【知的財産】東京地裁令和6年3月28日判決(判例タイムズ1528号216頁)

著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、著作権者等の損害について、著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないと判示した事例(控訴審にて控訴棄却)


【事案の概要】

(1)原告Aは、画家、作家など様々な形で表現活動を行うマルチクリエーターとして、数多くの作品を発表しており、その中で、生活雑貨等の絵柄の制作等を行っている者である。
   原告会社は、原告Aの制作に係る著作物原告Aの制作に係る著作物を商品化したものを、「A○○ M○○」ブランドに関する商品をいうものとして、以下「AM商品」と総称する。)に関する権利を管理している株式会社である。
   被告Kは、タオルの製造及び販売等を目的とする株式会社である。
   被告タオル美術館は、タオル等の卸売業等を目的とする株式会社である(被告タオル美術館は、被告K、大連K、Kベトナム及びその他の会社と、いわゆるタオル美術館グループを構成している。被告ら製造販売に係るAM商品を、以下「被告商品」という。)

(2)原告会社被告タオル美術館は、平成10年1月1日、次に掲げる内容を含むマスターライセンス契約(以下「基本契約」という。)を締結した。
 ア 原告会社は、原告Aの制作に係る著作物(以下「著作物」という。)を被告タオル美術館に対して継続的に供給し、被告タオル美術館は、その著作物を使用した商品(以下「許諾商品」という。)を日本国内外で製造し国内外で販売する権利被許諾者サブライセンシー)に対して付与する。
 イ 被告タオル美術館は、原告会社に対し、小売金額の2.75%の使用料及びミニマムロイヤリティの額(ただし、上記2.75%の使用料がミニマムロイヤリティの額を超える場合には当該ミニマムロイヤリティの額を控除したものをいう。以下同じ。)を集計して報告し、当該合計額が3000万円のマスターライセンス年間使用料を超えた場合には、上記使用料及びミニマムロイヤリティの合計額を支払うものとする(なお、左記の内容は、後記のとおり、平成10年12月5日付けの合意により変更された。)。
 ウ 被告タオル美術館は、サブライセンシーに対して許諾商品の製造、保管及び販売において、著作物及び著作物を使用した原板の管理に最新の注意を払い、原告会社の著作権がみだりに侵害されないようにしなければならない

(3)被告タオル美術館被告Kは、平成10年1月1日、基本契約に基づき、被告タオル美術館が原告会社から使用許諾された著作物に係る商品の製造及び販売について、被告タオル美術館が被告Kに対し、次に掲げる内容で、再許諾する旨のサブライセンス契約(以下「サブライセンス契約」という。)を締結した。
 ア 被告タオル美術館は、被告Kに対し、基本契約による製造及び販売権に基づき、日本国内において、「○○」ブランド商標を付し、かつ、原告Aの著作権又は意匠権を利用したデザイン(以下「本件デザイン」という。)を使用した商品(以下「契約商品」という。)を製造・販売する権利を許諾する。ただし、そのアイテムの明細は、タオル製品全般とする。
 イ 被告Kは、被告タオル美術館に対し、ミニマムロイヤリティとして、契約年度ごとに500万円を支払うほか、契約商品の小売金額に対し3%の割合で算出した金額から当該契約年度に関するミニマムロイヤリティを差引計算後の残代金を支払う。
 ウ 被告Kは、本件デザインの活用については、下記の項目(略)に沿った活動内容の詳細(以下「デザイン・プログラム」という。)を作成し、被告タオル美術館に提出する。なお、提出したデザイン・プログラムについては、速やかに被告タオル美術館と被告K間による調整を行い、合意されたデザイン・プログラムをもって承認されたものとする。

(4)原告会社被告タオル美術館は、平成10年12月5日、次に掲げる内容で、基本契約の一部を変更する合意をした。
 ア 年間最低保証料(ミニマムロイヤリティ)の分配
   各サブライセンシーに対するミニマムロイヤリティの合計金額が3000万円を超えた場合その超えた額の78%を原告会社に支払い、残り22%を被告タオル美術館に支払うものとする。
 イ 使用料(ロイヤリティ)の分配
   被告タオル美術館と各サブライセンシーが契約した使用料が、ミニマムロイヤリティを超えてそれぞれにオーバーロイヤリティが発生した場合、その金額を原告会社と被告タオル美術館で2分の1ずつに分配する。

