【知的財産】大阪地裁平成29年11月16日判決(判例時報2409号99頁)

控訴人が、ホームページ等からAの画像を削除することなく掲載し続けた行為が、Aのパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると判示した事例(上告・上告受理申立中)


【事案の概要】

(1)被控訴人(原告)は、フィットネスプログラム「Ritmix」を中国、台湾地域で運営する株式会社である。また、被控訴人代表者の配偶者であるAは、同地域を担当するRitmixのマスタートレーナーであり、日本、中国及び台湾で活躍している。
   控訴人(被告)は、フィットネス関係の衣料品を製造販売する株式会社である。

(2)被控訴人代表者及び控訴人代表者は、平成26年12月以降、フィットネスウェアを共同して製造販売することなどについて協議した。
   控訴人は、平成27年1月8日、Aの写真撮影を行って、控訴人のウェアを着用したAの画像をホームページ等に掲載した。
   控訴人代表者は、同月19日、原告代表者に対し、被告の広告モデル(ライダー)に適用されている様式に基づいて作成した「MJDJVAアドバイザリースタッフ(ライダー)契約書」の案を送付した。しかし、被控訴人代表者は、この契約書案について、Aは、控訴人の商品を着用した宣伝広告をしなければならない一方、その報酬としては単なる商品の現物支給しかないこと等、被控訴人の利益になるものではないと考えたため、それ以上、Aを広告モデルとして採用する契約(以下「ライダー契約」という。)の協議は進まなかった。
   また、平成27年2月、アルゼンチンにおいて、A等が出演してRitmixのDVD撮影が行われ、その際、出演者が着用するウェアとして、控訴人が被控訴人と協議して新規に製作したTシャツ及び控訴人の既製品であるズボンが採用された。
   その後、控訴人は、被控訴人に対し、同年3月25日付け「御通知」と題する書面(以下「本件通知」という。)を送付し、被控訴人との協議及び取引を終了し、全ての契約締結を見送る旨を伝えた。

(3)しかし、控訴人は、その後も、控訴人のウェアを着用したAの画像をホームページ等に掲載した。

(4)なお、Aは、そのパブリシティ権について、Aの夫が代表取締役を務める被控訴人に、独占的利用許諾をしており、被控訴人がAのパブリシティ権に関する契約の交渉、契約締結を行い、パブリシティ権から生じる対価を取得している。
   また、被控訴人代表者は、平成26年1月までに、「RITMINX」、「RM」等の台湾の商標権を取得し、「RITMOS」との中国の商標権を取得していた。


 【争点】

   原審における争点は、以下のとおりであった。
(1)被告は、原告との間の包括的な業務提携契約等の合意を一方的に破棄したとして、債務不履行責任を負うか及び損害額
(2)被告は、原告との間で、RitmixのDVD撮影に採用されたウェアを販売し、その売上げを折半する旨の契約を締結したか及び販売額の半金に相当する金額
(3)被告は、原告との間で、イベントの際に被告のウェアの販売を原告に委託し、原告に販売手数料を支払う旨の契約を締結したか及び販売手数料の額
(4)被告は、原告との取引終了後もAの画像をホームページに掲載してAのパブリシティ権を侵害し、原告に固有の損害を被らせたとして、不法行為責任を負うか及び損害額

   原判決(大阪地裁平成29年3月23日判決。なお、同判決は、判例時報2409号に参考判例として掲載されている。)は、上記(1)から(3)までに関する各請求については、理由がないとしていずれも棄却したが、(4)に関する請求については、110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で請求を認容し、その余の請求を棄却した。
   これに対し、控訴人(原告)が、上記(4)に関する請求の敗訴部分を不服として控訴した。したがって、控訴審における審判の対象は、上記(4)に関する請求中の控訴人(原告)敗訴部分のみである。
   以下、上記についての、裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

