【労働】東京地裁令和2年6月11日判決(労働判例1233号26頁)

客観的には労働者派遣法40条の6第1項5号に違反することを認めつつ、作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別は困難であることなどから、派遣先(発注者)において同号の「免れる目的」は認められない旨判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)原告は、システムエンジニアであり、オラクルマスターゴールド及びJAVAプログラミングの資格を持つ者である。
   被告CTは、コンピューターのソフトウェアの開発、労働者派遣業等を業とする株式会社である。
   被告AQは、コンピューターのソフトウェアの開発、労働者派遣事業及び有料職業紹介事業等を業とする株式会社である。

(2)被告CTは、主力商品として、「○○」という名称の製造業向けの生産管理システムのパッケージソフト(以下「本件管理ソフト」という。)を販売する事業を行っていた。被告CTは、本件管理ソフトを購入したA社から、A社の要望に沿って本件管理ソフトをカスタマイズする開発業務を請負った。
   被告CTは、平成29年7月7日、被告AQとの間で、被告CTが被告AQに対し、被告CTが開発するソフトウェアの開発業務を個別契約により委託すること等を定めた業務委託基本契約書(以下「CT・AQ間の基本契約書」という。)を作成した。
   被告AQは、同年9月21日、原告との間で、両者間の業務委託等の取引に関する基本的事項を定めたソフトウェア基本契約書(以下「AQ・原告間の基本契約書」という。)を作成した。
   被告CTが被告AQに個別契約で発注して、原告に従事させる予定の業務は、A社向けカスタマイズ業務のうち、バッチプログラム(注:一定期間や一定量ごとに、データベースから対象のデータを取得し、そのデータのチェックまたはファイルへの書き込みを行うものである。)に関する詳細設計、開発(実装)及び単体テストであった。
   原告は、同月26日から同年12月8日まで、被告CTの事業所において、A社向けカスタマイズ業務に従事した。

(3)A社に対する本件管理ソフトの納入期限は、当初、平成29年11月末であったが、同年10月8日の時点で、A社に向けカスタマイズ業務は遅延が顕著となっていた。その原因は、同年9月29日の時点で、バッチプログラムに関する要件定義及び基本設計に関わる作業が、基本設計担当の被告CTの社員が休養に入ったこと等により、一部未完成の状態であったこと、A社の要望により開発の分量が当初よりも増えたことである。そこで、同年10月30日から、原告がCに対し被告AQの者として紹介したGが、A社に向けカスタマイズ業務に加わった。
   同年11月17日、作業に従事していた他社の開発作業者であるHが業務から離脱した。そこで、原告はCに対し被告AQの者としてLを紹介したが、契約は実現しなかった。そのため、同年12月1日から、被告AQ代表者がA社に向けカスタマイズ業務に加わった。

(4)被告AQは、平成29年12月8日、原告のスキル不足等に起因して作業が遅延したことを理由として、原告との契約を解除する旨の意思表示をした(以下「本件解除」という。なお、被告CTの担当者であったCは、原告が開発作業に従事していた当時、原告の開発技能や作業内容について問題があるとは認識していなかった。また、原告も参加していた、A社向けカスタマイズ業務に従事している被告CTの社員らとの会議の議事録には、作業の遅れが原告の技能不足にあること等をうかがわせる指摘はなかった。)。
   原告の代理人は、平成30年9月11日、被告CTの代理人らに対し、「被告CTは、平成29年9月26日以降、労働者派遣法等の法律の規定を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに原告の派遣を受けてその役務の提供を受けているため、同法40条の6第1項5号により、原告に対し労働契約の申込みをしたものとみなされる。(中略)原告はこれらの申込みを承諾する。」旨の意思表示をした。