(5)被告Kは、平成24年から平成26年にかけて、別紙原告著作物目録(略)の画像欄記載の各タオルアート471柄(以下、これを総称して「原告タオルアート」という。)のうち5柄につき、生地をガーゼからパイルに変更して販売していたところ、原告会社からの指摘を受け、平成26年5月21日、原告会社に対し、商品化申請デザイン承認書との照合をするなど、ライセンス管理体制を再構築する旨を記載した改善嘆願書を提出した。

(6)原告らは、平成29年10月頃、被告タオル美術館において、原告タオルアートのうち13柄につき、フルフィーコットンを使用したものがあるなど、原告会社に無断で素材等を変更して販売されていることに気付いた。

(7)原告会社と被告タオル美術館は、平成29年12月27日、被告タオル美術館の重大な契約違反(被告タオル美術館が基本契約に基づきライセンス許諾をした被告Kによる行為も含む。)を理由として、同月31日をもって基本契約を合意解約し、基本契約の終了に伴い、サブライセンス契約が同日に終了することを確認する旨の合意をした。

(8)原告らと被告らは、平成30年4月27日、被告ら及び大連Kお湯帯Kベトナムが行ったAMブランドに関する違法コピー商品、未承諾商品、ロイヤリティ未申告商品等の製造・販売に関する件(以下「違法コピー問題」という。)につき、次の内容で、中間的な合意(以下「中間合意」という。)をした。
 ア 被告らは、原告会社に対し、連帯して、違法コピー問題の損害賠償金(以下「本件賠償金」という。)の一部として3億円の支払義務があることを認め、同金員を、平成30年4月27日限り、一括して支払う。
 イ 原告ら及び被告らは、アの金員が本件倍送金の一部であることを相互に確認し、本件賠償金の総額等は、引き続き協議する。

(9)被告らは、平成30年4月27日、原告会社に対し、中間合意に基づき、3億円を支払った。
   原告らは、本件本訴を提起して、上記3億円を超える損害があると主張して、次の請求をした(原告らは、いずれも被告らの代表者である被告B及び被告Cに対しても、併せて同内容の訴えを提起したが、省略する。また、被告らの提起した本件反訴については、省略する。)。
 ア 原告Aの請求
   原告Aは、被告らに対して、被告らによる別紙被告商品の数量等目録(略)記載の各商品(以下、同目録の目録番号に合せて、被告商品1―1ないし471といい、これらを併せて「被告商品1」という。なお、本件においては、被告商品1の著作権侵害の成否等が争点とされているところ、別紙侵害類型分類一覧表(略)の侵害類型番号のとおり、争点の類型に応じて、被告商品を1ないし26に分類し、当該侵害類型番号ごとに、著作権侵害の成否を検討する。)の製造及び販売は、原告Aの著作権(複製権又は翻案権及び譲渡権)等を侵害する共同不法行為を構成するとして、民法719条1項、709条、著作権法114条2等に基づき、逸失利益74億0607万6691等の一部請求として、24億9929万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
 イ 原告会社の請求
  a)原告会社は、被告タオル美術館に対して、原告Aの著作権等を侵害する被告商品1が製造、販売されたことは、被告タオル美術館による契約上の管理義務違反を構成するとして、債務不履行に基づき、被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ相当額6億2230万0904の支払を求めた。
  b)被告タオル美術館が、原告会社に対し数量報告を行わず被告商品(以下、未報告に係る当該商品を総称して「被告商品2」という。)を製造及び販売したことは、被告タオル美術館による契約上の報告義務違反及び管理義務違反を構成するとして、債務不履行に基づき、被告タオル美術館受領に係るオーバーロイヤリティ相当額15億2598万1680の一部請求として、11億円の支払を求めた。


【争点】

   多岐に渡るが、以下、(侵害類型番号1、3及び23の1について著作権侵害が成立していることを前提に)原告らの生じた損害の有無及びその額、すなわち、
(1)原告Aの損害額
(2)原告会社の損害額
(3)弁済の抗弁の成否
についての、裁判所の判断の概要を示す。


