日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている者に労働者派遣法40条の6第1項5号所定の偽装請負等の目的があったことが推認される旨判示した事例(上告審係属中)
【事案の概要】
(1)被控訴人(一審被告)は、大正8年11月17日に設立された、ビニールタイル等の各種床材、カーペット等の各種床敷物の製造、販売等を目的とする株式会社である。
有限会社L(以下「L社」という。)は、平成10年6月9日に設立された、巾木(床と壁の継ぎ目で壁の最下部に取り付ける細長い横板)、床材の製造の請負業務等を目的とする特例有限会社であり、代表取締役社長はC「以下「C社長」という。」である。なお、被控訴人とL社との間には、資本関係や役員の兼任等の人的関係はない。
控訴人(一審原告)らは、平成10年11月20日から平成25年9月13日の間に、L社に入社し、巾木の製造及び検査(以下「巾木工程」という。)又は床材の接着剤の製造(以下「化成品工程」という。)に従事していた。
(2)被控訴人は、平成11年3月30日、L社との間で、木製造及び加工に関する業務請負契約を締結し、平成19年4月1日及び平成28年4月1 日、上記の業務請負契約の内容を改訂する内容の覚書を取り交わした(以下、これらを総称して「本件業務請負契約1」という。)。
被控訴人は、平成22年8月1 日、L社との間で、接着剤製造及び加工に関する業務請負契約を締結し、平成28年4月1 日、上記の業務請負契約の内容を改訂する内容の覚書を取り交わした(以下、これらを総称して「本件業務請負契約2」という。)。
控訴人A1、控訴人A2、控訴人A3、控訴人A4及び控訴人A5(以下「控訴人ら」という。)は、L社に入社以降(注:最も早い入社日は、控訴人A4の平成10年11月20日である。)、被控訴人のD工場において、巾木工程又は化成品工程に従事していた(注:控訴人A4は、平成11年1月末頃から、巾木工程に従事していた。)。
(3)L社は、本件業務委託契約1について平成29年2月28日をもって終了させることとし、同年3月1日、被控訴人との間で、派遣先をD工場、業務内容を巾木工程製造作業、派遣期間を同日から同月30日までとする労働者派遣個別契約を締結し、控訴人らを含む12名を巾木工程に派遣した。
一方、本件業務委託契約2は、同月31日まで継続し、同日をもって終了した。これに伴い、控訴人らは、L社から、同月30日限り他の従業員らとともに整理解雇された。
(4)控訴人A1、控訴人A2、控訴人A3及び控訴人A4は平成29年3月21日、控訴人A5は同年8月21日、被控訴人に対し、本件業務請負契約1・2が労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(ただし、平成24年法律第27号による改正後のもの。以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1項5号に該当するとして、被控訴人からの直接雇用の申込みを承諾するとの意思表示をした。
なお、労働者派遣法40条の6第1項5号は、労働者の役務の提供を受ける者が、同項1号から5号までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす規定で、
同項5号は、「この法律又は次節の規定により適用される法律の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」と定めている(以下、同項5号の要件のうち、上記目的を「偽装請負等の目的」、請負その他の労働者派遣以外の名目で契約を締結し、上記のとおり役務提供を受けることを「偽装請負等の状態」という。)。
同条の6は、平成24年法律第27号により新設され、平成27年10月1日に施行された。
(5)控訴人らは、本件訴えを提起し、被控訴人に対し、労働者派遣法40条の6第1項5号、同項柱書に基づき、控訴人らと被控訴人との間に原判決別紙1(略。以下同じ。)「労働者契約一覧」記載の各労働契約が存在することの確認及び平成29年4月1日から本判決確定の日まで、毎月末日限り、原判決別紙1「労働契約一覧」各賃金欄記載の賃金の支払を求めた。
(6)原判決(神戸地裁令和2年3月13日判決・労働判例1223号27頁)は、巾木工程及び化成品工程は、平成29年3 月頃には偽装請負等の状態にあったということはできないと判示して、控訴人らの請求を棄却した。控訴人らは、原判決を不服として控訴した。
【争点】
(1)巾木工程及び化成品工程は、遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったか(争点1)