【争点】

(1)被告AQ関係
 ア 被告AQと原告との契約は、原告を雇用し、その雇用関係の下、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったか(争点1。以下、争点2~5略)
(2)被告CT関係
 ア 被告CTは、原告を、被告AQとの雇用関係の下に、被告CTのために労働に従事させ、労働者派遣の役務提供を受けたか(争点6)
 イ 被告CTが原告により労働者派遣の役務提供を受けた行為が、労働者派遣法または同法44条ないし47条の3の規定により適用される法律の適用を免れる目的でされたか(争点7。争点8~11略) 
   以下、争点1、6及び7についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)争点1(被告AQと原告との契約は、原告を雇用し、その雇用関係の下、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったか)について
 ア 労働者派遣契約とは、自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人ために労働に従事させることをいい、当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものをいう(労働者派遣法2条1号)。
   労働者派遣の労働契約というには、被告AQと原告との関係が雇用関係といえることが必要であるため、被告AQと原告との契約が、契約書においては業務委託契約の形式をとるものであるが、実質は雇用関係(労働契約関係)であったといえるか、以下、検討する。
 イ 被告AQと原告の契約の性質
  a)労働者は、使用者に使用されて労働し、労働の対償としての賃金を支払われる者をいい(労働契約法2条、労働基準法11条)、実質的にこのような関係(使用従属関係)にある場合には、契約の形式にかかわらず、労働契約関係すなわち雇用関係にあるといえる。
   そして、このような関係にあるといえるかは、①仕事の依頼の諾否の自由、②業務遂行上の指揮監督、③時間的、場所的拘束性、④代替性、⑤報酬の算定支払方法を主たる要素として考慮し、⑥機械・器具の負担、報酬の額等に現れた事業者性、⑦専属性を補助的な要素として考慮すべきである。
   ①原告には、被告CTの社員を通じた被告AQからの業務の依頼(指示)を断る自由があったとは認められない。
  ・AQ・原告間の基本契約書には、請負ないし業務委託の目的とするシステム開発業務の内容や報酬について具体的な定めはなく、対象業務の内容、単価その他の条件は個別契約で別途決定するとされていること
  ・個別契約の内容を定める注文書には、作業内容が「○○カスタマイズ業務」との記載しかないこと
  ・契約前の被告CTの社員との面談時や契約条件についての被告AQ代表者とのやりとりの時点において、原告が担当する具体的な業務内容は明確にされていなかったこと
  ・原告は、注文書発行後、被告CTの事業所に赴き、平成29年9月26日から11月末までは、被告CTの事業所にて、被告CTの社員が作成した作業スケジュール表(WBC)のとおり仕事の分担を決められ、その後は、被告AQ代表者が示した表のとおり仕事の分担が決められていること
  ・被告CTの社員が原告に指示して担当させた業務には、当初予定されていたバッチプログラムの詳細設計、開発(実装)及び単体テストの業務のみならず、基本設計に関わる業務もあったこと
  ②原告は、業務遂行において、被告CTの社員を通じた被告AQによる指揮監督を受けていた。
  ・原告は、平成29年9月26日から同年11月30日まで、被告CTの求めに応じて、被告CTの社員に対し、作業スケジュール表や会議において、作業の内容及び進行状況について毎日報告し、確認を受けていた。
  ・原告は、成果物について被告CTの社員による検査を受けて対応を行っていた。
  ③原告は、時間的、場所的拘束を受けていた。
  ・作業場所は被告CTの事業所内と指定され、作業時間は1箇月あたり151時間から185時間までの間とされていた。
  ・原告は、被告CTの社員から、作業実績報告書により作業時間を被告AQに報告することを要求された。
  ・原告は、平日の午前9時30分から午後6時15分まで作業し、午後5時に退社するときや、前記時間に外出するときには被告CTの社員にその旨報告して了承を得ていた。
  ・原告は、休日とされる同様日に出勤をすることを被告CTの社員との会議で確認されていた。
  ④原告が第三者に作業を代替させたり、補助者を使ったりすることは想定されておらず、代替性はなかった。
  ・原告は、被告AQとの契約前に被告CTの社員と面談し、システムエンジニアとしての経験や保有する資格の確認を受けていた。
  ・被告CTと被告AQとの個別契約に係る発注書にも原告が作業者であることが明記されていた。
  ⑤報酬の支払計算方法は、ほぼ作業時間に応じて決まっていたといえ、作業時間と報酬には強い関連性があった。