   なお、上記(1)(特に著作権法114条2項の適否)に関する当事者の主張の概要は、以下のとおりである。
 ア 被告らの主張
  a)著作権法114条2項が適用されるためには、少なくとも著作権者が侵害者と同様の方法で著作物を利用して侵害者と同様の利益を得られる蓋然性が必要となるが、原告Aは、自身の著作物の利用を第三者に許諾し、第三者からその許諾料(ロイヤリティ)を得ているにとどまり、当該著作物を利用して物の製造や販売等を行っているわけではない。
   そうすると、第三者が原告Aの著作物を利用した物を製造又は譲渡したとしても、原告Aにおいて、著作物を利用した物の製造又は販売等に係る売上げが減少することにはならないから、著作権法114条2項を適用する前提となる損害(逸失利益)が生じることはあり得ない。
  b)また、ロイヤリティ収入しか得ていない著作権者にも著作権法114条2項が適用されるとすると、許諾料(ロイヤリティ)相当額の損害を規定する同条3項が適用される余地をなくしてしまうばかりか、物の製造や販売に係る設備等を全く有しない著作権者にも、ロイヤリティ収入の数倍もの利益に係る損害を受けたと推定されてしまうことになり、逸失利益の損害を填補するという同条2項の趣旨から外れた不当な結果を生むことになる。
  c)したがって、本件における損害額の算定に著作権法114条2項を適用するのは、相当ではない。
 イ 原告らの主張
  a)本件においては、以下のとおり、「侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情」(知財高裁平成25年2月1日判決。以下「平成25年判決」という。)が存在するから、同項の適用は認められる。
  b)まず、平成25年判決が単に「利益」と述べていることからすれば、権利者が取得できたはずの「利益」がライセンス料であったとしても、著作権法114条2項の適用が認められるというべきである。
  c)仮に、上記にいう「利益」にライセンス料が含まれないとしても、原告Aは、自身の個人会社である有限会社L(以下「L」という。)を通じてタオル販売を行っており、被告らによる著作権侵害行為がなかったならば、LのAM商品の譲渡による利益を得ることができたのであるから、著作権法114条2項の適用が認められるべきである(なお、原告らは、被告商品1の限界利益率(著作権法114条2項でいう侵害者の利益)は、74.3%を下回らないと主張した。)。

(参照条文)
  ・著作権法114条2 
   著作権者、出版権者又は著作隣接権者が故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、当該著作権者、出版権者又は著作隣接権者が受けた損害の額と推定する。
  ・著作権法114条3
   著作権者、出版権者又は著作隣接権者は、故意又は過失によりその著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対し、その著作権、出版権又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を自己が受けた損害の額として、その賠償を請求することができる。


【裁判所の判断】

(1)原告Aの損害額について
 ア 著作権法114条2項の適否
  a)原告Aには、侵害類型番号1、3及び23の1について著作権侵害につき、損害生じているところ、原告らは、当該損害の算定に当たり、著作権法114条2項を適用することができる旨主張するため、以下検討する。
  b)著作権法114条2項は、著作権の排他的独占的効力に鑑み、著作権者、出版権者又は著作隣接権者(以下「著作権者等」という。)において、その侵害の行為により売上げが減少した逸失利益の額と、侵害者が侵害行為により受ける利益の額とが等しくなるとの経験則に基づき、当該利益の額著作権者等の売上げ減少による逸失利益の額と推定するものである。
   しかしながら、著作権者等がその著作物の許諾によって得られる許諾料の額は、売上げ減少による逸失利益の額とは明らかに異なるものであり、両者が等しくなるとの経験則を認めることはできないことからすると、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、上記の推定をする前提を欠くことになる。
   したがって、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないと解するのが相当である。
  c)これを本件についてみると、弁論の全趣旨によれば、原告Aは、デザイナーであり、自身の著作権を管理する原告会社を通じてライセンス料(ロイヤリティ収入)を得ており、タオル等の製造、販売は行っていないことが認められる。
   そうすると、仮に被告らの侵害行為によって原告らの許諾料に係る収入が減少するという関係が認められたとしても、原告Aは自ら制作して被告Kに使用許諾した絵柄(以下「本件絵柄」という。)の許諾料のみを得ていたことになるから、著作権法114条2項の規定は、適用又は類推適用されないものといえる。
  d)これに対し、被告らは、
  ・役員4名が原告Aの家族で構成され、
  ・株式を原告Aの家族3名で保有する
Lが、原告A制作に係る商品を製造、販売する会社であり、原告A及びLは、直接的かつ密接な管理指示関係にあるから、知財高裁令和4年4月20日判決(以下「令和4年判決」という。)が説示するところを踏まえても、著作権法114条2項の適用が認められるべきであると主張する。
   そこで検討するに、令和4年判決は、株式100%を間接保有する親会社の指示管理の下で、グループ会社数社が一体となって当該特許を利用した事業を遂行している場合に、特許権者が実施していなくてもグループ会社が実施していることをもって、特許法114条2項の適用を認めたものである。
   しかしながら、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告Aは、本件絵柄に係る著作権者であるところ、Lの役員ではなく、その株式数又は出資の割合も、L全体の約26%にすぎないことが認められる。
   そうすると、上記において説示した著作権法114条2項の趣旨目的に鑑みても、Lと原告Aを一体のものとみるのは相当ではなく。令和4年判決は、本件と事案を異にするために、本件に適切ではない。
   したがって、原告らの主張は、採用することができない。
イ 損害額の算定
  a)弁論の全趣旨及び原告らの主張を踏まえると、少なくとも著作権法114条3を適用して損害額を算定するのが相当であるところ、同項にいう著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額を、以下検討する。
  b)被告タオル美術館は、被告Kから、被告商品の小売金額に対し3%の割合で算出した金額(ミニマムロイヤリティの額を超える場合には当該額を除くもの)の支払を受けていたことからすれば、被告らの侵害態様その他本件に現れた諸事情に照らし、著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額は、侵害類型番号1、3及び23の1の販売額の合計額に3%を乗じた額と認めるのが相当である。
  c)そうすると、弁論の全趣旨によれば、別紙侵害類型分類一覧表(略)の金額欄記載のとおり、侵害類型番号1の販売額は6664万9900円、同3の販売額は48万8988円、同23の1の販売額は4351万6000円であり、その合計額は1億1065万4888である認めるのが相当であるから、損害額は、上記合計額に3%を乗じた額である331万9647と算定するのが相当である。
   そして、これと相当因果関係があると認められる弁護士費用相当損害は、33万1965の限度で認めるのが相当である。

