【労働】最高裁令和元年11月7日判決(労働判例1223号5頁)

原審が、契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、被上告人の請求を認容した点に判断の遺脱があると判示した事例(一部破棄・差戻し)


【事案の概要】

    被上告人(二審被控訴人・一審原告)が本訴を提起するまでの経緯については、福岡地裁小倉支部平成29年4月27日判決の【事案の概要】参照。

(1)上告人(二審控訴人・一審被告)は、第1審判決(福岡地裁小倉支部平成29年4月27日判決・労働判例1223号17頁)を不服として控訴をした。上告人は、控訴理由書において、本件労働契約(注:最後の更新において、契約期間は平成26年4月1日から平成27年3月31日までとされた有期労働契約)が契約期間の満了により終了したことを抗弁として主張した。
   被上告人は、控訴答弁書において、上記の主張につき、時機に遅れた攻撃防御方法として却下されるべきである旨を申し立てるとともに、雇用契約族の合理的期待が認められる場合には、解雇権の濫用の法理が類推され、契約期間の満了のみによって有期労働契約が当然に終了するものではないところ、本件労働契約の契約期間が満了した後、契約の更新があり得ないような特段の事情はないから、その後においても本件労働契約は継続している旨主張した。
   原審(福岡高裁平成30年1月25日判決・労働判例1223号11頁)は、平成29年9月14日の第1回口頭弁論期日において、上告人の上記の主張は時機に遅れた攻撃防御方法に当たるとしてこれを却下し、口頭弁論を終結した。

(2)原審は、上記事実関係等の下において、本件解雇には労働契約法17条1項にいう「やむを得ない事由がある」とはいえず、本件解雇は無効であるとし、最後の更新後の本件労働契約の契約期間が平成27年3月31日に終了したことにより本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び本件解雇の日から判決確定の日までの賃金の支払請求を全部認容すべき旨の判断をした。


【争点】

   原審が、契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、被上告人の請求を認容した点に判断の遺脱があるといえるか否か


【裁判所の判断】

(1)原審の判断のうち、契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、被上告人の労働契約上の地位の確認請求及びその契約期間が満了した日である平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
   最後の更新後の本件労働契約の契約期間は、被上告人の主張する平成26年4月1日から平成27年3月31日までであるところ、第1審口頭弁論終結時において、上記契約期間が満了していたことは明らかであるから、1審は、被上告人の請求の当否を判断するに当たり、この事実をしんしゃくする必要があった。
   そして、原審は、本件労働契約が契約期間の満了により終了した旨の原審における上告人の主張につき、時機に遅れたものとして却下した上、これに対する判断をすることなく被上告人の請求を全部認容すべきものとしているが、1審がしんしゃくすべきであった事実を上告人が原審において指摘することが時機に遅れた攻撃防御方法の提出に当たるということはできず、また、これを時機に遅れた攻撃防御方法の提出に当たるとして却下したからといって上記事実をしんしゃくせずに被上告人の請求の当否を判断することができることとなるものでもない。
   ところが、原審は、最後の更新後の本件労働契約の契約期間が満了した事実をしんしゃくせず、上記の契約期間の満了により本件労働契約の終了の効果が発生するか否かを判断することなく、原審口頭弁論終結時における被上告人の労働契約上の地位の確認請求及び上記契約期間の満了後の賃金の支払請求を認容しており、上記の点について判断を遺脱したものである。

(2)以上によれば、原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨(注:上告人の主張)はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決中、労働契約上の地位の確認請求及び平成27年4月1日以降の賃金の支払請求を認容した部分は破棄を免れない。
   そして、被上告人が契約期間の満了後も本件労働契約が継続する旨主張していたことを踏まえ、これが更新されたか否か等について更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻すこととする(一部破棄・差戻し)。

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