原告らの使用者である請負事業者は自ら独立して請負事業者として原告らを指揮命令し、当該請負契約の相手方は労働者派遣の役務の提供を受けていないものと判示して、原告らの労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく請求を棄却した事例(控訴審係属中)
【事案の概要】
(1)被告は、運送を主たる業務とする株式会社である。
A社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。A社は、昭和36年12月から、貨物自動車運送事業法の許可(当初は認可)を得て同事業を継続し、平成12年11月からは、高圧ガス製造事業の許可を得て同事業を継続しており、タンクローリーを使用して高圧ガスの製造及び運送を行うなどしている。
原告らは、いずれもA社の従業員である。
(2)被告は、平成12年12月20日、A社との間で、被告の指定する高圧ガスを、被告の指定する場所で受け入れ、被告の指定する場所まで運送し、納入先に納入を完了する業務及びこれに附帯する一切の業務(以下。併せて「本件運送業務」という。)をA社に委託し、A社がこれを受託する旨の業務委託基本契約(以下「本件業務委託契約」といい、その際に作成された契約書を「本件業務委託契約書」という。)を締結するとともに、本件業務委託契約に基づく運送料についての覚書及び保安に関する覚書を取り交わした。
原告らは、本件運送業務に従事している。
(3)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働社の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1項は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合(ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が上記各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りでない。)には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす旨を定めている。
そして、同項5号は、「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」と定めている。
(4)厚生労働省の告示である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「37号告示」という。)2条は、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分について、下記のとおり規定している。
記
請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業者であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次の各号のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とする。
一 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。
イ 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
b)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
ロ 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
b)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
ハ 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
b)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
二 次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。
イ 業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
ロ 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
ハ 次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。
a)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
b)自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
(5)原告らは、被告に対し、令和2年1月29日到達の内容証明郵便をもって、本件業務委託契約が労働者派遣法40条の6第1項5号に該当するとして、被告からの直接雇用の申込みを承諾する旨の意思表示をした。
(6)原告らは、訴えを提起し、
被告は、労働者派遣法の適用を免れる目的で、業務委託の名目でA社との間で契約を締結し(偽装請負)、労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに原告らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから、労働者派遣法40条の6第1項5号に基づき、原告らに対して労働契約の申込みをしたものとみなされるところ、原告らはこれを承諾する意思表示をしたとして、
被告に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。
【争点】
(1)被告は労働者派遣の役務の提供を受けていたものか否か(争点1)
(2)被告には労働者派遣法等の規定の適用を「免れる目的」(労働者派遣法40条の6第1項5号)があったか否か(争点2)
以下、裁判所の判断の概要を示す。
【裁判所の判断】
(1)争点1(被告は労働者派遣の役務の提供を受けていたものか否か)について
ア 原告らの主張について
原告らは、37号告示に照らせば、A社は自ら独立して請負事業者として原告らを指揮命令しているとはいえず、単に原告らの労務を被告に提供しているにすぎないのであって、被告は労働者派遣の役務の提供を受けていたものである旨主張する。
以下、検討する。
イ 37号告示2条1号イ(
次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
b)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
)について
a)A社は、被告からの注文表を受け、各従業員の出勤日、休暇休日、月間の運送距離等を考慮して、従業員の乗務割を決定し、注文表に各常務を担当する従業員の氏名を記載して被告に返信し、さらに、上記乗務割に従って被告が作成した搭乗票(案)の内容を確認し、特に異議がなければ同案のとおりの搭乗票とするが、申入れにより変更されることもあるというのであるから、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行う」ものに該当すると認められる。
b)また、A社は、原告らから、各日、輸送日報、走行距離報告書、給油伝票、日常点検記録表及び移動式製造設備等安全日誌の提出を受けているのであるから、「労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行う」ものに該当すると認められる。
c)そうすると、A社は「業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
ウ 37号告示2条1号ロ(
次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
b)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
)について
A社は、原告らに休暇届を提出させたり月間の運送距離等を記載した配車検討記録を作成した上で、その出勤日、休暇休日、月間の運送距離等を考慮した乗務割を決定し、出社時と退社時にはタイムカードに打刻させ、各日の業務終了時には輸送日報等を提出させるなどして実労働時間を把握していたものであるから、「労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
エ 37号告示2条1号ハ(
次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
a)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
b)労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。
)について
A社は、原告らの労働条件、服務規律その他就業に関する事項を就業規則に定めるなどしており、「企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
オ 37号告示2条2号イ(
業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。
)について
A社は、ローリー車に係る各種費用等を負担しており、B車庫(注:被告の営業所内でA社の従業員が自家用車やローリー車を駐車する場所である。)に係る土地の賃貸借契約(当初の賃料は月額20万6000円)に基づいてこれを使用しているものである上、有料道路使用料を被告が負担することは国土交通省の指導にかなうものであり合理性があるというべきである。
したがって、A社は、その事業運転資金等を全て自らの責任で調達し、かつ、支弁しているものと認められるから、「業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁する」ものということができる。
カ 37号告示2条2号ロ(
業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
)について
本件契約書には、本件運送業務中に生じた事故等によって第三者に及ぼした損害は、A社の責任において解決し、被告等に対して迷惑をかけない旨の定めがあるところ、A社は、本件運送業務中の自動車事故に備えて、ローリー車に係る自賠責保険や任意保険に加入して各保険料を負担し、原告らが発生させた本件運送業務中の事故について、その対応を行い、上記保険を利用するなどして被害者に対する損害賠償義務を履行したというのであるから、A社は「業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う」ものということができる。
キ 37号告示2条2号ハ(
次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。
a)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
b)自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
)について
A社は、ローリー車に係る各種費用等や自賠責保険及び任意保険の保険料を負担しており、また、昭和36年12月から貨物自動車運送事業法の許可(当初は認可)を得て同事業を営み、平成12年11月には高圧ガス保安法の許可を得て、以後、高圧ガス製造業務を行っているものであるから、「自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理する」又は「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理する」ものに該当すると認められる。
そうすると、A社は「単に肉体的な労働力を提供するものではない」ということができる。
ク 小括
前記イ~キのとおり、37号告示に照らして検討すると、A社においては自ら独立して請負事業者として原告らを指揮命令しているものと認めるのが相当であり、単に原告らの労務を被告に提供しているにすぎないものということはできないから、結局、被告は労働者派遣の役務の提供を受けていた旨の原告らの主張を採用することはできない。
(2)結論
その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない(請求棄却)。
【コメント】
本裁判例は、原告らの使用者である請負事業者(A社)は自ら独立して請負事業者として原告らを指揮命令し、当該請負契約の相手方(被告)は労働者派遣の役務の提供を受けていないものと判示して、原告らの労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく請求を棄却した事例です。
37号告示に照らして、認定事実を丁寧に当て嵌めた上で、上記の結論を導いています。