【民事】京都地裁平成31年2月5日決定(判例タイムズ1464号175頁)

Facebookの相手方のアカウントに対してメッセージを送信することが、公示送達の要件である通常の調査方法に含まれる旨判示した事例(即時抗告後抗告棄却)


【事案の概要】

(1)申立人(基本事件原告)は、京都地方裁判所書記官に対し、基本事件につき、相手方A及び同人が代表取締役を務める株式会社B(以下「相手方会社」という。)(いずれも基本事件被告)に対する訴状副本等の送達につき、公示送達の方法で行うよう申し立てた(以下「本件申立て」という。)ところ、平成30年12月19日、同書記官が本件申立てを却下する処分(以下「原処分」という。)をしたことから、これを不服として、異議を申し立てた。

(2)本件申立てにおいて、申立人は、以下のとおり、相手方A及び相手方会社の所在調査を行った。
 ア 申立人代理人は、平成30年10月15日、相手方会社の登記簿上の本店所在地である東京都(以下略)所在のビルを訪ねたが、表札に相手方会社の名前はなく、すべての階のテナントが別の会社で埋まっていた。また、周辺に入居する会社に相手方会社についての聞き取りを行ったが、相手方会社の転居先は明らかにならなかった。
   また、申立人代理人は、同日頃、同ビルの管理会社に対し相手方会社の転居先等を電話で問い合わせたが、管理会社は、相手方会社は平成27年8月に入居し、平成29年10月に退去し、転居先は把握していないと回答した。
 イ 申立人代理人は、平成30年10月15日、同月5日時点の相手方Aの住民票上の住所である東京都(以下略)を訪れたところ、同室には別人が居住しており、相手方Aは、同年6月頃に前記〇〇号室から退去していることが判明した。
   また、申立人代理人が、前記〇〇号室の管理会社に対し相手方Aの転居先について電話で問い合わせたところ、管理会社は、個人情報保護を理由に回答を拒んだ。
 ウ 申立人代理人は、平成30年10月18日頃、インターネット上のソーシャル・ネットワーキング・サービスであるFacebook上に、「A’」名のアカウントが存在し、その職歴欄には、相手方会社の代表取締役会長である旨の記載があることを見つけた。そこで、申立人代理人は、裁判所に対し、この「A’」が相手方会社の代表取役である相手方Aと同一である可能性が極めて高い旨を上申した(平成30年10月19日付上申書)。しかし、その「A’」の職歴欄には、それ以外に、現在の就業場所を明らかにする記載はなかった。
 エ 申立人は、Facebook Japan株式会社に対し、前記ウのアカウントに関連付けられた電話番号又はメールアドレスの調査嘱託を申し立て、当裁判所は、申立てを採用し、同社に対し調査を嘱託した。
   これに対し、同社は、自らにはFacebookの利用者記録へのアクセスを及びその内容に関する措置を取る権限を有せず、対応する立場にない、その権限はアメリカ合衆国にある別法人のFacebook Inc.にあり、さらなる問い合わせは同社に直接送付されたいとの回答がなされた。


【争点】

   申立人の上記調査を以て、公示送達の要件を充足しているか(相手方らについて、通常の調査方法を講じても送達場所が判明しなかったといえるか。)。
   裁判所の判断の概要は、以下のとおりである。


【裁判所の判断】

 (1)公示送達の要件について
   公示送達を実施するには、「当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合」(民事訴訟法110条1項1号)である必要があるが、同号にいう「知れない」とは、単に申立人が主観的にこれを知らないだけではなく、通常の調査方法を講じて十分検索したが判明しないという客観的なものであることを要する。
   この点、申立人は、Facebookに「A’」なる人物のアカウント(以下「本件アカウント」という。)が存在し、この者が相手方会社の代表取締役である相手方Aと同一である可能性が極めて高い旨を上申している。
   Facebookは、Facebookのアカウントを有する者であれば、誰でも他人のFacebookのアカウントに対しメッセージを送信することができる機能があるから、申立人は、自ら又は代理人、調査会社等を用いて本件アカウントに対してメッセージを送信することができ、これにより相手方Aに接触を試みることが可能である。しかし、申立人は、本件アカウントに対しメッセージを送信することによる調査は行っていない。
   したがって、現時点では、相手方Aについて、通常の調査方法を講じても送達場所が判明しなかったとは認定できず、公示送達の要件は充足しているとはいえない。
   そして、法人の場所は受送達者である代表者の住所等も送達場所となるから(民事訴訟法37条、102条1項、103条1項)、相手方会社の代表者たる相手方Aにつき未だ所在不明とはいえない以上、相手方会社についても公示送達の要件を充足していないことになる。

(2)この点、申立人は、Facebookにより本件アカウントにメッセージを送信する接触は通常の調査方法に含まれないと主張する。
   しかし、被告の電話番号やファクシミリ番号が判明している場合やその電話番号やファクシミリ番号であることが強く推認される連絡先が判明している場合に、それらを用いて接触を試みることは通常の調査方法であり、電子メールにより様々なやりとりがされている現在では、電子メールにより接触ができる場合もこれと同様に解することができる。  
   本件では、申立人自ら、Facebookという交流サイト上に相手方Aと同一である可能性が極めて高い人物がいる旨の上申をし、その者に対してメッセージを送ることができるのであるから、その場合に、メッセージを送信して接触を試みることが通常の調査方法でないとはいえず、それをしない場合において、客観的に送達をすべき場所が知れない場合に当たるとは認め難い。
   相手方Aが本件アカウントを使用していない可能性があり、メッセージを送信することで、基本事件を提起したこと等を無関係な他人に知られるおそれがあること、メッセージを送信しても返信がされない可能性があること、調査のために調査者自身も一定の情報を開示する必要があることは、電話やファクシミリにより接触を試みる場合でも同様に問題になりうる事項であり、Facebookのメッセージを送信する場合にのみ特に障害になるとはいえないから、これを理由に通常の調査ではないとはいえない。

(3)結論
   以上より、原処分は相当であり、本件申立てにはいずれも理由がないから、これを却下する(申立却下)。

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