コナミスポーツクラブ事件(控訴審確定)
【事案の概要】
(1)被告は、スポーツ施設、スポーツ教室の経営等を目的とする株式会社であり、全国各地でスポーツクラブを運営している。
原告は、平成元年11月11日、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し(以下、この契約を「本件労働契約」という。)、同日から平成27年3月24日に退職するまでの間、被告において勤務した。
(2)原告は、平成24年12月11日から平成27年1月10日までの間(以下「本件請求期間」という。)のうち、平成24年12月から平成26年2月までの間は、支店長職にあったが、降格配転され、同年3月から平成27年1月までの間は、マネージャー職に就いていた。
(3)被告は、以下の就業規則等を定めている。
ア 社員就業規則(以下「就業規則」という。)第36条(適用の除外)
本章1、2節で定める就業時間、休日、及び休憩の規定にかかわらず、次の者については別段の取扱いをすることがある。
1.管理監督者の地位にある者、または別途会社で定めた者(以下略)
イ 社員給与規程(以下「給与規程」という。)第25条(手当の除外者)
第22条に定める時間外勤務手当並びに休日勤務手当は、社員就業規則第36条に定めたる者(中略)については支給しない。
(4)被告の人事考課のガイドラインによれば、被告においては、上から順にEM職、GM職、SM職、M職、L職、F職の6段階の職層制度が採用されている。また、各階層に対応して、9段階の等級が定められており、このうちSM職についてはM4級又はM3級、M職についてはM2級又はM1級の各等級に該当するものとされていた。
SM職に求められる(期待される)役割とその職責は、「所属部門の年度方針に基づき担当組織の年度計画を立案し、年度目標を達成させる役割」もしくは「特定の専門分野において全社的に貢献すること」である。そして、被告においては、SM職以上の職層にある従業員が、就業規則36条1号の定める「管理監督の地位にある者」に該当するものと取り扱われており、これらの者に対しては、給与規程25条に従って、同規程22条及び23条による時間外勤務手当及び休日勤務手当が支給されていない。
本件請求期間中の原告の職層はSM職であり、等級はM3級であった。また、本件請求期間中、原告に対しては、本給及び前払退職月額のほか、役職手当として5万円が支払われていた。
【争点】
(1)管理監督者該当性
(2)実労働時間(休憩時間)
(3)手当(割増賃金)の未払額
(4)付加金の支払を命じることの当否及びその額
原告は、本件労働契約に基づき、本件請求期間において従事した時間外労働、休日労働及び深夜労働について、SM職の職層者である原告につき、「管理監督の地位にある者」として時間外労働及び休日労働に係る割増手当の支給を排除する給与規程25条が、労働基準法(以下「労基法」という。)37条1項に反して無効であり、SM職より下層の職層者を対象とし、労基法より有利な割増率を定める給与規程22条及び23条が原告にも適用されるなどとして、
割増賃金(割増手当)とこれに対応する付加金等の支払
を求めた上、仮に同条22条及び23条の適用がないとしても、少なくとも
労基法37条1項等によって計算される割増賃金とこれに対応する付加金等の支払を求めると主張した。
これに対し、被告は、実労働時間の時間数を否認し(争点(2))、原告に対する給与規程22条及び23条の適用の可否(争点(3))、付加金付加の適否(争点(4))を争うとともに、
支店長又はマネージャー職にあった原告が、労基法41条2号に定める管理監督者であることを抗弁として主張した。
以下、管理監督者該当性(争点(1))についての裁判所の判断の概要のみを示す。
【裁判所の判断】
(1)判断基準
労基法の管理監督者に該当するかどうかについては、①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されているか、②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか、③給与等に照らし管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がなされているかという観点から判断すべきである。
この点、被告は、原告が本件請求期間中、SM職のM3級の等級にあったところ、この職層・等級の従業員は就業規則36条で定める「管理監督者の地位にある者」として給与規程25条により時間外手当・休日手当の支給対象者から除外されている旨主張するが、原告の職層等ではなく、実際に就いていた支店長及びマネージャーの地位について、実際の職務内容、責任と権限、勤務態様、管理監督者の地位にふさわしい待遇を受けているかを具体的に検討する。
(2)支店長の管理監督者該当性について
ア 職責及び権限について
支店長は、施設・設備の維持管理や対顧客サービスの提供、出入金の管理、損益目標達成のための施策の立案・実施等、支店の運営管理全般について責任者としての職責を担うとともに、従業員の勤務シフトの決定や、支店内のミーティングの主催、販売促進活動の企画・実施等の権限を有していたことが認められる。
もっとも、
a)支店において提供する商品やサービスの内容の決定並びにそれに伴う営業時間の変更については、原則として被告の直営施設運営事業部が行っており、
