郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間の年末年始手当、病気休暇及び夏期冬季休暇に係る労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる旨判示した事例(一部上告棄却・一部破棄差戻)
【事案の概要】
(1)第1審被告は、平成24年10月1日に成立した株式会社であり、郵便局を設置して、郵便の業務等を営んでいる。
第1審原告A、B及びCは、いずれも、第1審被告に勤務する時給制契約社員(注:下記の期間雇用社員に区分される、郵便局等での一般的業務に従事し、時給制で給与が支給されるものとして採用された者である。)である。第1審原告A及びBは、郵便外務事務(配達等の事務)に従事し、第1審原告Cは、郵便内務事務(窓口業務、区分け作業等の事務)に従事している。
(2)第1審被告に雇用される従業員には、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」という。)を締結する正社員と、期間の定めのある労働契約以下「有期労働契約」という。)を締結する期間雇用社員が存在し、それぞれに適用される就業規則及び給与規定は異なる。
(3)正社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規定において、郵便の業務を担当する正社員の給与は、基本給と諸手当で構成されている。諸手当には住居手当、祝日給、特殊勤務手当、夏期手当、年末手当等がある。特殊勤務手当の一つである年末年始手当は、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務した時に支給されるものであり、その額は、12月29日から同月31日までは1日につき4000円、1月1日から同月3日までは1日につき5000円であるが、実際に働いた時間が4時間以下の場合は、それぞれの半額である。
また、正社員に適用される就業規則では、郵便の業務を担当する正社員に夏期休暇及び冬季休暇(以下「夏期冬期休暇」という。)及び病気休暇が与えられることとされている。夏期休暇は6月1日から9月30日まで、冬季休暇は10月1日から翌年3月31日までの期間において、それぞれ3日まで与えられる有給休暇である。病気休暇は、私傷病等により、勤務日又は正規の勤務時間中に勤務しない者に与えられる有給休暇であり、私傷病による病気休暇は少なくとも引き続き90日間まで与えられる。
(4)期間雇用社員に適用され、就業規則の性質を有する給与規定において、郵便の業務を担当する時給制契約社員の給与は、基本賃金と諸手当で構成されている。諸手当には、祝日割増賃金、特殊勤務手当、臨時手当等がある。もっとも、上記時給制契約社員に対して年末年始勤務手当は支給されない。
また、上記時給制契約社員には夏期冬季休暇が与えられない一方、期間雇用社員に適用される就業規則において、病気休暇が与えられることとされているが、私傷病による病気休暇は1年に10日の範囲で無給の休暇が与えられるにとどまる。
(5)第1審原告らは、本件訴訟を提起して、正社員と第1審原告らとの間で、年末年始勤務手当、病気休暇、夏期冬季休暇等に相違があったことは労働契約法20条(平成30年法律第71号による改正前のもの。以下同じ。)に違反するものであったと主張し、上記相違に係る損害賠償を求めるなどの請求をした。
(6)原審(東京高裁平成30年12月13日判決)は、年末年始手当及び病気休暇に係る労働条件の相違については、いずれも労働契約法20条にいう不合理にと認められるものに当たると判断した。
他方、原審は、夏期冬季休暇に係る労働条件の相違については、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たり、第1審被告が上記相違を設けていたことにつき過失があるとする一方、第1審原告らが無給の休暇を取得したこと、夏期冬季休暇が与えられていればこれを取得し賃金が支給されたであろうこととの事実の主張立証がないことから、第1審原告らに損害が生じたとはいえないとして、第1審原告らの請求を棄却した。
第1審被告及び第1審原告らが、それぞれ上告した。
【争点】
以下の労働条件の相違が、労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たるか否か
(1)年末年始勤務手当(争点1)
(2)病気休暇(争点2)
(3)夏期冬季休暇(争点3)
以下、裁判所の判断の概要を示す。
【裁判所の判断】
(1)争点1(年末年始勤務手当)について
第1審被告における年末年始勤務手当は、郵便業務を担当する正社員の給与を構成する特殊勤務手当の一つであり、12月29日から翌年1月3日までの間において実際に勤務したときに支給されるものであることからすると、同業務についての最繁忙期であり、多くの労働者が休日として過ごしている上記の期間において、同業務に従事したことに対し、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給される対価としての性質を有するものであるといえる。
また、年末年始勤務手当は、正社員が従事した業務の内容やその難度等に関わらず、所定の期間において実際に勤務したこと自体を支給要件とするものであり、その支給金額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律である。
上記のような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給することとした趣旨は、郵便の業務を担当する時給制契約社員にも妥当するものである。そうすると、前記(略)のとおり、郵便の業務を担当する正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、両者の間に年末年始勤務手当に係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
(2)争点2(病気休暇)について
ア 賃金以外の労働条件の相違についても、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)。
イ 第1審被告において、私傷病により勤務することができなくなった郵便の業務を担当する正社員に対して有給の病気休暇が与えられているのは、上記正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的によるものと考えられる。
もっとも、上記目的に照らせば、郵便の業務を担当する時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、私傷病による有給の病気休暇を与えることとした趣旨は妥当するというべきである。そして、第1審被告においては、上記時給制契約社員は、契約期間が6か月以内とされており、第1審原告らのように有期労働契約の更新を繰り返して勤務する者が存在するなど、相応に継続的な勤務が見込まれているといえる。そうすると、前記(略)のとおり、上記正社員と上記時給制契約社員との間に労働契約法20条所定の職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、これを有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができるものといえる。
(3)争点3(夏期冬季休暇)について
第1審被告における夏期冬季休暇は、有給休暇として所定の期間内に所定の日数を取得することができるものであるところ、郵便の業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らは、夏期冬季休暇を与えられなかったことにより、当該所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、上記勤務をしたことによる財産的損害を受けたものということができる。当該時給制契約社員が無給の休暇を取得したか否かなどは、上記損害の有無の判断を左右するものではない。
したがって、郵便の業務を担当する時給制契約社員である第1審原告らについて、無給の休暇を取得したなどの事実の主張立証がないとして、夏期冬季休暇が与えられないことによる損害が生じたとはいえないとした原審の判断には、不法行為に関する法令の解釈適用を誤った違法がある。
(4)結論
以上のとおりであるから、原判決中、第1審原告らの夏期冬季休暇に係る損害賠償請求に関する部分を破棄し、損害額について本件を原審に差し戻すとともに、第1審被告の上告及び第1審原告らのその余の上告を棄却する(一部上告棄却・一部破棄差戻)。
【コメント】
最高裁は、本判決(最高裁令和元年(受)第777号、令和元年(受)第778号)と同日の令和2年10月15日に、郵便の業務を担当する正社員と期間雇用社員との間の、①夏期冬季休暇に係る労働条件の相違、及び、②年末年始勤務手当、年始期間の勤務に対する祝日給、扶養手当及び夏期冬季休暇に係る労働条件の相違について、いずれも労働契約法20条にいう不合理と認められるものに当たる旨判示しています(①:平成30年(受)第1519号、②:令和元年(受)第794号、令和元年(受)第795号)。