【名誉毀損】福岡地裁令和6年12月6日判決(判例タイムズ1537号183頁)

うわさや風評であるとの形式を取っていたとしても、前後の文脈によっては、そのうわさや風評の内容たる事実が摘示事実になる旨判示した上で、被告らがYouTube上に動画を投稿したことよる原告の社会的評価の低下を認めた事例(控訴審係属中)


【事案の概要】

(1)原告は、F県議会議員であり、同議会の副議長を務めている。
   被告Y1及び被告Y2は、動画投稿サイトYouTube(以下、単に「YouTube」という。)において、「A」との名称のチャンネル(以下「本件チャンネル」という。)において動画を投稿するいわゆるユーチューバーである(被告Y3及び被告Y4については、省略する。)。

(2)被告Y1及び被告Y2は、令和5年11月20日、YouTube上に別紙1投稿動画目録(略)記載の本件動画1を投稿した。
   被告Y1及び被告Y2は、本件動画1において、B党の支持者を名乗る人物から同党に所属するF県議会議員に宛てて、原告について同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及びパワーハラスメントのうわさを聞くなどの記載のある手紙(以下「本件手紙」という。)が送付されたとして、その内容を一部読み上げ、また、それについてコメントするとともに、その概要欄本件手紙の全文を記載した。本件動画1の視聴回数は、同年12月5日時点で5037回である。

(3)被告Y1及び被告Y2は、令和5年12月5日、YouTube上に投稿した別紙1投稿動画目録(略)記載の本件動画2概要欄において、本件手紙の内容を記載した。本件動画2の視聴回数は、同月8日時点で4718回である。

(4)原告の訴訟代理人弁護士は、令和5年12月8日付けで、被告Y1及び被告Y2に対し、本件動画1及び2の内容やその概要欄には原告の名誉を毀損する内容が含まれているなどとして、本件動画1及び2の削除を求める内容証明郵便(以下「本件通知」という。)を送付し、その頃、本件通知は被告Y1及び被告Y2に到達した。
   被告らは、本件通知を受けて、本件動画2概要欄に記載されていた本件手紙の内容を削除した。 

(5)被告Y1及び被告Y2は、令和6年4月22日、YouTube上に別紙1投稿動画目録(略)記載の本件動画3及び4を投稿し、その概要欄本件手紙の内容をそれぞれ記載した。本件動画3の視聴回数は、同年5月27日時点で4047回であり、本件動画4の視聴回数は、同時点で3658回である。

(6)原告は、本件訴えを提起して、被告らが共同して投稿した本件各動画によって名誉を毀損されたなどとして、被告らに対し、①民法719条1項前段に基づき、連帯して、損害金合計285万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②人格権に基づく差止請求権として、別紙1投稿動画目録(略)記載の本件動画1、3及び4の削除を求めた
(以下、上記②の請求についての判示は省略する。)


【争点】

(1)不起訴の合意の成否(本案前の争点)(争点1)
(2)本件各動画の投稿による原告の社会的評価の低下の有無(争点2)(3)真実性の抗弁の成否(争点3)
(4)被告Y4社が共同不法行為責任を負うか否か(争点4)
(5)相当因果関係のある損害の有無及びその額(争点5)
   以下、上記(2)、(3)及び(5)についての裁判所の判断の概要を示す。
   なお、本裁判例は、上記(1)について、不起訴合意の成立を否認し、上記(4)について、被告Y4社が共同不法行為責任を負うものと判示した。