b)支店長は、これらのうち特に多額の出捐を伴うような重要な事項について上程される経営会議への参加も原則として求められていなかった。
さらに、支店長としての日常業務についても、
c)アルバイトの採用や解雇、販売促進活動の実施、出捐を伴う設備の修繕や備品の購入等については、被告の決済を受ける必要があったほか、
d)被告が定めた詳細な管理項目(KPI)により支店の損益目標が管理され、その内容について週報等による頻繁な報告や指導が行われていたこと
e)運営モデル等に極力沿った労務管理が要請されていたこと
など、形式的には支店長が権限を有する事項についても、本部が定めた運営方針や、直営管理運営事業部長やエリアマネージャー等による指導等を通じて、支店の運営管理に関する支店長の裁量は、相当程度制限されていた。
よって、被告の支店長が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの重要な職務と責任、権限を付与されていたというに足りる裁量が与えられていたとは認められない。
イ 労働時間の裁量について
原告は、被告から、なるべく支店の開店時間に立ち会うよう指示されており、早番で出勤することが多かったとはいえ、比較的柔軟に出勤時刻を調整して、中番や遅番で出勤していたことがうかがわれる。
もっとも、
a)これは、支店の一般の従業員がシフト制で勤務をしていたために、特定の時間帯の人員が不足する場合や、閉店作業を行う従業員が他にいない場合に、原告の勤務時間を調整して対応していたことによるものでしかなく、
b)事前に勤務計画を作成し、被告に対して自身の出勤日及び出勤時刻の予定を報告するとともに、タイムカードの打刻及び勤怠管理システムへの入力等により日々の出退勤時刻や実労働時間を報告するよう指示されていたほか、
c)毎週週報を提出して直近の勤務予定(出勤時刻及び業務内容)や勤務実績(出退勤時刻及び業務内容)を上長に報告するものとされ、
d)少なくとも平成25年末頃からは、従業員の総労働時間が被告の定めた指標に沿うものとなるように支店長自身の労働時間を調整するよう被告から指示されていたもので、
これらの事実を踏まえれば、支店長についても、労働時間の実態把握や健康管理上の必要を超えて、労働時間の管理が一定程度行われていたとみるべきである。そして、
e)原告を含めた複数の支店長が、人員不足の状況を踏まえて、管理業務のみならず、フロント業務やインストラクター業務等一般の従業員と同様の業務にも日常的に携わらざるを得ない状況にあり、そのために、本件請求期間中、原告は恒常的に時間外労働を余儀なくされていたことも併せ考慮すれば、
被告において、支店長が自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていたとも、それが可能であったともみることはできない。
ウ 待遇について
支店長は、月額5万円または6万円の役職手当が付与されるものとされており、原告も5万円を同手当として支給されていた上、本給部分についてみると、職能給部分について、M2級からM3級に昇格する際には昇格昇給4万円が付与されるものとされていた。
しかし、
a)少なくとも平成25年4月以降、非管理職の最上等級であるM2級の職能給の範囲本給の幅(レンジ)が15万5000円以上20万1000円以下であったのに対し、M3級の範囲本給の幅(レンジ)は16万円以上23万円以下であり、管理職であるM3級の範囲本給の額が非管理職であるM2級の範囲本給の額を下回る可能性もあったこと
b)職能給について上記昇格昇給と範囲本給との関係は明確ではないものの、範囲本給の額に昇格昇給の額が加算されるとしても、これに役職手当を加算した場合、M3級とM2級の金額差は4万9000円(=16万円+4万円+5万円―20万1000円)の差に留まるものとなる可能性もあったこと(なお、M2級において役職手当が加算される場合には、その差はさらに縮まることになる。)
c)前記のとおり、支店長が、人員不足の状況を踏まえて、管理業務のみならず、フロント業務やインストラクター業務等一般の従業員と同様のシフト業務も日常的に携わらざるを得ない状況にあって、恒常的に時間外労働を余儀なくされていたという勤務実態も併せ考えれば、
時間外労働及び休日労働に係る割増賃金の支給がなされないまま、上記額の役職手当の支給のみでもって、支店長に対し、管理監督者としての地位や職責にふさわしい待遇がされているとはいい難い。
エ まとめ
支店長職にあった当時の時の原告が管理監督者に該当すると認めることはできない。
(3)マネージャーの管理監督者該当性について
マネージャーであった当時の原告が管理監督者に該当すると認めることはできない(詳細は省略。なお、マネージャーの役職手当は月額5000円にすぎなかった。また、マネージャーの中には、管理職であるSM職(M4級又はM3級)ではなく、管理職でないM職(M2級)に位置付けられていた者もいた。)。
(4)小括
以上によれば、原告は、支店長職及びマネージャー職のいずれの立場にあった際も、労基法上の管理監督者の地位にあったものとは認められない。したがって、原告に対しては、時間外労働及び休日労働に対する割増賃金が支払われるべきである(一部認容)。
【控訴審の判断】
控訴人(被告)は、控訴理由において、争点(1)のうち支店長の管理監督者該当性について補充的に主張したが、東京高裁平成30年11月22日判決(労働判例1202号70頁)は、控訴人の控訴を棄却した(なお、被控訴人(原告)の附帯控訴も棄却した。)。