【個人情報】札幌地裁令和元年12月12日判決(判例時報2440号89頁)

嫌疑不十分を理由に不起訴処分となった原告の、検索サービスを提供する事業者に対する検索結果の削除請求を認めた事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)原告は、平成24年○月○日、○○における強姦の被疑事実(以下「本件被疑事実」という。)により逮捕(以下「本件逮捕」という。)され、同月○日に勾留された。
   原告は、同年○月○日、本件被疑事実に係る強姦被疑事件について、処分保留のまま釈放され、○○地方検察庁は、同年○月○日、原告について、嫌疑不十分のため公訴を提起しない処分をした。

(2)被告は、インターネット上のウェブサイトの検索サービスを提供する事業を営む米国法人であり、検索サイト「Google」(以下「本件サイト」という。)を管理運営している。
   被告の検索サービスは、インターネット上のウェブサイトに掲載されている情報を網羅的に収集して、検索条件ごとのインデックス(索引)を作成するなどして情報を整理し、利用者が一定の検索条件を入力すると、被告が管理する一定のアルゴリズムに従って、上記索引の中から検索条件に関連する情報を機械的かつ自動的に抽出して、検索条件に適合するウェブサイトのURL並びに当該ウェブサイトの表題及び抜粋(以下、これらを併せて「URL等情報」と総称する。)を検索結果として提供する仕組みになっている。これらは、いずれも人の手を介さず、機械的かつ自動的になされる。

(3)本件サイトの利用者が本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録(略)の「検索ワード」欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると、上記検索サービスにより、原告が逮捕された事実等の内容が書き込まれたウェブサイトのURL等情報(以下「本件URL等情報」という。)が表示される。


