原告商品はカテゴリー名を「素材」とする編集著作物であるとは認められず、カテゴリー名の選択又は配列に著作権法上の創作性があるとも認められない旨判示した事例(確定状況不明)
【事案の概要】
(1)原告は、インターネットを利用した各種サービス等の企画、製作及び販売等を目的とする株式会社である。
被告会社は、インターネットを利用した各種サービス等の企画、製作及び販売等を目的とする株式会社であり、被告Aは、被告会社の代表取締役である。
(2)原告は,平成29年5月12日より前に,訴外株式会社R(以下「訴外R」という。)との間で、LINE@(注:訴外LINE株式会社の提供する、企業や店舗ビジネス向けのアカウントのことである。)を利用した集客、マーケティングを支援するためのツール(以下「原告商品」という。)の開発を、原告が訴外Rに委託することについて基本合意を締結した。
原告は、平成29年11月7日、訴外Rとの間で、上記基本合意に基づき、原告商品の開発について業務委託基本契約を締結し、同日付で業務委託基本契約及び覚書が作成された。同契約書の第11条1項には、「成果物の著作物(著作権法第21条から第28条に定める全ての権利を含む)は、特段の定めがない限り、成果物の給付完了の日に乙(注:訴外R)から甲(注:原告)に移転するものとする。」との記載がある。
訴外Rは、平成30年2月28日、原告商品を原告に納品した。ただし、原告商品は、販売されていない。
(3)被告会社は、LINE@を利用した集客、マーケティング支援ツールである、別紙物件目録記載のアプリケーション(以下「被告商品」という。)の開発を外部に委託した。被告会社は、平成30年7月25日、被告商品の販売を開始した。
(4)原告商品は、それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものである。そして、原告商品の各表示画面に対応する表示の名称をカテゴリーといい、原告商品のパソコン等における表示画面は、「親カテゴリー」、「大カテゴリー」、「中カテゴリー」及び「小カテゴリー」の4段階の階層構造となっている(カテゴリー構造図参照)。カテゴリー構造図
他方、被告商品も、それを購入した者がパソコン等において操作して利用するものである。そして、被告商品のパソコン等における表示画面も、4段階の階層構造となっている。
(5)原告は、本件訴訟を提起して、被告が原告に無断で被告商品を製作し、インターネットを通じて顧客に提供した行為が、編集著作物である原告商品について原告が有する著作権(複製権、送信可能化権、公衆送信権)を侵害すると主張して、①著作権法112条1項に基づき、被告商品の複製、送信可能化又は公衆送信の差止めを、②同条2項に基づき、被告商品及びその複製物(被告商品を格納した記録媒体を含む。)の廃棄を、③被告会社に対し、民法709条に基づき、被告Aに対し、会社法429条1項に基づき、連帯して、損害賠償金2376万円及び遅延損害金の支払を求めた。
【争点】
(1)原告商品の編集著作物性(著作権法12条1項)該当性(争点1)
(2)被告商品の依拠性・類似性(争点2)
(3)被告会社の故意・過失の有無(争点3)
(4)被告Aの悪意・重過失による任務懈怠の有無(争点4)
(5)損害の有無及び額(争点5)
以下、裁判所の判断の概要を示す。
【裁判所の判断】
(1)争点1(原告商品の編集著作物性(著作権法12条1項)該当性)について
ア 原告は、本件において、パソコン画面等で表示される原告商品の親カテゴリーから小カテゴリーに至る各カテゴリー名が「素材」であって、その「素材」の選択及び配列に創作性が認められるとして、原告商品が編集著作物(著作権法12条)であると主張する。
しかし、原告商品は、パソコン等において各種の確認や作業等を行うことができるものであり、その確認、作業等を行ったりするためにパソコン等において、様々な内容が表示される複数の画面を表示することができるものである。
ここで、原告が素材と主張するカテゴリー名は、パソコン等の画面において、原告商品において選択することができる機能に対応する画面を示すために、画面の上部に、ロゴ等表示部分の下のやや太い青みがかった線に、白抜き文字で表示されているものであったり(親カテゴリー名、中カテゴリー名)、親カテゴリー名又は中カテゴリー名を選択した場合に、そのカテゴリー名の下に、もとの画面の前面に、表示されるものであったり(大カテゴリー名、小カテゴリー名)、各画面において、原告商品の全ての画面に共通するロゴ等の表示部分及びカテゴリー名を表示するやや太い青みがかった線の下に、示されるものである(小カテゴリー)。
このような原告商品とそこにおけるカテゴリー名の使用の態様に照らせば、これらのカテゴリー名は、原告商品の異なる画面において、他にも多くの記載がある画面の表示の一部として表示されるものであって、原告商品をもって、カテゴリー名を「素材」として構成される編集物であるとはいえない。
