【交通事故】名古屋地裁令和3年1月13日判決(自保ジャーナル2092号145頁)

被害車両の事故時の価格を、事故の起きた月である平成31年2月版のレッドブックにおける被害車両と同年式の同型車の中古車価格と、事故の約半年後にインターネットに掲載されていた被害車両と同年式の同型車5台の中古車の平均価格との中間値とした事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成31年2月24日午後1時20分頃
 イ 発生場所 三重県伊賀市内の路上(以下「本件事故現場」という。)
 ウ A車   原告使用・被告a運転の普通乗用自動車(レンタカー)
 エ B車   被告b運転の普通乗用自動車
 オ 事故態様 A車両とB車両が、信号機により交通整理の行われていない丁字路交差点で衝突した。  

(2)A車は、平成30年6月初度登録の○○であり、訴外会社が所有していた。原告は、訴外会社との自動車リース契約に基づいて、A車を使用する者であり、自動車検査証上も、原告が使用者として表示されている。
   原告は、本件事故に先立つ平成30年7月31日、A車に関するリース料全額(241万5,800円、消費税19万3,264円)を支払っていることから、A車の損傷により損害を被った。

(3)原告は、本件訴訟を提起して、本件事故によりA車が経済的全損になったと主張して、本件事故の運転者らである被告らに対し、本件事故の過失割合(被告A10%、被告B90%)に応じて、不法行為に基づき、被告aに対しては、物的損害のうち22万0,800及び弁護士費用2万2,000円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を、被告bに対しては、物的損害のうち198万7,200及び弁護士費用19万8,000円並びにこれらに対する遅延損害金の支払を、それぞれ求めた。


【争点】

(1)A車の修理費用等(争点1)
(2)A車の時価額(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、各当事者は、争点2について以下のとおり主張した。
  (原告の主張)
   A車の本件事故当時の時価額(消費税含む。)は、220万8,000(注:インターネット上の価格)を下回らない。
  (被告aの主張)
   A車はレンタカーとして一般車両とは異なる利用(不特定多数の利用者による利用に晒される。走行距離が多い。)がされており、レンタカー以外の車両との比較によって時価を算出することはできない。また、時価を比較できる同等のレンタカー車両の台数は少なく、市場価格によって時価を算出することも困難である。
   したがって、A車については定率法により時価を算出すべき特段の事情があるところ、A車と同型車のレッドブック掲載の新車価格228万4,000円を基準として、定率法により登録8ヶ月後のA車の簿価を算出すると136万8,100となる。
  (被告bの主張)
   原告が時価の資料として提出するインターネット上の価格は販売希望価格に過ぎず、記載金額から値引きがされる場合もある。
   したがって、中古自動車の時価については、レッドブックの価格を参照すべきであり、レッドブックの平成31年2月号によれば、A車の時価は198万円(注:消費税を除く。)を上回らない。
   また、一般的に、レンタカーは、カーナビなどが純正品でないケースがあることや、不特定多数の利用者が使用するために、外装や内装の状態も劣化する傾向があり、個人所有の車両と比較して相対的に時価は低い。
   したがって、レンタカーであるA車の時価額については、レッドブックの価格を参照するか否かにかかわらず、一定の減額をすべきである。