  ・被告AQは、被告CTを通じて原告の作業時間を管理・把握しており、報酬は、作業時間が1箇月あたり151時間から185時間までの間に収まる場合には月額60万円、151時間を下回る場合には時間単価を3980円として控除し、185時間を上回る場合には時間単価を3240円として加算することになっていた。
  ・原告は開発のためのコンピューター、ソフトウェア等の機械・器具を有する者ではなく、報酬は月60万円であり、著しく高いとはいえず、また、B社の経営に関わっていることを自認しているが、同社の役員ではなく、事業性が高いとはいえない。
  ⑦原告は、被告AQの仕事以外に就くことは禁止されていないが、1日の作業時間によれば事実上専属の状態であった。
  b)以上からすると、原告は、被告AQに使用されて労働し、労働の対償としの賃金を支払われる者といるから、被告AQと原告との契約は、形式上は業務委託契約の体裁を取っているものの、実質的には、被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払い)で雇用する労働契約であったと認められる。
 ウ 被告AQと被告CTとの契約の性質
  a)被告AQと被告CTとの関係が、労働者派遣契約といえるが、すなわち、被告AQが、原告との雇用関係の下に、原告を被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために労働に従事させる関係であったといえるかを検討する。
  b)厚生労働省の告示である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「区分基準告示」という。)は、労働者派遣事業と請負により行われる事業の区分について、別紙1(注:区分基準告示第二条)のとおり規定している。これによれば、請負の形式による契約により行う業務に自己の小用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し、別紙1の一及び二のいずれにも該当する場合を除き、当該事業者は労働者派遣事業を行う事業者に当たるとされている。よって、被告AQと被告CTとの関係を検討するにおいても、この基準を参考とするのが相当である。
  ①被告AQは、原告の業務の遂行方法に関する指示その他の管理及び業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(区分基準告示の2条1号イ⑴⑵)。
  ・少なくとも平成29年9月26日から11月30日までは、原告が分担する業務については、被告CTの社員が、スケジュール表(WBC)や会議等で指示することで、その内容を決定し、原告にスケジュール表や会議で毎日その進捗状況を報告させ、成果物も検査していたこと
  ・前記の期間中、被告AQ代表者は、前記会議に参加したことはなく、被告CTや原告から、原告の作業内容、進捗状況及び成果物の検査結果を伝達されたことはなく、報告された原告の作業内容に関心を払っていなかったこと
  ②被告AQが原告の労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っていたとはいえない(同2条1号ロ⑴⑵)。
  ・原告に対し、始業及び終業の時刻を作業実績報告書により報告させてこれを点検し、外出を了承し、作業時間の延長、休日出勤を確認していたのは被告CTの社員であり、被告AQ代表者は、被告CTを介することなく原告の作業時間を把握・管理したことはなかった。
  ③被告AQは、自己の責任と負担で準備し、調達した設備等で業務を処理することはなかった(同2条2号ハ)。
  ・原告の開発作業に必要なコンピューター、サーバー及び開発ソフトを提供したのは被告CTであって、被告AQは提供しておらず、
  ④被告AQは、自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理していたともいえない(同2条2号ハ)。
  ・被告AQ代表者は、平成29年9月26日から同年11月30日まで、原告の成果物について確認しておらず、原告から原告がリーダー役をやっているのか聞き出そうとしたり、作業展開が順調なのか聞き出そうとしたりするなど、原告の業務内容や進行状況を把握していなかったことが認められる。
  c)そうすると、被告AQは、原告の労働力を自ら直接利用していたともいえず(同2条1号本文)、かつ、業務を自己の業務として契約の相手方である被告CTから独立して処理していたということもできない(同2条2号本文)。
   したがって、被告AQは、労働者派遣事業を行う事業主といえ、原告は被告CTの指揮命令下に置かれ、被告CTのために労働に従事していたと認めるのが相当である。
 エ 以上から、被告AQと原告との契約は、実態としては、被告AQが原告を月額60万円(月末締め翌月末日払)で雇用したものと認められ、その雇用関係の下、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために原告を労働に従事させるという労働者派遣の労働契約であったと認められる。