【裁判所の判断】

(1)争点2(本件各動画の投稿による原告の社会的評価の低下の有無)について
 ア 当事者の主張
  a)原告の主張
   別紙1投稿動画目録(略)記載の本件動画1から4までの動画(以下、これらをまとめて「本件各動画」という。)は、原告が同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題を起こし、県職員や秘書に対するパワーハラスメントを行っているなどといった事実を摘示するもので、原告の社会的評価を低下させるものである。
  b)被告らの主張
   本件各動画は、①B党の支持者から同党に所属するF県議会議員に宛てて本件手紙が送付された事実、②本件手紙に概要欄記載の内容が記載されていた事実を摘示し、これに論評を加えたにすぎない。原告が実際に同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題を起こし、県職員及び秘書に対するパワーハラスメントを行っているという事実を摘示したわけではない。
   公職にある者に対して様々なうわさが飛び交うことはしばしばあり、単に具体性のないネガティブな情報を流布されたからといって、直ちに原告の社会的評価が受忍限度を超えて低下したということはできない。
 イ 摘示事実の内容
   まず、本件各動画による摘示事実について検討する。
  a)判断枠組み
   一般に、人の社会的評価を低下させる表現は、事実の摘示であるか、意見ないし論評の表明であるかを問わず、人の名誉を毀損するというべきであるところ、ある表現における事実の摘示又は意見ないし論評の表明が人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準としてその意味内容を解釈し、判断すべきである(最高裁昭和31年7月20日判決、最高裁平成9年9月9日判決参照)。
   そうすると、本件各動画において、いかなる事実が摘示されたかの判断に当たっては、本件各動画における一般の視聴者の普通の注意と読み方を基準として、その意味内容を解釈した上で判断すべきである。
  b)本件動画1における摘示内容
   被告Y1及び被告Y2は、本件動画1において、B党の支持者を名乗る人物から同党に所属するF県議会議員に宛てて本件手紙が届き、本件手紙には、原告について同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及び県職員や秘書に対するパワーハラスメントのうわさを聞くなどの記載があるなどとしており、飽くまでも「うわさ」としているにすぎない。
   そして、被告Y1及び被告Y2は、本件動画1において、「どれもこれもね、うわさでしかない。」、「かもしれない話なので」、「県職員にパワハラしているかどうか知りませんよ」、「そういううわさが立っているから」などと発言したことが認められ、これらに照らすと、本件手紙の内容が真偽不明であり、単なるうわさや風評の類にとどまる旨の発言をしている。
   しかし、他方で、被告Y1及び被告Y2は、本件動画1の他の部分では、本件手紙の内容を紹介する文脈の中で、「結構お詳しいね」、「その界隈では有名な話ともいえるけど」、「県の界隈じゃ有名らしいですよ。だから、県、F県庁の中では」、「皆さん、よくご存じだなと思いますけど」と発言したほか、原告の名前を挙げた上で「県議会議員とか市議会議員とかが」、「その県職員らとか市職員に対してパワハラするって」、「これ多分ね、全国にはびこっていると思う」、「パワハラが当たり前だと思っている」、「パワハラするのが議員の仕事だって思ってるんですよ」などと発言した事実が認められる。
   これらの発言は、いずれも前後の文脈から原告に対する発言といえ、本件手紙に記載された内容(原告について同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及び県職員や秘書に対するパワーハラスメントの事実)が実際に存在することを強く示唆するものであって、
   これを視聴した一般の視聴者は、単に本件手紙がB党の支持者から同党に所属するF県議会議員に届いたとの事実にとどまらず、実際に原告には上記の事実が存在する可能性があるとの認識を持つのが通常であるというべきであるから、
   本件動画1は、上記の発言と相まって、被告らが、人のうわさがあるとの形式をとりながら、原告に同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及び県職員や秘書に対するパワーハラスメントの事実が存在する旨を摘示したものと認められる。
  c)被告らの主張について
   これに対し、被告らは、本件動画1では、飽くまでうわさであることを明示し、真実は分からない旨を述べていることをもって、本件手紙の内容が実際にあったことまでは摘示しておらず、単にB党の支持者から、同党に所属するF県議会議員に宛てて本件手紙が送付され、本件手紙に概要欄記載の内容が記載されていたことを摘示したにすぎないと主張する。
   しかし、うわさや風評であるとの形式を取っていたとしても、そのことから直ちにうわさや風評の存在自体が摘示事実になるわけではなく、前後の文脈によっては、そのうわさや風評の内容たる事実が摘示事実になると解されるところ(最高裁昭和43年1月18日判決参照)、
   本件動画1を前後の文脈も含めて全体として考察すると、これを見た一般の視聴者が、本件手紙に記載された事実が実際に存在する可能性があるとの認識を持つことが通常であることは既に述べたとおりである。
   したがって、被告らの前記主張を採用することはできない。
  d) 本件動画2ないし4における摘示内容
   本件動画2ないし4は、いずれも概要欄本件手紙の内容を記載したものであるところ、本件動画1とは異なり、ここでは本件手紙が送付された経緯やその内容が真偽不明であることについては何らの説明はない
   もっとも、一般にYouTubeの視聴者は、同一のチャンネルによって投稿された他の動画を閲覧することはしばしばあるところ、本件動画2は、本件動画1からわずか15日後に投稿されたものであるし、本件動画3及び4はいずれもそのサムネイル画像において原告本人の画像および原告の氏名が大きく掲載され、動画のタイトル名も「副議長Xvol.12」(本件動画3)に続けて「副議長Xvol.13_疑惑は続くよ、どこまでも。。」(本件動画4)などとされていることを踏まえると、
   本件動画2ないし4の概要欄を見た一般の視聴者は、こうした一連の投稿により、その概要欄に記載された事実が実際に存在する可能性があるとの認識を持つのが通常である。
   よって、本件動画2ないし4における概要欄は、被告らが、本件手紙を引用しつつ、原告に同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及び県職員や秘書に対するパワーハラスメントの事実が存在する旨を摘示したものとみるのが相当である。
 ウ 社会的評価の低下の有無
   原告が同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題を起こしているといった事実や、県職員や秘書に対してパワーハラスメントを行っているといった事実は、県議会議員や県議会副議長としての適性に欠く人物であるとの印象を与えるものというべきであって、原告の社会的評価を、受忍限度を超えて低下させたことは明らかである。
   したがって、この点に関する原告の主張は理由がある。

