【知的財産】東京高裁平成30年6月13日判決(判例時報2418号3頁)

侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報でも、当該侵害情報の発信者のものと認められるのならば、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」にあたると判示した事例(確定)


【事案の概要】

(1)控訴人(1審被告)は、宗教法人であるAの代表役員であり、Xという通称を使用して書籍の出版等の活動を行っている者である。
   一方で、控訴人は、自ら、ツイッター上に、アカウント名を「X(本名x)、ユーザー名を「@〇〇」、プロフィールを「本名、x。△年生まれ。スピリチャル研究家にして、事業家、教育者、(中略)など、多彩な顔を持つ。Xは神霊家としての名前(中略)書籍も多数。」などとし、顔写真を掲載したアカウントを開設して、使用している。このアカウント(以下「控訴人アカウント」という。)は、平成23年5月に開設された。

(2)被控訴人は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)2条3項所定の特定電気通信役務提供者(特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者)である。

(3)ツイッター上に、氏名不詳者により、アカウント名を「X」、ユーザー名を「@●●」、プロフィールを「Xのプライベートアカウントです。(以下略)」とし、上記(1)と同じ顔写真を掲載したアカウントが開設されている(以下、このアカウントを「本件アカウント」、本件アカウント内にある控訴人の通称名を使用したアカウント名、プロフィール及び上記顔写真を「本件プロフィール等」といい、本件プロフィール等を投稿した者を「本件発信者」という。)。本件アカウントは、平成27年12月に開設された。

(4)控訴人は、ツイッターの運営会社であるツイッター・インク.(米国法人。以下「ツイッター社」という。)を相手方として、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち、平成27年12月以降のもので、ツイッター社が保有するもの全てについて、仮の開示を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てたところ、同裁判所は、平成29年4月12日、その旨の仮処分決定をした。

(5)ツイッター社は、平成29年4月20日、上記(4)の仮処分に基づき、控訴人に対し、IPアドレス及びタイムスタンプを開示した(以下、これらのうち別紙発信者情報目録(略)中の「(別紙)IPアドレス・タイムスタンプ目録」に記載されたものを、ぞれぞれ、「本件IPアドレス」、「本件タイムスタンプ」といい、これらを併せて「本件IPアドレス等」という。)。
   本件IPアドレスは、被控訴人が保有するものである。すなわち、本え件タイムスタンプの年月日及び時刻(日本時間で平成29年1月28日午前3時10分17秒から同年3月28日午前零時48分46秒まで)に、被控訴人の提供するインターネットサービスにより本件IPアドレスが割り当てられて、電気通信の送信がされたことになる。

(6)控訴人が、本訴を提起して、法4条1項に基づき、本件発信者の氏名又は名称及び住所の開示を求めたところ、原判決(東京地裁平成29年11月24日判決。判例時報2418号7頁)は、以下に引用するとおり述べて、原告の請求を棄却した。
   「法の定めの趣旨に鑑みると、法4条1項所定の発信者情報開示請求の要件は厳格に解すべきであり、『当該特定電気通信の用に供される特定電気通信役務提供者』(開示関係役務提供者)に当たるというためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたことが必要であるというべきである。
   これを本件についてみると、本件各送信は、原告の主張する侵害情報である本件投稿の後にログインされたものであることが明らかであるから、被告の管理する特定電気通信設備が当該侵害情報の流通に供されたとはおよそ認め難く、被告を本件投稿との関係で『開示関係役務提供者』であると認める余地はないといわざるを得ない。」


 【争点】

(1)被控訴人が控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているといえるか
(2)本件プロフィール等によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかといえるか
(3)上記(1)の発信者情報が控訴人の損害賠償請求権の行使のために必要である又は上記発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか
   以下、裁判所の判断の概要を示す。
   なお、被控訴人は、上記(1)に関して以下のとおり主張した。
   ログイン情報にすぎない本件IPアドレスが割り当てられた電気通信の送信に係る契約者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
   ツイッターによるログイン型投稿について、当該侵害情報の流通に供された送信の保有がなく、これが特定できないことから、発信者情報の開示に至らないとしても、それは、ツイッターという一つのサービスの仕組みに関する問題にすぎない。


