【交通事故】東京高裁平成31年3月14日判決(自保ジャーナル2049号139頁)

第三者を立会人とする実況見分調書は、これに反する内容の同人作成名義の各報告書よりも信用性が高いとして、控訴人には、赤信号で本件交差点に進入した過失があると認めた事例(確定)


【事案の概要】

(1)次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。
 ア 発生日時 平成24年7月20日午後11時55分頃
 イ 発生場所 東京都足立区の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)
 ウ 原告車 原告の運転する原動機付自転車
 エ 被告車 被告の運転する普通乗用自動車
 オ 事故態様 原告が、原告車を運転して本件交差点に進入したところ、交差する右方道路から走行してきた被告車の左側面と原告車の前部が衝突した。

(2)原告は、本件事故により、脳挫傷、右大腿骨頸部骨折、橈骨頸部解放骨折、顔面多発骨折、顔面外傷性異物、外傷性くも膜下出血、頭蓋底骨折等の傷害を負い、B大学附属病院等に入通院した。
   原告の症状は、B大学附属病院神経内科のD医師作成の頭部外傷後遺症の診断日である平成27年7月39日には症状固定するに至った。

(3)原告は、自賠責保険の後遺障害等級認定において、高次脳機能障害については後遺障害等級7級4号に、右下肢の短縮障害については後遺障害等級13級8号に該当し、併合6級に該当すると判断された。
   原告は、被告の加入する自動車損害賠償責任保険から、平成25年7月31日に120万円、平成28年5月26日に1,190万円の支払を受けた。


【争点】

(1)事故態様及び過失の有無・過失割合(争点1)
(2)原告の損害(争点2)


【原審の判断】

   原審(東京地裁平成30年10月23日判決・自保ジャーナル2049号144頁)は、上記(1)について、概要、以下のとおり判示した。
 ア 原告車と被告車は、本件交差点に進入し、【×】1地点(別紙1(略)図面の地点。以下同様。)で原告車の前部と被告車の助手席側ドア付近が衝突した。 被告車は、原告車と衝突した後、対向車線に進入し、【丙】地点で、Eが運転する普通乗用自動車(個人タクシー。以下「E車」という。)の右側面に衝突した。
   Eは、E車を運転して、本件交差点に向かって走行していた。Eは、対面信号が赤になったため停止した前車に続いて【甲】地点で停止した。Eは、対面信号が青になったため、前者に続き発進した。Eは、(注:【乙】地点まで進行したところで)衝突音を聞いて、交差点内で原告車と被告車が衝突したことに気づき、ブレーキをかけてE車を【丙】地点で停止させた。【甲】地点から【乙】地点(注:Eが交差点で原告車と被告車が衝突するのを見た地点)までの距離は2.9m、【乙】地点から【丙】地点までの距離は1.5mであった。 原告の対面信号は、被告の対面信号も赤信号となる全赤の状態が2秒続き、赤が32秒表示され、再度全赤の状態が2秒続いた後、青が21秒表示され、黄色が3秒表示され、再び全赤の状態が2秒続くというサイクルの表示であった。
 イ Eは、本件事故現場において、平成24年7月21日午前1時15分から午前1時40分までの間に実施された本件事故の実況見分に立会い、以下のとおり指示説明した。
   「見通しは、別紙1(略)図面の【甲】地点で前方約50m。前車に続き、前方交差点の信号機【S】に従い停止したのは【甲】地点交差点で車(注:被告車)とバイク(注:原告車)が衝突するのを見たのは【乙】地点、衝突したのは【×】1地点。その時の車は①地点、バイクは【ア】地点。事故を見てブレーキをかけ停止したのは【丙】地点。相手の車と衝突したのは【×】2地点、その時の私は【丙】地点、相手は②地点。私の車は【丙】地点でそのまま停止し、相手の車は③地点に停止。バイクが転倒したのは【イ】地点。バイクの運転手が倒れたのは【ウ】地点。」
 ウ Eは、G共済(注:Eの加入する自動車損害賠償責任共済と思われる)に対し、本件事故につき、以下のとおり報告し、それに基づき報告書(以下「本件報告書①」という。)が作成された。
   「自車、交差点前車に続き赤信号停止中、対向より乗用車が信号無視で通過してきてバイクと衝突し、交差点で車両は停止し。再度更に発進し、自車に衝突してきた。」
 エ Eは、原告の父から依頼され、平成24年11月21日付けの「事故内容報告書」と題する書面(以下「本件報告書②」という。)に署名押印した。同書面には、本件事故につき、以下のとおり記載されている。
   「上記の事故内容は、私、E個人タクシーが前車に続き赤信号停止中、対向より信号無視の○○殿(注:被告。以下同じ。)が無灯火で進行して来た為、左側より進行してきたバイクと衝突し、○○殿が停止した。車両が交差点の中にあり、再度発進させた際、停止中のE車両にハンドル操作ミスで衝突してきて、損害が発生した事故である。○○殿が赤信号で、交差点内に進行して来たことに間違いありません。」
 オ 上記認定の事実によれば、Eは、E車を運転して、対面信号が赤であったため、前車に続いて停止し、対面信号が青信号になったため発進した前車に続いて発進し、2.9mほど進んだ地点において、衝突音を聞いて、交差点内での原告車と被告車が衝突したことに気づいたことから、ブレーキをかけて停止したことが認められ、E車の対面信号、すなわち被告車の対面信号が青信号になってから本件事故が起きるまでの間、それまで赤信号で停止していたE車の前車がまず発進し、その後にE車が続いて発進して一定の距離を進むまでの間、一定の時間が空いていたことが認められることから、被告車は、青信号で本件交差点に進入したものと推認される。
 カ もっとも、Eの対面信号が青信号になってからEが衝突音を聞くまでの間の時間はそれほど長い時間ではなかったものと考えられることからすると、被告車が本件交差点に進入した時点は信号の変わり目であったものと考えられるところ、本件道路から本件交差点に進入してくる車両があることも想定されることから、その車両の有無や動静に注意して安全に進行すべき注意義務があったのに、被告は原告車の動静を注視する義務を怠っており、被告には一定の過失が認められる。一方、原告には、赤信号で本件交差点に進入した過失がある。 本件事故態様、双方の過失の内容・程度を考慮すれば、過失割合については、原告90%、被告10%とするのが相当である。


