歩道を駆けてきた原告(当時小学校2年生)が、歩道と接続する私道に向けて進行していた被告運転の自転車前方方向へ避けようとしたところ、私道入口付近角に設置されていた看板に接触して転倒した事故において、原告に6割の過失があると判示した事例(確定)
【事案の概要】
(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
ア 発生日時 令和2年11月18日午後2時32分頃
イ 発生場所 東京都品川区内の公道が丁字路状に交差する、信号機による交通整理の行われていない交差点(以下「本件交差点」という。)。
本件交差点には、東側と南側から片側1車線の公道が、西側から1車線のみの一方通行道路(以下「本件一通道路」という。)が接続し、
本件交差点の北側には東西を貫く形で歩道(幅員約3.0m。以下「本件歩道」という。)が設けられているが、
本件交差点の北西角付近から本件歩道の北側に向けて私道(以下「本件私道」という。)が延びている。
ウ 当事者1 被告Y1(平成18年9月生。当時中学校2年生)運転の自転車(以下「被告自転車」という。)
エ 当事者2 原告(平成25年2月生。当時小学校2年生)
オ 事故態様 原告が、本件一通道路方向(注:西側から東側の方向)から本件歩道を駆けてきたところ、
本件私道に向けて本件歩道を南側から北側に横切るように進行した被告自転車と進路が輻輳し、
原告が北側の被告自転車前方方向へ避けようとしたところ、本件私道入口付近角の東側に設置されていた美容室の看板に接触するなどして転倒した(以下「本件転倒事故」という。)。
(2)原告は、本件事故により、右上腕骨近位端骨折等の傷害を負い、令和2年11月18日(事故当日)、B病院整形外科を受診し、令和3年2月27日まで、同病院に通院した(実通院日数:14日間)。
(3)原告は、本件訴えを提起して、原告が本件転倒事故により骨折等の傷害を負ったのは、被告自転車が原告の通行を妨げたためであり、被告自転車の走行に係る被告Y1の注意義務違反及びその両親で保護者である被告Y2及び被告Y3(以下「被告両親」という。)の監督義務違反によるものであるとして、被告らに対し、それぞれ民法709条、719条1項に基づき、連帯して、本件転倒事故による損害とする149万1,697円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
【争点】
(1)本件転倒事故に対する下記の責任の有無等
ア 被告Y1の責任の有無・過失割合(争点1-1)
イ 被告両親の責任の有無(争点1-2)
(2)原告の損害(争点2)
以下、裁判所の判断の概要を示す。
なお、本件転倒事故の態様についての各当事者の主張は、以下のとおりである。
ア 原告の主張
被告Y1は、本件歩道を東側から走行してきたところ、本件私道に向けて右折するために本件歩道内で急に右に進路変更した。
イ 被告らの主張
被告Y1は、左右の安全を確認して被告自転車を本件私道に進行しようとすると、突然、原告が被告自転車の前に飛び出してきたため、被告Y1は被告自転車の急ブレーキをかけたところ、原告が進行方左側によけて美容室の看板につまずいて転倒した(なお、被告Y1は、自らの無過失を主張している。)。
【裁判所の判断】
(1)争点1-1(本件転倒事故に対する被告Y1の責任の有無・過失割合)について
ア 本件転倒事故の態様について
a)認定事実
被告Y1は、被告自転車を運転して、本件交差点に東側から接続する公道の車道南端を進行してきて、そのまま南側から接続する公道を渡り、本件交差点西側の本件一通道路出口付近に設けられた自転車横断道と横断歩道(以下「本件横断歩道等」という。)を北西方向に斜めに横切って本件横断歩道等の西端付近から北側に延びる本件私道に入り、本件私道の先の塾に向かおうとしていた。
被告Y1は、本件横断歩道等を渡る前に、南側公道を渡るべく未だ西方向を向いていた時点で、右側前方の本件一通道路北側の本件歩道約20m先に、大人数名の集団と小学生数名の集団がいるのを認めた。
被告Y1が本件横断歩道等を北側に渡って本件歩道に乗り入れようとする頃、さきの大人と小学生の各集団との距離は数m程度に近づいていたが、小学生が走っているかは確認しなかった。被告Y1が、これらの集団との距離にまだ余裕があると思って、同午後2時33分頃、本件歩道から本件私道の方向へ被告自転車を進めたところ、折から原告が、他の小学生1名ととともに、本件歩道を駆けてきた。
他方、原告は、本件歩道の車道寄りから歩道寄りへ斜めに駆けながら、本件歩道と本件一通道路の車道部分との境目付近を駆けている友人のほうへ1度向いた後に、前に視線を戻すと、折から自身の進行方向の右側から左側へ進もうとしている被告自転車の存在を認めた。
原告が、駆けたまま左側の本件私道方向へと逃げようとする一方、原告の存在に気付いた被告Y1は被告自転車の制動措置を講じたところ、原告は、被告自転車とは接触せずに、その直ぐ前を通り過ぎたが、本件私道入口の東端に置かれていた美容室の看板との間を通り抜けようとしたものの、左脚を当該看板に引っ掛ける形になり、転倒した。
b)補足説明
被告Y1の供述は、
・被告自転車の本件私道への進入角度や原告との距離感を含む防犯カメラの客観的な記録と整合し、
・自身にとって必ずしも有利でない事実もありのままに供述している
ものと認められ、十分に信用することができる。
原告の供述は、