(2)原告会社の損害額について
 ア 被告商品1に係る損害額
   原告らは、被告タオル美術館が被告Kから受領したオーバーロイヤリティ額が、被告タオル美術館の管理義務違反と相当因果関係のある損害である旨主張するものの、侵害類型番号1、3及び23の1に対応するオーバーロイヤリティの額は明らかではないことからすると、被告商品1に係る管理義務違反によって原告会社が被った損害額は、上記(1)イの損害額と同額である331万9647と算定するのが相当である。
 イ 被告商品2に係る損害額
   被告商品2に係る報告義務違反は、被告らにおいて報告義務違反を認める部分を除き、理由がない。
   そして、弁論の全趣旨によれば、前記(1)イ記載のミニマムロイヤリティはいずれの年においても達成していることが認められるほか、証拠(略)及び弁論の全趣旨を踏まえると、被告商品2に係る報告義務違反によって原告会社が被った損害金の額は、被告らにおいて自認する別紙損害の内訳(略)記載のとおり、合計4274万1223の限度で認めるのが相当である。

(3)弁済の抗弁の成否について
   被告らは、平成30年4月27日、原告会社に対して、連帯して、原告Aのブランドに関する違法コピー商品、未承諾商品、ロイヤリティ未報告商品等の製造販売に関する件(違法コピー問題)の損害賠償金の一部として、平成30年4月27日に3億円を支払っており、原告ら及び被告らは、上記3億円が違法コピー問題にかかる損害金の一部であることを相互に確認している。
   そうすると、前記認定に係る原告らの損害金の合計額(注:4971万2302円)は、その遅延損害金を参酌しても明らかに3億円を下回るものであるから、前記認容に係る原告らの損害賠償請求権は、3億円の上記支払によって既に全部消滅したものと認めるのが相当である。
   したがって、被告らの弁済の抗弁は、その他の争点を判断するまでもなく理由がある。

(4)結論
   原告らの本訴請求は、いずれも理由がない(請求棄却)。


【コメント】

   本裁判例は、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないと判示するともに、原告らの、原告Aと直接的かつ密接な管理指示関係にあるLが、原告A制作に係る商品を製造、販売していることから、著作権法114条2項の適用が認められるべきとの主張を排斥した事例です。
   控訴審(知財高裁令和7年3月26日判決)において、一審原告Aは、Lが、一審原告Aの意思決定に従い、一体となって同人の著作権を利用した事業を遂行していることなどから、一審原告Aの損害について、著作権法114条2項が適用される旨主張しましたが、控訴審は、原判決の記載(【裁判所の判断】(1)ア)を引用しつつ、Lと一審原告Aとを一体とみるべき事情の存在を否認して、上記の主張を排斥しました。
   これらの裁判例により、著作権者等がその著作物の許諾料のみを得ている場合には、令和4年判決の事案のような限定的な場合を除いて、著作権法114条2項の規定は適用又は類推適用されないとの裁判例の傾向が固まったものと思われます。

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