、同昭和61年12月14日判決・日立メディコ事件等参照)が確立したいわゆる雇止め法理を取り入れたものと解されるところ、上記雇止め法理が解雇権濫用法理を類推適用できるか否かを審査する段階解雇権濫用法理によって雇止めの効力が制限されるか否かを審査する段階の2段階に分けて判断するものであったことを踏まえると、同条の適否を検討するに当たっては、まず同条1号及び2号の該当性を判断した上で、次に同条柱書の該当性を判断すべきものと解される。
   そして、同条2にいう「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある」と認められるか否かは、雇用の臨時性や常用性等の当該有期契約労働者が従事する業務の内容及び性質有期労働契約が更新された回数や雇用の通算期間等を含む当該有期労働契約の契約更新に関する具体的経緯契約書作成の有無や更新の際における契約内容の確認等の使用者による契約管理の状況同種の有期契約労働者における契約更新の状況等の事情を総合考慮して、当該労働者が有する当該有期労働契約が更新されることへの期待について、合理的な理由があるか否かを判断して決すべきである。
  b)ところで、有期労働契約の期間中は労働条件が維持され、同契約期間中の労働者の就業状況や更新時の使用者の状況等の事情に応じて労働条件が変更の上で更新されることは通常の事態というべきであるから、更新の際に同一の労働条件で更新されたか否かは更新期待への合理性を基礎付ける本質的な要素ではないと解すべきである。
   そうすると、同条2号にいう「更新」は、当該労働者が締結していた当該有期労働契約と接続又は近接した時期に有期労働契約を再度締結することを意味するものであり、同一の契約期間や労働条件による契約の再締結を意味するものではないというべきである。他方、同条柱書(注:労契法19条柱書は、同条の要件が認められた場合の効果として、「使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申し込みを承諾したものとみなす。」と規定している。)は、一定の要件の下に使用者の意思表示を擬制した上で一種の法定更新を認めるものであるから、同条2号にいう「更新」とは場面を異にするものである。
 イ 検討
  a)本件において、原告が有する上記の期待の具体的検討及びその期待についての合理的な理由の有無を検討する。
  b)被告における契約更新の管理状況が形式的なものであったと評価することはできないことや、平成29年度の出講契約で原告に対して提示される出講コマ数は、平成28年度におけるコマ数から減少する客観的可能性があったものであり、原告もそのことを理解していたものと認められること等の諸事情を総合考慮すると、原告において、平成29年度の出講契約の締結の際に、平成28年度の出講契約と同一の労働条件により出講契約の更新を期待することについて合理的な理由があるということはできない。
  c)他方、原告と同程度のコマ数を担当する講師が、授業アンケート結果が良好でない場合に、平成29年度に担当講座のコマ数を0と提案され、次年度の出講契約を締結されず雇止めとなることは、授業アンケート結果以外の担当講師の評価が極めて低いなど特段の事情がない限り、容易に想定することができない状況であったものであり、原告においても、被告から授業アンケート結果が良好でない旨指導されていたことを考慮しても、平成29年度に担当講座のコマ数を直ちに0と提案され、出講契約を締結されないことを考慮しなければならない状況ではなかったものといえる。
   また、被告との間の本件出講契約は、原告の経済的基盤となっていたと評価するのが相当であり、原告の被告への従属性、専属性の程度は高いものがあったということができる。
   さらに、原告は、授業アンケートの結果によっては、次年度の出講契約ではコマ数が減少する可能性があることを了知していたことが認められる。そして、受験予備校を経営する被告において23年間勤務し、生徒からの評価に応じて担当コマ数が変動することを熟知していた原告としては、授業アンケート結果の低迷が、被告から提示される平成29年結果の出講契約におけるコマ数の減少につながる可能性を認識していたということができる。
   加えて、O共済に加入要件として常用的使用関係にあることが必要であるところ、原告がO共済に加入していたことからすると、被告は、原告に対し、被告の主要事業である予備校事業における講師食として他の講師と同様に大学受験科目であるJ科目の講座を常用的に担当させてきたものといえる。
 ウ 小括
   以上に判示した諸事情を総合考慮すると、原告において、次年度も同一の労働条件で本件出講契約を更新すると期待することについて合理的な理由があるとはいえないものの、本件出講契約の期間満了時において、授業アンケートの結果次第では平成28年度の担当コマ数である8コマからコマ数減の提示をされる可能性を前提としつつ、少なくとも講座を複数担当する内容の出講契約を本件出講契約に引き続いて平成29年度においても締結し、本件出講契約を更新できると期待する限度で合理的な理由があるというべきである。
   以上のとおり、本件出講契約の期間満了時において、原告は被告との間の本件出講契約が上記内容で更新されると期待することについて合理的な理由があると認められ、労契法19条2号に該当する。