そうすると、原告商品が編集著作物であり、カテゴリー名自体が原告商品の素材であると主張する原告の主張は、その余を判断するまでもなく理由がない。
イ また、原告は原告商品を編集物であることを前提に、カテゴリー名の選択と配列において創作性を有し、そのカテゴリー名の選択と配列において被告商品と共通すると主張する。
この点、原告商品を利用した場合には、パソコン等において、視覚的に認識することができる様々な画面が表示される。それらの各画面は、原告が選択したカテゴリー名に対応するものといえ、また、それらはパソコン等の画面において、階層的に配列されているともいえる。他方、被告商品においても、カテゴリー名に対応する画面が表示されるといえる。
しかし、原告商品の各画面は、そのカテゴリー名に対応する機能を実現するために表示されるものである。そうすると、原告商品における各カテゴリー名と各画面の表示との関係は、何らかの素材をカテゴリー名やその階層構造に基づいて選択、配列したというものではなく、カテゴリー名に対応する機能を実現するための画面の表示があるといえるものである。
そして、カテゴリー名は、結局、それに対応して原告商品が有する機能・利用者が利用しようとする機能を表すものである。そうすると、原告の原告商品と被告商品がカテゴリー名の選択と配列の点で共通しているとの主張は、結局、ある商品において採用された機能やその機能の階層構造が共通していると主張しているのに等しい部分がある。しかし、ある商品においてどのような機能を採用するかやその機能をどのような階層構造とするか自体は、編集著作物として保護される対象となるものではない。
ウ さらに、原告は、原告商品におけるカテゴリーの名称のそのものについて選択の幅があること、その階層構造などから、カテゴリー名の選択、配列に創作性があると主張する。
しかし、LINE@を用いた集客、マーケティング支援ツールという原告商品においてどのような機能を実装するかはアイデアに過ぎず、それ自体は著作権法の保護の対象となるものではない。
そして、 ①「素材」たる各カテゴリー名の名称の選択についてみると、上記のような原告商品の性質上、各カテゴリーに伏す名称は、各カテゴリーが果たす機能を一般化・抽象化し、ユーザーにとって容易に理解可能なものとする必要があるため、その選択の幅は自ずと限定される。そのような視点で選択された原告商品の各カテゴリー名は、それ自体をみてもありふれたものである。
現に、原告商品の「メッセージ」、「統計情報」というカテゴリー名は他社商品でも用いられているほか、原告商品の「メッセージ」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名や「統計情報」の下に設けられた小カテゴリーの各カテゴリー名と同一ないし類似したカテゴリー名が他社商品においても用いられている。
また、原告商品において用いられている「基本」や「ホーム」といったカテゴリー名は、他社商品においては用いられてはいないものの、消費者とのコミュニケーションを図るという観点から頻繁に使われる機能を取りまとめたカテゴリーに付されたものであり、上記のような原告商品の性質を踏まえると、カテゴリー名の選択としてはありふれたものである。
したがって、原告商品における各カテゴリーの名称は、各カテゴリーが果たす機能を表現するものとしてはありふれたものといえる。
次に、 ②各カテゴリー名の配列についてみても、原告商品においては、「基本」という最上位の階層に、消費者とのコミュニケーションを図る上で利用可能な機能を取りまとめ、その中でも消費者とのコミュニケーションを図る上で日常的に利用する機能を「基本」の下の階層の「ホーム」に取りまとめるなどされているほか、多種多様な機能を果たす「ホーム」より下のカテゴリーについては、小カテゴリーに至るまで階層を設けてカテゴリー分けがされるなど他社商品に比して複雑な階層構造が採用されており、各カテゴリー名の配列について一定程度の工夫はされていると認められる。
しかし、ユーザーによる操作や理解を容易にするという観点から、実装した機能の中から関連する機能を取りまとめて上位階層のカテゴリーを設定し、機能の重要性や昨日同士の関連性に応じて順次下位の階層にカテゴリー分けをしていくというのは通常の手法であり、原告商品の各カテゴリー名の配列は、複数の選択肢の中から選択されたものではあるものの、ありふれたものというべきである。
(2)結論
以上によれば、原告商品はカテゴリー名を「素材」とする編集著作物であるとは認められないし、原告が主張するカテゴリーの名称やその配列について検討しても、その選択又は配列に著作権法上の創作性があるとは認められない。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求には理由がない(請求棄却)。