(2)被控訴人には偽装請負等の目的があったか(争点2)
(3)控訴人らの労働条件(争点3)
(4)控訴人A5の承諾の意思表示の時期(争点4)
以下、主に上記(1)及び(2)についての裁判所の判断の概要を示す。
【裁判所の判断】
(1)争点1(巾木工程及び化成品工程は、遅くとも平成29年3月頃には偽装請負等の状態にあったか)について
ア 判断枠組み
労働者派遣法2条1号は、「労働者派遣」の意義について、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」と定めている。
一方、請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を支払うことを約するものであり(民法632条)、請負人に雇用されている労働者に対する指揮命令は請負人に委ねられている。
よって、請負人による労働者に対する指揮命令がなく、請負人がその場屋内において労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせているような場合には、請負人と注文者との間において請負契約という法形式が採られていたとしても、これを請負契約と評価することができない。労働者派遣と請負との区別については、本判決別紙4(略)の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準を定める告示」(昭和61年労働者告示第37号。平成24年厚生労働省告示第518号による改正後のもの。以下「本件区分基準」という。)が公表されている。本件区分基準は、労働者派遣法の適正な運用を確保するためには労働者派遣事業に該当するか否かの判断を的確に行う必要があるという観点から同法の行政解釈を示したものであり、その内容には合理性が認められるから、本件においても、これを参照するのが相当である。
イ 本件での検討
a)L社が自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであるか否かについて
①本件区分基準2条―イに定める請負の要件について
以下の点をみれば、L社と被控訴人による本件業務請負契約1・2により定めた方法により、被控訴人のL社に対する業務遂行上の指示が遂行責任者を通じてなされていたようにも見える。
・平成26年頃以降、L社の遂行責任者として、巾木工程にはG常勤主任が、化成品工程にはK主任が配置されていたこと(注:これらの者は、いずれもL社の従業員である。)
・被控訴人は、巾木工程及び化成品工程に製造依頼書を交付し、巾木工程のG常勤主任及び化成品工程のK主任が週間製造日程表を作成していたこと
・D工場製造課等と巾木工程及び化成品工程との日常的な連絡は、巾木工程ではK主任の名称のアドレスを、化成品工程ではD工場巾木工程の名称のアドレスを使用し、製造課等とG常勤主任及びK主任との間でメールの送受信がされており、製造課等とL社の従業員個人との間でメールの送受信がされることはなかったこと
・D工場製造課の担当従業員は、巾木工程及び化成品工程の製造過程における留意点等をまとめた「伝達事項」を作成してG常勤主任及びK主任に交付し、これらが各作業場の掲示板に掲載されていたこと
しかしながら、D工場において、主任を通じて現場の各従業員に情報が伝達するという方法が、巾木工程及び化成品工程に限られていたことを認めるに足りる証拠はない。組織において、業務に関する情報が職制を通じ、上長から伝達されることは通常のことであり、被控訴人が、巾木工程及び化成品工程において、G常勤主任やK主任との間で情報をやりとりし、その支配下のL社の従業員とは直接やりとりをしてなかったからといって、被控訴人がL社の従業員に対し指示を行っていなかったことになるわけではない。むしろ、伝達された情報の内容をみれば、被控訴人の技術スタッフの作成した伝達事項の内容は、具体的な作業手順の指示であったと認められる(被控訴人は、伝達事項は被控訴人とL社との間で協議し、確定した事項について、書面によりL社に通知しているものにすぎないと主張するが、巾木工程及び化成品工程において、被控訴人からの伝達事項とは別にL社が独自のノウハウや専門的知見に基づき具体的な作業手順を検討し、考案するなどしていた形跡はないから、形式的に「協議」という形をとっていたとしても、その実態は被控訴人による具体的な業務遂行上の指示であったと評価するほかはない。)。さらに、リップ会議(注:リップは巾木を成型する金型であり、長期使用により、メッキ加工部に摩擦や劣化が生じ、巾木に筋が発生するなどの不具合が生じるために、定期的に交換やメッキ化等のメンテナンスが必要となるために、巾木工程で、1か月に1回程度開かれてた、リップのメンテナンス等に関する会議のことである。)の開催やダイスの分解掃除については、被控訴人の従業員から、直接、L社の従業員に対する具体的な指示がされていたことは明らかである。