(2)争点2(被告が原告の本件出講契約の更新申込みを拒絶したといえるか否か)について
 ア 被告が原告の労働契約の更新申込みを拒絶したと認められるとき(労契法19条柱書前段)には雇止めの効力(労契法19条柱書後段。争点3)が問題となることから、以下、被告による更新拒絶があったか否かについて検討する。
 イ この点、【事案の概要】(6)のとおり、被告が、原告に対し、本件コマ数減提示によって、年間の合計コマ数を8コマから6コマに減少させた新たな出講契約の申込みをしたのに対し、原告は、上記提示には同意せず、従前の労働条件である8コマでの出講契約の更新を求めたものである。これは、原告において、本件申込みによって被告による本件コマ数減提示を拒絶するとともに、新たに有期労働契約の更新の申込みをしたものと評価することができる(民法528条参照)。
   そして、被告は、本件申込みに対し、本件回答をもって、本件申込みとは異なる労働条件を付した本件コマ数減提示を改めて示し、原告からの新たな申込みを承諾することはできない旨回答したものであるから、被告は、原告の上記有期労働契約の更新申込みを拒絶したということができる。
 ウ 以上のとおり、原告による本件出講契約の更新の申込みに対し、被告が本件コマ数減提示の内容を改めて示したことによって原告の上記更新申込みを拒絶したものであるから、被告は原告を雇止めしたものと認められる(労契法19条柱書前段)。

(3)争点3(更新拒絶が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないといえるか否か)について
 ア 判断枠組み
   労契法19条柱書前段に該当する雇止めの中には、労働者が従前と同一の労働条件での更新を求める場合において、使用者が従前とは異なる(通常は従前よりも低下した内容。)労働条件を提示し、労働者が同条件に合意しないことを理由として使用者が更新を拒絶する場合がある。
   労働者がその従前よりも低下した労働条件に合意する場合には、労働契約が更新されることになる。
   他方、有期労働契約の更新に対する合理的な理由があるという労契法19条2号の要件を具備する場合において(前判示のとおり、労働契約更新に対する合理的期待の存在であり、「同一の労働条件」に対する合理的期待の存在ではない。)、労働者がその条件に合意しない時には、上記(2)において判示したとおり雇止めの問題となる。そして、当該雇止めについて、客観的に合理的な理由及び社会的相当性という同条柱書後段の要件を具備するときは、従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされる
   この場合に雇止めに至った根本的な原因は、使用者が更新に際して従前と異なる労働者が承諾できない内容の労働条件を提示したことにあるから、労契法19条柱書後段の該当性は、使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中心的に検討すべきである。
   具体的な判断に当たっては、従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされるという法的効果を踏まえ、使用者が従来の労働条件を維持することなく新たに提示した労働条件が合理的であることを基礎付ける理由の有無及び内容使用者が提示する労働条件の変更が当該労働者に与える不利益の程度同種の有期契約労働者における更新等の状況当該労働条件提示に至る具体的な経緯等の諸般の事情を総合考慮し、使用者が提示した当該労働条件の客観的合理性及び社会的相当性を中核として労契法19条柱書後段該当性を判断すべきである。
 イ 検討
  a)被告の授業評価制度及び授業アンケートの合理性について
   被告の主要事業である予備校授業は、同業他社との間で毎年新規の生徒の獲得を巡る競争関係にあり、少子化や受験傾向の変化等の社会状況により競争が激化していく中で、十分な生徒数を確保していくためには、能力が高い講師のみならず、生徒からの評価が高い講師を確保し、被告予備校の評価を維持、向上していく必要がある。
   被告が採用する講師評価制度は、上記の事業特性を踏まえた上で、担当講座の授業という各講師の主要な業務内容について評価するに当たり、実際に当該講師が担当する講座を受講する生徒に対し、授業内容についての意見を個別に求めるため当該授業に関する多岐に渡る項目につきアンケートを行い、これを集積し、検討することで当該講師の業務内容に対する評価を行うというものであるから、相応の合理性を有するものということができる。
   以上によれば、被告が、各講師に対し、被告の整備する講師評価制度に基づいて、生徒からの授業アンケートの結果を考慮し、次年度締結する出講契約の内容であるコマ数及びコマ単価を決定し、これを各講師に提示すること自体に違法、不当な点があるということはできない
  b)本件名刺の配布について
   本件名刺は、本件組合に関する準備行動として労使交渉等を検討していた原告が、自らの労働問題に関する主張を被告予備校における講師に浸透させるとともに、被告に対して明示する目的で配布した文書であるといえる。
