【交通事故】さいたま地裁平成30年10月30日判決(自保ジャーナル2038号122頁)

本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等並びに双方の供述等ないし指示説明から、すれ違いの際に原告車両が停止していたこと等を認定した事例(甲事件確定)


【事案の概要】

(1)甲事件:原告A、被告B、乙事件:原告C保険会社、被告A

(2)次の交通事故(本件事故)が発生した。
   発生日時 平成26年11月14日午前11時48分頃
   発生場所 さいたま市内の路上(以下「本件事故現場」という。)
   原告車両 A(甲事件原告兼乙事件被告。以下「原告」という。)運転の普通乗用自動車
   被告車両 B(甲事件被告。以下「被告」といい、C保険会社と併せ「被告ら」という。)運転の普通乗用自動車
   事故態様 本件事故現場において、原告車両の右側面後部や被告車両の右側面後部がすれ違い時に接触した(原告及び被告らは、それぞれ、自車の停止中に相手方車両に接触された旨を主張しており、また、接触地点にも争いがある。)。

(3)原告は、不法行為に基づく損害賠償請求として、本件事故による人的及び物的損害(なお、原告車両は、外国製スポーツ車両であり、現存数のごく限られたいわゆる希少車である。)に係る損害金の支払を求めた(甲事件)。
   C保険会社は、被告車両の物的損害に係る保険金をその所有者に支払って代位したことによる求償金請求(原債権である不法行為に基づく損害賠償請求)として、当該物的損害に係る損害金の支払を求めた(乙事件)。


【争点】

(1)本件事故の態様(共通)
(2)原告の損害(甲事件)
(3)消滅時効(乙事件)
   以下、上記(1)についての裁判所の判断の概要を示す。


【裁判所の判断】

 (1)前提事実
 ア 本件事故現場のある道路(以下「本件道路」という。)は、中央線の設けられていない幅員6mの対面通行の道路であり、原告車両が保管されていた原告宅(当時)の駐車場からほど近い市街地に位置する。
 イ 原告車両(全長451cm、全幅196cm)は、前後輪のフェンダーが側面外側に膨らみ、中央部が括れた形状となっている。後輪フェンダーの膨らみは前輪フェンダーよりも大きく、後輪フェンダーの中央付近(後輪車軸付近)が側面外側に向かって最も膨らんだ箇所となっている。
 ウ 被告車両(全長360cm、全幅146cm)の側面は、前後に向かっておおむね直線に近いが、本件事故による損傷が生じた箇所の高さでみれば、原告車両ほどではないものの、前後輪フェンダーが、ほぼ同程度、若干側面外側に膨らんでいる。
 エ 本件事故による原告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部やや上方付近の高さ10数cm、幅10~20cmほどの浅い擦過痕である。
 オ 被告車両の損傷は、右後輪フェンダー前部の辺縁に沿った付近の幅1.2cmほどの浅い擦過痕である。

(2)本件事故が生じた際の双方車両の位置関係や挙動等
 ア まず、双方車両に前記した以外の損傷がみられないことから、接触の際の双方の車両の相対的な位置関係について、被告車両が原告車両に対して右斜めとなっていたことはなく、また、完全な並行の状態にもなかったことは明らかである(これらの状態であった場合、原告車両には右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じ、あるいは、被告車両には前記した損傷個所よりも自車前方の他の箇所に損傷が生じるはずである。)。
   そうすると、本件事故での接触の際、被告車両は原告車両に対してわずかに左斜めの確度であったと考えられるが、その場合であっても、いずれかの車両が停止していて、他方の車両が直進進行していたといいう事故態様は、客観的には想定し難い(被告車両が直進進行していたならば、本件事故よりも前の段階で既に接触していたこととなるし、原告車両が直進進行していたならば、右後輪フェンダー部のより後方にも損傷が生じるはずである。)。
   結局、接触の際の状況については、被告車両がわずかに左転把して進行していたか、原告車両が右転把して進行していたか、あるいはその双方であった可能性が残されることとなる。そして、被告車両が左転把していたとした場合、被告車両は原告車両から離れるように進行することとなるし、その点をおくとしても、その右後部が外側にほとんど膨らむことがないことからすれば、通常では考え難いものである。
   本件事故での接触の際は、原告車両が右転把していた可能性が最も高く、また、原告車両が早期に右転把していたとすると、より早い時点で他の箇所が接触すると考えられることからして、比較的低速度でのすれ違いを半ば終えた頃に、わずかに右転把を開始したと考えるのが、最も自然かつ合理的なものということができる(注:被告意見書は、これと概ね同旨をいうものである。)。

