国際自動車ほか(再雇用更新拒絶・本訴)事件(上告・上告受理申立中)
【事案の概要】
(1)原告Aから同Lまでの原告らは、いずれも被告会社に勤務していたタクシー運転手である。原告Bから同Jまでの原告らは、別紙2(略。以下、同じ)の「定年到達日」記載の日に、就業規則第21条1項に基づき65歳の定年となったところ(原告D及び原告Eは、もともと有期雇用であった。)、以後、同原告らは、被告会社との間で有期雇用契約を締結して引き続き就労していた。
原告組合(原告組合以外の原告らを「個人原告ら」ともいう。)は、kmグループ傘下の被告会社らの従業員で組織される労働組合である。
被告会社は、平成23年1月、kmグループの傘下に入った会社であり、平成26年9月1日、商号を現在の「国際自動車株式会社」に変更した。
被告乙山は、遅くとも平成18年4月から平成28年6月28日まで、被告丁原は、平成28年6月28日から平成29年3月31日まで、それぞれ被告会社の代表取締役の地位にあった者である。
(2)原告組合は、平成26年6月17日、被告会社との間で、労働者供給に関する基本契約(以下「本件供給契約」という。)を締結した(平成27年4月1日、同内容の契約を締結済)。本件供給契約第同2条2項では、「原告組合は、被告会社の申込みに応じて随時組合員を供給する。」と定められている。
(3)原告Aから原告Lまでの原告らを含む原告組合の組合員56名は、平成27年7月15日、被告会社に対して、未払賃金(残業代)の支払を催告し、平成28年1月12日、被告会社に対し、未払賃金(残業代)支払請求訴訟(以下「別件訴訟」という。)を提起した。
被告会社は、別紙2の「雇止め等の日」欄記載の日までに、個人原告らに対し、定年後の再雇用をしない旨又は有期雇用契約を更新しない旨を通知し、同日付けで原告Bから原告Jまでを雇止めした(以下、「これらの雇止めを一括して「本件雇止め」ともいう。)。
また、原告A、原告K及び原告Lについては、定年後に有期雇用契約を締結することなく、定年に達した時点で雇用関係を終了させた(以下、この再雇用契約を締結しなかったことを一括して「本件再雇用拒否」ともいう。また、本件雇止め及び本件雇用拒否を合わせて、「本件雇止め等」ともいう。)。
(4)原告B,原告E、原告G及び原告Hは、被告会社による雇止めの後、別紙3から別紙6(いずれも略)の「他収入」欄記載のとおり、他社で就労し、賃金を得た。
【争点】
(1)個人原告らと被告会社との雇用契約が、本件雇止め等にもかかわらず、労働契約法(以下「労契法」という。)19条の適用又は類推適用等により更新又は締結されたものとみなされるか。
ア 本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか。
イ 個人原告らごとの争点について
(ア) 定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて
a)労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか。
b)被告会社の上記原告らに対する再雇用拒否が、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当と認められるか。
イ) 原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか。
(2)個人原告らの賃金請求権の有無及び額
(3)本件雇止め等の原告らに対する不法行為該当性及び原告らの損害額
であるが、以下、(1)についての裁判所の判断の概要を示す。
【裁判所の判断】
(1)争点(1)ア(本件供給契約に基づき供給された労働者に係る各有期雇用契約について、労契法19条が適用されるか)について
ア 被告会社は、本件供給契約においては、被告会社が労働者供給の申込みを行うことが前提となっており、これを行うか否かは被告会社の裁量に委ねられているので、供給される労働者には有期雇用契約の更新についての合理的期待が生じる余地がないから、労契法19条の適用の基礎を欠く旨主張する。
イ まず、本件供給契約は、被告会社が供給の申込みをした供給労働者と被告会社との間で、別途雇用契約を締結することを当然の前提としている。とすると、本件供給契約に基づく被告会社からの供給申込みが契機となるとしても、原告らと被告会社との契約関係は雇用契約であるから、その限りでは、労働契約法及び労働基準法の適用を否定すべき理由はない。
ウ 次に、被告会社の上記主張について検討する。
本件供給契約は、契約書の2条2項に「甲(被告)の申込みに応じて」との文言はあるものの、被告会社に労働者供給を申し込むか否かの自由裁量を与え、申込みがなければ雇用契約が締結、更新されないという内容を合意したものではなく、有期雇用契約の契約期間の終了に伴う更新に当たっては、被告会社からの労働者供給申込みがなされなくても、他に同契約の更新を妨げる勤怠、健康等の問題がない限り、同契約が更新されるという、従前の有期雇用契約の更新手続や定年後の継続雇用の運用等を前提とした契約とみるのが、当事者の合理的意思解釈として妥当であり、その旨の黙示の合意があったと認められる。そうすると、上記の更新された有期雇用契約には、労契法19条が適用されると解される。
(2)争点(1)イ(ア)(定年到達とともに雇用契約関係を終了したとされ、一度も有期雇用契約を締結していない原告A、原告K及び原告Lについて、労契法19条の類推適用又は権利濫用の法理により、有期雇用契約が締結されたとみなされるか)について
ア 労契法19条は、有期雇用契約について、同条1号、2号所定の要件があると認められ、当該労働者において遅滞なく当該有期雇用契約の更新申込み等を行った場合で、使用者の当該申込み拒絶が、客観的な合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、当該使用者は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなすものであって、一定の要件の下に使用者の意思表示を擬制して、有期雇用契約につき、一種の法定更新を認めるものである。
