【交通事故】仙台高裁令和6年7月23日判決(自保ジャーナル2186号138頁)

本件事故後、被控訴人車の生コン圧送装置の動作に不具合が発生したことを認めつつ、原審の判断を覆して、本件事故によるケーシングの変形を否認して、本件事故とケーシング交換を要する修理との間の相当因果関係を否認した事例(上告棄却にて確定)


【事案の概要】

(1)被控訴人(一審原告)X会社の従業員(当時)である巳川が運転し、オペレータを務めるX会社所有のコンクリートポンプ車(以下「被控訴人車」という。)と、控訴人(一審被告)の従業員である庚山が運転するコンクリートミキサー車(以下「控訴人車」という。)との間で、以下の事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 日時 令和元年11月25日午前10時頃
 イ 場所 宮城県気仙沼市内の災害復旧工事現場
 ウ 被控訴人車 普通特殊自家用コンクリート作業車(コンクリートポンプ車)
 エ 控訴人車 コンクリートミキサー車
 オ 事故態様 控訴人車が生コンクリートを被控訴人車の後部に備え付けられたホッパに投入するため後退していた際、控訴人車の後部が停車中の被控訴人車の後部に衝突した

(2)巳川と庚山は、被控訴人車と控訴人車が衝突した際に衝突音が聞こえたため両車両を確認したが、被控訴人車の後部に衝突痕は確認されなかった
   被控訴人車は、本件事故後も生コンクリートの圧送作業等を継続し、作業完了後は被控訴人車から控訴人車に残りの生コンクリートが戻された。

(3)被控訴人(一審原告)V保険会社は、被控訴人X会社が付保していた保険契約に基づき、同社に対し、被控訴人車に搭載された生コンクリート圧送装置(以下「生コン圧送装置」という。)の不具合に係る修理費用として、950万円(以下「本件既払保険金」という。)を支払った。

(4)被控訴人らは、本件訴えを提起して、本件事故の後に被控訴人車にSパイプの切替動作の不良(Sパイプ左右に搖動して一対のコンクリートシリンダと交互に接続するところ、その切替動作がスムーズに行われないという不具合。以下「本件動作不良」という。)が生じ、その修理が必要になったと主張して、①被控訴人X会社が、控訴人に対し、庸車費用その他の損害金100万6378円(注:遅延損害金を除く。以下同じ。)、②被控訴人V会社が、控訴人に対し、修理費用相当額950万円の支払いを求めた。

(5)原審仙台地裁古川支部令和5年3月17日判決・自保ジャーナル2186号149頁)は、本件動作不良の発生を認定した上で、その原因は、本件事故により生コン圧送装置の構成部品であるケーシングが変形したことにあるとして、本件事故との因果関係を認めてケーシング交換等の修理費用を損害として認定し、①被控訴人X会社の請求を99万8384円、②被控訴人V会社の請求を920万4613円の限度でそれぞれ認容したところ、これを不服とする控訴人が本件控訴をした。

