【労働】大阪高裁令和5年8月31日判決(労働判例1336号50頁)

控訴人らは、控訴人らの使用者である請負事業者から労働者派遣の役務の提供を受けていないものと判示して、控訴人らの労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく請求を棄却した事例(上告受理申立不受理にて確定)


【事案の概要】

(1)被控訴人は、運送を主たる業務とする株式会社である。
   A社は、一般貨物自動車運送事業等を目的とする株式会社である。A社は、昭和36年12月から、貨物自動車運送事業法の許可(当初は認可)を得て同事業を継続し、平成12年11月からは、高圧ガス製造事業の許可を得て同事業を継続しており、タンクローリーを使用して高圧ガスの製造及び運送を行うなどしている。
   控訴人らは、いずれもA社の従業員である。

(2)被控訴人は、平成12年12月20日、A社との間で、被控訴人の指定する高圧ガスを、被控訴人の指定する場所で受け入れ、被控訴人の指定する場所まで運送し、納入先に納入を完了する業務及びこれに附帯する一切の業務(以下。併せて「本件運送業務」という。)をA社に委託し、A社がこれを受託する旨の業務委託基本契約(以下「本件業務委託契約」といい、その際に作成された契約書を「本件契約書」という。)を締結するとともに、本件業務委託契約に基づく運送料についての覚書及び保安に関する覚書を取り交わした。
   控訴人らは、本件運送業務に従事している。

(3)労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働社の保護等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)40条の6第1は、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、同項1号から5までの各号のいずれかに該当する行為を行った場合(ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が上記各号のいずれかの行為に該当することを知らず、かつ、知らなかったことにつき過失がなかったときは、この限りでない。)には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申込みをしたものとみなす旨を定めている。
   そして、同項5は、「この法律又は次節の規定により適用される法律の規定を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第26条第1項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること」と定めている。

(4)厚生労働省の告示である「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号。以下「37号告示」という。)2は、労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分について規定している(その内容については、大阪地裁堺支部令和4年7月12日判決の【事案の概要】(4)参照。)。

(5)控訴人らは、被控訴人に対し、令和2年1月29日到達の内容証明郵便をもって、本件業務委託契約労働者派遣法40条の6第1項5に該当するとして、被控訴人からの直接雇用の申込みを承諾する旨の意思表示をした。

(6)控訴人らは、訴えを提起し、
   被控訴人は、労働者派遣法の適用を免れる目的で、業務委託の名目でA社との間で契約を締結し(偽装請負)、労働者派遣法26条1項各号に掲げる事項を定めずに控訴人らによる労働者派遣の役務の提供を受けていたから、労働者派遣法40条の6第1項5に基づき、控訴人らに対して労働契約の申込みをしたものとみなされるところ、控訴人らはこれを承諾する意思表示をしたとして、
   被控訴人に対し、それぞれ労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた。

(7)原判決(大阪地裁堺支部令和4年7月12日判決・労働判例1287号62頁)は、控訴人らの請求をいずれも棄却した。そのため、控訴人らが控訴した。


【争点】

   多岐にわたるが、主な争点は、
    被控訴人が労働者派遣の役務の提供を受けていたものか否か
である。
   以下、裁判所の判断の概要を示す。


 

【裁判所の判断】

(1)被控訴人が労働者派遣の役務の提供を受けていたものか否かについて
 ア 控訴人らの主張について
   控訴人らは、37号告示に照らせば、A社は自ら独立して請負事業者として控訴人らを指揮命令しているとはいえず、単に控訴人らの労務を被控訴人に提供しているにすぎないのであって、被控訴人は労働者派遣の役務の提供を受けていたものである旨主張し、
   労働者派遣法40条の6第1項各号に該当するか否かは、承諾の意思表示をした日から1年以上前の事実を含めて判断されるべきと主張する。
   しかし、労働者派遣法40条の6第3項が、第1項各号の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされる行為が終了した日から1年を経過する日までに承諾の意思表示を行わなかった場合には、当該申込みはその効力を失うと定めている一方、同項各号に該当する違法行為が複数存在したり、あるいは2暦日以上にわたって継続されたりする場合には、その違法行為ごと、違法行為が行われた日ごとに労働契約の申込みをしたとみなされ、労働者はいずれの時点の、いかなる違法行為に基づいてみなし申込みの制度の適用を主張するかを選択できると解される。
   これらに照らせば、被控訴人からの直接雇用の申込みを承諾する旨の意思表示(以下「本件承諾の意思表示」という。)にはどの時点のみなし申込みに対する承諾の意思表示か明示されていないものの、控訴人らが本件承諾の意思表示において申込みみなし制度の適用を主張したのは、本件承諾の意思表示が被控訴人に到達した日から遡って1年以内の行為(就労状態)に対するものと解される。
   したがって、本件における、被控訴人が労働者派遣の役務の提供を受けていたか否かの判断も、本件承諾の意思表示が被控訴人に到達した日から遡って1年以内の行為(就労状態)を前提に行うのが相当であり、それ以前の事実は判断の対象となる1年以内の行為の評価をする際に考慮すべき事情となり得るにとどまるというべきである。
   以下、このような理解を前提に、被控訴人が労働者派遣の役務の提供を受けていたか否かについて、37号告示2条の整理に沿って検討する。
 イ 37号告示2条1号イ( 
   次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
    a)労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。
    b)労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。
)について
   a)A社は、被控訴人からの注文表を受け、各従業員の出勤日、休暇休日、月間の運送距離等を考慮して、従業員の乗務割を決定し、注文表に各常務を担当する従業員の氏名を記載して被控訴人に返信し、さらに、上記乗務割に従って被控訴人が作成した搭乗票(案)の内容を確認し、特に異議がなければ同案のとおりの搭乗票とするが、配送ルートや走行距離に直結する、各ローリー車がその日に担当する運送の内容は、A社からの申入れで変更することができるものとされており、各ローリー車がその日に担当する運送や順序、乗務員等が変更された例が相当数ある