本件においては、上記原告ら3名の期間の定めのない雇用契約は定年により当然に終了したものであることや、原告らにおいて定年前の期間の定めのない雇用契約が定年後に有期雇用契約に転化すると主張していることを踏まえると、本件に労契法19条が類推適用されるとする原告らの主張は、同条の定める有期雇用契約の法定更新という枠組みとは大きく異なるものであり、類推適用の基礎を欠くというべきである。
イ また、上記原告ら3名は、被告会社による再雇用拒否が権利濫用に該当するとして、期間の定めを除いて従前と同一の条件での有期雇用契約が成立したとみるべきであるとも主張する。
しかし、定年後の再雇用の場合には、定年前にはない短時間勤務という勤務形態がある一方で、車両の空き状態等によっては、労働者の希望どおりの勤務形態(注:隔日勤務か日勤勤務か、フルタイムか短時間勤務か)では被告会社が雇用契約を締結できない場合もありうる。そして、被告会社は、上記原告ら3名との再雇用契約締結を拒否しており、再雇用契約における労働条件についての希望等は何ら示されていない。
よって、本件再雇用拒否が権利濫用に当たるか否かを問うまでもなく、上記原告ら3名と被告会社との間で締結される再雇用契約の主要な労働条件である上記各勤務形態のいずれであるかという点を定めることができない以上、上記原告ら3名と被告会社との間で再雇用契約が成立したと認めることはできない。
ウ 以上によれば、上記原告ら3名の、労働契約法上の権利を有する地位の確認及び労働契約に基づく賃金支払請求は、その余の点(注:争点(1)イ(ア)b)について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
(3)争点(1)イ(イ)(原告Bから原告Jまでの各有期雇用契約について、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされるか)について、
ア 75歳までの雇用契約更新に対する合理的期待
平成19年7月24日の安全自動車労働組合(注:現原告組合)とANZENグループ(注:現被告会社)との団体交渉において、当時のM社長が、定年後の再雇用契約について、乗務員の安定的な確保と稼働率の上昇を図るために75歳まで契約更新を可能とし、60歳定年者の継続雇用について、勤怠、健康状態等に問題がない限り自動的に再雇用となることなどについて発言したなどの事実が認められる。上記のM社長の発言以降、定年到達後、被告会社に再雇用された労働者については、勤怠、健康状態等に問題がない限り75歳まで契約更新が可能となるという限度において、有期雇用契約が更新されるものと期待することについて合理的な期待(労契法19条)があると認められる。
イ 75歳を超える原告ら(原告D、原告I)について
上記の原告ら2名については、有期雇用契約の更新に対する合理的期待を認めることはできないから、その余の点について検討するまでもなく、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなすことはできない。
ウ その余の個人原告らについて
(ア) 定年後の有期雇用契約が複数回更新された原告ら(原告C、原告F、原告G、原告H及び原告J)について
上記の原告ら5名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されると期待することについて合理的な理由があるとみなすことができる。
(イ) 定年後の有期雇用契約が1回も更新されていない原告Bについて
有期雇用契約の更新が一度もされていない原告Bにおいても、一度再雇用としての有期雇用契約を締結した以上、契約更新への期待は既に現実化しているといえ、同様に更新を期待する合理的理由があると認められる。
(ウ) 採用時から有期雇用契約を締結しそれが複数回更新された原告Eについて
原告Eは、採用時から有期雇用契約が複数回更新されているから、有期雇用契約が更新されると期待されることについて合理的期待があると認められる。
エ 被告会社による本件雇止めの動機について
以下の経緯に加え、後記(略)の各原告の雇止めについての判断を併せ考慮すると、個人原告ら(原告Bから原告Jまでを含む)が残業代の支払を請求し、その支払を求めるために別件訴訟を提起したことが、本件雇止め等の主要な動機であることが認められる。
(a)原告らが平成27年7月15日付けで被告会社に対して未払残業代の支払を催告する通知を送付した後、同年12月に入り、原告Aが、被告会社のN課長から別件訴訟の委任状への署名の趣旨を確認され、引き続き、平成28年1月16日に定年後再雇用をしない旨通告されたこと
(b)この後原告組合が申し入れた団体交渉の場において、被告会社の当時の社長であった被告乙山が、会社に裁判を提起するような従業員については、信頼関係が保てないので再雇用や雇用継続をしない旨明言し、東京都労働委員会の調査期日においても、同様の内容を述べたこと
(c)個人原告らが平成28年1月12日に別件訴訟を提起した後、被告会社が個人原告ら充てに、同訴訟が提起されたとの通知に接した旨の確認書を送付したこと
(d)被告乙山の指示により、同訴訟の原告となった従業員らに対し個別面談が行われ、複数の原告が同訴訟を取り下げたこと
(e)被告会社の一連の行為により、残業代請求を断念した労働者が相当数に及んでいること
オ 他社において就労している原告ら(原告B,原告E、原告G及び原告H)について
雇止めによって収入が途絶えた上記の原告ら4名は、生計を維持するためにやむなく就労していることがうかがわれなくもなく、本件全証拠によっても、上記原告らの就労の各事実をもって、被告会社における就労の意思及び能力を喪失したと認めることはできない。
カ 75歳未満の各原告ら(原告B、原告C、原告E、原告F、原告G、原告H、原告J)についての小括(争点(1)の結論)
それぞれの個別事情(略)に加えて、本件雇止めの主要な動機が別件訴訟の提起にあると認められることも考慮すると、被告会社主張に係る各事実をもって雇止めとする客観的合理的理由があるということはできず、社会通念上相当であるとも認められない。
よって、上記の原告ら7名については、労契法19条により有期雇用契約が更新されたとみなされる。
“【労働】東京地裁平成30年6月14日判決(労働判例1199号44頁)” への2件の返信
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