(6)原審において、本件動作不良の発生を認定した上で、その原因は、本件事故により生コン圧送装置の構成部品であるケーシングが変形したことにあると判断した理由の骨子は、以下のとおりである。
 ア 本件動作不良の有無について
  a) 巳川が本件事故当日(令和元年11月25日)に点検した際にはSパイプの切替動作には異常は認められなかったものの(ただし、巳川が油圧を絞ったところ、Sパイプの揺動時に引っかかったような異音が生じた。)、同年12月13日には本件動作不良が確認された。
  b)上記の点について、被控訴人V保険会社のアジャスタ(き)は、本件事故当時の点検時点ではSバイブを作動させる油圧装置に用いられるオイルの温度が高かったため、バルブリングとバルブプレートが干渉している部位があってもSバイブは作動することができたものの、同年12月13日の時点では当該オイルの温度が低下していたため、当該干渉部位において引っかかりが生じて直ちには作動せず、本件動作不良が確認されたものと思われるとの趣旨の供述をしており、当該供述は合理性を有するものと認められる。
  c)その他の事情も併せ考慮すれば、被控訴人車については、本件事故直後の時点で本件動作不良や異音の発生原因となる事象が生じており、油圧装置に用いられるオイルの温度が低下した本件事故から間もない時期には本件動作不良が生じていたものと認めるのが相当である。
 イ 本件動作不良の原因について
  a)ケーシングの変形について
   被控訴人車のケーシング側のバルブプレートとこれに隣接するSパイプ側のバルブリングには、いずれも上部に摩耗痕が顕著に認められる一方で、当該各部品の下部については摩耗痕ないし擦過痕が認められるものの、その痕跡は上部と比較すると軽度のものであり、摩耗の状況に偏りがあることが認められる。当該部品は本来並行であり、約0.3mmの間隔があるところ、前記の摩耗痕の形状や偏りの状況からすれば、並行であったバルブプレートとバルブリングの角度に変化が生じ、両部品が接触・干渉したことにより当該摩耗痕の偏りが生じたものと認められ、このことが、本件事故当日に確認された異音の発生原因であり、また、本件事故から間もない時期には生じていた本件動作不良の原因となったものと認められる。
   このような角度の変化は、ケーシングが変形したことに起因するものと推認され、被控訴人車には本件事故前は本件動作不良が生じておらず、本件事故後もケーシングが変形する原因となるような事象が生じた事実も認められないことからすれば、本件事故によりケーシングが変形し、前記の角度の変化が生じたものと認めるのが相当である。
   したがって、本件動作不良は本件事故に起因して生じたものと認められる。
  b)バルブプレートとバルブリングの摩耗痕について
   バルブプレート及びバルブリングの上下で摩耗痕に顕著な差が見られることや上部の摩耗痕の形状(注:上部の円弧を描くような摩耗痕には、相対する部品が干渉して生じたような痕跡がみられる。)等は、両部品の上部の摩耗痕が、Sパイプの揺動による生コンクリートの骨材の剪断といった通常の用法で生じたものではなく、両部が接触したために生じたことを示唆しているというべきである。
   また、Sパイプの左右の揺動により生じる摩耗は、風速の差のために本来バルブプレートやバルブリングの下部の方が摩耗が進むのが通常であるにもかかわらず、前記のとおり被控訴人車のバルブプレートやバルブリングについては上部の方が摩耗の程度が著しいことが認められ、このことも、両部品の上部の摩耗痕がSパイプの揺動という通常の仕様により生じたものではないことを示しているというべきである。
   被告は、両部品の上部の摩耗痕はコンクリートの骨材の噛込みによるものであるとも主張するが、両部品の摩耗痕の形状等に鑑みると、癸山が意見する通り、バルブプレートとバルブリングの上部の顕著な摩耗痕は、生コンクリートの骨材の剪断や骨材の噛込みによって生じたものではなく、ケーシングが変形して両部品が干渉したことにより生じたことを推認させるというべきである。そして、本件事故による衝撃以外に、被控訴人車にケーシングの変形をもたらす事象が生じたことをうかがわせる事情は見当たらない。


【争点】

(1)本件事故の後に被控訴人車に本件動作不良が発生したか及び本件事故と本件動作不良との因果関係の有無(争点1)
(2)本件事故により被控訴人X会社が被った損害(争点2)
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、控訴審における各当事者の追加主張(ただし、争点1についてのものである。)は、以下のとおりである。
   (控訴人の主張)
   バルブプレートとバルブリングのクリアランス(隙間)調整は、ダブルナットの諦緩により行うことができるところ、被控訴人らは、ダブルナットの諦緩では上記調整を行うことができないとして、本件動作不良が生じた際にダブルナット調整による不具合解消を試みておらず、本件事故によって何らかの不具合が発生したとしても、直ちにケーシング交換の必要性があったとはいえない
       (被控訴人らの主張)
   本件事故によりケーシングが変形した結果、バルブプレートとバルブリングのクリアランスは、その下部及び右側と比較して、上部及び左側がより強く接触するという偏りが生じていて均一性が確保されない状態になったから、このような状態でダブルナットでの調整を行っても正常な規定値に合わせることはできず、ケーシングを交換する必要があった


【裁判所の判断】

   当裁判所は、本件事故によりケーシングに変形が生じたとはいえないため、これを前提とした修理費用等を損害として認めることができず、被控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。 