【裁判所の判断】

(1)上記【原審の判断】カを、以下のとおり改める。
   そうすると、控訴人(注:原告)には、赤信号で本件交差点に進入した過失があり、本件事故は、控訴人の一方的な過失で生じたものと認めるのが相当である(前記のとおり、対面信号の表示が青色に変わった後、一定の時間が経ってから被控訴人(注:被告)は本件交差点に進入したものであるから、被控訴人の側に過失があるとは認められない。)。
   したがって、争点2(控訴人の損害)の点について判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がないこととなる。

(2)控訴人は、実況見分調書は、警察がEの言い分を聞かずに作成したものであって信用できず、本件報告書①及び本件報告書②の内容の方がより信用できるものであるとして、本件事故は、被控訴人が赤信号無視をしたことによって生じた旨主張する。
   しかし、Eを立会人とする実況見分は、本件事故の直後に実施されており、その調書には、自車の前に存在した車両が発進したことや、それに引き続いて自車も発進した直後に本件事故を目撃してブレーキをかけたこと等、具体的な指示説明の内容が記載されているのであるから、その信用性は高いものということができる。 仮に、警察が自らの言い分を聞いてくれずに認識と異なる実況見分が行われたというのであれば、実況見分のやり直しを求めてしかるべきであるし、少なくとも、そのことが明確な記憶となって残るのが通常と思われるところ、証人Eは、法廷において、本件事故時の対面信号の色は覚えていないし、実況見分についてもよく分からないといったように、あいまいな供述に終始しているのであるから、実況見分がEの認識に反して作成されたと認めることはできない。  
  そして、その後に作成された本件報告書①及び本件報告書②について、証人Eは、事故報告のために形式的な内容を口頭で話したにすぎないとか、控訴人の父親が持ってきた書面の内容を確認することもなく署名押印したものであるといった趣旨の供述をしており、これらの報告書の内容の真実性を明言しているわけではないし、E車に車を衝突させた被控訴人の事故対応に不満を抱いていたことが認められるから、全体として被控訴人に落ち度があると思い込んだ可能性等も否定できないところであって、いずれにせよ、これらの報告書が実況見分調書よりも信用性の高いものということはできない。

(3)結論
   控訴人の請求を棄却した原判決(注:同判決は、損害の填補(自賠責保険金)1,310万円を過失相殺後の損害額に充当すると、損害賠償債務全額が填補されたことになるとして、原告の請求を棄却した。)は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却する。

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