【交通事故】大阪地裁令和2年2月27日判決(自保ジャーナル2071号121頁)

使用年数が約16年9月、走行距離が40万㎞超のタンクローリーについて、中古車市場における取引価格を算定するのは困難であるとして、その本件事故当時の時価を新車価格の10%程度と認定した事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)当事者

 ア 第1事件 原告:X会社(以下「第1事件原告」という。)、被告:(以下「第1事件被告」という。)
 イ 第2事件 原告:乙、W保険会社(以下「第2事件原告」という。)、被告:第1事件原告(X会社)

(2)交通事故(以下「本件事故」という。)の発生
 ア 発生日時 平成30年1月24日午後0時15分頃
 イ 発生場所 大阪府茨木市内路上(以下「本件事故現場」という。)本件事故現場の道路は、南北に延びる片側1車線の道路である。
 ウ 甲車 第1事件原告が所有しその従業員である甲が運転する大型貨物自動車(タンクローリー)
 エ 乙車 第1事件被告(乙)が所有し運転する大型貨物自動車(ダンプ)
 オ 事故態様 本件道路の南行き車線を北から南へと走行し、本件道路の西側に所在する敷地へと右折を開始した甲車と、甲車を後方から追い越そうとした乙車が接触した(別紙図参照)。
   なお、本件事故当時、第1事件原告は、甲の使用者であり、甲は、第1事件原告の業務として甲車を運転していた。

(3)請求

 ア 第1事件 
   第1事件原告が、第1事件被告に対し、物的損害額合計949万4,241円の支払いを求めた。
 イ 第2事件
  a)第1事件被告が、第1事件原告に対し、物的損害(車両損害)のうち免責金額5万円弁護士費用5,000円の支払いを求めた。
  b)第1事件被告との間で自動車保険契約を締結した第2事件原告(W保険会社)が、第1事件原告に対し、本件事故による第1事件被告の車両損害のうち免責金額を除いた金額に相当する保険金を支払ったことにより、求償権を取得したと主張して、185万円の支払いを求めた。


【争点】

(1)過失の有無及び割合並びに責任原因(争点1)
(2)第1事件原告の損害額(争点2)
(3)第2事件原告の求償金額(争点3)
(4)第1事件被告の損害額(争点4)
   以下、主に上記(2)についての裁判所の判断の概要を示す。


   なお、上記(2)のうち甲車(タンクローリー)の車両損害について、各当事者は、以下のとおり主張した。
  (第1審原告)
   車両修理費 322万7,299円(注:①本体部分140万5,447円、②タンク部分182万1,852円の合計額。なお、時価についての主張については不明である。)
  (第1審被告)
 ア 甲車は、耐用年数を遙かに過ぎた車両であり、走行距離も相当長く、車検の残りも僅かである。そこで、甲車のキャブ付きシャシにつき、新車価格を359万8,000円、標準使用年数を16.71年(注:平成29年3月末の普通貨物車の平均使用年数は、16.71年である。)、残存率を10%として算定すると、その時価は17万8,000円である。また、甲車のリヤボデー(注:架装物のことと思われる。)につき、新車価格を126万7,000円、標準使用年数を20.46年、残存率を10%として算定すると、その時価は19万1,000円である。そうすると、甲車の時価はこれらの合計である36万9,000円であり、他方、その適正な修理費は153万1,590円である。
    したがって、本件事故により、甲車は経済的全損が生じているから、その損害額は、時価の36万9,000円となる。
  イ 本件事故当時、甲車は普通トラックの標準使用年数を経過しており、同一の車種・年式・型の車両が中古車市場で販売されているわけではなく、市場価格が形成されていないため、個別的、具体的な価格算定の資料もないから、標準使用年数を用いて時価を算定することは合理的である。


【裁判所の判断】

(1)争点1(過失の有無及び割合並びに責任原因)について
   本件事故の過失割合は、甲が5割、第1事件被告(乙)が5割であるとするのが相当である(詳細については、省略する。)。