(2)争点3(真実性の抗弁の成否)について
   被告らは、被告らの主張する摘示事実(①B党の支持者から同党に所属するF県議会議員に宛てて本件手紙が送付された事実、②本件手紙に概要欄記載の内容が記載されていた事実)を前提とした上で、被告らの摘示した事実は真実であり、本件各動画の投稿には違法性がないなどと主張する。
   しかし、本件各動画における摘示事実は前記(1)に判断したとおりであり、これらの摘示事実が真実であることについて被告らから具体的な主張立証はない。
   したがって、被告らによる本件各動画の投稿について、真実性の抗弁が認められるということはできない。

(3)争点5(相当因果関係のある損害の有無及びその額)について
 ア 本件動画1に関する損害
  a)慰謝料 70万円
   本件動画1は、その大部分において本件手紙に記載された内容を取り上げている上、令和5年12月5日時点の視聴回数は5037回を超え、相当数の人数に視聴されたことがうかがわれ、県議会議員及び県議会副議長である原告の社会的評価の低下に伴う精神的苦痛は看過することができない。
   他方で、被告らによる本件各動画の内容は、県議会議員及び県議会副議長という公職にある原告の疑惑を追及し又は日々の言動に批判を加えるといった側面があることも否定できない。
   そこで、これらを含む本件に現れた一切の事情を考慮し、本件動画1に係る精神的苦痛に対する慰謝料額としては、70万円が相当である。
  b)弁護士費用 7万円
  c)合計 77万円
 イ 本件動画2に関する損害
  a)慰謝料 10万円
   本件動画2は、動画の概要欄に本件手紙の内容を記載したものであるところ、既に述べたとおり、かかる内容は社会的評価を低下させるものということができる。
   もっとも、原告が名誉毀損の対象とする部分動画の概要欄に限定されているところ、YouTubeにおける一般の視聴者が必ずしも概要欄を閲覧した上で動画を視聴するとは限らないこと、本件動画2の概要欄の本件手紙の内容は短期間で削除されたこと、本件動画1により本件手紙に記載された内容を理由とする原告の社会的評価は一定程度低下していることになるから、本件動画2によって新たに低下した社会的評価の程度は一定限度にとどまること、本件動画2の視聴回数等、本件に現れた一切の事情を勘案すると、本件動画2に係る精神的苦痛に対する慰謝料額としては、10万円が相当である。
  b)弁護士費用 1万円
  c)合計 11万円
 ウ 本件動画3及び4に関する損害
  a)慰謝料 各10万円(理由については、本件動画2と同様であり、省略する。)
  b)弁護士費用 各1万円
  c)合計 各11万円
 エ 合計
   110万円
(4)結論
   原告の請求は110万円の限度で理由がある(一部認容)。


【コメント】

   本裁判例は、うわさや風評であるとの形式を取っていたとしても、そのことから直ちにうわさや風評の存在自体が摘示事実になるわけではなく、前後の文脈によっては、そのうわさや風評の内容たる事実が摘示事実になる旨判示した上で、本件各動画を見た一般の視聴者が、本件手紙に記載された事実(原告に同僚議員との不倫やセクハラなどの女性問題及び県職員や秘書に対するパワーハラスメントの事実)が実際に存在する可能性があるとの認識を持つことが通常であることから、上記の事実が本件各動画による摘示事実であると認定した事例です。
   本裁判例は、うわさや風評の存在自体が摘示事実として認められるためには、単に「うわさ」であるとの断りが述べられているだけではなく、前後の文脈からも、一般の読者(視聴者)において、そのうわさや風評の内容たる事実が実際に存在する可能性があるとの認識を持たれないよう、表現内容を工夫する必要があることを示唆しています。

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