(1)Aの画像の掲載による不法行為の成否
 ア 肖像等が商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、そのような肖像等を無断で使用する行為は、①肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用して、②商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、③肖像等を商品等の広告として使用するなど、専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合に、パブリシティ権を侵害するものとして、不法行為上違法となると解するのが相当である(最高裁平成24年2月2日判決参照)。
   また、パブリシティ権は、人格権に由来する権利の一内容を構成するもので、一身に専属し、譲渡や相続の対象とならない。しかし、その内容自体に着目すれば、肖像等の商業的価値を抽出し、純化させ、名誉権、肖像権、プライバシー等の人格権ないし人格的利益とは切り離されているのであって、パブリシティ権の利用許諾契約は不合理なものであるとはいえず、公序良俗違反となるものではない。
   そして、パブリシティ権の独占的利用許諾を受けた者が現実に市場を独占しているような場合に、第三者が無断で肖像等を利用するときは、同許諾を受けた者は、その分損害を被ることになるから、少なくとも警告等をしてもなお、当該第三者が利用を継続するような場合には、債権侵害としての故意が認められ、同許諾を受けた者との関係でも不法行為が成立する。
 イ 以下、本件について検討する。
   まず、Aは、中国、台湾地域のマスタートレーナーとして認定され、台湾のテレビ番組にも出演し、平成28年9月25日に台湾で催されたRitmixのイベントでは、数百人と推測される参加者が集まっているところ、同イベントの写真入りパンフレットで、2名のマスタートレーナーのうちの1名として紹介された。
   また、控訴人がAの画像を掲載したのは、楽天市場等の日本人向けの販売サイトであるが、
  ①フィットネスウェアを専門に取り扱う控訴人が契約する約50人のライダーのうち、Ritmix関係のライダーは10人おり、Ritmix関係は控訴人の事業上一定の比重を占めていたとうかがわれ、このことから、日本でも相応のRitmix愛好家が存在するとうかがわれること、
  ②控訴人でインストラクター(注:Ritmixを一般のフィットネス愛好家に教授する講師のこと)をしているBは、RitmixのマスタートレーナーとしてのAのことを知っていたこと、
  ③被控訴人が開催したNASのイベントでも、Aは、イベントに参加したファンから相応の商品購入希望を得ていること、
  ④控訴人の商品が販売されているBecomeという通販サイトでも、広告として、「Ritmix・リトモスのMTA(注:マスタートレーナーAのこと)先生と台湾イントラも2015年1月に大阪でイベントレッスンを行ってくれました。」と記載され、Aの存在が広告効果を有することが前提とされていること
からすると、マスタートレーナーとしてのAの肖像等は、日本のRitmix愛好家の間でも一定の顧客吸引力を有していたと認められる。
   以上によれば、Aは、自己の肖像等の顧客吸引力を排他的に利用するパブリシティ権を有していると認めるのが相当である。
 ウ そして、前記【事案の概要】(2)(4)によれば、被控訴人は、Aから独占的にパブリシティ権の利用許諾を受けているところ、被控訴人代表者が中国、台湾において「Ritmix」等の商標権を取得していること、被控訴人代表者がAと控訴人との間のライダー契約のA側の交渉を行っていたことに鑑みると、控訴人も上記独占的利用許諾を認識できたものと認められる。
 エ 本件において、控訴人と被控訴人との間の協議が継続している間は、控訴人がAの画像をウェブサイト等に掲載することについて、被控訴人の承諾があったと認められる。
   しかし、控訴人が、平成27年3月25日付の本件通知を送付して、被控訴人との協議を終了させたことにより、被控訴人のAの画像の掲載についての承諾も当然に撤回されたものと認められる。
   しかるに、控訴人は、自ら本件通知をしながら、その後もホームページ等からAの画像を削除することなく掲載し続けており、それは、Aの肖像等を広告として使用したと評価できるのであるから、控訴人の行為は、Aのパブリシティ権に係る被控訴人の独占的利用権を侵害する不法行為を構成すると認められる(なお、被控訴人は、Aの肖像権の侵害も主張するが、パブリシティ権を離れた純然たる肖像権の侵害をいうものとは解されない。)

(2)損害額
 ア 控訴人による掲載の期間
   被控訴人は、楽天市場で掲載されたAの画像が平成28年3月17日までに削除されたことを受けて、本件通知の日である平成27年3月25日から平成28年3月17日までに生じた損害の賠償を請求している。
   そして、前記引用した原判決(略)のとおり、平成27年6月25日の時点で、控訴人のフェイスブック、ブログ、ホームページ、ヤフーショッピングのページ、楽天市場のページにAの画像が掲載されていた。
   また、本件訴訟が提起され、控訴人が答弁書で控訴人が管理していた画像については削除したと主張した後の同年10月2日の時点においても、控訴人のホームページにAの画像が掲載されており、その後についても、Aの画像が控訴人の管理サイトから削除されたと明確に判明するのは、上記の楽天市場に係るものしかない。
   以上から、控訴人は、平成28年3月17日までの間、上記の各ページにAの画像を継続して掲載していたと推認するのが相当である。

 イ 損害額の算定
   被控訴人が独占的に利用を許諾されたAのパブリシティ権は、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利であるから、被控訴人は、控訴人の行為により、画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭に相当する額の損害を受けたものと認められる。
   そこで、被控訴人がAの画像の使用を許諾する場合に通常受領すべき金銭の額について検討する。
   前記引用した原判決(略)のとおり、控訴人は、他の約50名のライダーに適用される契約書の書式に基づいて、Aに関するライダー契約書を作成し、1か月当たり、通常販売価格で6万円程度を上限とする商品の無償提供を提案しており、ライダーに控訴人の商品の販売促進を依頼する場合の対価として、上記商品提供程度の経済的負担を見込んでいたとみることができる。
   一方、被控訴人は、自ら利益にはならないと考えて上記の提案には応じておらず、広告宣伝の際にAの画像の掲載を許諾する場合に、上記の金額を超える対価を想定したと認められる。
   このような事情に加え、Aの顧客吸引力の程度、内容、Aの画像の掲載場所の数、掲載期間等を総合して考慮すると、Aの画像の掲載により被控訴人に生じた損害額は、1か月当たり10万円と認めるのが相当である。
   この点、被控訴人は、控訴人が、Buyee」の英語版、台湾語版、中国語版の各ホームページや、楽天グローバルマーケット、becomeのホームページにAの画像を掲載した旨指摘する。しかし、控訴人代表者は、これらのページを知らず、自らが掲載したものではない旨供述している。そして、控訴人が上記の画像を掲載したと認めるに足りる証拠はないから、これらの掲載状況を損害額算定の際に考慮するのは相当ではない。

(3)結論
   以上によれば、被控訴人の請求は、控訴人に対し、Aの画像を掲載した不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由がある(控訴棄却)。

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