(1)争点1(本件事故の後に被控訴人車に本件動作不良が発生したか及び本件事故と本件動作不良との因果関係の有無)について
 ア 本件動作不良の有無について
  a)令和元年12月13日に被控訴人V会社の卯山及びB会社a工場の従業員が立ち会って行われた被控訴人車の見分の際、被控訴人X会社のアジャスタ(じん)が撮影した動画によれば、この時点でのSパイプの切替動作の状況は、通常のSパイプの切替動作と比べても円滑な切替動作が行われず、「ギィー」という金属の接触音を発しながらゆっくりと切り替わる状況であり、本件事故後の前期時点で、Sパイプの動作不良が発生していたことがうかがわれる。
     b)前記動画には左から右への切替動作の様子しか記録されていないため、右から左への切替動作の状況は明らかではなく、また、エンジンの回転数の状況も必ずしも明らかではないが、見分に参加した卯川は、原審証人尋問において、生コン供給装置を操作したB会社a工場の従業員がSパイプを動かす合図をしても直ぐには動かず、エンジンの回転数を上げたら動いたような気がし、右から左への切替動作は順調に行われていたと証言する。卯川は、被控訴人V保険会社の従業員であるが、車両損害の認定に関する長い知識経験を有する者として、その供述の客観性はある程度担保されているというべきであるから、一応の信用性を認めることができる。
  c)以上によれば、本件事故後である令和元年12月13日の時点で、Sパイプの切替動作がスムーズに行われないという作動の不具合(本件動作不良)が生じていたと認められる。
 イ 本件動作不良の原因について
  a)ケーシングの変形について
   そもそも、ケーシングは、鉄で鋳造された全長約1mを超える大型の部品であり、生コンが投入されるホッパの下部に取り付けられ、生コン圧送装置の基幹部分であるスイングバルブ式の油圧シリンダーとSパイプの接合部及びSパイプ全体を下面から覆っているものであり、バルブプレートケーシングの部品として取り付けられ、Sパイプのバルブリングと対になっている。
   そして、本件事故の衝突太陽や控訴人車と被控訴人車の各構造等から考えて、控訴人車最後部に取り付けられた突入防止装置と、被控訴人車最後部の管継手(くだつぎて)が接触したものと推認され、衝突による入力箇所は最後部の管継手になると考えられる。
   そうすると、衝突により加わった外力がケーシングに伝わるとしたならば、管継手からほぼ直角に曲がるコンクリート輸送管を通過し、再び管継手を経てケーシングに至ることになるが、想定される入力箇所の管継手には衝突の痕跡が見当たらないのを始め、そこからケーシングに至るまでの構造物に明らかな損傷個所が確認されておらず、上部のホッパにも異常はなかった。
   この点につき、被控訴人V保険会社のアジャスタは、令和2年3月25日に行われた被控訴人車の見分の際、レーザー測定器を利用してケーシングを測定したところ、左右で0.7mmの誤差が認められたと記載した調査報告書2(注:原審では同書証は摘示されていないようである。)を作成し、原審証人尋問において同旨の供述している。
   しかしながら、上記調査報告書2の記載は、左右差を指摘するものの測定箇所が特定されておらず、用いた機材を含めてその詳細は何ら明らかにされていない。癸山は、通常の検証では測定データを写真などに撮って記録するというものの、本件では使用機材の測定数値の表示等を写真に撮影するなどして記録しておらず、調査報告書2の記載や癸山の供述を直ちに採用することはできない。
   なお、癸山は、当初提出した調査報告書1ではケーシング交換の必要性に言及しておらず、最初にケーシング交換の必要性を認めた調査報告書2では部品の寸法を計測した結果、規定以上の変形があったとして、本件動作不良は本件事故により発生したものであると判断していた。
   ところが、その後、控訴人保険会社から測定精度等についての指摘を受けると、改めて提出した調査報告書3で初めてバルブプレートとバルブリングの摩耗痕を根拠としてケーシングに変形が生じたと指摘するに至っている(注:下記b)参照)。
   このように、ケーシング変形についてその判断根拠として寸法の計測結果を挙げながら、測定箇所や方法などその具体的内容を示さず、その点を指摘されるや、別の理由を挙げて測定数値に意味はないとする説明の変遷は、癸山の見解の信用性に影響を及ぼす事情であると言わざるを得ない。
   そうすると、本件事故によって、被控訴人車のケーシングが変形したことを直接に示す客観的な証拠がないこととなる。
  b)バルブプレートとバルブリングの摩耗痕について
   被控訴人らは、ケーシング変形を示す現象として、バルブプレートとバルブリングの上部著しい摩擦痕があり、これは本件事故による外力によってケーシングの下部が変形し、バルブプレートとバルブリングの上部の隙間が消滅して両者が接触したことが原因であると主張する。
   この点、分解後のバルブプレート及びバルブリングを撮影した写真によれば、それぞれが対面する側の上部にSパイプの搖動の軌道に沿うように、円弧を描く線状の摩擦痕があることが認められる。