・被告自転車が本件歩道の外側(車道から離れた側)を走行してきて本件私道方向へと進路を変えたとする実況見分の指示説明部分は、防犯カメラの記録内容と整合していない、
・原告は、車道側を共に駆けていた友人の方へ目を向けていた時間があったことを自認していて、被告自転車の動向を目にしていたのは、本件転倒事故直前に至ってであると解される
から、原告主張の被告自転車の挙動は採用することができない。
イ 被告Y1の責任の有無・過失割合について
a)被告Y1の責任の有無
歩道においては歩行者の保護が図られていて、自転車等の車両は、道路外の施設に出入するためやむを得ない場合に横断するとき等にあっても、歩行者の通行を妨げないようにしなければならないとされていること(道路交通法17条1項ただし書、2項)に鑑みれば、特に突然動きを変えることが常にあり得る小学生の児童が十数mの距離に存在することを認めながら、その動静からわずかの間でも目を離したために、原告の進路を狭くし、その結果、本件転倒事故に至らしめた過失は認められるというべきである。
b)過失割合
もっとも、
・原告が駆けていたのは歩行者の保護が図られている本件歩道上であるとはいえ、公共の交通に供されている場であって、公園内等とは異なって、駆けっこその他の遊びが無制限に許容されているわけではないこと、
・原告は、本件歩道が東西を貫いている場所とはいえ、本件交差点に入るに当たって右側を共に駆けていた友人に気を取られ、被告自転車を含む周囲の通行車両等に十分注意を及ぼしていなかったこと、
・その結果、被告自転車の存在に気付くのにも遅れ、駆けたまま、歩行者の保護の図られる域外の本件歩道外にまで出て美容室の看板に脚を取られた結果、本件転倒事故に至っていること
に照らすと、本件転倒事故に至ったのは、原告自身の責任によるところも大きいといわざるを得ない。
そして、
・被告自転車の速度は低速であったもので、被告Y1は原告と接触すること自体を免れる形では制動措置を講じられていること、
・原告が本件転倒事故に至ったのは、原告自身があえて被告自転車の進路の方向に逃げるなど、その回避方法も適当はいえなかったこと
を考慮すれば、原告が当時小学校低学年の児童であったことを十分に考慮しても、本件転倒事故に対しては原告自らに6割の過失があるというべきであり、民法722条2項に基づき、被告Y1の負うべき損害賠償額から同割合の過失相殺を施すのが相当である。
(2)争点1-2(本件転倒事故に対する被告両親の責任の有無)について
ア 東京都内においては、令和2年4月1日から未成年者の子が自転車を利用するときは、保護者において自転車の利用によって生じた他人の生命または身体の損害を賠償する自転車損害賠償責任保険等への加入が義務付けられていたことが認められるところ、これは、近時、自転車による事故の損害賠償が高額化する事例が散見されることに鑑み、被害者の保護に欠けることのないよう、保険加入が義務付けられたものと解される。
イ このような保険加入義務化の趣旨に鑑みれば、同日以降、東京都内において、自転車損害賠償責任保険等に加入しないままその保護する子に自転車を運転させていた保護者は、その一事をもってしてもその子のする自転車の運転に対する監督義務を果たしていないものというべきである。
ウ 本件事故当時、自転車損害保険賠償責任保険等に加入しないまま被告Y1に自転車を運転させていた結果、原告を本件転倒事故に至らしめたことについては、被告両親にも共同不法行為責任があるというべきである。
(3)争点2(原告の損害)について
ア 医療雑費 略
イ 通院交通費 略
ウ 付添費 略
エ 文書取得費用(刑事記録謄写手続のための交通費を含む。) 略
オ 通院慰謝料 70万円
原告は、令和2年11月18日の本件転倒事故により受傷した骨折が、令和3年1月26日までには概ね治りつつ、痛い場合には1ヶ月後にまた診察を受けるようB整形外科から促されて、同年2月27日に再度通院したが、同日をもって通院を終了した。このような診療経過に鑑みると、原告の通院慰謝料額は70万円をもって相当である(注・赤い本別表Ⅰによる通院3か月の慰謝料:73万円)。
(4)結論
原告の請求は、被告らに対し、連帯して、合計36万8,106円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。
【コメント】
本裁判例は、歩道上の事故であり、かつ、原告が当時小学校低学年の児童であったにもかかわらず、原告が本件歩道を友人とともに駆けていたなどの本件転倒事故に至るまでの経緯を重視して、原告に6割の過失があるとの判断に至ったものと考えられます。
なお、本裁判例は、令和2年4月1日から、「東京都自転車の安全で適正な利用の促進に関する条例」(以下「本条例」といいます。)が改正されたことから、「同日以降、東京都内において、自転車損害賠償責任保険等に加入しないままその保護する子に自転車を運転させていた保護者は、その一事をもってしてもその子のする自転車の運転に対する監督義務を果たしていない」と判示しています。
しかし、①本条例は、広く一般の自転車利用者を対象とするものであり、未成年者の子の保護者のみに義務を課すものではないこと、②一般に、自転車事故は、自動車事故と比べて、人身損害額が低額であり、保険未加入でも直ちに賠償能力に欠けるとはいえないことを考慮すると、本条例違反から直ちに民法上の監督義務不履行を導くことについては議論の余地があるものと思われます。