【交通事故】名古屋地裁令和元年7月17日判決(自保ジャーナル2054号57頁)

MRI検査上外傷性の画像所見までは認められないものの、事故前の同検査と比して椎間板の突出等が増悪しているとの主治医の所見に基づいて、後遺障害等級14級9号を認めた事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(本件事故)の発生
 ア 発生日時 平成25年12月19日午前11時16分頃
 イ 発生場所 愛知県弥富市内の交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車  原告(本件事故当時41歳)が運転する普通乗用自動車
 エ 被告車  被告会社が所有し、被告Aが運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 南方から本件交差点に進入した原告車と、西方から一時停止することなく本件交差点に進入した被告車が、本件交差点内において、出会い頭に衝突し、原告車が本件交差点の北西にある水田に転落した。

(2)原告の治療の経過
 ア 平成25年12月24日 原告は、後頭頸部痛及びめまいを訴えて、B病院脳神経外科を受診し、レントゲン検査及びCT検査が施行された。同科のC医師は、傷病名として、頭頸部外傷、頸部挫傷及び頸肩腕症候群と診断した。
 イ 平成26年1月21日 原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、時に昼も継続する、後頭頸部痛はほとんどないなどと訴えて、B病院を受診した。
 ウ 平成26年1月29日 原告は、B病院を受診し、MRI検査を受けた(以下「本件1月MRI検査」という。)。C医師は、本件1月MRI検査から、「脊柱管狭窄(+)頸椎のアライメントは直線化しています。C4/5~C6/7椎間板は変性、膨隆し、硬膜嚢を圧迫しています。同レベルで脊柱管は狭細化し、頚髄も軽度圧排されています。頚髄内に異常信号域は指摘できません。前回2011/11/28実施のMRI所見より軽度増大しています。」との所見があると判断して、傷病名に頸部脊柱管狭窄症を追加した。
 エ 平成26年4月9日 原告は、左手環指・小指に起床時に痺れが出現する、後頭頸部痛はほとんどなかったが毎日痛み出現しているなどと訴えてB病院を受診した。
 オ 平成26年5月15日 原告は、左手首痛及び頸部痛を訴えてB病院脳神経外科を受診した。 カ その後、原告は、同月21日から症状固定と診断される平成27年1月23日までの間、B病院脳神経外科を66回(平成25年12月24日から平成26年5月15日までの5回の通院を含めると71回)受診した。 また、平成26年10月8日には、再度頸椎のMRI検査が行なわれ(以下「本件10月MRI検査」という。)、C医師は、「C4/5~C6/7の椎間板レベルで椎間板、骨棘、後縦靱帯複合物の後方への突出有り、(中略)脊柱管狭窄所見を示す」との所見があるとし、平成23年11月28日に行なわれた前々回のMRI検査(後記本件事故前MRI検査)に比較して狭窄部突出は増悪していると判断した。

(3)原告の後遺障害診断
   C医師は、原告の症状が平成27年1月23日に症状固定したとして、同年6月7日付けの自動車損害賠償責任後遺障害診断書(以下「本件後遺障害診断書」という。)を作成した。本件後遺障害診断書には、傷病名として「頭頸部痛、頭部挫傷、頸肩腕症候群」が、自覚症状として、頭頸部頭痛、めまい及び左手環指・小指の痺れ等が記載されている。

(4)後遺障害認定等級認定結果
   原告が、本件後遺障害診断書を基にいわゆる事前認定手続を行なったところ、平成27年8月20日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、自賠責保険における後遺障害には該当しないとの判断がされた。
   上記事前認定の結果に対し、原告が、被告会社の加入する自賠責保険会社に対し、異議申立てを行なったところ、同自賠責保険会社は、平成28年7月4日付けで、後頭頸部痛、めまい及び左手環指・小指の痺れについて、いずれも後遺障害等級非該当と判断した。

(5)本件事故前の通院歴
   原告は、平成23年11月28日、B病院放射線科においてMRI検査を施行され(以下「本件事故前MRI検査」という。)、C4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められること、正中やや左側優位の突出で神経根の圧迫が疑われることなどの所見が確認された。原告は、同日の診察において頭の痛みなどを訴えていたところ、内科の担当医師は、頸椎椎間板ヘルニアと説明した。


【争点】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時(2)原告の後遺障害等級
(3)原告の損害
(4)過失相殺の適否
   以下、主に上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)本件事故との相当因果関係が認められる原告の症状ないし症状固定時期
   本件事故後に原告に生じた症状のうち、左手環指・小指の痺れについては本件事故との間の相当因果関係を認めることができるが、後頭頸部痛及びめまいのうち平成26年1月29日より後に原告が訴えたものについては本件事故との間の相当因果関係を認めることはできない(詳細は、省略する。)。