【裁判所の判断】

(1)被控訴人が控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているといえるか
 ア まず、本件IPアドレス等は、本件アカウントにログインした(ログイン情報を送信した)際に割り当てられたものであり、本件プロフィール等の侵害情報そのものを現実に送信した際に割り当てられたものではない。
   この点について、被控訴人は、ログイン情報の送信に係る契約者情報は、法4条1項所定の発信者情報には当たらない旨主張する。
   しかし、
  ①ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし(ログイン情報の送信)、ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)、というものであり、侵害情報の送信にログイン情報の送信が不可欠となること、
  ②法4条1項は、「侵害情報の発信者情報」と規定するのではなく、「権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅をもって規定しており、侵害情報そのものから把握される発信者情報だけではなく、侵害情報について把握される発信者情報であれば、これを開示することも許容されると解されることに照らせば、
ログイン情報を送信した際に把握される発信者情報であっても、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得るというべきである。
   被控訴人の上記主張は、採用することができない。
 イ 次に、本件IPアドレス等は、侵害情報である本件プロフィール等の投稿の後に割り当てられたものであり、本件プロフィール等の投稿の前に割り当てられたものではない。
   そこで検討すると、法4条1項は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の事由、通信の秘密にかかわる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきではなく、また、これがいったん開示されると開示前の状態への回復は不可能となるため、発信者情報の開示請求について、厳格な要件を定めているものと解されるから、法4条1項の発信者情報をたやすく拡張して解釈することは相当でない。
   しかし、上記のとおり、法4条1項は、侵害情報そのものから把握される発信者情報でなくても、侵害情報について把握される発信者情報であれば、これを開示の対象とすることも許容されると解される。
   そして、侵害情報そのものの送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該発信者情報の発信者のものと認められるのであれば、その開示は不当ではないと解されるし、
   また、開示対象となる発信者情報は、本件省令(注:特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令。なお、本件省令1号及び2号は、「発信者その他の侵害情報の送信に係る者」を開示対象として規定している。)で定められるものに限定列挙されており、いたずらに拡大されないように定められている。
   このことに、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るという法4条の趣旨(最高裁平成22年4月8日判決)に照らすと、
侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得ると解するのが相当である。
 ウ そこで続いて、本件IPアドレスから把握される発信者情報が、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認められるか否かを検討する。
   この点、本件アカウントは平成27年12月に開設されたものであるのに対し、本件IPアドレス等は、上記開設時から1年以上も後の平成29年1月28日から同年3月28日まで(日本時間)のものであること、被控訴人の保有する本件IPアドレス等は、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプの一部に過ぎず、本件IPアドレス以外にも、相当数、本件アカウントにログインした際のIPアドレス及びタイムスタンプが存在することが認められる。
   しかし、一般に、同一人が、複数のプロバイダからのIPアドレスを割り当てられながら、1年以上同じアカウントにログインを続けることは、珍しいことではない。そして、上記のとおり、ツイッターの仕組みは、設定されたアカウントにログインし(ログイン情報の送信)、ログインされた状態で投稿する(侵害情報の送信)というものであるから、時的な先後関係にかかわらず、ログイン等と投稿者は同一である蓋然性が高いことが認められる。
   一方、本件アカウントは、後記(2)のとおり、控訴人本人になりすました本件プロフィール等をトップページに表示し続けながら、ツイートを非公開として使用されてきたもので、法人が営業用に用いるなど複数名でアカウントを共有しているとか、アカウント使用者が変更されたとか、上記の同一性を妨げるような事情は何ら認められない。
   このような事実からすると、本件IPアドレスを割り当てられてログインした者は、本件プロフィール等を投稿した者と推定するのが相当であるから、本件IPアドレス等から把握される発信者情報は、侵害情報である本件プロフィール等の投稿者のものと認めるのが相当である。
 エ そうすると、被控訴人は、控訴人の権利の侵害に係る発信者情報を保有しているということができる。

(2)本件プロフィール等によって被控訴人の権利が侵害されたことが明らかといえるか
   本件プロフィール等は、控訴人アカウントとは別に、控訴人の通称のほか、控訴人アカウントに掲載されているものと同じ顔写真を使用し、しかも、「Xのプライベートアカウントです。(以下略)」などと、あたかも、控訴人アカウントを公的なもの、本件アカウントを私的なものとして、いずれも控訴人が自ら開設したものであるかのように装っているものであると認められる。
   このような事実関係からすると、本件プロフィール等によって、控訴人の権利が侵害されていることは明らかというべきである。

(3)上記(1)の発信者情報が控訴人の損害賠償請求権の行使のために必要である又は上記発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか
   控訴人は、本件発信者に対する人格権侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求の準備をしていると認められるから、そのために上記(1)の発信者情報が必要なことは明らかである。

(4)結論
   原判決を取り消した上、控訴人の請求を認容する(請求認容)。

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