【労働】最高裁平成30年6月1日判決(労働判例1179号20頁)

正社員と契約社員との間の住宅手当の支給に係る労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと判示する一方、両者の間の皆勤手当の支給に係る労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる旨判示した事例(一部破棄差戻し)


【事案の概要】

(1)上告人(一審被告)は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。
   被上告人(一審原告)は、平成20年10月6日頃、上告人との間で、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」という。)を締結し、トラック運転手として配送業務に従事している。上記労働契約は、その後順次更新された(以下、更新の前後を問わず、上告人と被上告人との間の労働契約を「本件労働契約」という。)。

(2)上告人と期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結している労働者(以下「正社員」という。)に適用される就業規則(以下「本件正社員就業規則」という。)及び就業規則の性質を有する給与規程(以下「本件正社員給与規程」)には、以下のとおり定められている。
 ア 従業員が5年以上勤務した後に退職するときは退職金を支給する。 
 イ 基本給は、年齢給、勤続給及び職能給で構成する。
 ウ 乗務員が1か月間無事故で勤務したときは月額1万円の無事故手当を支給する。
 エ 特殊業務に携わる従業員に対して一定額(注:上告人が勤務するA支店においては、月額1万円)の作業手当を支給する。
 オ 従業員の食費の補助として月額3500円の給食手当を支給する。
 カ 一定額(注:22歳以上の従業員に対しては月額2万円)の住宅手当を支給する。
 キ 乗務員が全営業日に出勤したときは月額1万円の皆勤手当を支給する。
 ク 交通手段及び通勤距離に応じて所定の通勤手当(注:被上告人と交通手段及び通勤距離が同じ正社員に対して支給される額は月額5000円)を支給する。
 ケ 扶養家族を有する従業員に対して家族手当を支給する。
 コ 会社の業績に応じて賞与を支給する。

(3)上告人と有期労働契約を締結している労働者(以下「契約社員」という。)等に適用される「嘱託、臨時従業員及びパートタイマーの就業規則」(以下「本件契約社員就業規則」という。)には、以下のとおり定められている。

 ア 退職金は原則として支給しない。 
 イ 基本給は、時間給として職務内容等により個人ごとに定める(注:原則として、昇給しない。)。
 ウ 無事故手当に関する定めはない。
 エ 作業手当に関する定めはない。
 オ 給食手当に関する定めはない。
 カ 住宅手当に関する定めはない。
 キ 皆勤手当に関する定めはない。
 ク 平成25年12月までは、交通機関を利用して通勤する者に対して所定の限度額の範囲内でその実費(注:被上告人に対しては3000円)を支給する(注:平成26年1月以降は、契約社員に対しても正社員と同じ基準により通勤手当が支給されるようになった。)。
 ケ 家族手当に関する定めはない。
 コ 賞与は原則として支給しない。

(4)上告人のA支店におけるトラック運転手の業務の内容には、契約社員と正社員との間に相違はなく、当該業務に伴う責任の程度に相違があったとの事情も伺われない。
   他方、本件正社員就業規則には、上告人は業務上必要がある場合は従業員の就業場所の変更を命ずることができる旨の定めがあり、正社員については出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるが、本件契約社員就業規則には配転又は出向に関する定めはなく、契約社員については就業規則の変更や出向は予定されていない。
   また、正社員については、公正に評価された職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、従業員の適正な処遇と配置を行うとともに、教育訓練の実施による能力の開発と人材の育成、活用に資することを目的として、等級役職制度が設けられているが、契約社員についてはこのような制度は設けられていない。

(5)被上告人は、本件訴訟を提起して、正社員と被上告人との間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当、家族手当、賞与、定期昇給及び退職金(以下、こられを併せて「本件賃金等」という。)に相違があることは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反しているなどと主張して、上告人に対し、a)労働契約に基づき、被上告人が、上告人対し、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める(以下、この請求を「本件確認請求」という。)とともに、b)①主位的に、労働契約に基づき、平成21年10月1日から同27年11月30日までの間に正社員に支給された無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当及び通勤手当(以下「本件諸手当」という。)と、同期間に被上告人に支給された本件諸手当との差額の支払を求め(以下、この請求を「本件差額賃金請求」という。)、②予備的に、不法行為に基づき、上記差額に相当する額の損害賠償を求める(以下、この請求を「本件損害賠償請求」という。)などを請求した。

(6)原審(大阪高裁平成28年7月26日判決)は、要旨次のとおり判断した。
 ア 本件確認請求及び本件差額賃金請求
  契約社員である被上告人と正社員との間で本件賃金等に相違があることが労働契約法20条に違反するとしても、被上告人の労働条件が正社員と同一になるものではないから、本件確認請求及び本件差額賃金請求は、いずれも理由がない。
 イ 本件損害賠償請求のうち住宅手当及び皆勤手当に係る部分
   被上告人と正社員との間の住宅手当及び皆勤手当に係る相違は不合理と認められるものには当たらないから、当該相違があることは労働契約法20条に違反しない。
 ウ 本件損害賠償請求のうち無事故手当、作業手当、給食手当及び通勤手当(以下「本件無事故手当等」という。)に係る部分
   被上告人と正社員との間の住宅手当及び皆勤手当に係る相違は、期間の定めがあることにより生じた相違であり、かつ、不合理と認められるものには当たるから、労働契約法20条が適用されることとなる平成2541日以降に上告人がこのような相違を設けていることは不法行為に当たる。