【争点】

(1)本件URL等情報の表示(争点1)
(2)本件URL等情報の削除請求の可否(争点2)
(3)不法行為請求(争点3)
   以下、争点2及び3についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、争点1について、裁判所は、本件訴訟の口頭弁論終結の時点において、本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録(略)の「検索ワード」欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると、同目録の「検索結果」欄記載の各URL等情報のうち、2、4、5及び9項のURL等情報並びに同欄記載の8項のURL及び表題(以下「本件検索結果」という。)のみが表示されることを認定した。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件URL等情報の削除請求の可否)について
 ア 本件被疑事実に関する事実や本件逮捕の事実(以下、これらを併せて単に「本件事実」という。)は、他人にみだりに知られたくない原告のプライバシーに属する事実ということができる。
   本件口頭弁論終結の時点において、本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録(略)の「検索ワード」欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行すると、本件検索結果が表示されることが認められる。そして、本件検索結果のうち、別紙検索結果目録(略)の「検索結果」欄記載の2、4及び5項は、本件逮捕の事実が書き込まれたウェブサイトのURL等情報である(注:同欄記載の8及び9項については、省略する。)。
 イ 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されないという利益は法的保護の対象となるものであるが、他方、検索事業者による検索結果の提供は、検索事業者自身による表現行為という側面を有するとともに、現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。 そうすると、検索事業者が、ある者に関する条件による検索の求めに応じ、その者のプライバシーに蔵する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは、当該事実の内容、当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する情報が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度、その者の社会的地位や影響力、上記記事等の目的や意義、上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化、上記記事等において当該事実を記載する必要性など、当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情比較衡量して判断すべきものであり、その結果、当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には、検索事業者に対し、当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である(最高裁平成29年1月31日決定参照)。
 ウ 原告は、そのプライバシーに属するものとして、本件検索結果の削除を求めているところ、最高裁平成29年1月31日決定の示した規範に基づいて原告の請求の当否について検討する。
  a)原告は、強姦の被疑事実(本件被疑事実)で逮捕(本件逮捕)されているところ、強姦罪は性的自由を侵害する卑劣で重大な犯罪として社会的に強い非難の対象とされ、本件法の法定刑は3年以上20年以下の懲役(刑法177条)であった極めて重大な犯罪である。原告が○○の地位にあることからすれば、本件事実は、一般的には、社会における正当な関心の対象であるということができる。そして、本件検索結果の収集元URLに係るウェブサイトに、本件事実が書き込まれたのは、全て平成24年のことであるところ、原告が本件被疑事実により逮捕・勾留されたのは同年○月○日から同年○月○日の期間であることからすれば、その書き込みがなされた当時においては、本件事実は、社会における正当な関心事として、公共の利害に関する事項であったということができる。
   その一方、原告は、本件被疑事実について、平成24年○月○日に嫌疑不十分を理由として不起訴処分となり、釈放された後一度も取調べを受けることがないまま、7年以上が経過しているのであって、このような本件被疑事件の捜査経過に鑑みれば、原告が真実本件被疑事実に係る行為を行なったと認めるに足りる十分な証拠があるとは到底考え難いし、公訴時効は完成していないものの(刑事訴訟法250条2項3号)、今後本件被疑事実について起訴がされる現実的な可能性は既に事実上なくなっているということができる。
   そうすると、ある被疑事実について、刑事裁判手続が進行している場合や有罪判決がされた場合と比して、本件事実を公衆に知らせたとしても、公共の利益増進のために批判や評価がされる可能性は小さく、社会における正当な関心事として、これを公表する社会的意義は乏しくなっているということができる。
   また、本件被疑事実に係る行為は、○○としての職務執行の過程で行なわれたもので、○○たる地位を利用して行なわれたものでもないし、原告は、○○であるという以上に、格別に強い影響力を有するものともいえない。
   さらに、原告が本件被疑事実で逮捕・勾留されてから7年以上が経過していることも考慮すれば、本件口頭弁論終結時において、本件検索結果の表示を維持する社会的必要性は低いということができる。
  b)本件検索結果は、本件検索結果は、本件サイトにある検索ワードの入力ボックスに別紙検索結果目録(略)の「検索ワード」欄記載の文言を入力してウェブサイトの検索を実行した場合に表示されるものである。そうすると、本件検索結果の表示を通じて本件事実が伝達される範囲は、同目録「検索ワード」欄記載の文言を入力する者、すなわち、原告と関係を有する者に限られるのであって、本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるということができる。
   その一方、本件検索結果は、原告の氏名のみを検索ワードとして検索を実行した場合にも表示され得ることからすれば、原告と関係を有する者(原告の子や友人などを含む。)が、原稿の来歴等を知る目的で、原告の氏名を検索ワードとして検索を実行することにより、本件検索結果の表示を通じて本件事実を知るに至ることは十分にあり得るところである。そして、原告は、本件被疑事実について、嫌疑不十分を理由として不起訴処分となっているものの、ある者が逮捕されると、その者が当該逮捕に係る被疑事実を行ったと思われてしまうことが現実的には多いことからすれば、本件検索結果を閲覧した者や本件検索結果を利用して本件事実が書き込まれたウェブサイトを閲覧した者が、法律上の無罪推定の原則に反して、原告が本件被疑事実を行ったという有罪の嫌疑を抱く可能性は高いといわざるを得ない。また、原告は、現在○○に在住しているが、現に、転勤先の同僚から、インターネット上の情報で本件逮捕の事実に接した旨を告げられたり、○○から、本件逮捕の事実について直接質問されるなど、本件事実に係る報道がなされていた平成24年当時にその報道を知っていたとは思われない人からも、本逮捕の事実について問われることがあることが認められる。
   そうすると、原告は、本件逮捕があった○○を離れ、本件被疑事実について、嫌疑不十分で釈放されてから7年以上を経過した現在においても、本件被疑事実を行ったという有罪の嫌疑を身近な人に抱かれたまま、日常生活を送ることとなっているのであり、本件被疑事実について嫌疑不十分を理由に不起訴処分となり、裁判を受けることもなかった原告にとって、本件検索結果が表示されることの私生活上の現実的な不利益は大きいということができる。
  c)現時点において本件検索結果の表示を維持する社会的必要性は低く、他方で、本件検索結果が表示されることによる原告の具体的被害の程度は大きいことが認められる。 そうすると、本件事実が伝達される範囲はある程度限定的であることや、さらに性犯罪が厳罰化され、性暴力被害についての被害者の意識に変化が生じているという社会情勢にあることが認められるとしても、本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかである。
   したがって、原告は被告に対して本件検索結果の削除を求めることができるというべきである。

(2)争点2(不法行為請求)について
   被告が、本件において、本件検索結果の表示を維持する必要性よりも本件事実を公表されない原告の法的利益が優越することは明らかであって、本件検索結果を削除する必要があるとの認識を欠いたことにつき過失があったと認めることはできない(注:詳細については、省略する。)。
   そのため、被告が、原告の訴外における本件検索結果の削除を求める要請に応じなかったとしても、不法行為になるということはできない。

(3)結論
   原告の請求は、本件サイトにおいて、別紙検索結果目録(略)の「検索結果」欄記載の2、4、5及び9項に係るURL等情報並びに同目録記載8に係る表題及びURLの削除を求める限度で理由がある(一部認容)。

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