(2)原告の後遺障害等級
 ア 原告は、原告に残存した症状のうち①後頭頸部痛及び②左手環指・小指の痺れのいずれもが後遺障害等級14級9号に該当する旨主張するところ、前記(1)のとおり、①平成26年1月29日より後に原告が訴えた後頭頸部痛についてはそもそも本件事故との間の相当因果関係を認めることはできないことから、本件事故との粗糖因果関係が認められないことから、本件事故による後遺障害を認めることはできない。
   したがって、②左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当するか否かを検討する。
 イ 原告には、本件事故前MRIにおいて既にC4/5~C6/7の椎間板の変性と背側への突出が認められ、頸椎椎間板ヘルニアとの診断がされていたが、いずれも本件事故後に行なわれた本件1月MRI検査及び本件10月MRI検査では、本件事故前MRI検査と比して、C4/5~C6/7の椎間板の突出による硬膜嚢の圧迫等が増悪している所見(以下「本件変性所見」という。)が認められた。 原告は、本件変性所見により左手環指・小指の痺れが生じているとするC医師の意見を基に、後遺障害等級14級9号を主張している。
 ウ これに対し、被告らは、D医師の意見書(以下「D意見書」という。)を基に、本件変性所見は、T2強調画像におけるヘルニアの高輝度、後縦靱帯部の損傷、出血等の外傷性変化を裏付ける画像所見が認められないことから、外傷性ではなく経年性のものと認められ、原告の左手環指・小指の症状が本件事故によって生じた本件変性所見によるものであることについての医学的な説明がされていない旨を主張する。
   確かに、本件変性所見について外傷性のものであることを裏付ける画像所見は確認されておらず、本件事故前MRI検査が行なわれた平成23年11月28日から本件事故まで2年以上が経過していたことからすると、本件変性所見が経年性のものであることを否定することはできないから、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に立証されているとはいえない。
   しかし、一般に、後遺障害等級14級9号と認定するためには、当該後遺障害の存在が医学的に説明可能であることを要するが、後遺障害等級12号13号の認定におけるのとは異なり、画像所見等に基づく他覚的な証明までは必ずしも要しないと解され、本件においても、本件変性所見が外傷性のものであることが他覚的に証明されることまでは必要でないというべきである。
   そして、原告が本件事故(注:原告車が被告車に衝突された後水田に落下したという事故態様のもの)により相当程度の衝撃を受けたと考えられることに照らすと、外傷性の画像所見が認められないとしても、本件事故による衝撃が本件変性所見に影響し、これにより左手環指・小指の痺れが発現するに至ったと推認することができるから、このような意味で、本件事故により原告の左手環指・小指の痺れが生ずるに至った機序を説明することができるというべきである。
   したがって、本件変性所見について画像上外傷性の所見が認められないとする被告らないしD意見書の前記指摘をもって、原告の左手環指・小指の痺れが後遺障害等級14級9号に該当し得ることを否定することはできない。
 エ 次に、被告らは、D意見書を基に、本件1月MRI検査からすると、原告のC4/5の椎間板ヘルニアにより圧排される可能性があるのはC5神経根であるが、これは原告の手環指・小指の痺れという症状とは整合せず、また、原告の症状と整合するC8神経症状を発生させる第7頸椎/第1胸椎の椎間板には異常所見は認められない旨を指摘する。
   しかし、C医師は、C4/5の椎間板だけではなく、本件変性所見としてC4/C5~C6/C7の椎間板の突出を指摘している上に、第7頸椎/第1胸椎の椎間板に異常がなければ手環指・小指の神経症状はおよそ生じないとの医学的知見までは認められないから、D意見書の上記指摘を踏まえても、本件変性所見により原告の左手環指・小指に痺れが生じたと考えることに矛盾はないというべきである。
 オ 小括
   以上によれば、外傷性の画像所見までは認められないものの、事故態様からすれば本件事故が本件変性所見に影響を及ぼしたものと推認することができ、D意見書を踏まえても、本件変性所見から原告の左手環指・小指の痺れが生じたと考えて矛盾はないから、C医師の意見を基に、原告に残存した左手環指・小指の痺れの存在を医学的に説明することができるというべきである。
   したがって、原告に残存した左手環指・小指の痺れについて、「局部に神経症状を残すもの」として後遺障害等級14級9を認めるのが相当である。

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