【交通事故】横浜地裁平成29年1月30日判決(自保ジャーナル1996号99頁)

見通しの悪い変則交差点付近での、原告バイクと被告車の事故で、被告供述の信用性を否定しつつ、原告に4割の過失相殺を認めた事例 (控訴中)


【事案の概要】

  日時 平成24年3月21 日午後1時38分頃
  場所 横浜市路上(以下「本件事故現場」という。)
  原告バイク 原告の運転する自動二輪車
  被告車 被告乙山の運転する普通乗用自動車(被告会社が顧客から預かったもの)
  事故態様 本件事故現場は、西から北東に湾曲している本件事故現場の道路(以下「本件道路」)に南側に走る道路及び東側に走る道路が交わる変則交差点(以下「本件交差点」)がある。本件道路を、西から走行してきた原告バイクが転倒し、原告バイクが本件道路を北東側から走行してきた被告車と衝突した。


【争点】

(1)事故態様及び過失の有無及び程度
  (原告の主張)
  ・事故態様
   原告が、原告バイクを運転して本件道路を西から東に走行していた際、本件交差点の西側である本件道路上の、別紙交通事故現場見取図1(以下「別紙図面1」という。)記載の【甲】の地点で中学生が3人歩いていたことから、右側に寄って走行したところ、本件道路を北東方向から走行してきた被告車が本件交差点の北東側である別紙図面1の【1】の地点を走行しているのを発見し、危険を感じてブレーキをかけたが、バランスを崩して転倒し、原告バイクが被告車と衝突した。
  ・被告乙山の過失
   見通しの悪い本件事故現場において、道路の中央付近を走行し、原告バイクを転倒させた過失がある。
  ・原告の過失
   本件事故現場の状況から、原告には徐行義務はない。また、被告車が本件道路の中央を越えて、相当の速度で走行してきたため、原告は、被告車を発見すると同時に事故回避措置として急制動を試みた。以上から、原告には過失はない。
  (被告らの主張)
  ・事故態様
   別紙事故現場見取図2(以下「別紙図面2」という。)のとおり、被告乙山は、被告車を運転して本件道路を北東から西に向かって走行し、本件交差点の手前に至った時、本件交差点の西側である別紙図面2の【甲】の地点に黒い車が止まっており、すれ違いが困難であったことから、本件道路の左側に寄って停車した。そして、黒い車の横を通ってきた原告バイクが、本件交差点付近でバランスを崩して転倒し、滑走して被告車に衝突した。
  ・被告乙山の過失
   本件事故は原告の自損事故であり、被告乙山に過失はない。
  ・原告の過失
   本件事故現場の状況(上り坂の頂上、見通しの悪い急な左カーブ)から、原告は、徐行義務を負っていた。さらに追い越しが禁止されていた場所であったにもかかわらず、原告は、黒い車を追い越し、道路左端に寄らずに中央付近を走行し、運転操作を誤った過失がある(過失割合9割程度)。 

(2)原告の被った人的損害
  (原告の主張)
  ・休業損害
   原告は、B市交通局に勤務するバスの運転手である。
   平成24年4月1日から同年10月31日(症状固定日)までの間の、超過勤務手当、夜勤手当及び休日給が、前年同期と比べて、39万3808円減った。
  ・後遺障害逸失利益
   後遺障害の内容は、①左足関節の可動域制限及び神経症状、②左膝関節の機能障害及び神経症状である。これらの障害が、それぞれ後遺障害等級表12級に該当又は相当する。 
   労働能力の喪失について、原告は、B市営バスの運転手であり、運転の際には左足首と左膝に相当の力を要するものである。原告は、痛みに耐えながらバス内の点検作業等を行っており、本件事故後、減収している。
   よって、原告は、症状固定時である42歳から67歳までの25年間(ライプニッツ係数14.0939)にわたり、労働能力14%を喪失した。
  ・慰謝料
   被告乙山は、本件事故後に110番通報をせずに救護措置を一切とらず、謝罪もしていない(慰謝料増額事由)。
   よって、傷害慰謝料は、180万円、後遺障害慰謝料は、350万円が相当である。 
  (被告の主張)
  ・休業損害
   不知ないし争う。
  ・後遺障害逸失利益
   争う。原告の後遺障害は、後遺障害等級表14級9号に該当するものである。また、労働能力を喪失したとしても、5%を5年間喪失した程度である。
  ・慰謝料
   争う。被告乙山は、本件事故後、黒い車の運転手や同乗者らと一緒に原告バイクを歩道上に移動させた。
   よって、傷害慰謝料は、124万円、後遺症慰謝料は、110万円が相当である。