(2)争点6(被告CTは、原告を、被告AQとの雇用関係の下に、被告CTのために労働に従事させ、労働者派遣の役務提供を受けたか)について
   前記(1)のとおり、被告CTは、原告を、被告AQとの雇用関係の下に、被告CTの指揮命令を受けて、被告CTのために労働に従事させ、労働者派遣の役務提供を受けたことが認められる。
   したがって、被告CTは、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めず、労働者派遣の役務の提供を受ける者(同法40条の6第1項本文、5号)に当たる。

(3)争点7(被告CTが原告により労働者派遣の役務提供を受けた行為が、労働者派遣法または同法44条ないし47条の3の規定により適用される法律の適用を免れる目的でされたか)について
 ア 労働者派遣法40条の6第1項5号が、同号の成立に、派遣先(発注者)において労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」があることを要することしたのは、同項の違反行為のうち、同項5号の違反に関しては、派遣先において、区分基準告示の解釈が困難である場合があり、客観的に違反行為があるというだけでは、派遣先にその責めを負わせることが公平を欠く場合があるからであると解される。
   そうすると、労働者派遣の役務提供を受けていること、すなわち、自らの指揮命令により役務の提供を受けていることや、労働者派遣以外の形式で契約をしていることから、派遣先において直ちに同項5号の「免れる目的」があることを推認することはできないと考えられる。
   また、同項5号の「免れる目的」は、派遣先が法人である場合には法人の代表者、又は、法人から契約締結権限を授権されている者の認識として、これがあると認められることが必要である。
 イ 被告CTと被告AQとの契約においては、被告CTの担当者であったCが、被告AQ等の業務委託先との間で業務委託契約を締結するか否かを決定する権限を有していたから、Cにおいて「免れる目的」があったかを検討すべきである。
 ウ Cは、被告AQ代表者を介することなく、原告に対して直接、業務を依頼して報告を求めた理由について、「被告AQ代表者から、原告が被告AQの責任者であるため、原告に直接伝えてほしいと言われたからである。原告は被告AQに雇用されていると思っていた。」旨証言し、週に1~4回会議を開く等して作業の進捗状況の報告を求めた理由については、「期限が切羽詰まった状況下で、1日の遅れも致命的となってしまうため、問題が発生していないかを毎日確認する必要があった」旨証言するところである。
   前者は、Cとの面接時に被告AQ代表者が原告に同道して原告を紹介したことや、原告自身が、GやLを被告AQの者としてCに紹介していたことから不合理ではないし、後者も、作業の進捗状況の確認や成果物の確認がされるようになった時期が、A社に向けカスタマイズ業務の遅延が顕著となり増員が検討された時期と符合することから、不合理とはいえない。
   また、原告が従事していた業務は、A社に向けカスタマイズ業務のバッチプログラムの詳細設計、開発(実装)及び単体テストであったところ、システム開発の過程では、これらの業務は細分化して外注できる業務とされていること、原告は、基本設計に関する業務を一部担当したこともあったが、それは、基本設計が一部未完成であったため、詳細設計の際に要件定義を参照しつつ仮の作業として進めたとか、顧客の要望により要件定義及び基本設計が変更となった際、基本設計のダブルチェックを行ったというにとどまり、詳細設計に付随する業務といえるものであること、被告CTが顧客であるA社との打ち合せに原告を同席させることはなかったことから、被告CTが、原告に対し、被告AQへの業務委託であるか否かに意を払うことなく、様々な業務を担当させていたとは認め難い。
   そして、作業者に対する指揮命令と業務委託・請負における注文者の指図との区別は困難な場合があること、被告CTは、過去に労働基準監督署ないし労働局から個別の指導を受けたこともなかったことを踏まえると、Cにおいて、「免れる目的」があったと認めるには無理がある。
 エ 以上から、被告CT代表者やCにおいて「免れる目的」があったとは認められない。

(4)被告CTに対する請求についての結論
   前記(3)のとおり、「免れる目的」がない以上、被告CTにおいて、労働者派遣法40条の6第1項5号が成立する余地はなく、原告と被告CTとの間で労働契約は成立しない。また、原告と被告CTには契約関係がないから、被告CTが原告を解雇することもあり得ない。
   したがった、原告の被告CTに対する請求は、その余の争点について判断するまでもなく、理由がない(請求棄却)。


【コメント】

   本判決の事実認定によれば、IT業界の多重請負において、偽装請負が認定される余地はほぼないと思われます。事案の集積が待たれます。

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