国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)
【事案の概要】・【争点】
原審である、東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)参照
【第1審原告らの主張】
(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
ア 原判決は、定年到達とともに雇用契約を終了したとされ、定年後一度も有期雇用契約を結んでいない者(第1審原告A,同K及び同Lについて)については、労契法19条の類推適用はできず、権利濫用の法理によっても有期雇用契約が締結されたということはできないと判示する。
イ しかし、本件において第1審被告会社が、第1審原告らから別件訴訟を提起されたことを理由に再雇用を拒否したものであることからすると、(定年後再雇用は、無期契約から有期契約への橋渡しの場面であり、有期契約から有期契約への橋渡しを想定する労契法19条の直接適用はないとしても、)定年後再雇用の場合においても、雇用継続の合理的期待を保護すべきであるから、同条が類推適用され、上記第1審原告らは、定年到達前と同様の隔日勤務のフルタイムの雇用形態での雇用関係が成立するというべきである。
また、同条を類推せずとも、第1審被告会社の定年後再雇用拒否は、定年制度、労働者供給契約上の権利を濫用するものでありし、労組法7条に反する違法な行為である。よって、第1審被告会社には、信義則上、上記第1審原告らの再雇用の申込みを承諾すべき義務があり、就業規則21条1項の合理的解釈に基づく労働条件により、定年後再雇用契約が成立するというべきである。
ウ 原判決によれば、定年後に一度でも再雇用契約を締結した労働者には、労契法19条の保護が及ぶ一方で、定年後の再雇用者には、労契法19条や権利濫用論の保護が及ばないことになるが、その結論は余りに不当であり、著しく正義にもとるものである。
(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
上記第1審原告らは、有期雇用契約が複数回積み重なっており、第1審被告会社も事前に上記原告第1審原告らに対して雇止めをする意向を示しておらず、実際に、第1審原告Dは、第1審被告会社に雇止めされた後も他社において就労している。
したがって、75歳という一事をもって上記第1審原告らの雇止めを正当化することはできず、地位確認請求が認められるべきである。
【第1審被告らの主張】
(1)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
ア 原判決は、「本判決確定の日」までの賃金請求権を認めた。しかし、労契法19条による有期契約を認めるとすれば、同条により直近の有期契約の内容がその労働条件となるから、第1審個人原告らの契約終了時(雇止め時)の翌日から従前の労働契約の内容、すなわち、1年間の有期契約となるはずである。
したがって、同条に基づき「みなされる」期間を超えて、労働契約上の地位が存在するとか賃金請求権が発生するということはあり得ず、上記期間を超えた部分について労働契約上の地位を認めたり、本件判決確定日まで賃金請求権を認めることは違法である。
イ また、原判決でも75歳を超えた第1審原告らの期待権は存在しないとされているところ、平成30年4月〇日に74歳となる第1審原告E、同年5月〇日に74歳となる同Fなどは、みなされた契約期間終了時点で75歳を超えてしまい、当然、本判決の確定日において75歳を超えることは明らかである(他の第1審原告においても同様である。)。
(2)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
第1審被告会社は、原判決言渡後の平成30年7月11日付けで、原判決において雇用契約上の地位が認められた第1審原告ら7名(同B,同C、同E、同F、同G、同H及び同J)に対し、仮就労の指示命令を行ったが、第1審原告B、同E及び同G(他社就労者)は全くこれに応じていない。
この点、タクシー業務適正化特別措置法に基づき、タクシー乗務員は、1社しか登録できないことからしても、同業他社でタクシー乗務員として就労している者については、第1審被告会社との関係で労働契約上の地位を認めることはできないはずである。上記第1審原告らが仮就労命令に応じていないことからすれば、同人らに第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないことが立証されたというべきである。
イ (第1審原告Jについて)
第1審被告会社と第1審原告C、同F,同H及び同Jとの間では、平成30年9 月13日、仮処分命令申立事件(東京地裁平成30年(ヨ)第21050号)の中で、同年10月18日から就労を行う旨の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。しかし、同Jは、他社で就労しているからとして労務提供を行なっておらず、第1審被告会社に対する労務提供の意思がないことが具体的に明らかである。よって、同人については、労働契約上の地位及び賃金請求権が発生しない。少なくとも、(原審で中間収入の控除が認められた、第1審原告E,同G及び同Hと同様に)民法536条に基づき中間収入の控除がされるべきである。
ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(第1審原告Jを含む。)については、上記和解において、平成30年10月18日から仮就労することや労働条件(処遇)が具体的に定められているから、仮に上記4名の雇止めが無効となったとしても、和解対象期間は原判決の認定した賃金請求権は発生しない。
エ (第1審原告Bについて)
第1審原告Bは、平成27年2月16日から平成28年2月15日までの契約期間に約9か月間欠勤したのであるから、労務の提供が不可能であることは明らかである(なお、同第1審原告は、期間満了が同日であり、その半年後の同年10月28日になって初めて労災申請を行ったが、労基署は11日間の休業のみ業務に起因すると認めたに過ぎない。)。
この点、原判決は第1審原告Bの欠勤が「業務による疾病」であるから、長期の欠勤をもって労契法19条にいう客観的合理的な理由に該当しないとする。しかし、第1審原告Bの上記9か月間の休業(欠勤)のうち、業務上の疾病とされた(みなされた)期間は11日間に過ぎないから、これを除く期間の欠勤は私傷病欠勤である。
したがって、上記の長期間の欠勤は、第1審被告会社が同第1審原告の契約更新をしない理由となり、労契法19条にいう客観的合理的理由となるというべきである。
【裁判所の判断】
(1)雇用契約上の地位確認について(第1審原告A,同K及び同Lについて)
ア 期間の定めのない雇用契約が定年により終了した場合であっても、労働者からの申込みがあれば、それに応じて期間の定めのある再雇用契約を締結することが就業規則等で明定されていたり、確立した慣行となっていたりしており、かつ、その場合の契約内容が特定されているということができる場合には、使用者が労働者一般に対して、特段の欠格事由のない限り、再雇用する旨の黙示の意思表示をしていると解されるときはもちろん、そうでなくても、労働者において雇用契約の定年による終了後も再雇用契約により雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があるから、労働者から再雇用契約締結の申込みがあったにもかかわらず、使用者が再雇用契約を締結せず、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、使用者が再雇用契約を締結しない行為は権利濫用に該当し、その場合に、労契法19条の基礎にある法理や解雇権濫用法理の趣旨ないし使用者と労働者との間の信義則に照らして、期間の定めのない雇用契約が定年に終了した後、上記の特定されている契約内容による期間の定めのある再雇用契約が成立する余地はあるものというべきである。
イ しかしながら、本件において、第1審被告会社を定年退職した従業員は、雇用継続のために第1審被告会社と新たに再雇用契約を締結するのであり、その場合には、従業員は、その勤務形態について、定年前から存在する隔日勤務と日勤勤務とのどちらかを選択することに加え、定年前から存在するフルタイム(11出番)と定年前には存在しなかった短時間勤務(8出番)のどちらを選んで希望し、従業員の希望と第1審被告会社の車両の空き状況を踏まえて、両者の合意により勤務形態を含めた労働条件が決定されるのである。すなわち、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状況等によっては、従業員の希望どおりの勤務形態では第1審被告会社が再雇用契約を締結できない場合もあるから、従業員からの申込みと希望があれば、そのとおりの条件の再雇用契約を締結することが確立した慣行となっていたとまでは認め難い。
ウ また、上記第1審原告3名は、再雇用契約における勤務形態についての希望等を何ら示していないから、上記第1審原告ら3名と第1審被告会社との間で成立するとみなされる再雇用契約(有期雇用契約)の内容を特定することができないといわざるを得ない。
エ もっとも、上記第1原告ら3名と第1審被告会社との間の定年後の有期雇用契約の成立を認めることはできないものの、第1審被告会社における本件雇止め等の主要な動機が、第1審個人原告らが第1審被告会社に対し残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことにあると認められることなどからすると、上記第1審原告ら3名についても、労働条件はともかく再雇用契約が締結される相当程度の可能性はあったものというべきである。それゆえ、第1審被告会社の本件再雇用拒否によってこれが侵害されたことについて、上記第1審原告ら3名はその精神的損害の賠償を求めることができるというべきであって、この点は、同人らが請求している慰謝料額の算定において考慮すべきである。
(2)雇用契約上の地位確認について(第1審原告D及び同Iについて)
原判決が説示するとおり、本件において75歳以降の者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないのであって、上記第1審原告らについては労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。
(3)原判決主文2項から5項について(雇用契約及び賃金支払請求権の終期)