【裁判所の判断】

(1)事故態様及び過失の有無及び程度
  ・事故態様
   別紙図面1に基づいて、概ね原告の主張に沿った事故態様を認定した。
   なお、事実認定の補足説明として、以下の説明を述べている。
   被告らは、「別紙図面2の【甲】の地点に黒い車が止まっており(中略)道路の左端に寄って停車していた」などと主張する。しかし、被告乙山が本件事故当日に立ち会って作成された実況見分調書には、黒い車が記載されていない。また、上記実況見分での説明と本人尋問での供述とが変遷しており、被告乙山本人(兼被告会社代表者)の上記供述は信用することができない。
  ・被告乙山の過失
   原告バイクと被告車が衝突した別紙図面1の【×】の地点は、全幅6.3㍍の本件道路の南東の端から約2.9㍍の地点であることから、右前方の角が同地点にある被告車は本件道路の中央を越えてはいないが、被告車はその前に本件道路の中央である別紙図面1の【1】の地点付近を走行していたことが認められる。
   被告乙山は、見通しの悪い本件事故現場において、道路の中央付近を走行し、原告バイクを転倒させた過失がある。   
  ・原告の過失
   原告が、原告バイクのブレーキやハンドルを的確に操作すれば、停止又は被告車と歩道の間(注:別紙図面1の【1】の地点において、原告バイクから見て被告車の左側は、歩道の縁石と約2㍍の距離が開いていた、被告車が別紙図面1の【×】の地点で停止した際、原告バイクから見て被告車の左側は、歩道の縁石と約3.4㍍の距離が開いていたと認定している。)を通ることで本件事故を回避できたといえる。よって、原告には、過失がある。
   なお、原告バイクは、本件道路の北側の路側帯から約3㍍の地点であり、本件交差点内である別紙図面1の【イ】の地点(注:原告が、別紙図面1の【1】の地点を走行する被告車を発見した地点)を走行したことが認められ、原告には、道路の左端に寄って走行する義務を怠った過失がある。しかし、原告が上記の地点を走行した理由は、本件道路の左側を歩いていた3名の中学生を避けるために右に寄り、安全な間隔を保って走行するためであったのであるから、上記事情をもって、原告の過失割合を大きく加重しない。
  ・過失割合
   原告40%、被告乙山60%

(2)原告の被った人的損害
  ・休業損害
   原告の主張したとおりに認定した。
  ・後遺障害逸失利益
   ①左膝の疼痛等の神経症状は、後遺障害等級表12級13号に、②左足関節痛等の神経症状は同表14級9号の後遺障害に該当→後遺障害等級表併合12級に該当する。
  ・慰謝料
   傷害慰謝料145万円、後遺障害慰謝料290万円
   慰謝料増額については、被告乙山が、原告や原告バイクを歩道上に移動させた事実は認められないものの、本件証拠上、原告と被告乙山のどちらが110番通報等をしたのか明らかでないことなどから、認めなかった。

(3)原告の被った物的損害について
   原告の主張する損害額(時価額)を認定した上で、4割の過失相殺をした。


控訴審の東京高等裁判所は、双方の過失割合を、1審原告45%、1審被告乙山55%と判示した(確定)。

 ア 本件事故直前の状況としては、別紙図面1の【甲】の部分に歩行者がいた。
   この点、1審原告は、別紙図面1の【甲】の地点に中学生が3人いた旨主張・供述(原審・1審原告本人(証拠略))するが、この主張・供述は、裏付ける証拠を欠き、実況見分の指示(証拠略)にも反するもので、そのような説明が変遷した合理的理由もうかがわれないことから、採用することができない。
   他方、1審被告らは、別紙図面2の【甲】の地点に黒い車が止まっていた旨主張し、1審被告乙山は、これに沿う後述(原審・1審被告乙山本人(証拠略))をするが、この主張・供述は、裏付ける証拠を欠き、実況見分の指示(証拠略)にも反するもので、そのように説明が変遷した合理的理由もうかがわれないことから、採用することができない。
 イ 以上を前提に双方の過失割合を検討すると、1審被告乙山は、1審被告車を運転するに際して、本件道路の中央寄りを進行し、他方、1審原告も、本件道路の中央寄りを進行したため、1審原告は、1審被告車との衝突を避けようとした結果、1審原告バイクの的確な運転操作を誤り転倒して1審被告車と衝突してしまったものであるところ、1審原告において、1審被告車を発見した地点に至る直前、進行方向の道路左側に歩行者を認め、これを避けるため、本件道路の中央寄りを進行したこと自体はやむを得ないものであったことを考慮すると、双方の過失割合は、1審原告45%,1審被告乙山55%とするのが相当である。

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