(2)争点2(第1事件原告の損害額)について
 ア 車両修理費(車両損害) 69万4,000円
  a)事故車両の時価は、原則として、同一の車種・年式・型、同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場において取得するに要する価額によって定めるべきである。
  b)しかし、甲車は、初年度登録年月が平成13年4月、走行距離が40万㎞超の特殊トラックであることが認められ、中古車市場に出回っている車両数が多いことを認めるに足りる証拠はなく、中古車市場における取引価格を算定するのは困難であるといわざるをえない。この点に関し、第1審原告は、類似車両の取引事例があることを示すものとして種々の資料を提出するが、そのいずれも同一の車種・年式・型の車両に係る情報を記載したものではない。
   そうすると、時間の経過とともに車両の価値が減耗していくことを前提として適宜の方法により時価を算定すること自体はやむを得ないというべきである。
  c)そして、甲車は、最大積載量が3,850㎏のタンクローリーであり、初年度登録年月から本件事故日までの使用年数は約16年9月であり、車検有効期間の満了日は本件事故から約4ヶ月後である平成30年5月17日であること、走行距離は前記認定(注:約40万㎞超)のとおりであること、甲車と同等の車両の新車価格は694万円(①キャブ付きシャシ545万円、②リヤボデー180万円)程度であること、甲車と同等の車両のキャブ付きシャシの標準使用年数は約16.71年であり、リヤボデーの標準使用年数は約20.46年であることがそれぞれ認められ、前記認定のとおりの甲車の本件事故時までの使用年数等や、甲車が本件事故当時も配送業務に供されて通常通り使用されていたことなどに照らすと、甲車の本件事故当時の時価は、前記新車価格694万円の10%程度とするのが相当である。
  d)この点に関し、第1事件被告は、前記新車価格の約7割の金額である486万5,000円(①キャブ付きシャシ359万8,000円、②リヤボデー126万7,000円)が甲車と同等の車両の新車価格であることを前提として甲車の時価を算定し、それを裏付けるものとして資料を提出するが、同資料は匿名のブログの日記にすぎないから、その内容に依拠することはできず、その他本件全証拠を総合しても、前記新車価格の約7割の金額を前提に時価を算定することが相当であると認めるには足りない。
  e)したがって、甲車の時価は69万4,000円と認めるのが相当である。
   同時価は、第1事件原告及び第1事件被告がそれぞれ主張する修理費を下回るから、本件事故によって甲車は経済的全損の状態となっており、その車両損害は694,000と認めるのが相当である。
 イ 代車使用料 249万4,800円
  a)代車使用の事実
   第1審原告は、甲車を含む5台のタンクローリーを保有し、甲を含む5名の従業員に各車両を割り当てて業務のために使用させていたこと、本件事故によって甲車が損傷し、自力走行が不可能となり、本件事故現場から修理工場までレッカーで一旦搬送されたものの、修理を経ることなく、第1事件原告の当時の所在地までレッカーで搬送されたこと、第1事件原告は、C会社から、平成30年6月30日付けで、同年1月分ないし6月分のタンクローリーの賃料として合計529万2,000円の支払を請求されていること、1事件原告は、C会社に対し、平成31年1月15日、上記賃料の一部(平成30年1月分及び2月分)として151万2,000円を支払ったことがそれぞれ認められる。
   これらの事実関係に照らすと、1事件原告は、本件事故によって甲車を使用することができなくなり、代車の使用を余儀なくされたものと認められる。
   この点に関し、第1審被告は、第1事件原告が代車を借りていないと主張するが、第三者であるC会社に対し一部とはいえ賃料を支払っていることに照らすと、代車を使用した外形的事実がなかったとまではいえない。
  b)代車使用の必要性・相当性
   もっとも、代車の必要性については、現実に修理や買替えに要した期間のうち相当な期間に限り認められるというべきである。
   そこで検討するに、甲車が修理工場での修理を経ずにレッカーで第1事件原告の当時の所在地に搬送されたという経緯に加え、その後、本件口頭弁論終結日に至るまで甲車について修理や買替えが行われた形跡は窺われないことなどに照らすと、第1事件原告としては、甲車が第1事件原告の当時の所在地までレッカーで搬送された時点(注:受付日は平成30年2月5日である。)よりも前の時点で、修理及び買替えのいずれの方針を選択するかについて方針を決定していたものの、現在に至るまでそのいずれにも着手していないと考えるのが自然である。
   これらの事実関係に加え、甲車が特殊トラックであって中古車市場において取引するのが困難であり、買替えをする場合にも相応の時間を要するものと認められることなどに照らし、代車の必要性が認められる期間としては本件事故日から平成30年3月末日までをもって相当と認める。
   この点に関し、第1審原告は、本件訴訟提起前に示談交渉がうまくいかず、解決が予想以上に長引いたのは、第1事件被告が著しく低額な時価(36万9,000円)を算定し、経済的全損を強硬に主張したことに大きな原因があると主張する。
   しかし、本件事故によって甲車経済的全損の状態となっているのであり、第1事件被告が事実的、法律的根拠を欠く主張を展開することに終始したとまではいえないから、仮に、第1事件原告が主張するとおり、同年6月30日まで代車を使用していたとしても、代車使用期間がそこまで長期化したことについて第1事件原告としてやむを得ない事情があったとはいえない
   したがって、同年1月分ないし3月分の賃料合計249万4、800円を本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
 ウ レッカー代 11万1,830円
 エ 小計 330万0,630円
 オ 過失相殺後の小計 165万0,315円
 カ 弁護士費用 16万5,000円(注:総計181万5,315円)

(3)争点3(第2事件原告の求償金額)について
 ア 第1事件被告の車両損害(修理費用) 190万円(注:過失相殺後の残額は95万円)
 イ 車両損害の免責金額 5万円
 ウ 求償金額 90万円

(4)争点4(第1事件被告の損害額)について
 ア 車両損害の免責金額 5万円
 イ 弁護士費用 5,000円

(5)結論

   第1事件原告の請求(X会社)は、第1事件被告に対し、181万5,315円及び遅延損害金、
   第2事件原告の請求(W保険会社)は、第1事件原告に対し、90万円及び遅延損害金
の各支払いを求める限度で理由がある(一部認容)。
   第1事件被告(乙)の請求は理由がある(全部認容)。


【コメント】

   一般に、事故車両の時価は、原則として、同一の車種・年式・型,同程度の使用状態・走行距離等の車両を中古車市場において取得するに要する価額によって定めるべきとされます。
   しかし、特殊車両については、中古車市場に出回っている車両数が極めて少なく、中古車市場における取引価格を算定するのが困難な場合があります。本裁判例は、このような場合において、事故日までに初年度登録から約16年9月経過したタンクローリーの時価を新車価格の10%として算定した事例です。その他の参考となる裁判例として、事故日までに初年度登録から約4年6か月経過したタンクローリーの時価を、定率法による減価償却の方法に基づいて算定した事例(大阪地令和元年12月10日判決・判例秘書L07451258)があります。
   ただし、特殊車両においても、大型の冷蔵冷凍車の中古車市場は存在するといえるとして、初年度登録から約7年7月が経過した原告車の時価を、減価償却の方法によって算定せずに、中古車市場における販売価格を参照して算定した事例(東京地裁平成31年2月8日判決・自保ジャーナル2048号117頁)もあることに留意が必要です。

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