【争点】

(1)本件確認請求及び本件差額賃金請求の可否(争点1)
(2)以下の労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か
 ア 住宅手当及び皆勤手当(争点2)
 イ 本件無事故手当等(争点3)
   以下、主に上記(1)及び(2)アについての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件確認請求及び本件差額賃金請求の可否)について
 ア 労働契約法20は、有期労働契約について無期契約労働者との業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下「職務の内容等」という。)の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり、文言上も、両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に、当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。
   そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても、同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。
 イ また、上告人においては、正社員に適用される就業規則である本件正社員就業規則及び本件正社員給与規程と、契約社員に適用される就業規則である本件契約社員就業規則とが、別個独立のものとして作成されていること等にも鑑みれば、両者の労働条件の相違が何条に違反する場合に、本件正社員就業規則又は本件正社員給与規程の定めが契約社員である被上告人に適用されることとなると解することは、就業規則の合理的な解釈としても困難である。
 ウ 以上によれば、仮に本件賃金等に係る相違が労働契約法20条に違反するとしても、被上告人の本件賃金等に係る労働条件が正社員の労働条件と同一のものとなるものではないから、被上告人が、本件賃金等に関し、正社員と同一の権利を有する地位にあることの確認を求める本件請求は理由がなく、また、同一の権利を有する地位にあることを前提とする本件差額賃金請求も理由がない。

(2)争点2(住宅手当及び皆勤手当に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か)について
 ア 労働契約法20条にいう「期間の定めがあることにより」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。
   これを本件についてみると、本件諸手当に係る労働条件の相違は、契約社員と正社員とでそれぞれ異なる就業規則が適用されることにより生じているものであることに鑑みれば、当該相違は期間の定めの有無に関連して生じたものであるということができる。したがって、契約社員と正社員の本件諸手当に係る労働条件は、同条にいう期間の定めがあることにより相違している場合に当たるということができる。
 イ 次に、労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が、職務の内容等を考慮して不合理と認められるものであってはならないとしているところ、同条にいう「不合理と認められるもの」とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。
 ウ 上記をイで述べたことを踏まえて、本件諸手当のうち住宅手当及び皆勤手当に係る相違が職務の内容等を考慮して不合理と認められるものに当たるか否かについて検討する。
  a)住宅手当について
   本件では、契約社員である被上告人の労働条件と、被上告人と同じく上告人のA支店においてトラック運転手(乗務員)として勤務している正社員の労働条件との相違が労働契約法20条に違反するか否かが争われているところ、前記【事案の概要】(4)の事実関係等に照らせば、両者の職務の内容に違いはないが、職務の内容及び配置の変更の範囲に関しては、正社員は、出向を含む全国規模の広域異動の可能性があるほか、等級役職制度が設けられており、職務遂行能力に見合う等級役職への格付けを通じて、将来、上告人の中核を担う人材として登用される可能性があるのに対し、契約社員は、就業場所の変更や出向は予定されておらず、将来、そのような人材として登用されることも予定されていないという違いがあるということができる。
   上告人においては、正社員に対してのみ所定の住宅手当を支給することとされている。この住宅手当は、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものと解されるところ、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る。
   したがって、正社員に対して上記の住宅手当を支給する一方で、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものとはいえないから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たらないと解するのが相当である。
  b)皆勤手当について
   上告人においては、正社員である乗務員に対してのみ、所定の皆勤手当を支給することとされている。この皆勤手当は、上告人が運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ、上告人の乗務員については、契約社員と正社員の職務の内容は異ならないから、出勤する者を確保することの必要性については、職務内容によって両者の間に差異が生ずるものではない。
   また、上記の必要性は、当該労働者が将来転勤や出向をする可能性や、上告人の中核を担う人材として登用される可能性の有無といった事情により異なるとはいえない。
   そして、本件労働契約及び本件契約社員従業規則によれば、契約社員については、上告人の業績と本人の勤務成績を考慮して昇給することがあるとされているが、昇給しないことが原則である上、皆勤の事実を考慮して昇給が行われたとの事情もうかがわれない。
   したがって、上告人の乗務員のうち正社員に対して上記の皆勤手当を支給する一方、契約社員に対してこれを支給しないという労働条件の相違は、不合理であると評価することができるものであるから、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たると解するのが相当である。

(3)争点3(本件無事故手当等に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か)について
   本件無事故手当等に相違があることは、いずれも労働契約法20条に違反すると解される(詳細については、省略する。)。

(4)結論
   以上のとおりであるから、原判決中、平成25年4月1日以降の皆勤手当に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、被上告人が皆勤手当の支給要件を満たしているか否か等について更に審理を尽くさせるため同部分につき本件を原審に差し戻す(一部破棄差戻し)。


【コメント】

   平成30年6月1日付けの最高裁判決である本判決(ハマキョウレックス(差戻審)事件判決)は、同日付けの別件の最高裁判決(長澤運輸事件)と並んで、平成24年4月1日に施行された労働契約法20条(ただし、平成30年法律第71号による改正前のもの)の解釈に係る最初の最高裁判決であり、その後の多くの裁判例で引用されています。  
   本判決では、①住宅手当に係る労働条件の相違については、原審の判断が維持された一方、②皆勤手当に係る労働条件の相違については、原審の判断が覆されています。しかし、上記①の理由として、「正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額となり得る」と述べている点については、住宅費用の多寡は居住地に大きく影響されると考えられることから、評価が分かれると思われます。

Verified by MonsterInsights