ア 労契法19条の適用がある場合には、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件での労働契約が成立することになるから、本件雇止め時に成立した有期労働契約はそれぞれ1年間のものとなる。しかし、その際に成立した1年間の有期労働契約が終了する時点でも、当該第1審原告らが75歳を超えるまでは労契法19条が適用され、同条の要件を満たせば、更に1年間の有期労働契約が成立することになるというべきである。
したがって、本件においてはなお当該第1審原告らが有期雇用契約が更新されるものと期待することに合理的な理由があるというべきであり、また、本件雇止め時とは異なって第1審被告会社がこれを拒絶することについて客観的合理的な理由が生じるとは認められないから、労働契約上の地位及び賃金請求権が1年間を超えて認められないとする第1審被告会社の主張は採用することはできない。
イ もっとも、第1審被告会社との間で本件和解の成立した第1審原告ら(同C,同F,同H及び同J)については、和解条項の中で平成30年10月18日から仮就労することを目指し、その際の労働条件についても定めているところ、和解成立後タクシー労働に従事した日から1年を経過した日(ただし、更新することができる。)又は本案事件確定までは上記第1審原告らと第1審被告会社との間の雇用契約における賃金支払は、本件和解に従って行われるというべきであり、一方、同和解の中で、和解金として同月27日支払分までの仮払金相当額(後に清算するもの)を支払う旨取り決められていることからすると、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、同月分(同月27日支払分)までとするのが相当である。
ウ 原判決が説示するとおり、75歳を超えた者について有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、第1審原告E及び同Gについても、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権は、それぞれ75歳を超えた時点で成立していた有期雇用契約が終了するその最終月の賃金支払日と、本判決確定の日のうちいずれか早く到来する日までとするのが相当である。
(4)原判決において、第1審被告会社との間で労働契約上の地位を認められた第1審原告らについて
ア (第1審原告B,同E,同Gについて)
雇止めによって収入が途絶えた上記各第1審原告らは、生計を維持するためにやむなく就労していることが伺われなくもないし、第1審被告会社は、上記第1審原告らに対して仮就労命令を通知しながら、他方で当審においては上記各第1審原告らの労働契約上の地位についても争っているものであるから、上記第1審原告らがその地位に不安を感じて他社での就労をやめて第1審被告会社において就労することをしないこともやむを得ないものと認められ、これをもって第1審被告会社に対する労務提供の意思も能力もないということはできない。タクシー業務適正化特別措置法についていう点も、上記認定を左右するものということはできない。
イ (第1審原告Jについて)
第1審原告Jが他社で就労していることをもって、直ちに第1審被告会社に労務提供する意思がないとはいえないことは、上記アで他の第1審原告らについて説示したところと同様であるが、第1審原告Jは、第1審原告Cらとともに仮処分命令申立事件の中で和解をしており、平成30年11月分(同月27日支払分)以降の第1審被告会社との雇用関係における賃金支払は上記和解に従って行われるべきであり、有期雇用契約が更新されたものとみなされることによる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき終期は、同月10月分(同月27日支払分)迄とするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。また、他社での収入について民法536条により中間収入を(平均賃金の4割を限度として)控除すべきという点については、第1審被告会社の主張は理由がある。
ウ (第1審原告C,同F及び同Hについて)
上記第1審原告ら3名及び同Jについては、本件和解が成立していることから、有期雇用契約が更新されたものとみなされることにょる賃金請求権に基づいて支払を命じるべき期間は、平成30年10月分(同月27日支払分)までとするのが相当であることは、上記(3)イにて説示したとおりである。
エ (第1審原告Bについて)
第1審原告Bの欠勤が長期間に及ぶこと、欠勤は業務中の交通事故に起因する部分があるものの、その欠勤期間のうち上記事故に起因する療養のため労働できなかったと認められたのは、診療実日数の11日間に過ぎないこと、本件雇止めの時点でも休業が続いている状況であったものであり、本件雇止め等の主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることを考慮しても、第1審被告会社が第1審原告Bを雇止めとすることについては客観的に合理的な理由があるということができる。
したがって、同人については、有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。