   そうすると、原告は、被告に許可を得ることなく上記目的で上記内容の文書である本件名刺を配布したものであるから、原告が本件名刺を配布した行為は、被告の承認なく文書配布をしたものといえ、本件就業規則第71条13号で規定される懲戒解雇事由(被告の校内及び施設内で、被告の承認なく(中略)文書配布(中略)等の行為をしたとき)に該当するというべきである。
  c)本件コマ数減提示の客観的合理性及び社会的相当性について
  ①【事案の概要】(5)のとおり、原告の授業アンケート結果及びこれを踏まえた総合評価の結果は、客観的に見て相当に低い状態が継続していたものであり、次年度に向けて改善する可能性が相当程度存在したこともうかがわれないこと(注:被告は、原告に対し、平成28年度の基礎シリーズの授業アンケート結果が前年度から満足度が大きく低下し、平成25年度の基礎シリーズ以降も悪化傾向にあることを指摘して改善を促したにもかかわらず、原告の平成28年度の年間の授業アンケート結果は、同年度の基礎シリーズ期間中に実施されたアンケート結果から悪化したものであった。)
  ②平成29年度の設置予定講座数は前年よりも減少していたこと、その結果、同年度の出講契約の締結に当たり、被告東日本本部のJ科講師のうち原告よりも授業アンケート結果及び総合評価が低いことを理由に、出講日数を軽減することも考慮した上で2コマ減を提示された講師が2名存在したこと、同年度の出講契約に向けて2コマ減と提示された被告東日本本部の講師が4名存在したこと
  ③原告が被告に最終的に提示した契約内容は、Hコースよりも授業時間が短く授業単価も低いI科の2コマの減少であり、提示した合計コマ数も6コマであること、平成23年度から平成26年度までの4年間は合計7コマを担当する出講契約であったこと、本件コマ数減提示による前年度からの減収幅は平成26年度の出講契約の更新の際に生じた減収幅よりも大きいものではあるが、本件コマ数減提示での月額の基本賃金は同年度の出講契約における基本賃金よりも高額であること
  ④本件懲戒処分を踏まえて被告が最終的に本件コマ数減提示を行なった際には、被告が話合いを希望するのであれば機会を設ける旨申し出たにもかかわらず、原告は具体的な協議を求めなかったこと(【事案の概要】(6)参照)等の諸事情を総合考慮すると、被告の原告に対する本件コマ数減提示に係る説明及び対応に違法、不当な点があったということはできないこと
  ⑤以上に判示した事情、殊に、①被告が原告に対し従来の労働条件より低下する内容を提示した本件コマ数減提示は、客観的に合理的であることを基礎付ける理由が認められるとともに、②他の有期労働者である講師との間でも均衡を欠くものではなく、③原告の不利益の程度にも配慮された内容であり、④提示に至るまでの具体的な経緯に違法、不当な事情も見当たらないことなどの事情を総合考慮すると、本件コマ数減提示は、客観的合理性があり、社会的相当性を有するというべきである。
 ウ 小括
   以上のとおり、被告が行なった本件コマ数減提示は、客観的合理性及び社会的相当性があるといえるから、被告が原告の同一労働条件による本件出講契約更新の申込みを拒絶したことは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に当たらない。したがって、被告による雇止めは有効であり、原告と被告との間の本件出講契約は、平成29年3月31日の経過をもって契約期間満了により終了したものというべきである。

(4)結論
   以上によれば、原告の被告に対する労働契約に基づく本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない(請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、労契法19条2号該当性の判断においては、原告において、「本件出講契約の期間満了時において、授業アンケートの結果次第では平成28年度の担当コマ数である8コマからコマ数減の提示をされる可能性を前提としつつ、少なくとも講座を複数担当する内容の出講契約を本件出講契約に引き続いて平成29年度においても締結し、本件出講契約を更新できると期待する限度で合理的な理由がある」としましたが、他方、労契法19条柱書該当性の判断においては、被告が行なった従前とは異なる労働条件の提示(本件コマ数減提示)は、客観的合理性及び社会的相当性があることから、被告が原告の同一労働条件による本件出講契約更新の申込みを拒絶したことは、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない」場合に当たらないとして、被告による雇止めを有効と判示しました。
   労契法19条2号該当性の判断において、合理的な理由の認められる範囲が上記の限度に留まるものと認定されたことに加えて、従前の労働条件と同一の労働条件で労働契約が更新されたものとみなされるという法的効果を考慮すると、労契法19条柱書該当性の判断において、被告が行なった従前とは異なる労働条件の提示(本件コマ数減提示)における客観的合理性及び社会的相当性を否認する判断は、容易にはなされないものと思われます。

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