(3)双方の供述等ないし指示説明についての検討(すれ違いの際に、いずれの車両が停止していたか)
 ア 本件事故に関し、原告は、大要、以下のとおり供述等(陳述書の記載及び尋問手続における供述をいう。以下同じ)ないし指示説明をする。
  a)右折して本件道路に入った際、被告車両が本件道路の中央付近を対向直進しており、先導車両が減速してすれ違いをする様子を見た。
  b)万が一にも接触するようなことがないように、切替しに使ったアパート駐車場よりもb側にある電柱の手前で原告車両を左に寄せて停止し、被告車両をやり過ごすこととした。
  c)被告車両はそのまま中央付近を対向直進してきたが、すれ違いの際に短い衝撃音がして、当てられたことが分かった。
  d)被告車両の動きを確認したところ、被告車両はそのまま加速するように進行して、本件道路のb側にある丁字路付近交差点で、一時停止もせずに右折して走り去った。
  e)直ちに、前方にあるアパート駐車場の空きスペースを使って切り替して追跡し、本件事故現場から200mほどの場所にある交差点で、赤信号待ちをしている被告車両を発見した。
  f)青信号で発進した被告車両のすぐ後方に追い付き、クラクションを鳴らしたが、被告車両が停止しなかったので、追い越して前方に入り、被告車両を停止させた。
 イ 他方、被告は、大要、以下のとおり供述等ないし指示説明をする。
  a)本件道路を進行していたところ、ベンツ(注:原告車両の先導車両)が対向直進してきたので、原告が切替しに使ったとするアパート駐車場よりもa側の付近で、被告車両を左に寄せて減速し、停止する直前頃にベンツとすれ違った。
  b)その際にベンツの後方から原告車両が対向直進してくるのを見て、このまま停止して原告車両をやり過ごすこととした。
  c)原告車両はそのまま進行して通過して行ったが、すれ違いの際に自車後方から軽い擦過音が聞こえて、当てられたことがわかった。
d)原告車両の動きを確認したが、そのままa方面の交差点付近まで走って行ってしまった。
  e)関わり合いになりたくなかったので、追いかけることはせず、そのまま被告車両を発進させ、b側にある丁字路交差点を右折した。
  e)右折した先の交差点で赤信号待ちをし、青信号で発進したところ、後方から来た原告車両が被告車両を追い越して、進路を塞ぐように前方で停止したので、被告車両を停止させた。
 ウ 上記アイの双方の供述等ないし指示説明をみるに、原告車両が、本件事故からさほどの間をおかずに、本件事故現場からほど近い場所で被告車両に追い付き、これを停止させたことは、被告も自任するところであって、証拠(略)によってもこれが認められる。
   そうすると、被告車両の走り去る方角を確認していたため、直ちに反転追跡して追い付くことができたとする原告の供述等ないし指示説明は、ごく自然であるとともに、相応の裏付けを伴うものということができる。また、本件道路に原告車両が急ぎ切り替えせるような場所は、原告が供述等するアパート駐車場の他に見当たらない。
   他方、被告の供述等ないし指示説明を前提とすると、原告車両は、当て逃げをして走り去ったにもかかわらず、かといってそう遠くまで走り去ったわけでもなく、被告車両のその後の進行方向を見届けてこれを追跡したことになるが、仮に、原告が当て逃げをしたとしても、そのような不可解な行動に及ぶべき動機ないし理由は直ちには見出し難い。被告において、当て逃げをされたにもかかわらず、被告車両の損傷状況すらも確認せず、早々に追及を断念してその場を離れたというのも、にわかには得心し難いものである。
   このほか、不測の事態を避けるべく先導車両まで準備していた原告が、肝心のしれ違いの際に、接触の危険を顧みることもなく原告車両を進行させたなどとは、にわかには想定し難いことも併せ考えれば、本件事故の際の双方の車両の挙動の点は、前記(2)にて述べたとおりであるものの、その前後の経緯については、原告の供述等ないし指示説明を採用するのが相当である。

 (4)小括
   以上に述べたところからすれば、本件事故の態様は、次のとおりである。
     a)原告は、本件道路を対面直進してくる被告車両を認めてその通過待ちをすることとし、原告車両を左に寄せて停止したところ、
  b)被告は、双方の車両の車間間隔を適切に保持することなく被告車両を進行させ、原告車両に極めて近接した状況下でのすれ違いを開始した。
  c)そして、原告は、少なくともすれ違いを開始した後は比較的低速度で進行していた被告車両がすれ違いを半ば終えて、自車後方に位置した頃に、わずかに右転把して進行を再開し(注:それまで、原告車両は停止していた。)、その直後、被告車両の右後輪フェンダーと原告車両の右後輪フェンダーがわずかに接触した。
   上記に述べた本件事故の態様によれば、被告に、側方の車間距離を適切に保持せずにすれ違いをした点で過失があることは明らかであり、他方、原告については、すれ違いを終える前に原告車両をわずかながら進行させた点に過失が認められ、その過失割合については、原告30、被告70とするのが相当である。

(5)結論
   甲事件:一部認容、乙事件:棄却(注:Aによる消滅時効の抗弁を容れた。)

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