【交通事故】神戸地裁令和元年9月12日判決(自保ジャーナル2059号127頁)

交差点を左折後に第2車線に進入して直進しようとしていた被告車の進路直前を斜めに横断してきた原告(本件事故当時70歳)自転車の過失を40%と判断した事例(確定)


【事案の概要】

(1)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成29年4月20日午後2時20分頃
 イ 衝突地点 東西に走る道路(以下「東西道路」という。)と南北に走る道路(以下「南北道路」という。)が交差する信号機による交通整理が行われている交差点(以下「本件交差点」という。)の東側にある横断歩道(以下「本件横断歩道」という。)の東端から東寄りに6.2m離れた地点(以下「本件衝突地点」という。)
 ウ 原告自転車 原告が運転する自転車
 エ 被告車 被告の従業員であるAが運転する事業用普通乗用自動車(タクシー)
 オ 事故態様 被告車が、南北道路の北側から南に向かって進行し、東西道路に左折進入するに当たり、本件交差点の手前で信号待ちのために停止し、自車対面信号が青色に変わったが、本件横断歩道は通行人が多いので、通行が途切れるのを待って本件交差点を左折し、左折が完了して本件横断歩道を通過し、東西道路の第2車線に進入して東方向への進行を開始したところ、原告自転車が、被告車左斜め前の路外から東西道路に進入し、北東から南西に向かって本件横断歩道方向へ斜めに進行して被告車の直前を横切ろうとしたため、原告自転車の前部と被告車の前部が本件衝突地点で衝突し、原告が、原告自転車とともに転倒した。

(2)本件事故後の経過
 ア 原告は、本件事故により、右大腿骨転子部骨折の傷害を負った。
 イ 原告の本件事故後の入通院経過は、以下のとおりである。
   a)B病院
   平成29年4月20日から同年7月15日まで入院(入院期間87日)
   同年7月16日から同年11月7日まで通院(実通院日数4日)
   b)C病院
   平成29年7月20日から同年11月21日まで通院(実通院日数33日)
  ウ  原告は、右大腿骨転子部骨折につき、C病院において同年11月7日症状固定と診断された。
 エ 原告は、右大腿骨転子部骨折に伴う右股関節の機能障害について、後遺障害等級12級7号に該当すると認定された。


 【争点】

(1)本件事故の態様及び過失割合(争点1)
(2)原告に生じた損害(争点2)
(3)素因減額の可否(争点3)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、被告は、上記(1)について、以下のとおり主張した。
 ア 本件事故は、被告車が東側の本件横断歩道を通過して直進進行を開始したところ、原告自転車が、自転車の平均的な速度で被告車の進路直前を横断しようとしたために発生したものである。Aが本件横断歩道通過後に本件横断歩道を渡らずにその進路直前を斜めに横断してくる自転車があることを予測することは困難であり、他方、原告は、本件横断道路を通過して直進してくる車両があることは予見できたものであり、本件交差点を左折している被告車の存在にも当然気がついていたはずであるが、左折を完了して直進進行を開始した被告車の直前を横断しようとした。 
 イ このように、付近に本件横断歩道が設置されているにもかかわらず、本件横断歩道の先をあえて横断しようとしたこと自体に原告には過失があるものであり、Aの前方不注視の過失と比較して、原告の過失が軽微であるということはできず、本件においては、原告が高齢者であることを考慮したとしても、原告には重大な過失があるというべきであり、直前横断を考慮すれば、原告の過失は40%を下るものではない。