これらの事情に照らせば、A社は、「労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行う」ものに該当すると認められる。

  b)また、A社は、控訴人らから、各日、輸送日報、走行距離報告書、給油伝票、日常点検記録表及び移動式製造設備等安全日誌の提出を受けているのであるから、「労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行う」ものに該当すると認められる。
  c)そうすると、A社は「業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
  d)これに対し、控訴人らは、搭乗票には配送先や内容、配送ルート、時間などが記載されており、この記載が控訴人らの業務遂行に対する指揮命令そのものであるところ、平成30年6月頃からA社に置かれた配車係が行っているのは配車表の乗務員欄を埋めるだけの形式的な作業で、搭乗票の内容を被控訴人の配車係が決定していることはA社に配車係が置かれた前後で変わりはなく、A社は「業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行う」ものに該当せず、配車係の設置は労働者派遣の実態を隠すための偽装に過ぎない旨主張するところ、搭乗票の記載内容控訴人らローリー車の乗務員の日常の運送業務の遂行に対する指揮命令の中核というべきものであることは、控訴人ら指摘のとおりである。
   しかし、搭乗票の記載のうち、配送先や内容、配送時刻等は、荷主であるT(注:被控訴人の親会社であり、被控訴人は、T社(荷主)から委託を受けて、買主(納入先)に対する高圧ガスの充填・運送・納入業務を行っていた。本件業務委託契約は、被控訴人が行っていた上記業務の一部をA社に再委託するというものである。)が各配送先から受注した取引内容によって決定される事項であり、これらについてT社から配送の委託を受けた被控訴人が指示するのは、本件業務委託契約の性質上当然の事柄である。
   また、本件業務委託契約において受入れ、運送、搬入する商品は高圧ガスであることから、受入れ及び納入は控訴人及び納入先の保安責任者の指示に従って行う必要があり(本件契約書5条3項参照)、限られた乗務員とローリー車により、荷主の要求する運送業務を遂行している以上、受託者であるBが、委託者である被控訴人と協議することなく、独断で搭乗票の内容を特定・変更できないことも、継続的な運送業務委託契約である本件業務委託契約の性質上当然の事柄というべきである。
   したがって、控訴人らが主張するように、B社の配車係の設置が形式的なものであり、労働者派遣の実態を隠すための偽装に過ぎないとまでは認められない。
 ウ 37号告示2条1号ロ( 
   次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。
   a)労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
   b)労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。
)について
   A社は、控訴人らに休暇届を提出させたり月間の運送距離等を記載した配車検討記録を作成した上で、その出勤日、休暇休日、月間の運送距離等を考慮した乗務割を決定し、出社時にはタイムカードに打刻させた上で対面点呼、搭乗票の読み合わせによる当日の業務内容の確認を行い、業務終了時には輸送日報、走行距離報告書、日常点検記録表、安全日誌等を提出させた上でタイムカードに打刻させるなどして毎日の実労働時間を把握し、タイムカードや業務終了時の提出書面の他、各乗務員に提出させる休日休暇届、乗務員点呼簿、搭乗読み合わせ実施記録、配車検討記録等を作成・保管して、労働時間に関する指示・管理を行っていたものであるから、「労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
 エ 37号告示2条1号ハ( 
   次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。
   a)労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。
   b)労働者の配置等の決定及び変更自ら行うこと。
)について
   A社は、控訴人らの労働条件、服務規律その他就業に関する事項を就業規則に定めるなどしており、「企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものである」ということができる。
 オ 37号告示2条2号イ(
   業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。 
)について
   A社は、ローリー車を被控訴人から無償で借り受けているものの、これらを運行させるために必要な車検費用、保険料、ガソリン代、修繕修理費等の経緯や高圧ガス保安法の許可を得るための費用等を負担しており、B車庫(注:被控訴人の営業所内でA社の従業員が自家用車やローリー車を駐車する場所である。)に係る土地の賃貸借契約(当初の賃料は月額20万6000円)に基づいてこれを使用しているものである上、有料道路使用料を被控訴人が負担することは国土交通省の指導にかなうものであり合理性があるというべきである。