したがって、L社は、巾木工程及び化成品工程において、業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行っていたと認めることはできないから、本件区分基準2条一イに定める請負の要件は満たされていない。
②本件区分基準2条―ロに定める請負の要件について
以下の事実が認められる。
・労働者の施行及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関しては、L社の従業員との労働契約の条件に従って行われており、L社の従業員の勤怠管理は、被控訴人とは別に、L社が行っていたこと
・L社の従業員の時間外労働については、平成28年4月以降、C社長は事前の許可を求めていたこと
しかしながら、C社長がリップ会議の開催に疑問を持っていたことからうかがわれるように、L社が管理支配していないリップ会議にL社の従業員が出席していたこと、リップ会議後、F(注:被控訴人の従業員)がL社の従業員に対し残業時間を伝えていたこと、平成28年12月1日、プリント巾木工程で大量の不良品が発生し、巾木工程の生産予定を変更する必要が生じた際、C社長やG常勤主任がこれに関与していた事実は認められないこと、これらに加え、化成品工程の残業に関し、平成28年11月にC社長と被控訴人の製造課長が行った打ち合わせの内容に照らすと、C社長は、L社の従業員の労働実態を把握、管理しておらず、不要な残業をなくすことについても、一般的・抽象的な呼びかけをすること以外にL社として現場の実態や個々の従業員の稼働状況に即した具体的な指導を行っていない。
したがって、L社は、単に労働者の労働時間を形式的に把握していたにすぎず、労働時間を管理していたとは認めることはできないから、本件区分基準2条一ロに定める請負の要件も満たされていない。
③本件区分基準2条―ハに定める請負の要件について
L社の従業員が事故を惹起した場合には、L社の常務主任又は主任が被控訴人対して報告するとともに、当該従業員を指導していたことが認められるが、C社長に伝えられていたことや、これに基づき、L社として、従業員の服務規律に関する指示が行われていたことを認めるに足りる証拠はない。
また、請負であれば、L社の従業員が有給休暇をとる場合において仕事の完成を確保するための応援者を手配することはL社の責任で行うべき事項であると考えられるが、2名しか配属されていない化成品工程においてA5が有給休暇をとる場合の応援者の手配は、被控訴人の従業員であるI係長に連絡することにより行われており、C社長が関与していた形跡はない。
これらの点に照らすと、本件区分基準2条一ハに定める請負の要件も満たされているとはいえない。
b)L社が請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであるか否かについて
・本件業務請負契約1・2の請負代金は、巾木工程及び化成品工程とも定額であり、製品に不具合が生じた場合、L社から被控訴人に対して報告等がされていたが、本件業務請負契約1・2に基づきL社が一度でも被控訴人から請負人としての法的責任の履行を求められた形跡はないから、実態として、L社が請負契約に基づく請負人としての法律上の責任を負っていたとは認められない。
・巾木工程及び化成品工程の製品の原材料をL社が自ら調達していたということはできない。また、L社は、被控訴人から現場事務所を無償で貸与され、巾木工程及び化成品工程の製造ラインを月額使用料2万円として被控訴人から賃借していたが、月額使用料2万円の根拠は不明であり、製造機械の貸与について、修理費の負担については何ら定めがなく、被控訴人が修理費の一切を負担していたと認められ、これに反する証拠はない。したがって、L社が、原材料や製造機械を自己の責任や負担で準備し、調達したと評価することはできない。
・L社の従業員は、巾木工程でL社の従業員だけになった後は、主任を中心に工程内教育・指導を行っていたが、平成29年2月、被控訴人から増産要請があり、C社長が派遣労働者3名を増員することを企図した際に、巾木工程の現場から、1週間の教育期間では対応できないことを理由に反対があり、実現しなかったことからすると、L社には独自に巾木工程や化成品工程で必要な社員教育を行う能力やノウハウがあったとは認められない。そもそも、控訴人らが巾木工程で稼働するために必要な知識や技量は、被控訴人の従業員であったRが控訴人らをオンザジョブで指導したことにより得られたものであったことが認められるのであり、L社から教育や研修を受けたことによるものではない。