【裁判所の判断】

(1)争点1(A車の修理費用等)について
 ア 修理費用
   A車の修理費用については、被告aの加入する任意保険会社の依頼したアジャスター作成にかかる平成31年3月14日付け見積書(以下「本件見積書①」という。)及び原告の依頼した修理工場作成にかかる同年4月5日付け見積書(以下「本件見積書②」という。)が存在する。
   本件事故によりA車は車両前部が激しく押しつぶされるという大きな損傷を受けており、かかる損傷状況に照らせば、車両の内部にも一定の被害が及んでいると推認される。本件見積書②に計上された修理項目は本件見積書①と比較すると多項目に及んでおり、詳細にA車の修理費用を見積もったものと認められる。
   また、原告が訴訟の途中、被告らに対し、原告はA車を未修理のまま保管しているから被告らが再度A車の損害確認をすることに応じる用意がある旨を述べて、本件見積書②についての反証の機会を提供したにもかかわらず、被告らは、同年7月6日の第4回弁論準備手続期日において、本件見積書②に対して具体的な反論、反証を予定していないと陳述した経緯がある(当裁判所に顕著な事実)。
   上記によれば、本件事故によるA車の修理費用は、本件見積書②にしたがって、210万6,009円(消費税含む。)と認められる。
 イ 評価損
   A車は、新車価格が228万4,000円(消費税を含めると、246万6,720)の○○であり、本件事故当時の走行距離は9,009kmであった。
   本件事故当時(平成31年2月24日)までに初度登録(平成31年2月24日)から、8月余りしか経過していないことを踏まえると、修理費用の1割なし2割程度(注:24万6,672円〜49万3,344円)の評価損が発生したと認められる(注:これにより、A車の修理費用に評価損を加えた額は、235万2,681円以上となる。)。

(2)争点2(A車の時価額)について
 ア A車の時価額
   A車は、平成30年式の○○であるところ、本件事故の起きた月である平成31年2月版のレッドブックにおけるA車と同年式の同型車の中古車価格は、213万8,400消費税を含む。以下「レッドブック価格」という。)である。
   また、令和元年8月(したがって、本件事故の約半年後)にインターネットに掲載されていたA車と同年式の同型車5台の中古車の平均価格は220万8,000消費税を含む。以下「5台平均価格」という。)である。
   レッドブックは裁判実務における中古車価格の認定において一定の役割を担ってきたものであり、少なくとも5台平均価格と同等の客観性を有するといえるから、A車の本件事故時の価格は、レッドブック価格と5台平均価格の中間値である217万3,200と認めるのが相当である。
   なお、被告bは、インターネットに掲載されている中古車価格は売主の希望価格にすぎないなどと主張するが、5台平均価格は本件事故から約半年後のインターネットに掲載されていたものであり、本件事故時のA車の価格の資料としては抑制的な価格といえるし、証拠(略)に掲載されていた5台の中古車は原告代理人が令和2年9月に同一条件で検索した際には掲載されていなかったというのであるから、5台平均価格をA車の事故時の時価の参考とすることが不相当とはいえない。
 イ A車がレンタカーであることによる減価の当否
   被告らは、A車がレンタカーであることから減価すべきである旨主張する。
   しかし、平成31年3月20日に中古事業者向けオークションにおいて、レンタカーとして使用されていた、走行距離1万4,106km(A車よりも5,000km長い)、平成30年4月初度登録(A車よりも2月古い)の同年式の同型車が、210万6,000円(消費税を含む。)で落札されていることに照らすと、レンタカーとして利用されていたことを持って、減価する必要があるとは認められない。
   なお、被告aは、A車がレンタカーであり、市場価格によって時価を算定することが困難であるから、定率法で時価を算定すべきと主張する。
   しかし、上記のとおり、レンタカーとして利用されていたことをもって、減価する必要があるとは認められず、市場価格によってA車の時価を認定することができる以上、被告aの上記主張は採用できない。

(3)小括
  a)原告の物的損害の額
   上記(1)、(2)によれば、A車の修理費用(評価損を含む。)は、時価を上回り、本件事故によってA車は経済的全損となるから、原告の損害は車両時価である217万3,200の限度で認められる。
      b)弁護士費用 略

(4)結論
   以上によれば、原告の請求は、民法709条に基づき、被告aに対して23万8,320及びこれに対する遅延損害金の支払を、被告bに対して215万0,880及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由がある(一部認容)。


【コメント】

   本裁判例は、中古事業者向けオークションにおいて、レンタカーとして使用されていた、被害車両と同年式の同型車が落札されていることを認定した上で、本件において、①市場価格によって時価を算定することができること、②レッドブック価格とインターネット上の価格を参照すること、③レンタカーとして利用されていたことをもって減価する必要はないことを判示しています。

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