したがって、A社は、その事業運転資金等を全て自らの責任で調達し、かつ、支弁しているものと認められるから、「業務の処理に要する資金につき、すべて自らの責任の下に調達し、かつ、支弁する」ものということができる。
 カ 37号告示2条2号ロ(
   業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。
)について
   本件契約書には、本件運送業務中に生じた事故等によって第三者に及ぼした損害は、A社の責任において解決し、被控訴人等に対して迷惑をかけない旨の定めがあるところ、A社は、本件運送業務中の自動車事故に備えて、ローリー車に係る自賠責保険や任意保険に加入して各保険料を負担し、控訴人らが発生させた本件運送業務中の事故について、その対応を行い、上記保険を利用するなどして被害者に対する損害賠償義務を履行したというのであるから、A社は「業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負う」ものということができる。
 キ 37号告示2条2号ハ(
   次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものではないこと。
   a)自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。
   b)自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。
)について
  a)A社は、ローリー車に係る各種費用等や自賠責保険及び任意保険の保険料を負担しており、また、昭和36年12月から貨物自動車運送事業法の許可(当初は認可)を得て同事業を営み、平成12年11月には高圧ガス保安法の許可を得て、以後、高圧ガス製造業務を行っているものであり、また、ローリー車の配車係の従業員や乗務員に研修や講習を受講させ、普通第1種圧力容器取扱作業主任者や高圧ガス移動監視者の資格を取得させるなどして、高圧ガスの運送業務(高圧ガス製造業務)を行い、乗務員に命じて高圧ガス移動式製造設備であるローリー車の高圧ガス保安法に基づく安全点検をさせているほか、車両の整備や修理、車両の運行管理を行っているのであるから、「自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理する」又は「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理する」ものに該当すると認められる。
   そうすると、A社は「単に肉体的な労働力を提供するものではない」ということができる。
    b)控訴人らは、A社は、被控訴人の設備を使用することなしに高圧ガス製造事業の許可を得ることはできず、被控訴人の親会社であるT社の関連会社であるTE社の作成した報告書を提出して許可を得ているだけであって、独立した高圧ガス製造事業者とはいえないとも主張する。
   しかし、A社は、被控訴人からローリー車を無償で借用しているものの、
  ・ローリー車の運行に関する各種費用を負担して事業を遂行していること
  ・A社は、平成12年11月に高圧ガス保安法の許可を得た上で、同年12月に本件業務委託契約を締結して、高圧ガス製造業務を行っているのであり、その後、指定保安検査機関である株式会社Gの保安検査を受けるなどして業務を継続してきたところ、平成25年にローリー車の増車に伴い高圧ガス製造施設等変更を申請し、高圧ガス保安法に基づく指定完成検査機関であるTE社の検査を経て、上記変更の許可を得たこと
に照らせば、控訴人らの上記主張は採用できない。
 ク 小括
   前記イ~キのとおり、37号告示に照らして検討すると、A社においては自ら独立して請負事業者として控訴人らを指揮命令しているものと認めるのが相当であり、単に控訴人らの労務を被控訴人に提供しているにすぎないものということはできないから、結局、被控訴人は労働者派遣の役務の提供を受けていた旨の控訴人らの主張を採用することはできない。

(2)結論
   その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの請求はいずれも理由がない(控訴棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、原判決と同様、控訴人らの使用者である請負事業者(A社)は自ら独立して請負事業者として控訴人らを指揮命令し、当該請負契約の相手方(被控訴人)は労働者派遣の役務の提供を受けていないものと判示して、控訴人らの労働者派遣法40条の6第1項5号に基づく請求を棄却した事例です。
   本裁判例は、「第3 当裁判所の判断」において、37号告示に照らして、認定事実を当て嵌めるという原判決の構造を維持した上で、控訴審における控訴人らの主張に応える形で、いくつかの理由を補充して、上記の結論を導いています。

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