【裁判所の判断】

(1)争点1(本件事故の態様及び過失割合)について
 ア 道路交通法上、自転車軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われており(同項8号)、交差点における他の車両等(同法36条)との関係においても、車両に関する規定の適用により、四輪車や単車と同様の規制に服する(自転車の交通方法の特例が定められているものは除く。)。
   交差点を左折する四輪車にもその進行にあたっては前方を確認すべき注意義務があることは当然であるが、歩行者用信号規制対象自転車であっても、横断歩道では歩行者が横断歩道により道路を横断する場合のような優先的地位(同法38条1項)は与えられておらず、また、他の車両との関係においてはなお安全配慮義務(同法70条)を負うと解されるから、安全確認や運転操作に過失がある場合は、自転車の運転者は、相当の責任を負わなければならない。
 イ 本件事故は、原告が、東西道路に本件横断歩道が存在するにもかかわらず、これを通らずに被告車の左方斜め前方から東西道路に進入して同道路を斜め横断しようとしたために、本件交差点を左折後に本件横断歩道を通過して第2車線に進入して直進しようとしていた被告車の直前を横切ろうとしたことから被告車と衝突したものである。
   自転車が道路交通法上車両として取り扱われていることからすれば、本件衝突地点をもって、原告が横断歩道を横断する歩行者と同一の保護範囲内にあるということはできないし、本件衝突地点が横断歩道の直近であるということもできない。
   また、被告車に設置されていたドライブレコーダーの画像によれば、原告自転車が歩行者と同程度の速度で走行していたとは認められ難く、歩行者の一般的な歩行速度よりは相当速い速度で東西道路に進入したと認められ、一方で、被告車が原告自転車と比較して高速度で走行していたと認めることはできない。
   しかも、被告車は衝突直前にはすでに本件横断歩道を通過して第2車線に進入し、直線走行への態勢を取っている。本件事故は、その直後に原告自転車が飛行車の直前を横切ったことによって発生しているが、原告が原告自転車の右方方向から、走行してくる車両に注意していた様子は一切うかがわれない。
   一方、ドライブレコーダーの画像によると、Aは、主として被告車の右方(本件横断歩道付近)に気を取られていた様子がうかがわれ、自車前方の確認が十分ではなかったことも認められる。
 ウ このような事故態様からすれば、本件事故は双方の過失が相まって生じたものというべきであり、その過失割合は、原告が本件事故当時70歳であったことを考慮しても、原告40%、A60%とみるのが相当である。

(2)争点2(原告に生じた損害)について
 ア 休業損害
  a)原告は、本件事故からC病院で症状固定と診断された平成29年11月21日までのうち、入院及び自宅療養のために少なくとも202日間休業しており、その間、経営する飲食店の営業ができなかったこと、原告の事業による所得は、平成26年は−21万3,572円(赤字)、平成27年は−2万6,639円(赤字)、平成31年は31万2,696であることの各事実が認められる。
  b)原告の受傷内容、治療経過やリハビリを継続していたこと、さらには、事業内容が調理を含む飲食業であることからすれば、上記休業期間が不相当であるとはいい難い。
  c)もっとも、上記の所得の推移経過からすれば、原告が、原告主張に係る376万2,300万円(注:平成28年度女性学歴計平均賃金センサスの収入を得られる蓋然性があったとは認め難く、他に、同金額の収入を得られる蓋然性があったと認めるに足りる証拠はない。
  d)そうすると、休業損害の算定のための基礎収入は、本件事故前年の原告の所得である31万2,696円を用いるのが相当であり、これに固定経費である地代1年当たりの地代家賃金84万円(弁論の全趣旨)を加算した合計115万2,696円を前提として、休業損害としては、63万7,930円(115万2,696/365日×202日≒63万7,930円)を認めるのが相当である。
 イ 後遺障害逸失利益
  a)原告(昭和21年6月生)には本件事故により後遺障害等級12級7号の後遺障害が生じ、症状固定日である平成29年11月12日当時71歳であり、前記アの記載のとおり、後遺障害逸失利益の算定のための基礎収入について賃金センサスの金額を用いる蓋然性が認められないことは、休業損害の場合と同様であるから、後遺障害逸失利益算定のための基礎収入は、本件前年の原告の事業所得である31万2,696円を基準とするのが相当である。
  b)そうすると、労働能力喪失期間を平均余命87歳までの期間の2分の1である8年(対応するライプニッツ係数は6.4632)、労働能力喪失率は14%とするのが相当であるから、後遺障害逸失利益は、28万2,942円(31万2,696円×14%×6.4632≒28万2,942円)を認める。

(3)争点3(素因減額の可否)について 略

(4)結論
   原告の請求は、損害金175万1,798円(注:請求額は、1,082万8,907円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(一部認容)。


【コメント】

   本裁判例は、自転車が軽車両に該当し(同条2条1項11号)、車両として扱われていること(同項8号)等を確認した上で、本件事故の事故態様等から、原告自転車の過失を40%と判断しました。自動車の進路直前を斜めに横断してくる自転車の過失割合を検討する際に、参考になるものと考えます。

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