これらの事情を考慮すると、L社は、被控訴人から請負契約により請け負った業務を自らの業務として被控訴人から独立して処理したいたものということができないから、本件区分基準2条二の請負の要件も満たされていない。
c)以上によれば、L社が本件業務請負契約1・2に基づいて被控訴人のD工場の巾木工程及び化成品工程で行っていた業務は、本件区分基準にいう請負の要件を満たすものということはできない。
もともと、平成15年法律第82号による労働者派遣法附則4項の改正(平成16年3月1日施行。以下「平成16年改正」という。)がされる前は、製造業において産前産後休業等の場合を除き労働者派遣事業を行うことは禁止されていたが、L社の従業員は、平成11年頃からL社と被控訴人との間の業務請負契約に基づき、D工場の巾木工程で稼働しており、当時の巾木工程においては、L社の従業員と被控訴人の従業員とが混在し、ともに被控訴人の指揮監督下で労務を提供していたことが認められるから、当該業務請負契約が請負としての実態がなく製造業における労働者派遣禁止を免れるための脱法的行為であったことは明らかである。
その後、平成16年改正により製造業における労働者派遣が認められた後も、平成22年頃までは巾木工程や化成品工程でL社の従業員と被控訴人の従業員が混在しており、同年頃、被控訴人の従業員Rがプリント巾木工程に移動し、混在が解消された後も、控訴人らは、他の被控訴人の工程における労働者と同様、その製造の詳細な手順や方法について被控訴人から指示を受け、被控訴人の製造計画に従って製品を製造していたのであり、その労働時間を実質的に管理していたのも被控訴人であったことが認められるのであるから、本件業務請負契約1・2について、独立の業務請負契約としての実態があったとは認められない。
したがって、巾木工程及び化成品工程は、遅くとも本件業務請負契約1・2が締結された平成28年4月1日以降、巾木工程については本件業務請負契約1が終了した平成29年2月28日まで、化成品工程については本件業務請負契約2に基づき役務の提供を受けた同年3月30日まで、いずれも偽装請負等の状態にあったものというべきである。
(2)争点2(被控訴人には偽装請負等の目的があったか)について
ア 判断枠組み
労働者派遣法40条の6の規定は、平成24年法律第27号2条(平成27年10月1日施行)により新設された規定である。同規定の制度趣旨は、違法派遣の是正に当たって、派遣労働者の希望を踏まえつつ雇用の安定を図ることができるようにするために、違法派遣を受け入れた者に対する民事的制裁として、当該者が違法派遣を行った時点において、派遣労働者に対し労働契約の申込みをしたものとみなすことにより、労働者派遣法の規制の実効性を確保することである。
しかるところ、同項1号(禁止義務違反)、同項2号(無許可事業者からの派遣受け入れ)、同項3号及び4号(派遣の期間制限違反)とは異なり、同項5号(偽装請負)の場合には、労働者派遣の役務を受ける者に偽装請負等の目的があることが要件とされている。これは、同項1号から4号までは、違反事実が比較的明らかであるのに対し、同項5号の場合には、労働者派遣の指揮命令と請負の注文者による指示等の区別は微妙な場合があり、請負契約を締結した者が労働者派遣におけるような指揮命令を行ったというだけで、直ちに前記民事的な制裁を与えることが相当ではないと考えられたことから、特に偽装請負等の目的という主観的要件を付加したものと解される。
このような主観的要件は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が自らこれを認めるような場合を除き、通常、客観的な事実から推認することになると考えられるが、偽装請負等の目的という主観的要件が特に付加された趣旨に照らし、偽装請負等の状態が発生したというだけで、直ちに偽装請負等の目的があったことを推認することは相当ではない。
しかしながら、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当である。
イ 本件での検討
a)これを本件についてみると、前記のとおり、L社が被控訴人と業務請負契約を締結して巾木工程に関与を始めた平成11年頃のL社の被控訴人に対する役務の提供が偽装請負であったことは明らかであり、そのことを被控訴人も認識していたことは優に認められる。そして、平成16年改正により製造業が労働者派遣の対象業務として認められた後も、D工場の巾木工程におけるL社の従業員の労務提供の在り方が直ちに変更されることはなく、平成22年頃までは、巾木工程では被控訴人の従業員RがL社の従業員と共に稼働していたことが認められ、化成品工程でも被控訴人の従業員とL社の従業員が混在していたことが認められる。