   他方で、それらの写真によれば、バルブプレート下部にも同様に線状の摩擦痕が認められるところ、もともとバルブプレートとバルブリングは均一摩耗しないことが指摘され、バルブプレートの摩擦例として掲げられている写真によると、本件と同様、バルブプレートの2つの気孔の間にSパイプの搖動の軌道に沿うような円弧を描く線状の摩擦痕が上部と下部にそれぞれ存在することがうかがわれる。バルブプレートは、対向するバルブリングとの接続部に当たり、Sパイプが左右に誘導する際生コンクリートの骨材を剪断する役割を担っており、生コンクリートモルタル(セメントに水を混ぜたセメントベースに、砂や砕砂(さいさ)等の細骨材を混ぜたもの)に砂利や砕石当の粗骨材を混ぜたもので、細骨材の砂でも0.3mmの大きさがあるため、Sパイプが搖動して骨材を剪断する際にパルプリングやパルププレートが摩耗するものであって、もともと耐摩耗性能を備えているが、定期的に摩耗の点検と取替えが必要とされている。そして、バルブプレートとバルブリングの隙間に骨材を噛み込むことがよくあり、同じ装置のサービスマニュアルでも、主要な不具合事例の1つに「Sバルブの作動が異常(かじり、コンクリートの噛込等が原因のもの)」が挙げられていることから見ても、骨材の噛込みによって線状の摩耗痕が生じる可能性は否定できないというべきである。
   この点、癸山は、骨材では本件のような摩耗痕が生じないと供述するが、その根拠とするところは、文献に基づくものでも実験で確かめたものもなく、単に癸山の経験則にすぎないというのであって、癸山が、本来は接触しないバルブリングとチップリングが接触するなどと、生コン圧縮装置の構造を誤解していたり、実際には可能であるにもかかわらずバルブプレートとバルブリングのクリアランスは調整できないと述べるなど、必ずしも正確な説明をしていたわけでないことを考えると、癸山の上記供述を直ちに採用することはできず、本件で生じたような摩耗痕が骨材によって生じる可能性を排除することができない
  c) 本件においては、ケーシングの変形を直接に示す客観的な証拠がなく、衝突時の入力箇所と考えられる車両最後部の管継手からケーシングに至るまでの構造物に損傷個所が見当たらず、堅固に鋳造されたケーシングのどの部位にどのように外力が加わり変形が生ずるのかといった機序が不明であり、生コン圧送装置の通常の使用過程で発生する生コンクリートに含まれる骨材の嚙込み等が原因である可能性を否定できない以上、ケーシングが変形したと推認することはできない
 イ ケーシング交換の必要性について
   仮にケーシングが変形してバルブプレートとバルブリングの接触が生じていたとしても、被控訴人車が搭載する生コン圧縮装置の製造元を吸収合併した株式会社Gへの照会結果によれば、バルブプレートとバルブリングの間の隙間(クリアランス)の規定値は0.5mm(+0.2mm、-0.1mmが許容)であり、そのクリアランスはケーシング先端のダブルナットの締緩(ていかん)によって調整ができるというのである。
   そうすると、ケーシングの変形によりバルブプレートとバルブリングの接触が生じる状態になったとしても、ケーシングの変形箇所やその程度が明らかではない以上、ケーシング交換の必要性を判断するに当たっては、少なくとも通常予定するダブルナットの調整による方法によって接触の解消が可能かどうかを検討する必要がある。
   ところが、被控訴人らは、ダブルナットでのクリアランス調整はできないという前提のもと、その調整を試みていないというのであるから、結局、本件においては、被控訴人らの主張を前提としても、直ちにケーシング交換を必要としたと認めることはできない
 ウ 小括
   以上のとおり、被控訴人車は、本件事故後に本件動作不良が発生していたことが認められるものの、その原因が生コンクリートに含まれる骨材の嚙込み等である可能性が否定できないため、直ちに本件事故によるケーシングの変形があったと認められない
   仮にケーシングの変形に起因するとしても、その不具合解消のためにケーシング交換を要する修理が必要とはいえないので、いずれにしても、本件事故とケーシング交換を要する修理との間に相当因果関係があるということはできない

(2)争点2(本件事故により被控訴人X会社が被った損害)
   本件事故と本件動作不良との因果関係が認められないところ、被控訴人らは、本件動作不良の原因を探るために必要な被控訴人車の点検作業に要する費用を損害として主張しておらず、控訴人が自認するもこれを援用しないため、同費用を損害として認めることはできない
   本件動作不良の原因を探るために必要な被控訴人車の点検作業に要する期間中に被控訴人車を使用できないことによる損害についても、同様の理由で、認めることができない。

(3)結論
   原判決は相当でなく、本件控訴は理由がある(原判決取消、請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、本件事故後に本件動作不良が発生したことを認めつつ、原審の判断を覆して、本件事故によるケーシングの変形を否認して、本件事故とケーシング交換を要する修理との間の相当因果関係を否認した事例です。
   控訴審では、被控訴人側の立証の柱であった被控訴人V保険会社のアジャスタの癸山の意見等の信用性がことごとく否定されたため、本件動作不良の原因についての判断が覆ったものと考えられます。

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