確かに、平成26年頃、被控訴人は、プリント巾木工程のRが巾木工程のL社の従業員を指導したことが請負契約における指揮命令権の観点から問題がある考え、Rをプリント巾木工程から異動させたことが認められるが、このことは、逆にいえば、被控訴人において本件業務委託契約1・2が偽装請負とされる可能性を意識していたことを示すものである。
そして、前記検討したところによれば、被控訴人は、従業員の混在がなくなった後も巾木工程及び化成品工程におけるL社従業員に対する業務遂行上の具体的な指示を続けるなど、偽装請負等の状態を解消することなく、日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたのであるから、本件業務請負契約1・2が解消されるまでの間、被控訴人は、偽装請負等の目的があったものと推認することができる。
b)そして、このように偽装請負等の目的があったことが認められる以上、被控訴人に労働者派遣法40条の6第1項ただし書きの善意無過失が認められる余地はないというべきである。
c)しかるところ、同項本文の規定により、労働契約の申込みをしたとみなされる場合には、違法行為がされている日ごとに労働契約の申込みをしたとみなされることになる。したがって、被控訴人は、同項5号に基づき、巾木工程のL社の従業員に対しては、本件業務請負契約1が終了した平成29年2月28日まで、化成品工程のL社の従業員に対しては、本件業務請負契約2に基づき役務の提供を受けた平成29年3月30日まで、毎労働日に労働契約の申込みをしたものとみなされるというべきである。
(3)争点3(控訴人らの労働条件)及び争点4(控訴人A5の承諾の意思表示の時期)について 略
(4)結論
被控訴人は、労働者派遣法40条の6第1項5号に該当する行為を行い、遅くとも平成29年2月28日(控訴人A5については同年3月30日)(注:これらの日付は、偽装請負等の状態が継続した最終日である。なお、平成29年2月当時、控訴人A1、控訴人A2、控訴人A3及び控訴人A4は、D工場において、巾木工程に従事し、控訴人A5は、同工場において、化成品工程に従事していた。)に同項柱書本文により労働契約の申込みをしたものとみなされ、これに対して、控訴人A5を除く控訴人らは、同条第2項の期間内である同月17日に承諾する旨の意思表示を発したから、旧民法526条により、同日、控訴人A5を除く控訴人らと被控訴人との間に、当判決別紙1(略)「労働者契約一覧」記載1から4までの各労働契約が成立したと認められ(注:争点3において、裁判所は、控訴人A5を含む控訴人らの各労働契約を期間の定めのないものと認定した。)、控訴人A5を除く控訴人らには、被控訴人に対し、契約成立後の日である同年4月1日から当判決別紙1「労働者契約一覧」記載1から4までの各労働契約に係る賃金の支払を求める権利が認められる。
また、控訴人A5も労働者派遣法40条の6第2項の期間内である同年8月25日に承諾する旨の意思表示をした(注:争点4において、裁判所は上記のとおり認定した。)から、同日、控訴人A5と被控訴人との間に、当判決別紙1(略)「労働者契約一覧」記載5の労働契約が成立したと認められ、控訴人A5には、被控訴人に対し、同日から当判決別紙1「労働者契約一覧」記載5の労働契約に係る賃金の支払を求める権利が認められる。
以上と異なり、控訴人らの請求をいずれも棄却した原判決は相当ではないので、原判決を取り消す(一部認容)。
【コメント】
本裁判例は、①原判決と異なり、巾木工程及び化成品工程が、平成29年3 月頃には偽装請負等の状態にあったことを認めた上で、②「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合には、特段の事情がない限り、労働者派遣の役務の提供を受けている法人の代表者又は当該労働者派遣の役務に関する契約の契約締結権限を有する者は、偽装請負等の状態にあることを認識しながら、組織的に偽装請負等の目的で当該役務の提供を受けていたものと推認するのが相当」との一般論を述べた上で、本件において、被控訴人に偽装請負等の目的があったことを認めました。
上記②については、いかなる事実関係が認定されれば、「日常的かつ継続的に偽装請負等の状態を続けていたことが認められる場合」と評価されるかが、今後の検討課題となると思われます。